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一章が終わるまでは、蓮子の回復と、それと並行して清秀が父親などの呪縛から解放されていく話かと思いました。
それがまさか、清秀が自身の創作意欲のために蓮子を攫ってしまうとは……
以降、どんどん壊れていく清秀と、壊れたくないといいつつも清秀から離れられず、絵のモデルであり続けようとする蓮子。極端に破滅的になっていく展開に、戦慄すら感じます。
清秀の病は悪化の一途をたどり、最終的にはこの世を去っていきます。しかし、その時の表情から察するに満足のいく絵を、久蔵の「櫻図」を超えるものを描き切れたと解釈してよいのでしょうか。
作者の過去作「蓮の数式」の解説に「蓮という花は、綺麗な水では小さな話か咲かせられず、泥水でこそ大きく花開く」とありました。「蓮」が清秀の生きざまを象徴しているのであれば、最後は「大きく花開いた」と思いたいところです。
また、艶めかしさが魅力だけど臭う絵具「腐れ胡紛」の存在や、康則が治親に言い放った「体裁だけ整えた上っ面の美がどれだけ愚かで卑しいか」というところに、蓮に共通する象徴的なものを感じました。
過去作を連想させる要素が多かったのですが、そうした象徴的なところによるのか、焼き直しという印象はなく、どの作品とも違う強いインパクトのある作品でした。
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序章を読んだときは、余命を宣告された孤独な日本画家が、残された歳月で自らが求める境地に辿り着けるのか‥そんな物語だと思った。
ところが本編が始まるとミステリーの展開になり、もっと読み進めるとまた芸術を追求したい欲求と良識の狭間で葛藤する芸術家の苦悩があり、血脈への複雑なトラウマが描かれ‥と、説明すると何だか陳腐になってしまうが、当初の予想をいい意味で裏切った作品だった。
様々な要素、登場人物たちの背景、感情が何層にも重なって、昏く重たい物語なのに読み手を惹きつける力が強い。
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清秀が蓮子を連れ去る描写は、連れ去ってしまったら、もう人の道に戻れないから、そんなことしないで、と思いつつ、人の道を外れたその先がどうなるか見てみたい、という矛盾した気持ちがわいてしまう。
『抗えない』という言葉が終始頭をいっぱいにする小説。