市井の数学愛好家さんのレビュー一覧
投稿者:市井の数学愛好家
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共立講座21世紀の数学 改訂増補版 16 ヒルベルト空間と量子力学
2016/02/17 00:26
量子力学の数学的理論への最適な入門書
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書は量子力学の数学的理論に関する入門書です。
本書の特徴は読者が理論的なギャップを感じないよう、丁寧に論証、解説を行っている事です。そのため、道具である関数解析学の準備に1~5章を費やす構成になっており、数学的厳密さを失うことなく量子力学を学習したいと考える方には最適の本です。また通常の量子力学の教科書を読んで、その定式化にどこか腑に落ちない、誤魔化された感じを抱いたことのある方にもお勧め出来ます。
本書を読むに当たり必要とされる知識は線形代数学(抽象的な線形空間、線形写像の定義および基本性質、固有値分解)、微積分学(具体的な関数の微分・積分の計算、数列の極限操作)、複素関数論(具体的な積分計算)、ルベーグ積分の初歩(完全加法族、測度、可測関数およびルベーグ積分の定義)です。ルベーグ積分に関する命題の内、本書で必要となるルベーグの優収束定理やフビニの定理等については付録に掲載されており、それらの主張を証明無しで認めてしまえば本書を読む分には困らないと思います。(本書読了後、それらの命題の証明については別の書籍で補う必要はあります。)
本書の初版が出版された当時、数学的に厳密な量子力学について日本語で読める書籍といえば、フォン・ノイマンの「量子力学の数学的基礎」くらいしか無く、当然ですが本書が前提とする程度の知識で読みこなせるような代物ではありませんでした。そのような状況の中、数学的に厳密な量子力学を学びたいと念願していた者にとって本書の登場はまさにエポックメイキングとなるものでした。評者自身、初版を手に取った時の感動は今だに忘れられません。
初学者の方は紙と鉛筆を持って本書が辿る量子力学への道のりをぜひとも追体験してみて下さい。本書読了後には、より進んだ内容を理解するための基礎力が確実に身についていると思います。
集合・位相入門
2021/09/20 15:47
数学最初の難関を一緒に乗り越えてくれる伴走者
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書は集合・位相に関する独習書です。
本書を読むための前提条件は、精々イプシロン-デルタ論法に馴染んでいるという程度で、とても敷居が低いです。
ただし敷居が低い=集合・位相の習得が平易、というわけではありません。というのも、数学専攻で学ぶ数学は、高校数学や大学1年次の計算を主体とした微分積分、(線形代数という名の)行列代数とは質的に異なり、構造論としての色合いが顕著になっていきます。それは数学専攻で学ぶ数学が、集合・位相の言葉により語られることが大きな理由の一つになっています。従って集合・位相は、これまで経験した数学とは質的に異なるものを学ぶという点で、難しいとさえ言えます。
人によってはすんなりと質の違いを乗り越えて理解出来るかもしれません。しかしそうでない場合は、考え、手を動かし、時には休んで、定義や考え方が腹の底にストンと落ちるまで、とことん付き合う必要があります。
本書はそうした読者にとって頼もし伴走者になってくれるでしょう。
現代ベクトル解析の原理と応用
2021/09/20 15:44
体系的なベクトル解析を学ぶ事の出来る数少ない一冊
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ベクトル解析に関する書籍は、主に理工学部系の学生向けに、数えきれない程たくさん出版されていますが、それらの殆どは
・実数空間内の点とベクトルの区別が付いていない、
・テンソルの定義が曖昧、
・ベクトル(テンソル)とその成分の区別が付いていない、
・ベクトルとベクトル場、テンソルとテンソル場の区別が付いていない、
・微分形式の世界で成立している関係を無理にベクトル場の世界で示そうとしている、
といった多くの根本的問題を抱え、にも関わらず目先の計算は遂行しなければならないというジレンマが、数々のその場しのぎの記号法や方便を生み出し、結果、それらの書籍が語るベクトル解析は、解析手法としての体系性など皆無の単なる業界内のお約束事に成り果ててしまっています。
そのような中、本書は体系性を有する解析手法としてのベクトル解析を学ぶことの出来る数少ない一冊です。
ベクトル空間=実数空間、線形代数=行列計算という認識しか無い方の場合、最初の1章から大変かもしれないですが、紙と鉛筆を持って腰を据えてじっくりと本書と向き合ってみて下さい。そして無事、本書を読了することが出来たなら、過去、読んでいた力学や電磁気学、連続体力学の教科書をもう一度読み直してみて下さい。単なる業界内のお約束などでは到底表現することが出来ない、自然の持っている体系的な美しさを感じる事が出来るはずです。
