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ShoGさんのレビュー一覧

投稿者:ShoG

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紙の本ことり

2013/05/15 16:07

自分だけの言葉

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

人は,限られた相手にしか通じない自分だけの言葉を持っている。だから,自分の言葉が通じない人たちに囲まれているとき,人は孤独だ。人でも動物でも,自分の言葉に耳を傾けてくれる相手が在って,はじめて孤独から救われる。
 小川洋子の新作『ことり』(朝日新聞出版・2012年11月30日発行)は,そんなことを思わせる作品だ。
 物語は,「両腕で竹製の鳥籠を抱いている」老人の遺体が自宅で発見されるところから始まる。「鳥籠の中では小鳥が一羽、止まり木の真ん中に大人しくとまっていた」。そこで著者は,「いくらか腐敗ははじまっていたが、もがき苦しんだ様子はなく、むしろ心から安堵してゆっくり休んでいるように見えた」と記している。世間で言う「孤独死」だけれど,老人は決して孤独ではなかったということを,最初に明らかにしておいて,物語は進められる。
 近所の幼稚園の小鳥小屋の世話をして,園児たちに「小鳥の小父さん」と親しまれてきた主人公は,普通の人には通じない,小父さんにだけ分かる言葉を話す兄と,小鳥のさえずりを聞き取れる兄の影響で親しむようになった小鳥たちと,小鳥の本を借りることで気持ちの結ばれている図書館司書の若い女性の存在で,孤独感から免れて生きている。
 言葉が分かるということは,共通した言語体系を持っているということではない。どんな言葉であろうと,相手の気持ちが分かるということだ。鳥語が分かる兄さんや,兄さんの言葉が分かる小父さんの「分かる」とは,そういうことだ。
 しかし,兄は亡くなり,司書の女性は退職し,幼稚園の小鳥小屋は撤去される。老いた小父さんに残されているのは,庭に来る小鳥たちと過ごす静かな時の流れだけだが,それで十分な安らぎが有り,その他の雑音は,小父さんには要らない。
 老いるほどに,言葉の通じる相手は少なくなり,世界は狭くなる。しかし,だからと言って,寂しく思うことはない。自分の安らげる世界が有れば,決して孤独ではないのだということを,著者は伝えてくれている。
 今にして思えば,同じ作者の『博士の愛した数式』(2003年・新潮社)の,交通事故の後遺症で80分しか記憶が持続しない「博士」もまた,数字という自分だけの言葉を持っているという点で共通している。家政婦として通う「私」と,小学生のその息子と,博士との間は,数字という言葉で結ばれ,家族のようなつながりを生む。そこには,言語を超えたところで生まれるつながりこそが人を幸せにするという一貫したテーマが在ると感じる。読んでいて温かい気持ちになるということでも共通している。

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