Fukusuke55さんのレビュー一覧
投稿者:Fukusuke55

戦後史の正体 1945−2012
2012/11/19 10:59
アメリカからの圧力・・・という観点からひも解く戦後史
23人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者によれば、「高校生が読める戦後史の本」・・・というのが、出版社のお題だったそうです。高校生どころか、今を生きるわれわれ日本のオトナに取っても大変分かりやすいことに加えて、内容がなんとも衝撃的。いや、衝撃を通り越して、過激の域に突入しています。
「読んでびっくり!」
なぜ、「読んでびっくり!」かというと、本書が徹頭徹尾「アメリカからの圧力」という視点で貫かれている戦後史だからです。
少なくとも50歳未満の日本人が知らなかったこと(知ろうとしなかったこと)、学校で教わったことと違うこと、日々新聞やニュースで取りあげられている内容と異なっていることが、これでもか!というくらい登場します。
どうもこれは、現代日本にとって、タブー中のタブーだそう。
例えば、どれだけの総理大臣が「自主独立」のスタンスを示したことで、退任に追い込まれて行ったか・・・。
一応、大人なので、孫崎さんのこの主張をひとつの意見として認識し、同様に反対の立場を取る政治家、役人、経済・政治学者の主張も同様に理解する必要があるなと思いました。バランスを取ることへの強い欲求とでも言いましょうか、そんな感覚を覚えます。そのバランスを自身で咀嚼した上で、自ら判断することに尽きるのではないでしょうか。
純粋で真っ白な高校生には、本書が「すーっ」と入るんだろうなぁ。そして少しずつ歴史観というものが刷り込まれて行くんだろうなぁ。比較するのは申し訳ないけれど、中国・韓国の愛国教育というのも、こんな感じなんだろうか・・・と、ちょっと軽い懸念を覚えます。
本書を読んで、私自身は、これからのニュースに見かたが間違いなく変わると確信したし、これから学ぶ公共政策の分野についても少し視点が広がった気がします。
高校生は言うに及ばず、ものの分別がついてしまっているオトナにぜひオススメです。
私を含む、日本のオトナの皆さんが、米国に寄り添う(本書では「追従する」となっている)道を選ぶのか?自主独立の道を目指すのか?
国際経済、国際社会における米国との相対的位置づけも鑑みながら、オトナとして自分の軸をきちんと持っていたいです。
経験ではなく歴史から学ぶ賢者になりたいものです。
♯ 岸 信介さん、宮澤 喜一さんについては、総理大臣在任中の仕事、対米国の立ち位置、総理大臣になる前・なった後も含めて、きちんと勉強しようと思います。

知の逆転
2013/03/24 23:29
心を「素」にして聴く「未来の予見-6つの叡智」
17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソンという6人の現代世界の「知性」へのインタビュー集。共通するテーマは「未来」。
なんといっても、インタビューおよび本書の編集をされた吉成真由美さんの広汎な知識と好奇心、そして行動力に感服した。
すごい・・・。
ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」は、購入すれど未読であり、ノーム・チョムスキーはいくつか採り上げられていた記事を読んだ程度。オリバー・サックスは「レナードの朝」の映画を観たのみ。ジェームズ・ワトソンは『二重らせん』というキーワードを知るのみで、一体それが何なのかを説明できない)。「アカマイ」は知っていても、その創業者の一人であるトム・レイトンのことは知らず、マービン・ミンスキーもこれまでまったく接点なし。
今、この時期にこの6名の知と出会えたことに感謝。トム・レイトンを除き、いずれも高齢で、日本の読者を意識して、彼らが予見する未来の姿に、謙虚に耳を傾ける。
特にノーム・チョムスキーへのインタビュー抄録「第二章 帝国主義の終わり」は、再読、再々読したほど。民主主義の限界に対する言及、現在のアメリカ人が「組織」をまったく信用していない状況でも、選挙に行って投票する。形式上は民主主義でも実態は違う・・・まさに議会制民主主義の限界。
未来の予見の中でも、私が最も注目している領域とも重なっていた。
ジャレド・ダイアモンドとノーム・チョムスキーへのインタビューを読んで、20年くらい前に読んだ、高坂正堯氏の『文明が衰亡するとき』をもう一度読もう!と決めた。
ちなみに、本書はとっても売れているらしい・・・。ぜひどんどん売れて、多くの日本のオトナに読んで欲しいなと心から思う本。ウィスキーでも飲みながら、この本を肴に語り合える仲間が身近にいたらなぁ・・・。

