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「金丸さん」という謎の人物(「花子さん」と「みどりさん」という二人の娘)が、冠詞について色んな文を読んだり書いたりしながらあれやこれやと考えまくり、"Mrs Boodle"という謎の英国人に冠詞について解説してもらういう謎の話。
実質は用例とその解説を記した記述文法の本であるが、ものものしい解説もなく、しかも金丸さんが試行錯誤しながら、ここはtheだろう、ここはtheなくてもいいだろう、と考えているので、親しみやすい。用例そのものはシェークスピアがあったり詩があったり、最後の章ではなぜか日本の戦中戦後が話題になって、The people living in the street made an air-raid shelter.みたいな文が出てくるから、なんか面白かった。著者も教養がある人なんだろう、と思う。"Mrs keeping"(p.67)とか訳分からない人も時々ひょんと出てきて、全然訳が分からないおれは教養か常識がないんだろうかと思う。
…というように、コンセプトというか作りは面白いのだけど、いかんせん、解説が分かりにくすぎた。「A/Anはone of many Theはone and only きめてくれるのはcontext」というのが全ての根幹だが、結局contextの解釈や、それに伴うaやtheや無冠詞の選択は、かなり感覚的で、この本だけでは慣れそうにもない。総称用法、というのはいくら文法書を読んでもイマイチ分からないが、この本を読んでも分かりそうで、やっぱり分からなかった。この本を読んでなんとなく分かったことは、単なる複数形だとぼやけてしまうから、もっとカチッとはっきりさせたいときにはtheを使って代表させる、とかそんな感じだった。
読めば鋭いこともたくさん書いてあって、例えば"Is there anyone who can repair bicycles / a bicycle?"は、「bicyclesではどの自転車でも直せるという響きになり、a bicycleでは普通の自転車ならどうにか直せるという響きになる」(p.37)というのは面白い。でも"Can I have a / the receipt, please?"は「ごく身近な会話には外国人がとまどうケースがしょっちゅう出てくる」(p.67)とあって、結局どっちがどういう感覚なのかという記述もあれば、良い悪いの規範も示されないので、もう趣味の問題なのか、という感じがする。もうp.73には「意味の違いではなく響きの問題である」(p.73)、「書き手がここにtheがある方が英語の滑りや響きがいいと思うから」(同)となっていて、「日常英語では特別気にすることではない」(同)し、むしろここが「冠詞のセンスを磨くにはいいチャンス」(同)らしい。あと、カードに書くのはA Happy New YearかHappy New Yearか、の問題は、pp.97-9に載っていて、納得できた。
英語の感覚も磨かれるような感じで、とても面白いことは面白いのだけれど、まずこの手軽なタイトルに惹かれて読んだ、英語の専門家でもなんでもない人にとってはちんぷんかんぷんで終わってしまうと思う。おれも途中からは精読するのを諦めて斜め読みした部分も多い。まずもって金丸さんとか、設定が一切説明されないのでそれだけでストレスがたまる人はいるだろうし(特に冠詞になんてものに関心のあるような人は)、一度話がまとまったと思ったら、その話を台無しにするような事例が次に出てきたり、ということの繰り返しなので、分かりやすさという点での配慮がなされていない感じがして、変な感じだった。(15/09/17)