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Mshizuさんのレビュー一覧

投稿者:Mshizu

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本ぼくんち 3巻セット

2003/05/27 12:52

いとおしく切実な喪失感

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書を原作とした同名の映画が放映中であり、そのCMを見た方も多いと思う。西原理恵子の「ぼくんち」。平素活字よりも貶めてみられがちな漫画だが、なまじかな文学作品よりよほど文学的な叙情性と、痛々しい現実性を併せ持つ怪作だ。

一人称で物語を進めるのは幼い兄弟一太、二太と、チンピラのこういちくんの三人。どうしようもなく貧乏な町で、彼らと住人が繰り広げる日常を淡々と描き出す。だがこの日常が一筋縄ではいかない。一太と二太は母親に何度も捨てられ、突然現れた姉に養われる。こういちくんは血まみれになりながらも(返り血で)手広く悪どく、不法な商いをしている。河原で暮らす鉄じいは寒いと言っては醤油をあおってばかり。二太の初恋の君さおりちゃんはパートやくざの父親に「死んでくれたら良かったのになあ」と真面目につぶやく。笑い事ではなく深刻な現実を彼らはするりと受け入れ、そしてよく笑う。その様があまりにも客観的で、読者も笑わずにはいられない。こんな深刻で明るい笑いは他ではちょっとお目にかかれないのだから。

そんな痛烈な笑いのありようもさることながら、この物語の真髄はそのタイトルにこそ集約されている。「ぼくんち」。ぼくの、「家」。この物語のさす家とは、単に建築物を指すばかりではない。例えば家族であるとか、大事な人だとか、自分を生み育んだ場所であるとか、そこに住む人々だとか。人それぞれ、原風景とする大切なものを総てひっくるめて、家。しかしその家は不変ではいられない。時とともに訪れる別離や死や変容は、否応なくそれを過去のものにしてしまう。物語の語り部である三人にも例外はなく、各々のかたちで各々の家を永遠に喪失する。そして新たに、自発的に手に入れるべき家を求めて生きていくのだ。それが不変のものではないと知りながら。

それは現実の人生そのものだ。小野不由美の著にあるが、人は失うことが惜しいものを愛おしいという。いと、惜しいと。だが永遠に失わずにいられるものなどあるのだろうか。そんないとおしく切実な喪失感を、残酷に、そしてこの上なく優しく描き出した本書は傑作と呼ぶに相応しい。現在廉価版も一冊で発行されている。一人でも多くの方が本書にふれて下さることを心から願う。

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素晴らしく親切で厳しい入門書

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

短歌入門書。雑誌での連載を単行本化したもの。読者(マスノ短歌教信者)の投稿した短歌を枡野氏(教祖)が添削、指導を通して枡野氏の提唱する短歌のルールや表現方法を学んでいく構成。

通常の入門書は短歌をある程度製作している者に対し発信されるが、この本は全く短歌に縁がない読者層に対し興味をもたせ基本を教える所から始まっている(掲載誌は人気ファション雑誌の漫画版)。
かといって内容が甘いかといえばそうでなく、深い見識と分析に裏打ちされた本書の文章は、確実にうたいての血となり肉となるものばかり。そのことはこの連載で学んだ若いうたいてたちが、現在歌集を出版するまでに成長していることからもわかる。また枡野氏も才能ある「信者」に対して援助を惜しまない。ここまで親切な入門書も珍しい。

この本での短歌は書名通り、簡単な言葉で歌うことを目的としている。しかしそれは「簡単に歌える」ことと同義ではない。無駄を省いた簡易な言葉の中に巧みなレトリックや自作への 厳しい審査眼が要求されるからだ。語り口こそユーモラスだが、枡野氏の提示する独自の「教義」は的確で手厳しい。

そしてその持論が的確かつ独自だからこそ、実力ある「信者」には高い壁が待ち受けているように思う。枡野氏に学んだことを完全に身に付け、踏まえた上で、更に自分自身の道を切り開かねばならないからだ。枡野氏自身も本書の中で優秀な「信者」にこう語りかけている。「願わくは、あなたが枡野浩一から、できるだけ遠く離れていってくれますように。」

この本は親切であると同時に、とても厳しい入門書であるとも言える。

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紙の本月の影影の海 上

2003/04/17 15:07

普遍的な人間賛歌

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

当初少女向け文庫として発行されていたが、性別、年齢を問わず幅広い読者に支持され講談社文庫で刊行し直される。現在アニメ化もされ、関連商品も併せて驚異的な売上を記録している。

舞台は古代中国に似た十二の王朝が存在する異世界。王は世襲ではなく、仁道と慈悲の霊獣、麒麟が選定する。厳然とした天の理に支配されるが故に、人々はより自分の才覚を頼りとして生きる。そんな人々の物語。その第一作目が本書である。

突然この異界に流され迫害を受けながら生きる道を模索する陽子。
霊獣として生を受けたにも関わらず何の奇跡も発現できない泰麒。
国を傾けた父王が、目の前で首打たれた祥瓊。
国の荒廃に憤り、十二歳で天意を諮る旅に出る珠晶。
この連作の登場人物達はひたむきに生き、実によく足掻く。彼らが戦うのは、神の摂理よりも強力な敵よりもまず、自分自身に他ならないからだ。かれらは迷い、疑い、憎む。だが涙し、悟り、成長することも出来る。異世界に舞台を置きながら、この物語が描くのは普遍的な人間賛歌なのだ。

また、そういった感想がもてるのも完璧に計算され尽くした世界観がためである。巻が進むごとに登場人物の視点も変わるが、この本のなかでの世の理はこゆるぎもしない。非現実的な設定に疑問を抱かせない小野氏の手腕の賜だ。もはや異世界ファンタジーなどという陳腐な形容はこの作品には似つかわしくない。

「月の影 影の海」から始まり現在シリーズは八作刊行。以下続刊。

始めから通して読みたい方は本書「月の影 影の海」を。試しに一冊だけ読んでみたい方は「図南の翼」をお勧めします。

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