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かつて、狼と暮らし観察した記録の書を2冊読んだことがある(『オオカミと生きる』『狼の群れと暮らした男』)。これらの著者は、目の前で繰り広げられる狼の行動・事象を狼の習性に照らし、彼らを理解していたように思う。しかし、本書の著者は鹿の行動・事象を自分のファンタジーに落とし込み理解しているようで、全体にうさん臭さが漂う。解説の保全生態学の専門家は違和感と表現されていたが、素人の私の感想は “うさん臭さ”、“うそ臭さ”だ。
森で暮らすことになった経緯を読んでいると、引きこもりの場として、自宅の部屋ではなく、森の中を選んだにすぎないように感じ、眼前で繰り広げられた貴重な体験も妄想が混在しているのでは、と疑念がぬぐえない。自然を守ろうという掛け声も独善的な視点に過ぎず、多くに向けた主張として貧弱だ。
7年間森の中で暮らした経験をサバイバル術的な書き方で紹介すれば、もっとエキサイティングな本になったように思う。自己正当性の中で、“鹿や自然を守ろう”的な視点を持たせてしまったため、せっかくの経験が薄口になってしまった印象だ。