tadashikeeneさんのレビュー一覧
投稿者:tadashikeene
紙の本ロシア版ホームズ完全読解
2015/07/29 23:43
見たら読んでほしい、読んだら見てほしい
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書は1979年~1986年にソ連で制作されたシャーロック・ホームズのテレビドラマの解説書。
ヴィクトリア朝の雰囲気漂う格調高い作りのロシア語ホームズドラマ。特にワトスン役ソローミンが好演。原典の複数作品を巧みに組み合わせた脚色も魅力。
アフガン侵攻でデタントが崩れ、対米英関係緊張の時期にこういうドラマを作るあたりソ連の底力か。高飛車ながらどこかコミカルなレストレード警部のキャラクターには官僚風刺が覗く。
ホームズ役リヴァーノフはソ連崩壊後、英国のエリザベス女王から勲章を授かった。またモスクワの英国大使館にはリヴァーノフとソローミンをモデルにしたホームズ&ワトスン像が建てられた。
2012/06/25 23:00
歴史的な価値はあるが・・・
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
長年に渡ってホームズ物の訳書のなかで高い地位を占めてきた延原訳だが訳文の格調の高さを別にすればもはやアウト・オブ・デイトの感ある。この事件簿を見てもドイル自身によるまえがきがなく、『ショスコム荘』『隠居絵具師』は「紙幅の都合」で収録されておらず他の短編集からもカットされた作品と一緒に『シャーロック・ホームズの叡智』なる独自の選集に収めている。これでは本来の短編集のフォーメーションが崩れてしまう。
前述の通り訳文の格調の高さは魅力だが現在形としてホームズ物を翻訳で読むならまずは光文社版などを選んだ方が無難。
紙の本米朝ばなし 上方落語地図
2015/07/29 23:55
汲めども尽きぬ平易にして奥深い1冊
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
上方落語の有名演目の舞台を取り上げ、その土地のいわれと演目自体の解説を巧みに絡めた博識の筆者ならではの1冊。再開発で落語の時代はおろか執筆当時からも風景が変わったところが多いので随所に載った写真は貴重。事物の旧い呼び方の説明も織り込まれており、落語を聞くのが一層楽しくなる。温かい読後感をもたらす解説は司馬遼太郎氏。
紙の本昭和史の逆説
2015/07/26 00:59
当事者目線と思考で見た戦前政治・外交
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1926年から1945年における7つの転換点を各ポイントごとのキーパーソンの視点(意図と判断)から考察したもの。
いわゆる「軍部の暴走」といった紋切り型のフレーズではなく党利党略や民意を背景とした極端な政党の争い、階層間の思惑、内閣の構造と国家意思決定システムの不備、権力者同士の足の引っ張り合いといった複眼的な視点から日本の進路がどのように定まったかを描き出している。煽り調に陥らず分かりやすくダイナミックに書かれており面白い。
紙の本ABC殺人事件 完訳版
2015/10/06 00:12
小学校高学年から大人まで
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
作品に関してはコメント不要だろう。もしミステリに興味持った子供に長編を一篇薦めるなら本作は第一候補かも。いわゆる児童文庫だが実績ある深町氏による完訳版できちんとした解説付きゆえ大きい字で読みたい大人にも薦められる。
紙の本史上最大の作戦
2015/08/13 00:44
臨場感と品位の類稀な両立
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1944年6月、連合国が決行したノルマンディ上陸作戦の全貌に迫った戦記小説。
著者ライアンはインタビューや質問状で連合国、ドイツ側双方の軍幹部クラスから現場の兵士、そして従軍記者に至るまでの証言記録を集めた。それに独自取材も加味して作戦決行までの24時間が丹念に描かれている。
時系列で事実を追うのみならず、証言に基づくひとの息遣いも品良く織り込み、作戦の推移が視覚的立体感をもって読み手の前に拡がる。
