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十年ほど前に、旧版の文庫をガイド代わりに、本書のなかで著者が歩いているコースを歩き回った。全部で三十箇所だから、一年以上かかったと思う。東京とひとくちにいっても、とてもとても広い。普段の生活圏からすぐそこの慣れ親しんだつもりの場所も、はじめて訪れたところも、著者の目を通して歩いてみると、新鮮だったり驚きがあったり、しみじみ楽しかった。それ以来公休日はあちこちを散歩するのが楽しみのひとつになっていたが、新型コロナウイルスの登場以降はその楽しみを放棄することになり、今にいたる。このたび出た新装版は、森まゆみが三十箇所の現在の姿について書いた文章が併録されている。カバーがボロボロになった旧版は本棚に大切にしまっておいて、新装版を手に、人のほとんどいない、閑散とした都内の某所に、久しぶりに出かけてみようかな。
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種村季弘の晩年のエッセイ集。
東京の街を種村季弘が自分の過去の思い出を回想しつつ蘊蓄を語るという、もともとは雑誌「サライ」の連載をまとめたもの。雑誌掲載時は1回、原稿用紙3枚の分量だったとのことだが、そりゃネタ的に収まりきる訳ないだろうということで書籍化にあたり大幅に増量されてる。
読んでると「この人、ドイツ文学者でなく国文学者だったっけ?」と勘違いしそうになるような蘊蓄が山盛りで楽しいが、やはり地方在住者にとって東京(それも戦前から戦後にかけて)の土地勘がまったくないのが悲しい。例えば「柴又帝釈天と新宿」という章。なんで柴又と新宿(しんじゅく)?そんなに近かった?となるが、読んでいくと「新宿」は「しんじゅく」ではなく葛飾区にある「にいじゅく」という町のことらしい。東京の人間なら「柴又帝釈天と新宿」とあれば「にいじゅく」のことねとピンとくるのであろうが地方在住者にはそれが難しい。東京の人ならもっと楽しめるのだろうかと思うと恨めしい。
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当代きっての博覧強記にして粋人・種村季弘が、厳選された東京の裏町30を闊歩。本書は2006年7月朝日新聞社より刊行された文庫の新装版。新装版に際し、森まゆみ氏の「二十年後の徘徊」を収録。