愛着障害 子ども時代を引きずる人々
2013/03/29 15:51
「愛着障害」とは何か・・・まずみんなが知ること
20人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書に依れば、大人の愛着スタイルには「安定型」(自律型)、「不安型」(とらわれ型)、「回避型」(愛着軽視型)の三つに分けられるそうで、私からすれば、仕事においてまわりに影響を強く及ぼすのは「不安型」の人。
本書を読んで、すぐにパっと頭に浮かんだ顔があります。それも男女一人ずつ。
その二人とは別の局面で出会ったのですが、接点があったのは、両者ともに30代半ば。
本書に出てくる通りそのままの思考・行動形態でした。能力は決して低くない、むしろ高い方で、「自分は仕事ができる人間だ」と思っている。
なので、チームや役割から外されると、全ての人格を否定されたように激しく嘆き、その環境になった理由を他者に求めて攻撃してしまう・・・。
「この人はなぜこんなに自己中心で、人や物に執着するんだろう・・・と、心の中で思うことが一度ならず。
愛着障害は子供だけの問題ではなく、そのまま大人になったときに及ぼす社会的・経済的影響は大きいですよね。大人になっている分、みんなアドバイスしづらくて遠巻きになって、孤立して・・・私の頭に浮かんだ人は二人とも同様で、結局そこにいづらくなり、転職を重ねていくという残念な人生を送っていました。
いませんでしたか、そんな人、みなさんの周りに。
愛着形成が完了しない時期に母親から離された子どもは、愛着自体が乏しい脱愛着傾向を抱えやすく、母子分離不安の高まった時期に母親をうしなうと、「見捨てられ不安」や抑うつが強まりやすい。その境目が、二、三歳ごろだと言えるだろう。(p.56)
これを読んで、ちと暗い気持ちになりました。この時代に若いお母さんが出産して2-3歳まで自らの手で育てられる人がどれだけいるんだろう・・・。社会問題である待機児童も実は「0-2問題」と言われるほどに、その時期子どもを預けて働きたい、働かねばならないお母さんがたくさんいるこの実態。
これが事実ならば、愛着形成が完了していない幼少期を過ごした人が社会に出てくることを前提にするしかない。
いかにしてアイデンティティの獲得と自立を本人が努力し、まわりの人がサポートするか・・・これに集約されるのではないでしょうか。
まずはこの「愛着障害」なるものが、広く社会に理解されるようにすることからですね。
ちなみに愛着スタイル診断テストによれば、私は「安定12ポイント、不安1ポイント、回避12ポイントの『回避-安定型』」。愛着回避が強いが、ある程度適応力があるタイプ、だそうです。
なーるほど。

ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
2013/02/06 00:36
未来のために踏み出す勇気と覚悟
14人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者リンダ・グラットンさんとそのグループが、世界中で調査し・分析・考察した2025年のという未来のための「働き方」読本。
2025年 - 12年後というのがなかなか絶妙なタイミングです。
すでに起き始めている現実で、まだマイノリティな状態にあるいくつかの現象が、一般化していくであろうというのが著者のメッセージで、それがマジョリティになったときにあなたは、どう生きるのか?その準備を今していなければなりませんよという警告の書でもあります。
ここに挙げられているポジティブなケース(第3部)、ネガティブなケース(第2部)ともに現段階では先鋭的ではあるものの、すでに現実化しているものであり、ひとつひとつが驚くほどに新規なものではありません。しかし、これが「フツー」になる社会ってどんな世界なんだろう・・・。その時、会社ってどうなっているんだろう、家族ってどうなっているんだろう、そしてど自分自身はどうしたいのか?と考えながら、今から行動することが大事なんですよね。今、その分岐点にあなたたちは立っているのですよ!という働きかけです。
「未来の自分」、「未来の社会」のために一歩踏み出す勇気と覚悟。
踏み出す前提となる「未来を形成する5つの要因」として、著者は
- テクノロジーの進化
- グローバル化の進展
- 人口構成の変化と長寿化
- 社会の変化
- エネルギー・環境問題の深刻化
を挙げており、それをベースに以下3つの資本を「シフト」することだと提言します。
その3つの<シフト>とは
1. 知的資本-ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
2. 人間関係資本-孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
3. 情緒的資本-大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ
1.や2.は、自身の努力と鍛錬でシフトすることは可能であったとしても、著者が言うとおり3.が最もハードルが高そうです。
それは社会での価値観と相対的な関係にあるものだから。
自分の価値観は主体的に変えることが可能でも、他人の価値観、特に世代の異なる人の価値観を変えることはほぼ不可能で、とりわけ年齢の高い人、その時代に成功した組織にいた人、自身が成功した人の価値観はまず変わらない。
だから、せめて他者、とりわけ若い世代の価値観、社会感を受容し、彼らのチャレンジに寛容になるということ、そして、自身(の世代)の価値観を強要しないこと・・・これを自覚して生きることが50代以降の日本のオトナに求められる時代との向き合いかたなのではないかと思います。
ぜひ、世界中の10代、20代の若者に読んでほしい・・・そう強く思います。

