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最近(2024年3月)に出た本で、「企業法務1年目の教科書」と題し、ですます調なので、初心者向けかなと思いつつ、読み始めたのですが、「法律家向けに書かれた良書はたくさんある。しかしながら、内容が難しいもの、読者がすでに一定のノウハウを有していることを前提としているものが多い」「(契約書業務初学者)が、これらを読んだだけで契約諸業務を行えるようになるにはハードルが高い」、「(初学者向けの書籍は)法律論の解説に重点が置かれ、実践的ノウハウへの言及は少ない」といった指摘(いずれももっとも)や、「「当り前のことであり、あえて言うまでもない」と思われるようなことをあえて言語化する」といった記載から窺われる本書の姿勢そのものはまさにその通りだなと思いました。
やや残念なのは、第1章の契約の基本的事項がどうしても教科書的になってしまっていることです。これ、そうなっちゃうんですよね、図を使ったりして、極力分かりやすくしようとしているのですが。ここ、もっと大胆に記載いただいてもよかったかもと思います。
しかし、第2章以下はいろいろといいことが書いてあります。たとえば、第二章の「契約書レビューの作法」のところ、太字で大事なことを示しているのですが、これがなかなか的確で、かつ、契約書レビューの目的概観ということで、「当事者の意向を反映する」「自社にとって不利にならないようにする」「適法性を確保する」「紛争を予防する」「実効性を確保する」というある意味当然といえることが書かれているのですが、これは実務担当をしてきたから言えることなんだろうなと思えるところがあったりして。37頁にマークアップをした業務委託契約書の例を掲げているのですが、これも契約書レビューの現場で日々出会う姿が示されていて納得感がある(こうしたマークアップのやり方を解説している本って、意外となかったような)。レビューに当たっての留意点として「直しすぎない」等々、私がこれまでの経験で、直観的に取ってきたスタンスと合致していて(私も普段から、若手弁護士に「日本語の趣味に走ったマークアップはしたらあかん」「これで結果がなんか変わる?」と言ったりしてました)、そういう意味でも、さじ加減というのか、一般的な契約実務書籍に書いてないような、そういったことが言語化されている点で興味深いと思いました。