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池内紀さんのレビュー一覧

投稿者:池内紀

10 件中 1 件~ 10 件を表示

紙の本聞書き・寄席末広亭 続

2001/10/11 20:13

昭和の宝物

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 語り出しがこんなぐあいだ。
「このところ、ちょっと私が注目しているのは円鏡のことなんだ。あの体で、よく頑張る……」
 志ん朝、談志とともに、まだ駆け出しのころ。席主は客の反応をよく見ている。どんなに芸としては問題があっても、ウケさせるのは立派なものだ。芸はあとからついてくる。
 新宿でいまも寄席の灯を守っている人の一代記。聞き手がいいと、話がどんどんふくらんで、芸談、また昭和芸人談のおもむきをおびだしてきて、それがまた楽しい。志ん生、文楽、円生の円熟期に立ち会った者にとっては、懐かしくて味のある人間そのものが、まざまざと立ち現われてくる。
 昔語りそのものが、一つの芸になっている。口調がそのまま批評とユーモアをおびていて、歯切れがよくて、いさぎいい。寄席は芸人とともに、こんな昭和の宝物を生み出した。読み終わると、こころもちセツなくなる。えがたい本の何よりのしるしである。(池内紀/ドイツ文学者 2001.2.20)

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紙の本うるしの話

2001/10/01 18:55

威張らぬ事

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 わが国が世界に誇れる技術の第一は、いかなるハイテク産業の申し子でもなく、昔ながらの漆技法だろう。漆というふしぎな樹液からつくりあげた塗りもの。遠い昔から西欧人が驚嘆の溜め息をつきながら目を丸くしてきた。
 その第一人者であった人が体験をまじえて、日本の漆芸の歴史や特性や技法を語っている。以前、新書で出たまま絶版になっていた。こういう文庫化はうれしいかぎりだ。「人間国宝」なんて言い方が、もっとも似合わない人で、ご自分もイヤだったろう。お弟子さんの解説によると、権六先生に書いてもらったものを軸にしていて、そこに次のような言葉があるそうだ。
 一、威張らぬ事
 一、益々精進する事
 一、不言実行を本尊とされたし
 連休の人ごみにもまれるよりも、蒔絵の表紙のついたこの一冊をひらく方が豪勢な人生の休日だ。(池内紀/ドイツ文学者 2001.4.24)

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新訳による新しいフォルスタッフ

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 「陽気な女房たち」に登場するフォルスタッフは、世界の文学が生み出した人物のなかで、もっとも興味深い男である。大ぼら吹きで大めし食らい、のべつ他人の女房に色目をつかう、平然としてウソをつく。必要とあれば猫っかぶりも辞さない。
 ハムレットとくらべるとグンと地味であって、ワキ役に終始するが、ハムレット以上におもしろいのだ。煮ても焼いてもくえない古狐のような道化であり、これはこれで現代人の肖像というものだ。いつまでも決断のつかないハムレット型と同じように、私たちのまわりにはフォルスタッフ型がどっさりいるのではあるまいか。
 松岡訳の新しいシェイクスピアにより、新しいフォルスタッフが登場した。この人物を、もう一度見直していいだろう。いかがわしい老人ながら、彼は彼なりに誠実であって、人生の哲人でもあるようだ。というのは、彼のユーモアはほんものだし、それに第一、フォルスタッフは自分を軽蔑するすべをこころえているのである。(池内紀/ドイツ文学者 2001.6.19)