新しい国へ 美しい国へ完全版
2013/01/25 22:23
安倍総理の再起・・・これ即ち「日本人の再チャレンジ」なり
16人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書の原著となっている「美しい国へ」を6年半前、前回の「安倍総理誕生」の際に購入して読んだ記憶があります。
本書は、その「美しい国へ」を再録すると同時に、冒頭に二度目の総理就任に際しての思いを、そして巻末に衆議院選挙を控え、自民党総裁として「文藝春秋」1月号に載せた政見を再録した構成になっています。
6年半前に読んだ記憶はすっかり飛んでしまっており、今回改めてじっくり読み直しました。
6年半前と現在の主張にほとんど差異はなく・・・というか、具体的な政策よりも、安倍さん自身の政治観、人生観、価値観などがメインに記されているので、ある種「ぶれていない」具合がよくわかるという点では、再読の価値あったなと思います。
生まれ育った環境そのものが「特別」な人で、自他ともに認める保守の人。歴史的にも、保守本流の政治家は、戦争を避けるために命懸けで闘って来た人が多く、その点では安易なリベラル派や市民活動派は「安全保障」という点において、どうしてもひ弱さを感じずにいられません。
戦争は時の為政者の大局観の無さや、知識・経験・見識の無さから、あれよという間に突入してしまうというのが実態ではないかと思います。
安倍さんが総理になって、このまま戦争にまっしぐら・・・と危ぶむ声も聞こえますし、私もその懸念が完全にぬぐえているわけではないけれど、昨今の中国への対応姿勢、例えば公明党山口代表の訪中などを見ていると、対外交渉力やその手法などは、「さすがに2度目の登板だな」という印象を持ちました。
日本は、一度失敗した人が再起のチャンスを得にくいと言われていますが、安倍総理の再登板は、一国の代表が再起することを、国民が支持したということに他なりません。
私は、今回の安倍総理の再登板を、「日本人の再チャレンジ」の象徴だと思うことにしました。
「また投げ出してしまうんじゃないかという懸念がぬぐえない・・・」と言っていた有名な民放のニュースキャスターがいますが、そんな彼が「日本の成長戦略が・・・」とか、「若年者にチャンスを・・・」とか、「格差是正を・・・」とコメントするのを聴くたびに、「この人は、いざというときに、再起をかけてチャレンジする人に寛容ではないんだろうな」と思うのです。
再登板の実績はまだこれからで、金融政策、財務政策はちょっと大盤振る舞いな気がしなくはないですが、少なくとも一人一人の閣僚が浮かれている様子は見えないし、この緊張している姿勢がマーケットに影響しているのではないかと思われます。
現内閣は、就任後、矢継ぎ早にいろんな矢を放っており、与党時代に政権復帰に備えて、「臥薪嘗胆」してこつこつと準備を進めていたんだろうなと思わせるこのスピード感は、国民からの支持を回復させるのではないかと、好意的にみています。
・・・ということで、安倍総理の人となり、政治観をコンパクトに知るにはうってつけの本です。

