によさんのレビュー一覧
投稿者:によ

トマト・ゲーム
2016/11/07 13:02
トマト・ゲーム
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
皆川さんの、1973~76年ごろの作品を収めた短篇集。
読みたくて読みたくて買って、でも、すぐに読むわけじゃなくて、積読というのとも違って、「私の準備が整うまで、待っていて欲しい。その背表紙を毎日眺めて、どっぷり浸かれるようになる日を待っていて欲しい」本の、待機場所というのがある。
そこで半年眠っていてもらった、「トマト・ゲーム」である。
半年間、何度も手に取り、表紙をうっとりと眺め、ブックカバーをかけようとして、「でも、まだだ…」と感じ、本棚に戻した。
やっと、皆川さんの世界にずぶりと沈みきる準備ができました。
『いつか華麗な狂気の世界を、文字の上にもあらわしたいと、一枚、二枚、と書きつづけています。』(p.431、受賞コメントより。皆川さんの言葉。)
不安と恐怖は、狂気と仲良しだ。
いつの時代も、きっとそれらは仲良しなんだろう。
全然違う時代の、全く知らない少年少女の、恐怖や不安や焦燥や憎悪を、しかし私は知っていると思った。
登場人物たちを、身近に感じてしまう。
その身近さに同族嫌悪を感じる、孤独さも。
心配ばかりが降り積もる、不安と恐怖とそれから憎悪に絡め取られたら、輪郭の曖昧な狂気の世界の靄が足元からたちこめる。
皆川さんがその怖ろしさを、『華麗に』描いてくれるから、孤独にならずにすむことができるのだと、感じた。
何の音楽もかけず、皆川さんの本とこんな時間を過ごせる。
今日は素敵な一日だった。
また「待機場所」に皆川さんの本を新しく追加しないといけない。

オブ・ザ・ベースボール
2016/11/07 12:57
オブ・ザ・ベースボール
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
昨晩、頭がもやもやしていて、あぁこれは寝れないなと思ったのです。
だから、円城塔を読むべきだと。
円城塔氏が、何を意図して書いたものなのかはわからないけれども(本人に聞けるわけでもなし。)、やっぱり私は、円城塔氏の文章の中に、勝手に私が抱く不安と不条理感と開き直りとを見出していって、大いに安心して満足して、しっかり眠ったのでした。
最近、円城塔氏は、詩人なんじゃないかと思うようになりました。
詩人の定義は知らないけれど、文章のリズムがあまりにも、心を落ち着かせるテンポをもっているものだから。
円城塔入門にオススメできる一編「オブ・ザ・ベースボール」と、とことん知識と教養と薀蓄を蓄えて臨んだらまたずっと深くて豊かな味わいを楽しめるに違いない一編「つぎの著者につづく」。
「つぎの著者につづく」は「これはペンです」で救われた私を、同様に救ってくれました。
もっと本を読み、知識をたんまり身につけて、また読みにくるね。

はじめての人の簿記入門塾
2017/01/15 12:19
はじめての人の簿記入門塾
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
簿記3級の通信講座の補助として、よく活躍してくれた。
講義でつまづいたら、また開こうと思う。
これだけでは良くわからない点も多いし。

ユービック
2016/11/14 09:42
ユービック
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
めちゃくちゃおもしろかった!
めちゃくちゃおもしろかった!!
めちゃくちゃおもしろかった!!!
すごいっ。
クライマックスから読後の現在、私の身体状況は「頭がクラクラして目の周りがピクピクして指先が痺れている」。
体の様子はまるで過呼吸の時のようだけど、お腹の底から楽しくて、顔はにやにやしっぱなし。
最高!
私があらすじめいたものを書いて、一体何の意味がある?
「わたしはユービックだ。(中略)わたしは<ことば>であり、わたしの名前は決して口にされず、誰も知らない。(中略)わたしはつねに在りつづける。」(p.315)
この部分を引っ張ってくるぐらいしか、私にはできない!!
あー、本当に、おもしろかった!!!興奮!