作戦決行から15年にして多数の証言を集め、戦争が人間臭かった時代の空気の漂う一本筋の通った小説を組み上げたライアンの筆力には敬服するのみ。翻訳も読みやすい。
紙の本振り子を真ん中に
2017/12/07 01:41
何と手頃な価格のソフトカバー
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日本の政治家の回顧録といえば大仰な装丁で高価、中身は薄いというケースがしばしばあるなか、高村さんは軽やかにそんな「悪しき慣習」を打ち破る。等身大の文章で辿りし道が淡々と綴られ、自民党政治家のいわば良きサンプルを見いだせる。
紙の本プロ野球伝説の名将
2015/08/29 01:44
「昔のプロ野球」への熱い入り口
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日経ビジネス人文庫「人から見た昭和史:シリーズ・私の履歴書」の1冊。
鶴岡一人、川上哲治、西本幸雄、稲尾和久の半生記を収録。4人とも濃い内容だが川上哲治は執筆時期が監督辞任直後なのでやや物足りないし、稲尾和久(彼を伝説の名将という括りで取り上げるのはちょっと不適当)は単独で文庫版が出ている。というわけでより面白く読めたのは鶴岡一人と西本幸雄。
監督通算最多勝を誇る「親分」鶴岡一人。南海(現ソフトバンク)一筋の監督人生は苦闘と栄光に満ちている。戦後間もなくは選手兼任監督として本職以外の部分でも苦労し、その後は巨人や西鉄とのスカウト合戦に翻弄されたが独特の「がめつい野球」と地道な選手育成(日本で最初にファームの確立を促したのは鶴岡)で強力チームを維持した。御座敷天麩羅で和ませた外国人選手操縦法、1959年の日本一を受けての御堂筋パレードなど心温まるエピソードもたっぷり。人情味を交えつつも合理的思考が冴える非常にマネジメント能力の高い監督だと思った。
西本幸雄は情熱がほとばしる手とり足とりの指導で大毎(現ロッテ)、阪急、近鉄の3球団をパ・リーグ優勝に導いた。とりわけ阪急と近鉄に創設以来初の優勝をもたらした功績は大きい。弱いチームに入ってこれぞと思った選手たちを鍛えて優勝するまでに仕立て上げる粘り強さは大変なもの。阪急時代の選手に信任投票させた事件、近鉄時代の羽田殴打事件など手段を選ばない熱血ぶりには驚く。ただ西本はいわゆる根性野球を進めたわけではない。ウェイトトレーニングによる体力強化、少人数での秋季練習といった当時まだ珍しかった練習法を積極的に取り入れている。厳しい一方で選手の特徴、弱点、人格をしっかり見定めて指導したからこそ3球団を優勝させられたのだろう。
よく年配者が目を輝かせて語る「昔のプロ野球」の断面が垣間見える一冊。
紙の本帝王ジャック・ニクラウス
2015/07/30 00:06
色褪せぬ「ゴールデン・ベア」の半生記
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
私が名前を初めて覚えたプロゴルファーはおそらくこのひと。子供の頃毎年春に大叔父、大叔母の家を訪ねるとゴルフ好きの2人は大体マスターズのダイジェスト見ておりニクラウスは必ず登場していたから。
本書はニクラウスが日本経済新聞「私の履歴書」欄に連載した内容を加筆訂正したもの。
生い立ちや戦いの日々はもちろんコース設計の面白さ、アマチュア向けのアドバイス、歴代大統領との挿話、「飛びすぎるボール」への疑問、家族に対する愛情などを率直に語っている。なかでも御父様についての記述は温かく、心に残る。ニクラウスへのロングインタビューと文章化を担った春原剛氏は大変だったと思うが読みやすい仕上がり。独特の甲高い声で話す姿が目に浮かぶ。
紙の本オンリー・イエスタディ
2015/07/26 00:58
華麗なる言葉のフォトフレーム
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『わが人生の時の人々』(文藝春秋)を簡単にした雰囲気の交友録。
若干あっさり系ながら田中角栄、渡辺美智雄、森繁久彌、ジョージ川口、見城徹、五島昇、渡邉恒雄といったひと癖ある人達の断面を鮮やかに浮かび上がらせる手並みは流石。超有名人以外の実業界の仕事師や筆者の友人のヨットマンを織り交ぜているのが面白い。
ジャズが似合う1冊。
2015/08/13 00:49