想いの軌跡 1975−2012
2013/01/03 19:51
塩野七生さんの美意識と人生観
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1975年から2012年の間、さまざまな媒体に載ったエッセイのうち、本に収められていないもの46編が、一冊にぎゅっとまとまっています。年末年始の少しほっこりした時期にふさわしい、重くもなく、軽くもなく、それでいて塩野さんの人生観、価値観、美意識がふんだんにちりばめられている塩野七生ファン必読の書です。
#本書発刊の経緯は、冒頭の「読者に」で触れられていますが、若い担当編集者の頑張りによるらしい・・・。
著者38歳から75歳の現在に至るまでの、まさに「想いの軌跡」。
「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」や「わが友マキャベリ」、「海の都の物語」、そしてあの佐藤 優さんに「日本の知性」と言わしめた「ローマ人の物語」、「ローマ亡き後の地中海世界」、「十字軍物語」を世に出し、まさに作家としての青年期から壮年期。
輝く時間の「想いの軌跡」。
とりわけ私のハートが大きく揺さぶられたのは、防衛大学の卒業式での「祝辞」(1993.5.)、そしてわれわれ日本人に精神の危機を問いかけた「古代ローマと現代と」(1997.5.)の二編でした。前者は、一部が「ローマ人の物語」でも触れられていたと記憶しますが、この二編は、塩野七生さんの国家観がくっきりとわかるエッセイです。私自身が「国家」や「安全保障」について考えるようになったのは、「ローマ人の物語」を熟読するようになってからで、弱っちくてなよっとしていた私の価値観の背骨を、びしびし鍛えていただきました。
塩野さんのように、背筋をしゃきっとして、言うべきことをきちっと言い、自らを厳しく律する・・・そんな時間の過ごし方をしたいです。
「ローマ人の物語」を読み返してみようかな・・・。

悶絶スパイラル
2012/08/26 13:05
<注>決して、電車の中で読まないように
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本は「やばい」です。何が「やばい」かと言うと・・・まず、自分以外の人がいるところで読んではいけません。それくらい、いくつも笑いの爆弾が仕掛けられています。
三浦しをんさんは今年出会った作家さんの一人で、文楽関連2作品「仏果を得ず」「あやつられ文楽観賞」、恋愛小説集「きみはポラリス」を読んだだけの、三浦しをんビギナーにとって、本書はガツんと顔面パンチくらった感じです。
「あやつられ・・・」あたりで、何となくその予感はあったのですが、いやはや一回りちょっと年下の貴腐人しをんさんの日常を垣間見てしまったこの衝撃といったら。
ベッドで笑い転げてしまいました。本当に、ゴロゴロと身体をゆすってしまい、笑止するかと思いました。
作家として仕事と葛藤する多忙な毎日の中で、マンガを、BLをこよなく愛し、仲間と家族を(別の意味で)愛し、脳内で妄想に明け暮れ・・・。なんだか、自分の30代の週末の様子を鳥の視点で観ているようで、笑いながらちょっと切なく感じたのでした。
その中でも、「一章 魂インモラル」、「二章 日常ニュートラル」、しをんさんの軽妙洒脱な語り口の真骨頂 「三章 豪速セントラル」の新作落語「カツラ山」・・・これが私のお気に入りです。
疲れた時、最近笑っていないなぁ・・・と思ったときには、しをんさんのエッセイ、オススメですぞ。

学び続ける力
2013/03/25 23:43
社会の中における自分の存在の意味を理解した人こそが「教養のある人」
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一読して、池上さんという人が根っからの「学び好き」であり、「好きこそものの上手なれ」を体現している人なんだと納得。
そう、池上さんがおっしゃるとおり、「学ぶことは楽しい」んですよ。
足元にも及ばないかも知れないけれど、私も根っこのところで共通した感覚と価値観、経験を持っているので、胸を張って言えます。
「学ぶことは楽しい!」
「第2章 大学で教えることになった」と「第3章 身につけたい力」は、とても実践的。
4月から学生生活を送る私には、具体的に参考となる項目がたくさん。教えるサイドの視点、学ぶ人への期待、伝える力の重要性・・・社会人として日々の仕事にも有効な指摘がたくさんあります。
「すぐに役立つこと」は、「すぐに役立たなくなる」
「すぐには役に立たないこと」を学んでおけば「ずっと役に立つ」。
本書のキャッチコピーですが、まさにこれこそ教養を身につけることの醍醐味。
・・・教養を身につけたからには、傍観していてはだめで、社会に対して、積極的にコミットメントする、参加する、関わっていかなければ、真の教養人とは言えない、ということだと。(p.180)
「教養があるからこそ、この複雑な社会の次の解を導き出すことができる。」ときっぱり。
読んで考え、考えて読み、行動して考え、考えてまた読む・・・それを繰り返し繰り返し続けていくことで、社会の中における自分の存在の意味がわかるんだなぁ。そんな人こそが21世紀の「教養人」。
努力しなきゃ・・・。
♯ それにしても池上さんのお父さん、うちの父に似ている・・・。加えて、大阪出張に2冊+1冊を持参するという習慣、私もまったく同じなんです(笑)