華竜の宮 上
2016/11/14 09:41
華竜の宮 上
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
魅力的な設定を限界まで削ぎ落とせば「若き外交官が下らない政治家官僚連中と自分の無力に傷つきながらも理想を懸命に追う話」になってしまい、そういうのは好みじゃないので時々だれてしまう私側の残念さが腹立たしい
。つまり、自分がだれてしまうのが腹立たしいくらい、魅力的で作り込んだ舞台設定。
<魚舟・獣舟>の世界設定、ここまで風呂敷広げると思っていなかった!
好き!
長編SFの好み、主人公が自己中心的かバッドエンドばかりに偏ってるし、このくらいちゃんと人間味がある主人公の話も楽しめた方が、人生豊かになるよなぁ…など。

海賊女王 下
2016/11/14 09:35
海賊女王 下
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戦闘だけでなく陰謀と裏切りとスパイ行為とが渦巻く下巻、手に汗握る!と思ったら最後の6ページは泣いた。
最後までイングランドに屈しなかったゲールの女王グローニャの一生。
「イングランドとの闘いは長い」その通りに、長い歴史上ではグローニャは、闘いのなかで散ったアイルランド地方氏族のうちの一人でしかないのかもしれない。
でもそんな一人ひとりに誇りと強い意志と、闘い迷い決めてきた日々があるんだ…。
その一方でイングランドの女王エリザベスの孤独が際立ち、イングランド軸の辛さも苦しい。
夢中で読んだ。

海賊女王 上
2016/11/14 09:33
海賊女王 上
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皆川さんの歴史小説。
今度は16世紀のアイルランド(とイングランド)。
イングランドには屈しないアイルランドの誇りや、裏切りや謀略や…。
海賊業も陸の戦いもさすが皆川さま!な書きっぷりで美しく凄惨でもあり、読む手を途中で止めたくない。
時代的にはイングランドから独立を勝ち取ろうとしたスコットランドのウィリアム・ウォレスの、300年後あたり…ふむふむ。
下巻でアイルランドの女海賊グローニャとイングランドの女王エリザベスはどんな出会いを果たすことになるのだろう…先が気になる気になる。

メタルギアソリッド スネークイーター
2016/11/07 13:33
メタルギアソリッド スネークイーター
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ゲームはしたことがない、伊藤計劃版のメタルギアソリッド4のノベライズを読んですっかりはまった…という流れで大変に楽しみにしてたこれ。
で、素晴しかった!
最初から泣ける気で読んでいたにもかかわらず、想像以上に夢中になった!
そして泣いた。
ゲーム自体本当に丁寧に作り込まれ練り上げられているんだろうなというのがよくわかる…。
うー、すごいっ。
自分は完全にゲーム音痴なのでゲームに仕組まれているらしい小ネタ群を体験できないのが悲しいところ。

鳥少年
2016/11/07 13:28
鳥少年
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70年代・80年代に書かれ、90年代の終わりまで短篇集に収録されていなかった幻想ミステリ作品群…とのこと。
私はここ数冊、皆川作品を休憩本にしてしまい美しい世界に浸りきれないという大失態を犯していたので、今回は念入りに準備したつもり。
作品の世界を存分に味わうためには、読者の姿勢も絶対大事なんだなぁ。
すごくすごく良かった。本当に素敵だった!!
息苦しいくらい溺れた。
(今回の準備は。どうしたって気分を練り上げてから読む夢野久作→谷崎潤一郎の怪奇幻想系作品集で気分を高めて、読む時も部屋の明かりを白熱色に変えて…といったところ。)
狂気と血と痛みに彩られた妖艶で美しい世界が16篇。
その中でも「密室遊戯」の最後の1行の素晴らしさ!
ページをめくったその瞬間に、漂っていた謎や不穏な空気の全てが収束して思わず息を呑んだ。
他には「火焔樹の下で」「血浴み」「魔女」「緑金譜」「滝姫」「沼」が特に好きだった。
2013年の文庫化再編集にあたって書かれた解説(日下三蔵氏)の通りに、『開かせていただき光栄です』で皆川さんの世界を知り『死の泉』で夢中になり『倒立する塔の殺人』で溺れたパターンの“一流の物語作者を発見した新しい読者”(p.330)のうちの一人である私には、本当に夢のように幸せな1冊だった。

瓶詰の地獄 改版
2016/11/07 13:22
瓶詰の地獄 改版
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夢野久作を読むには「本棚にしれっと混ざった状態でしばらく寝かせて、その背中を見慣れた頃に気持ちを練り上げて高揚させていって、そして一気にずぶりと沈むように読みたい」という個人的な様式があって、今回わりと上手くいったように思う。
気持ち悪くて、とても気分が良い。
特に好きなのは『死後の恋』と『支那米の袋』、『一足お先に』だけど、『鉄鎚』『冗談に殺す』のちょっと違和感がある不快なざらつきもクセになる。
また読もう。