大日本帝国変調の始まりと帰着点に接した当事者の証言
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者の迫水久常氏は鈴木貫太郎内閣で内閣書記官長(現在の内閣官房長官に相当)を務め、いわゆる終戦詔勅の起草にあたった。海軍の良識派として知られた岡田啓介元首相の娘婿。
本書は迫水氏が岳父岡田啓介氏も狙撃対象だった2・26事件、そして事件から9年後に自ら関わった敗戦受け入れの過程を綴る回想録。いわば大日本帝国変調の始まりとその帰結を当事者の眼から記したもの。
筆者はつとめて淡々とした筆致を貫くがそれゆえに国家の変調、「聖断」なしに決められなかった無責任体制の恐ろしさがひしひしと伝わってくる。またその中で完全なる破滅を免れようと苦闘したひとたちの姿も。
もちろん井上寿一・学習院大学長による解説の通り、書かなかったこと書けなかったことは多いだろうし、自己弁護の記述もある。
しかし当事者のならではの視点が示唆するものは大きい。過ちを繰り返さないための手かがりが数多く浮かび上がってくる。
紙の本落語と私
2015/07/29 23:58
至高の1冊。何度でも読み返したい。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
落語の成り立ち、江戸と上方の違い、伝説の名人の断面に至るまでを簡潔かつ面白く書き記した名著。最上の「落語への誘い」であり、読み返すたびに味わい深い1冊。
2015/07/29 23:30
『嫌悪の狙撃者』が読み応えあり
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1965年の「渋谷ライフル魔事件」を題材とする実録犯罪小説。筆の速い著者としては珍しく克明な取材(死刑に処せられた犯人の元少年との面会は実現しなかったが)の上に練り上げて仕上げた一篇で「裁判資料以外では最も正確」とまで言われたほど。
著者自身が事件に偶然居合わせたという設定の導入で事件とその犯人の内面を可視化しかつ重層的に描くことに成功している。いわゆる少年の凶悪犯罪を題材とする作品は数多いが類稀なる傑作。
紙の本野球は人生そのものだ
2015/08/29 01:50
「ミスタープロ野球」が自ら綴る球歴と半生
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
言わずと知れた「ミスター」の半生記。
2007年7月に日本経済新聞朝刊文化面の名物コラム『私の履歴書』欄に連載した内容の単行本化。「はじめに」と「おわりに」が追加されたほか全体に増補改訂が施されている。またおまけとして現役時代の略年表、大学時代の恩師・砂押邦信氏と長嶋一茂氏のインタビューを収録。
生い立ちから6大学野球での活躍、巨人の主軸としての栄光や苦悩、起伏に富んだ2回の監督時代、突然の大病を潜り抜けた現在…波乱万丈の人生をよどみない口調で率直に語っている。
学生時代に抱いたメジャーへの憧れ、天覧試合でのホームラン、その相手投手だった村山実との思い出、「天才」「燃える男」と言われる影での真摯な努力と打席における心構えなど興味深いエピソード盛りだくさん。現役時代の「うっかり」もさりげなく織り込まれており、時折「ピッチングスタッフ」といった「長嶋節」が飛び出すあたりは微笑ましい。一方で随所に散りばめられているファンを大事にする心とチームへの愛着の深さには胸が熱くなった。
何より素敵なのは表紙のミスターの笑顔。「お元気ですか?」と話しかけてきそうで気持ちが温かくなる。
紙の本明治天皇を語る
2015/08/29 01:46
明治天皇が少し近くなる本
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
伝記『明治天皇』で知られるキーン氏が明治天皇について行った講演の書籍化。
立憲君主としての明治天皇の人となりを多彩な視点から明らかにしている。細かいエピソードも織り込んでいるがちまちました印象はなくバランス感覚に優れた人間味ある君主としての明治天皇像を浮かび上がらせた内容。外国人との交際、同時代の外国君主との比較、側近との関係に対する言及が目立つのは興味深い。
「明治維新」は知ってるし毎年明治神宮へ初詣には行くが明治天皇のイメージはわかないという方におすすめ。