神去なあなあ日常
2012/11/02 12:15
森と生きる物語・・・おもしれー
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
フリーター、もしくはニートへの道まっしぐらだった横浜育ちの平野勇気18歳。彼が飛び込んだ・・・いや、放り込まれた職場は三重県の林業の現場。
いまどきの18歳 勇気の目に映る四季の美しさ、自然と共生し対峙する職場や神去村の人々、神への畏敬の念。それは清々しく、荘厳ですらある。
時間がゆっくりと流れていく神去地区の姿と勇気の成長は、何よりも力強く「生命」を感じさせてくれる。
中村林業の人々や神去村の人々(+ノコという犬)、そして山の神が勇気を受け入れたのは、彼が「真っ白」だったから。すすけた大人は、いちど身に付いた煤をそそいで真っ白になる必要があるから、こうはいかない。
中村清一さん(勇気の雇い主)の視点で、サイドストーリーを読んでみたい。
・・・オビのキャッチじゃないけれど、「ホントにおもしれー」

シティ・マラソンズ
2013/03/31 18:36
自分の肉体を通じて語る人生の「物語」
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ファンである三浦しをんさんと近藤史恵さんが連作しているのを書店で見つけ即買い。あさのあつこさんの著作は、興味はありつつ読んだことがなかったのでこれを機にという一石二鳥。
ニューヨーク、東京、パリの大規模なシティ・マラソンを舞台に、三人の著者がそれぞれの世界を紡ぎだしている秀作でニューヨークやパリに住んだこと、行ったことのある人、走っていた人、今も走っている人、走りたいと思っている人・・・それぞれがいろんな思いを抱くであろうことは、想像に難くない。
3人の主人公たちはそれぞれこれまでの人生で何かをあきらめ、何かを置き忘れてきた人たち。今が不幸かと言えばそんなことはないのだろうけれど、自分の中で、けじめをつけないといけないと心のどこかで思っている人たち。
「純白のライン」(ニューヨーク;三浦しをん)の安部広和には、大学時代の全てを懸けた駅伝でごっそり情熱を抜かれた人生の転機となり、「フィニッシュ・ゲートから」(東京;あさのあつこ)の南野悠斗は恋人が事故で死んだ親友の再起を自分の再生に重ね、「金色の風」(パリ;近藤史恵)の香坂夕は、才能ある妹との葛藤を克服して、自身への自信と誇りを取り戻していく。
マラソンのゴールシーンでは、いつもゴールしたランナーの表情を食い入るように見てしまう。
この主人公たちのように、それぞれのランナーに、それぞれの物語があるのだろう。走ることの意味って、その物語を自分の身体を通して表現することなんだ。
# 本作は、株式会社アシックスの企画「マラソン三都物語~42.195km先の私に会いに行く~」による書き下ろし連作だそうです。
# 空腹時に「金色の風邪」を読んだら、無償にパンが食べたくなりました。今すぐ家を飛び出して、駆けだしたい思いに駆られます。