Costa d’Eva イヴの肋骨 中川多理人形作品集
2016/11/07 13:03
Costa d’Eva イヴの肋骨 中川多理人形作品集
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皆川博子女史『トマトゲーム』購入に合わせて、中川多理さんの作品集も購入。
『トマトゲーム』表紙の「少年ー鳶」「少年ー黒檀」はもちろん、『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』の表紙の「モノクロームー斑葉(いさは)」も掲載されている。
『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』表紙のお人形、本当に好みだったから、また出会えて本当に嬉しい!
製本がわざと途中までの状態で仕上げてあって、作品集をめくる間ずっと、寒冷紗の薄いざらつきが左手に感じられるのがまたすごく良い。
大切にしよう。

高い城の男
2016/11/07 12:40
高い城の男
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まさに、今欲している言葉が山ほど出てきた。
この本で重要なのは「第二次大戦でドイツと日本が勝っていたとしたら、その時のアメリカは…」という設定自体ではなくて。
・狂気と正気。
・闇の中に生じる光の種子と、その芽吹きによって生じる闇とによって繰り返される、消滅を免れる世界というもの。
・主観的歴史にまつわる、<仏教の文化>と<キリスト教の原罪>という考えについて。
・そして、全ての道が何らかの悪に通じているとしても、一歩一歩選択することでしか結末を左右出来はしないのだということ。
真逆のようで一対のそれらの上で混乱をきたして選択を放棄しようとした私が、今確かに、読むべき本だったのだ。
すごい本だった。
(たとえ、登場人物の日本人がハリウッド風の謎日本人と謎中国人のハイブリッド的だとしても。)

暦物語
2016/11/07 12:37
暦物語
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『暦物語』は、16世紀以来カレンダーの印刷と共に発展した読み物が出自。解説によると、このブレヒトの暦物語は、戦争で荒廃したドイツに贈られたプレゼントのような作品たち、だそう。
17編の物語+詩+小咄集にプラス解説中に詩が一編。
今回のお気に入りは…
物語だと
「アウクスブルクの白墨の輪」
「分不相応な老婦人」
詩だと
「仏陀が語る、燃えている家のたとえ」
「子どもの十字軍 1939年」
「クヤン=ブラクの絨毯織工たちがレーニンを記念する」
「本を読んだ労働者が質問した」
「兄は飛行士だった」
「亡命の途中に生まれた『老子道徳経』の伝説」
解説中の一編
小咄集「コイナーさんの物語」
で、特に「兄は飛行士だった」と解説中の詩は、実際の出来事の名を出さずに、ただ美しかったり悲しかったり…が表現されていて、意味に気付いた時にはっとするところがとても好み。
とても良かった。
解説で紹介されていた岩波文庫のJ.P.ヘーゲル『ドイツ炉辺ばなし集』も読んでみよう~。

アッシャー家の崩壊/黄金虫
2016/11/07 12:30
アッシャー家の崩壊/黄金虫
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短篇7篇と詩2篇の、古典新訳2冊目のエドガー・アラン・ポー。
今回のお気に入りは、詩2篇「アナベル・リー」「大鴉」と短篇が「群集の人」と「黄金虫」。
特に「アナベル・リー」、「大鴉」と「黄金虫」が好き。
だけど、どうにも心に引っかかって気になってしまうのは「ライジーア」。
「ライジーア」の美しい恐怖は“好き”と違う、何か引っかかる良さがあった。

聖餐城
2017/01/15 12:17
聖餐城
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長かったー、すごいボリューム。
でも後がまだまだ残っているのが嬉しいほど夢中になった。
<17世紀前半の三十年戦争を描く歴史小説>だけど、どんどん複雑化する戦況やらその辺の知識ちっとも無くても夢中になれた。
知らなすぎてファンタジーのように読めてしまったのもあるけど。最後のプラハ防衛のあたりは本当にもう、泣くかと…。
アディとイシュアの友情やローゼンミュラー隊の誇りや…アディとイシュアを中心として描かれる世界にどっぷり浸った。
これはすごく好き。