無限をつつみこむ量 ルベーグの独創
2017/10/22 21:42
出版社の意向はさておき、測度論に苦手意識を持つ学生にこそ相応しい本
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30講シリーズで有名な著者によるルベーグ積分・測度論についての参考書です。
30講シリーズの中にもルベーグ積分を題材としたものもあり、本来ならそちらとの比較が出来れば良いのですが、未読の為、本書のみの評価をします。
さてルベーグ積分論を学ぶ際、ネックになるのは
・可算加法族の元としての可測集合の定義
・完全加法的測度の定義
・ユークリッド空間上のルベーグ測度から一般の集合上の抽象的な測度への飛躍
に馴染めるかどうか、ではないでしょうか。少なくてもこれらに心理的な抵抗がある限りルベーグ積分の攻略はまず不可能でしょう。逆にこれらに馴染んでしまえば、抽象的な測度論に恐れをなす理由は何一つありません。ユークリッド空間上のルベーグ測度の話で時間や労力を費やすことなく、一気に抽象的な測度論および積分論の話に進むことが出来ます。(幾何学では多様体上での測度を、リー群の表現論ではリー群上の測度を、確率論や数理ファイナンス、一部の数理物理の問題ではパス空間(無限次元!)上の測度を考えるので、それらの分野を勉強するなら一般の集合上の測度論に馴染んでおく必要があります。)
本書では上記のネックになりそうな点について、積分論の変遷を辿ることで自然と理解できるようになっています。ストーリー仕立てなので気楽に読め、短時間で読み終えることが出来ます。従って本書は、測度論に苦手意識を持ちルベーグ積分に馴染めないでいる学生にとって一筋の光となりうる良書であると思います。
なお、ここで描かれている「歴史」が数学史として正しいかどうかは評者は評価できません。飽く迄、測度論・積分論を理解させる手段としての歴史的記述に対する評価であることを付記しておきます。
最後に1点だけ、ツッコミたい所があります。
「大人のための数学」というタイトルにある「大人」とはいったい誰を指すのでしょうか?二十歳を超えた学生は確かに「大人」でしょうが、恐らく違うでしょう。先程、ストーリー仕立てで気楽に読めると書きましたが、あれはルベーグ積分論に一度は手を付けたものの挫折をしてしまった経験のある学生を想定して述べた言葉であって、一般の社会人を想定して述べたものではありません。
出版社の意向はどうあれ、評者としてはやはりルベーグ積分に苦手意識を持つ学生にこそお勧めしたい本です。
入門多変量解析の実際 第2版
2016/03/11 00:09
統計学実務におけるOJT指導役
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近年、データマイニングという言葉が流行していて、統計学の書籍が以前にも増して溢れるようになりました。そんな中、それらの書籍を読んで見よう見まねで統計学を使い始めた方も多いものと思われます。しかし実際に使ってみると、トラブルに見舞われることが少なくありません。本来ならしっかりと統計学の理論を理解し、理論と現実とを照らし合わせてトラブルに対処していくのが理想なのですが、現状、そこまで出来る統計学ユーザーはごく少数ではないでしょうか。
本書には、統計学の基礎理論を学ぶ時間を作ることが難しい多くの統計学ユーザーの為の実践的なノウハウや注意点が述べられています。初版が出版されたのは1996年、今般のブームが起きる遥か以前であり、本書の趣旨に対する統計学ユーザーの根強いニーズがあることを伺わせます。
さて本書では、実践的なノウハウや注意点を、大学生や学者の視点ではなく、徹底して実務家の視点から述べています。その為、必要以上の数式は使用していません。その言葉だけを聞くと「数式を使わない」ことを売りにした巷にあふれる統計学のノウハウ本とあまり変わらない様な印象を受けるかもしれません。しかし本書がそれらの単なるノウハウ本と違うのは、実践的方法や対策の根拠を述べるために最低限必要となる数学的概念はきちんと使っているというところです。
この点は類書には無い特徴であり、従って多くの方にとって読んで何かしら得るものはあると思われます。しかし(程度は決して高くはないものの)一定程度の数学レベルを要求する点では万人受けするとまでは言えません。例えば、学生時代に一度も数学を勉強したことが無くかつ興味も無いのに不幸にも会社の業務で統計ソフトを利用せざるを得なくなってしまったという方には、本書は不向きかもしれません。
一方、これから統計学を実務で生かしていきたいと思ってはいるが実践経験は少ないという読者にとって、本書はとても心強い味方であり、OJT指導役と同じような役割を担ってくれるでしょう。
確率と統計の基礎 増補改訂版 1
2016/01/28 01:57
統計学を本格的に学ぶための確率論の教科書