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紙の本僕が歩いた古代史への道

2000/12/04 10:18

発掘の本来の目的はもの欲しげに遺物を探しまわることではない

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 旧石器遺跡のネツ造騒動でいろんなことがわかった。考古学の世界にも「業界の人」がいて、自治体とくっついている。地層から石器が現われるようにして、バカげたことがつぎつぎと発(あば)かれた。マスコミ報道に際して、騒動を起こした研究所に、いつも「民間の」がくっついているのがおかしかった。「民間の」でない研究所はちゃんとしているとでも言いたげだ。
 森浩一さんの『僕が歩いた古代史への道』の第一章は「考古学を考える」。エッセイの一つに述べてある。発掘の本来の目的は「研究課題の証明手段」であって、もの欲しげに遺物を探しまわることではない。また自治体は遺跡の保護を市民からゆだねられているだけであって、あわよくば目玉を入手しようと狙っている団体ではないはずだ──。
 初出の日付は一九七八年四月。二十二年前にすでに警告してあった。
 ちいさなエッセイが九十あまり収めてあって、どれも味わい深い。こういう人とお酒を飲みたいなァ、と思いながら読んでいると。「JRの最終電車」も入っていた。森先生はつい居酒屋で腰がすわり、終電車のご常連でいらっしゃるらしい。ますますうれしいではないか。

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戦後の青春を書きとめた短篇

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 アンソロジーが楽しいのは、どこから、どのように読んでもいいことだ。とともに、おなじみの作者が、まるで違った姿をとって、現われることだ。全体のなかの一部を抜き出して、べつの場に移すとき、当人がおよそ予期しなかった角度から眺めることができる。
 石原慎太郎「完全な遊戯」、大江健三郎「後退青年研究所」、田中康夫「昔みたい」 。ほか八篇が収めてある。いずれも戦後の青春を書きとめた短篇である。初々しく、高ぶっていて、ときには吃り、ときには饒舌。それぞれの背後から昭和のある時期の匂いがフンプンと漂ってくる。すでに「古色」と言いたいような時代色をおびている。
 作品の背後からまた現代の姿が浮かんでくる。東京都知事、ノーベル賞作家、長野県知事…。「文は人なり」かどうかは知らないが、人以上にイタズラをすることはたしかである。アンソロジーは文のやらかすイダスラのおもしろさも教えてくれる。
(池内紀/ドイツ文学者)

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紙の本中国の隠者

2001/10/11 19:32

身につまされるエピソードだらけ

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 隠者──つまり、隠れ住む者。このテーマの本は、きっと読むことにしている。宝石と同じで、これ見よがしに光るのはおおかた模造品で、ほんとうの宝物は地中深くひそんでいる。

 中国の歴史にあってレンメンとして尽きない隠者の系譜に、あらためて目をひらかれた。世の中に見切りをつけ、舞台から下りる下り方に、むろん、美学がなくてはならない。悟ったようで、なかなか悟りきれないところが丁寧に書いてあって、うれしい話だ。あくまで自分の人生スタイルとして、ごく自然に選びとったというのが、当然ながらいちばん幸せなケースだが、奇人とすれすれのようで、けっこう冷静なのもいる。

 全十六章、語られた人物は大小とりまぜてざっと百人にあまる。ほそぼそと世の片すみで、売文で生計を立てている身分には、身につまされるエピソードがいくらもあって、浮き世の仲間と遊ぶことができた。こういうテーマに関心をもつ井波さんがまた好きなのだ。(池内紀/ドイツ文学者 2001.3.27)

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紙の本八十日間世界一周

2001/09/11 15:16

今ならどれくらいかかる?

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 子供向きの「講談社世界文学全集」以来、何度となく読んできた。二十年あまり前のことだが『諷刺の文学』(白水社)という本を書いたとき、「二人の“のらくら者”」と題した章で論じたこともある。イギリス紳士兼のらくら者フィリアス・フォッグ氏が、仲間と賭けをして、八十日で世界を一周するため、召使パスパルトゥーをつれてロンドンを出発──。
 その旅行の仕方が気になっていた。もしかすると、この八十日間は八日間にもちぢめてもいいし、八時間に縮小することもできるのではあるまいか。そんな構造をもっているのではなかろうか。つまり、まさにこの現在の旅行形式が、一三〇年以上も前の空想物語に、ピタリと捉えられているような気がする。
 鈴木啓二の新訳で読み返して、長らく気にかかっていたことに納得がいった。解説がゆきとどいていてたのしみを倍にしてくれる。そっとお伝えしておくと、「八分間世界一周」だってできるのだ。(池内紀/ドイツ文学者 2001.5.22)

