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出版社(白水社)ページ
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b641804.html
文学賞受賞ニュース
● メディシス賞外国小説部門受賞(「東亜日報」2023.11.11)
https://www.donga.com/jp/article/all/20231111/4546759/1
● エミール・ギメ アジア文学賞(「聯合ニュース」2024.03.01)
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20240301000300882
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「少年が来る」で知った光州事件。
そして今作「別れを告げない」で知る済州島4.3事件。
訳者あとがきにハンガンの言葉が引用されている。
「光がなければ光を作り出してでも進んでいくのが、書くという行為だと思う」
残酷さ、悲劇さと美しさが同居する様は
パトリシア・グスマンのドキュメンタリーのよう。
さあ蠟燭を灯そう。
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ハン・ガンの最新長編。邦訳は詩集を入れて7作ほど。
相変わらず流れるように美しい文章。風景や場面の描写が良いが、「すべての、白いものたちの」と同じく、特に雪の描写が洗練されすぎていて怖いくらい。海外の作家で、ここまでスッと情景が浮かぶ作家は他にいないと思う。
家族も仕事もなくし、虐殺に関する小説を書いた後から繰り返し見る悪夢に苛まれ、遺書まで用意したキョンハの元に、友人のインソンから連絡がある。すぐ来てと。急いでインソンの元へ駆けつけると、仕事中に指を切断してしまったらしいことがわかる。入院したインソンから、小鳥の世話を代わりにしてほしく、すぐに済州島へ行ってくれないかと言われ。。。
恥ずかしながら済州島4・3事件を知らなかったが、さながら地獄のように思えた。なまじ描写が美しいため、凄惨さがより際立つ。
ストーリーは中盤から、生と死が曖昧な、誰が生きていて死んでいるのかわからないまま進むが、事件のことはノンフィクションかのように語られる。メッセージ性の強さが、好き嫌いが分かれるかもしれないが、タイトルの「別れを告げない」=風化させないという強い意志を感じた。
雪の描写はまた別格だが、蝋燭に照らされ伸びる影といった、光と影の場面描写も非常に良い。ずっと読んでいたい、そんな酩酊感に包まれるような作品。
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「雪のように軽いと人々はいう。けれども雪にも重さがある。・・・鳥のように軽いととも言う。だが彼らにも重さがある。」触れてはたちまち溶け消えてしまうような小さな雪の結晶の、「これまで触れてきたどんな生命よりも軽い」小鳥の、あるいは、洞窟の奥に埋もれた何千もの遺骨のひとつに成り果てた命の存在の軽さの、それらひとつひとつが固有にもつどこまでもずっしりとした重さを、どれだけ感覚することができるだろう。キョンハの掌の上で、鳥の羽毛のように軽い雪の結晶が世界で一番柔らかい氷になったとき、彼女は「忘れないだろうと私は思った。この柔らかさを忘れずにいよう」と言う。過ぎ去ったもの、決して戻らないもの、存在しないものに、別れを告げることなく、それらと共に生きること。失われたときに別れがやってくるのではなく、失われたものを忘れてしまったとき、本当の別れがやってくる。だから、「本当の別れじゃないもの、まだ。」
繊細で、儚くて、脆くて、簡単に見過ごされ踏み潰され壊されてしまうような、存在の微小な表象たちをまっすぐ感受して受け止める感性の純度は、ふつうひとにはとても耐えきれるものではない。壊れやすいもの、たちまち消え去ってしまうようなものを受け止め守っていくには、心は暖かく、強くなければならないだろう。存在しないものを存在させてしまう、究極の愛を心のうちにたたえた人間は、強くて美しい。いま小説を読み終わって感じるこのどこまでも透き通った感情を、忘れずにいたい。
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震えるほどの衝撃と深い静かな悲しみに打ちのめされ、決して哀悼を終わらせない決意、別れを告げない。大韓民国成立前夜に、韓ドラでもよく出てくる済州島でこんな歴史があったとは、日本人のどれだけの人が理解しているだろうか。少なくとも私は全く認識してなかった。今となっては知ろうともしなかったことはこの上なく恥ずかしい。
韓国においても50年近く隠蔽されていたこの事実、2003年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が公式に謝罪し、済州島の真実の調査報告書が明らかになるまで、理解していない韓国人がほとんどだったと言う。韓国最大のトラウマと言われるジェノサイド、三十万人とも言われる死体、遺骨の隠蔽。
2人の女性と2匹の鳥が生と死の間の真っ白な世界、雪に覆われた異時空の不思議な空間世界で心と心が結びつく。ハン・ガンは、究極の愛の小説と本作を呼んでいる
感想は何を買いても陳腐になる。ただただ小説の持つ力に圧倒される。私はずっとこの本に、別れを告げないだろう。