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本書は数理統計学に関する教科書で「確率と統計の基礎 II」と2冊組です。本書では、数理統計学に関する事項の内、記述統計学と、推測統計学の基礎となる確率論を取り上げています。推定や検定は別の1冊になります。
本書の構成ですが、1章では、平均や分散などデータの特徴を一言で述べるための代表値や、データの可視化の方法について紹介しています。2章~6章は統計学で使われる確率論の解説に充てられています。
内容的には大変よく纏まっているのですが、2章~6章の確率論の記述について、測度論をベースとしたものとそれ以前の古い時代のものが混在しており、そこが少し残念な点と言えます。例えば4章において確率密度関数の定義を、確率変数が離散の場合と連続の場合で別々に与えていますが、測度論をベースにすれば分けて書く必要はありません。また条件付き確率、条件付き期待値の定義もすっきりと書けるはずです。ただしこの点については、統計学に関する和書の殆どが測度論を忌避する傾向にあり、測度論を基礎とした確率論について纏まった記述があるだけ本書はまだ良い方だと言えなくもありません。
もし今後改訂版が出ることがあれば、上記で述べた点が改善されることを(望み薄であることは分かってはいますが)希望します。
確率と統計の基礎 2
2016/01/26 23:44
推測統計学を本格的に学びたい人へ
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本書は数理統計学に関する教科書で「確率と統計の基礎 I」と2冊組です。本書では、推定や検定、回帰分析、分散分析、相関分析といった手法について解説されています。
推測統計学に関する基本的な事項はほぼ網羅されており、統計学を専門にしたい学生が読む1冊目の書籍としては十分な内容を持っているように思います。(惜しむらくは情報量基準についての記述が無いことでしょうか。)
本書の特徴は、各種統計手法の成立根拠が証明や文献の引用といった形で明示されている点にあると言えます。
例えば検定について大半の統計学の書籍では、妥当性を判定したい事柄とは必ずしも関係性が明らかではない統計量を天下りで与え、その統計量がある分布に従うことを何の根拠も示さず認めてしまい、統計量を計算しp値を求め、p値と有意水準と比較して仮説の採否を判定し作業完了、というような作業マニュアル的な記述になっていると思います。作業の効率性から考えて、その種のマニュアル本の必要性を認めることに評者はやぶさかではありませんが、それにしてもこうマニュアル本ばかりになってしまうと、本来その手法にあるはずの理論的背景や成立根拠および適用限界について知らないままということになってしまいます。
そうした点から考えて本書の存在はとても重要だと思います。特に本書では相関分析で利用される統計量の基本的性質に関して、その成立根拠が明示されていますが、これは通常、書店で目にすることの出来る和書では見たことが無く、とても貴重だと感じました。
しかし読者として要望が全く無いわけでもありません。例えば推定問題、検定問題、回帰問題、これら3つは統計的決定問題という統一的な枠組みの中で定式化できます。(この点について稲垣宣生著「数理統計学」(裳華房)の§8で述べられています。)統計学の書籍は先ほど述べたようなマニュアル本が圧倒的多数であるため、ともすると統計学それ自体、雑多な方法の寄せ集めといった印象を受けてしまいがちですが、そうではないことを明示しておくとこはとても大切なことだと思います。本書もこうした観点をぜひ取り上げてもらいたいと考えてます。
推測統計学を本格的に学びたい人向けではありますが、出来れば、研究や仕事で統計学を利用している方に、ぜひ一度は目を通してもらいたい本だと思います。
ルベーグ積分入門
2023/10/09 00:11
一昔前の有名なルベーグ積分の教科書
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書はルベーグ積分の教科書を挙げるときに、まず最初に挙げられる代表的な教科書です。しかしルベーグ積分を独習でマスターするための最初の一冊として本書を選択することはあまりお勧め出来ません。
まず測度論について、ユークリッド空間上のルベーグ測度の話と一般の集合上の測度の話が仕分けされずに混在していることが挙げられます。これによって何がどこまで成り立つのか非常に分かりにくくなっています。
第2に測度や可測性の概念に関する議論の仕方に問題があります。本書が採用している議論の方法は、測度論・積分論の歴史的変遷を知っていると、測度や可測性の定義をなぜそのようにするべきなのか理解できるとても良い方法なのですが、肝心の歴史的変遷を一切説明していないため、動機や目的が不明のまま形式的な議論に延々付き合わされる羽目になります。(測度論・積分論の歴史的変遷を踏まえた議論は例えば志賀浩二著「無限をつつみこむ量 ルベーグの独創」にあります。)