リフレはヤバい
2013/02/11 15:37
ほんとにヤバい気がしてきた・・・
12人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「アベノミクス」の期待効果・・・というか、どこもかしこも「株価あがった」「○○円儲かった」の騒ぎに少し居心地の悪さを覚えていた矢先に出会った本。
インフレを意識的に起こす「リフレ」を、そして真摯で真面目な安倍さんに無責任にリフレを吹き込んだ「リフレ学者」を著者は断罪しており、「円安の非」、「リフレの非」を訴えかけています。
21世紀の今、ポスト資本主義を意識すれば、旧来型のフロー至上主義の施策は、万死に値する・・・っとここまでは言ってないけれど、少なくとも「最悪だ!」とは言ってます。(笑)
著者の気持ちの高ぶりが、紙面を通じて読者に伝わってきます。
円安戦略の陥せい、インフレは望ましくないこと、そもそもインフレは起きないであろうこと、なのにリフレを主張する人たちの根底にあるものは、「オカネをぐるぐるまわせば景気はよくなるなる」という根本的な誤り、円安戦略は過去のモデルであること・・・。
確かに、今ちょっと浮かれ気味だけれど、賢い日本人は、この右肩上がりの株価上昇が早晩天井を打つことを理解しており、浮き足立っているのは一部のマスコミと学者、エコノミストではないかと思い始めました。

メリットの法則 行動分析学・実践編
2013/03/24 23:22
目からウロコの「行動分析学」・・・確かにそうだ!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ついモノゴトを難しく難しく考えようとする(が、考えているわけではない)クセのある私には、目からウロコとはこのことでして、本書でいうところの「循環論」のワナにはまること数知れず・・・。観念論でものごとが解決できるのは、同じ観念を理解・共有している人との間だけであり、そんなことはまずめったにない。
本書は、「人間は、その行動をした直後にメリットを生じると、またその行動をするようになるものだ。」ということを実証してきた臨床例が数多く示されており、われわれがついつい思っていながらできないようなダイエットや、不安な時についついとってしまう行動が論理的に、かつその対処法が実践的に述べられている。
すべての行動は「好子」、「嫌子」、「出現」、「消失」のかけあわせで分析が可能であり(基本形)、その行動に影響を与えるメカニズム(応用形)が検証できるように、「直前」、「行動」、「直後」という三つの箱を時系列(=「行動随伴性」)でつねに解説しているので、読了時、読者の思考経路も自然とそれに沿っているあたり、著者の狙いなのだろう。
この「行動随伴性」のフレームで考えると、体罰は否定されるものであることが論理的に説明でき、行動分析学としては「アメとムチ」ではなく「アメとアメなし」のアプローチを採るべきであるというのが著者の主張。
また、行動は「機能」を重視し、以下4つの機能のいずれかを定義することで課題解決に近づけるというアドバイスは、「共通理解」や「共通認識」という抽象的なワードで済ませてきた私にとってはまさに金言。
<行動の4つの機能>
物や活動が得られる
注目が得られる
逃避・回避できる
感覚が得られる
元気な時も、そうでない時も、「あれっ」と思ったらこのアプローチで自分の行動を分析してみたい。「あー、なるほどな。」と思えるに違いないから。

軽くなる生き方
2012/09/06 00:17
軽くなる生き方は、ちょっと苦くて、ちょっと重い・・・
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書のタイトルを見て即買いしてしまったのですが、心が軽くなるどころか、「ずしーん」ときます。
「きたぁ」と思っていたら、どうもそう感じたのは私だけではなかったらしく、解説を書いている遠山正道さんもそう思われた模様。解説の冒頭が、『軽くなる生き方』を読んで重くなった。ですからね。(笑)
第1章 「あたりまえのこと」を大事にする は、いつもの松浦さんテイストで、ふむふむふむ・・・という感じだったのですが、第2章 「仕事で生かす、生かされる」あたりから、少しずつ苦みが感じられて、『「できること」と「できないこと」を自覚する覚悟』に至っては、著者の苦渋が行間から感じられて、「これは、軽い気持ちで読み進められないな・・・。」と思い始めました。
そして第4章でついに著者は、軽いうつ病になったこと、その原因を突き詰めていくと、自分自身の中にあったこと・・・これらをカミングアウトするのでした。
・・・僕はこれまで、心の底から人を信じることなく、生きてきてしまったのだ。(p.165)
これまでひとりで仕事をやってきて、それぞれの仕事でそれなりの達成感を覚え、着々と生きてきた著者が、この時期に老舗雑誌の編集長という、生まれて初めて組織を束ね、リーダーとして生きていく役割を受け入れた結果、押し寄せてくるとまどい、葛藤、・・・そんな様子が、ありありと伝わってきます。
その葛藤を乗り越えて、ある種解脱(?)した著者が、読者に語りかけます。「人を信じる練習をしよう」
そう、だから決して気持ちが軽くなるわけではなく、むしろ、きちんと地に足をつけて生きる覚悟を迫る・・・そんな、味わいが沁み込んだ本なのです。
仕事、人間関係・・・ちょっと軽く悩んでいる若いビジネスパーソンにオススメです。
♯それにしても、松浦さんの所持している本が3冊とは・・・。衝動買いして積みあがっている我が家の本の山は決して見せられない。