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紙の本インカを歩く カラー版

2001/08/28 13:53

かなしいほど美しい

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 写真をながめては文章を読む。
「コルカパンパから、横なぐりのミゾレに打たれながら、海抜五〇〇〇メートル近い峠を越えて……」
 写真には愛用の虫眼鏡を押しあててながめている。断崖に築かれた遺跡群が、カメラをのぞいたときそのままに近づいてくる。まざまざと見えてくる。建物の配置のみごとさ、壮大な石組みの美しさ、途方もない高地に長大な水路を引いた土木技術の不思議さ。アンデス地方に昔から使われ、いまも山村を中心に残っている言葉をケチュア語というそうだが、人々がケチュア語で名づけた地名は、たとえばチェケキラウ(「黄金のゆりかご」)のように、呪術的なひびきをもっている。インカの名ごりを辿りつつ、地名をとても大切にして語っているところにも、著者の目のよさ、足どりのたしかさがうかがえるのだ。とにかくかなしいほど美しい本である。
 自分の体力では、もはや望むべくもないが、もしもう一つの人生が与えられたら、ペルーの高地を一つ一つ廻って見たい。いい夢の舞台を与えていただいた。(池内紀/ドイツ文学者 2001.8.14)

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紙の本ローマ散策

2001/01/26 19:28

とても優れたローマ案内書が現われた

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 ローマには二度、どちらも五日ずついた。せっせと歩きまわり、ただ疲れはてた。いまとなっては印象がゴチャまぜで収拾がつかない。一つには、いい案内書がなかったからだ。あるものは詳しすぎたし、べつのものは簡単すぎた。
 とても優れたローマ案内が現われた。
「ローマにオベリスクは何本あるのか」
 これは私の疑問でもあったが、IV章の「オベリスクをたどって」で納得がいく。
先が矢のように尖ったあの巨大な三角石が、ローマ詣の巡礼者の道しるべであり、いまだって重宝な利用ができることを教えられた。
 道順がうれしい。まずはカンピドッリオの丘、ついで二巻きの城壁とテーヴェレ河、そのあとがオベリスクの指標──ローマの歴史と都市の拡大していくさまが、歩行につれてまざまざと見えてくる。おりおり回想がまじって親しみが深まっていく。イタリア文学で知られた河島先生のご同伴つきとは豪勢だ。なにしろ、この人、お固いだけの先生では決してないのである。

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紙の本大江戸化物図譜

2000/11/08 18:24

ゆたかな想像力でわれらの先祖が生み出したたのしいバケモノ

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 風の便りに聞いていた。バケモノに強いアメリカ人がいて、日本の大学で教えている。名前はアダム・カバット。昨年(1999年)、『江戸化物草紙』、あけて今年、『大江戸化物細見』刊行。なるほど、バケモノみたいな先生である。
 アメリカ人は経済にも強く、人のふところぐあいに敏感だ。大作二つから選りすぐりを文庫にまとめた。お値段は元の二冊の十分の一、ありがたさに涙がこぼれる。
「豆腐小僧」「大頭(おおあたま)」「ろくろ首」「河童」「鬼娘(おにむすめ)」。チミモーリョウのうちのとりわけ愛嬌のある選抜隊だ。いずれも江戸後期の文化と知性が生み出した。おどけていて、シャレけがあり、なんとたのしいイキモノ──いや、失礼──バケモノだろう。彼らの出身から性別、経歴、好み、活躍の場とドジの踏み方。われらの先祖はなんともゆたかな想像力をもち、自在に夢のアイドルを生み出して、日夜、親しくつき合っていたらしいのだ。

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