さらに上記事項の影響を受けて、理論全体の見通しが悪くなっています。見通しを良くするためには、歴史的変遷を踏まえその動機や目的にきちんと言及する、それを行わないならば可算加法族の元としての可測集合や完全加法的測度を早々に導入し、カラテオドリの外測度は測度を与える具体的な手法として紹介するなど内容や構成を見直す必要があります。
また本来、抽象的な測度論で行うべき議論を、本書ではユークリッド空間上のルベーグ測度で行っています。本書の序文には物理学・工学分野も対象とした独習教材として書かれた旨の記載がありますが、ルベーグ測度に限定したところで物理や工学向けになるはずもなく、しかも理解するべき本質がぼやけてしまっている分、メインの読者である数学科の学生にとってもメリットはありません。ちなみに後半で述べられる関数解析は数学者の動機のみで書かれており、物理学・工学分野の動機を汲むような配慮は一切なされていません。従って、誰を読者として想定して書かれたのか良く分からない、立ち位置のはっきりしない中途半端な本、というのが評者の印象です。
なお幾何学では多様体上での測度を、位相群の表現論では位相群上の測度を、確率論や数理ファイナンス、一部の数理物理の問題ではパス空間(無限次元!)上の測度を考えます。ルベーグ積分を学ぶメリットの一つはこの汎用性にあります。ユークリッド空間上のルベーグ測度を全面に出し過ぎると、ユークリッド空間でのイメージを後々まで引きずり、一般的な測度論の理解を妨げる結果になるため良くないと評者は思います。
以上の理由により評者は初学者が独習書として本書を選択することはあまり適切ではないと考えています。しかし本書よりも進んだテーマに関する和書を読んでいると、稀に証明の一部を本書に丸投げするということが起こるため、資料として持っておくことは有用だと思います。また講義や別の書籍で既に学習済みの場合、2冊目以降の書籍として本書を読むのも問題無いでしょう。
ルベーグ積分に関する書籍が少なかった昔と比べ、今は複数の書籍を書店で選ぶことができる時代になりました。初学者にとっての目的は飽く迄、測度論・積分論を理解することであって、分かりにくい書籍にあえて挑戦しそれを読破することではありません。挫折する人が多い科目なだけに目的を見失う事無く自分にとって適切な書籍を選ぶことをお勧めします。
行動経済学入門 基礎から応用までまるわかり
2016/01/29 00:33
これは入門書ではなく読み物です
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金融工学や数理ファイナンス関連の本を読む中で、それらの理論の仮定が現実世界に当てはめるにはあまりにも都合良すぎることが以前から気になっていました。そうした関心を持つ中で行動経済学という言葉を知り、たまたま書店で本書を見かけたため買いました。
内容についてですが、行動経済学の中に出てくるキャッチーな言葉に安直な解説を付けた、よくあるビジネス本の延長線上にある本というのが評者の理解です。おそらく経済を専門にしている方々が見ると「入門」と付いていることに違和感を覚えるのではないでしょうか。
そういう本なので、読了後、具体的に何かをやってみようという気は全くしませんでした。当然、高い評価は出来ませんが、読み物としては普通に楽しめました。
テキストデータの統計科学入門
2016/01/30 23:38
総花的で薄味な入門書
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本書は小説、新聞、ブログ、日記等のテキストデータを解析する際に良く使われる手法を紹介している入門書です。
本書では様々な統計量や統計的手法が取り上げられていますが、少ない紙数の中に無理やり押し込んだ為か、統計量や統計的手法を列挙しただけで解説らしい解説が殆ど無いため、読了後、個々の手法について全く印象に残りません。
さらに本書では統計量や統計的手法について「多用されている」「多く用いられている」という言葉を頻繁に使い紹介していますが、それらがなぜ多く使われるのか、その説明が全くありません。例えばデータの類似度に関して、一般的にはピアソンの相関係数が使われているがテキストの処理ではコサイン類似度の方が多用されている、と記載されています。しかし肝心の理由は一切述べられていません。当然ですが、多用されるからにはそれ相応の理由があり、理由を知ることは統計量や統的手法への理解にも繋がるはずです。
新しい統計量が登場したときに簡単な数値例を使い手計算を示すことで読者の理解を促すといった入門書らしい良い側面も一部に見られますが、初学者を専門領域へといざなう入門書という観点から見ると、残念ながら力不足と言わざるを得ません。本書をさらっと眺め終えたら、本格的な書籍で学びなおすことをお勧めします。
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