裏花火さんのレビュー一覧
投稿者:裏花火
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2018/10/17 10:14
始めはとても読みづらい。でも後半は一気読みでした。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
映画が賞を取ったという話だけ聞いて、原作本を買ってみました。
映画を見ていないせいか前半1/3は凄く読み辛かったです。
何度も挫折しました。
訳の関係でしょうか、なんだか状況がはっきりとつかめず、象徴的なイメージと登場人物の感情ばかりが描かれ、事態が把握できなかったのです。
そんなわけで買ったはいいものの数ヶ月、消化できない最初の数十ページを何度も読み返す、という状態が続いていたのですが、秋の夜長、ちょっともう少し読み進めようよ!と気合を入れて読み始め……
主人公の女性がギル神に会ってからは、先が気になって気になって、朝方まで時間も忘れて一気に読んでしまいました。
小説としてはストリックランドとイライザの周囲、の2つの側面が主軸となって進みます。
冒頭から最後まで、ストリックランドに大きくページを割いているので、追い詰められていく彼の人間性にも感情移入できて、同情しました。本来はこんな風になりたくなかった、ただ善良な家庭人でありたかった彼が暴力に支配され、暴力で支配することで自我を保とうと必死になる人物像はとても印象的。そうなってしまった原因も徐々に明かされ…。彼の中で、己とギル神との対比は人生の象徴となり、自我を保つための必死の抗いが伝わってきます。
一方イライザは声を持たないが故の汚れなさが印象的で、ドロドロとした周囲から浮き上がった1羽の青い鳥のようです。冒頭のシャワーシーンも、小説だととても美しく、生身の人間のグロテスクさは感じられませんでした。
ストリックランドの妻、レイニーも、イライザの隣人の老画家ジャイルズも、イライザの友人も、ロシアの博士も、きちんとそのバックボーンや状況が示されていくので、始めはバラバラだった状況が、後半からはすべて絡み合う群像劇としての面白さを倍加させていきます。
全員が全員、現状を打破しようと動き出した結果、大きく物語が動き、終局に雪崩れ込む。
後半からはスピード感のある展開のまま、最後まで読み切ることが出来ました。
そして登場人物全員に、それぞれ、希望や救いのあるエンディングが用意されていて作者の温かみを感じました(ロシアの博士だけはもうちょっとなんとかしてあげたかったけど)
ああっ、読み終わった!面白かった…!と思ったのでした。
読んだあとで映画のレビューを見たら、思ったよりも賛否両論だったようで…。
役者イメージも大いに違っていてびっくりしました。
映画は、原作の印象が自分の中で薄れてから見ようかな。
結論:映画見てなくても十分本として面白かったです。ただ前半は我慢しないと読み進められないかもしれません。
(ただ塩分濃度75%は誤訳ではないでしょうか!)
(海水でも塩分濃度は3-4%前後です)
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