頭が良くなる議論の技術
2013/06/06 22:28
会議はBrain Sports!
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
齋藤センセイの最新刊は、「議論の技術」。大学院に入ってからは以前のように「会議」という場が格段に減ったのですが、昨今痛感するのは、発表の機会や授業の最後の「Q&A」で、盛り上がる場合とそうでない場合に大きな差異があること。
<盛り上がるとき>
‐ 自分でも気づかない視点、切り口での質問が受講者から出て、プレゼンターや講師がその質問に待ってましたとばかりに切り返したり、新たな気づきをもたらしたりという広がりがある
‐ 質問者、回答者だけのやりとりで終わらずに、そのやりとりから他にも発言者が一人、二人と広がる
‐ 修了時にみんながなんとなく笑顔になっている
<盛り上がらないとき>
‐ 質問の内容に同調できない、また同調を得られない(例;講師がすでに説明している内容を改めて聞く、なぜそれが疑問なのかの説明がない・・・等々)
‐ 的確な質問をしているのに、プレゼンターや講師がそれに即した回答をしていない、あたふたしている
‐ 他の受講者を巻き込めずに質問者、回答者の二人の世界になっている
・・・これって会議と一緒だなぁと。
齋藤センセイはファシリテーターの能力を高めよと説いていますが、完全に同意です。ファシリテータマインドのある人が一人でも多く参加していれば、たとえある会議や場で自分がファシリテータではなかったとしても、膠着したときに軌道修正することができる、もしくは「軌道修正せねばならないという思い」を共有できるからです。
以下、オビにあるいくつかの掟!
‐一回の発言は十五秒以内
‐論点は混ぜない
‐席を変えてみる
‐反対する場合は対案を出す
‐後戻りはしない
‐板書の重要性
‐鶴の一声は禁止
‐自分の主張に反論する
いつも頭のエンジンをぐんぐんと回しておかないと、ついつい惰性で「まぁ、いいか」ってなっちゃう。これじゃダメなんだよなぁ。齋藤センセイのおっしゃるとおり、議論のあとはまるでスポーツの後のような爽快感がないと。会議はわれわれにとって、まさにBrain sports。漫然と臨んでいてはいけません・・・と自戒を込めて、日々の授業に臨もう。

職業としての学問 改訳
2012/11/24 23:27
時代の宿命を正面(まとも)にみる
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1919年、亡くなる前年にマックス ウェーバーが行った講演の抄録です。
若い研究者たちに、全身全霊で語りかけ、混迷する時代に強い意志を持って「学問と政策の峻別」を生きよと説いています。
第一次大戦敗戦後のドイツ、「事実」のかわりに「世界観」を、「認識」のかわりに「体験」を、「教師」のかわりに「指導者」を求める若い研究者たちに
「体験」に求めるのは、弱さからきている。
その弱さとは、結局時代の宿命を正面(まとも)にみることができないことだからである。(57ページ)
と、叱咤しているウェーバーさん。
表紙をめくるとすぐにある、晩年のウェーバーさんの写真は迫力ありありです。なんだか幕末の志士のようで、眼光するどく、この眼で見据えられたら、弱い心をすぐに射抜かれそうな気がしますね。
何だか、今の日本に生きるわれわれが叱咤されているようです。
この後のドイツが歩んだ道は、多くの人が知るとおり。
民衆が求めた「指導者」は、そう、あのヒトラーです。
現在の風潮は、ここでウェーバーさんが叱咤した時代とそっくりになりつつあり、次期政権リーダーになろうかという党首が「言っただけで株価があがり、円安になった」、「国防軍とする」発言を繰り広げていることを、有権者が冷静に消化する必要があるのではないかと思います。
時代の宿命を正面にみる力、未来への想像力・・・これらを問われているのが、まさに今の日本。