姫路ねこ研究所さんのレビュー一覧
投稿者:姫路ねこ研究所

チーズはどこへ消えた?
2020/02/18 16:35
恐れないこと
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・物事を簡潔にとらえ、柔軟な態度で素早く動くこと
・問題を複雑にしすぎないこと。恐ろしいことばかり考えて、我を失ってはいけない
・小さな変化に気づくこと。そうすればやがて訪れる大きな変化にうまく備えることができる
・変化に速く備えること。遅れれば適応できないかもしれない。
・最大の障害は自分自身の中にある。自分が変わらなければ好転しない
・もっと大切なことは、チーズはどこかにある、ということだ
誰もが聞いたことのある、ごく当たり前のこと。ここ最近言われ始めたことでもなく、太古の昔から言われていたこと。でも、そんな当たり前のことがこうやってほんの5年ほど前に書かれ、日本語訳にまでなっている。
本書の特徴は、小人とネズミの寓話と、寓話の内容を登場人物がディスカッションし日常に当てはめる、という構成である。そして、寓話の内容は、我々のここに当てはまりますよ、と親切に書いてくれている。
なんでここまで親切に書いてくれているのだろうか?やっぱり、分かっていても、出来ていないからだろう。しがみつくことで得られる安心感、失う恐怖心、いろいろある。分かっていても、本当に実践できるまでは、何度も繰り返して読んでみることが必要なのかもしれない。

1964年のジャイアント馬場
2020/06/12 11:49
ジャイアント馬場を創ってきたもの
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著者はこれまで様々なプロレスラーについて、特定の年を転機の年として取り上げて来た。ジャイアント馬場にとってのその年は、1964年。
そのあまりにも大きな体でコンプレックスにさいなまれながらも、商家の子息からプロ野球を経験してプロレス入りした馬場。当時の一般社会ならその後の生活には困ったかもしれないが、プロレスの世界ではすべてがプラスに働いた。誰よりも大きな体、ずば抜けた身体能力、そして頭脳。力道山との出逢い、アメリカでの師ともいうべきフレッド・アトキンス、渡米直後のマネージャのグレート東郷、アメリカの一流レスラーたち。温厚で素直な人格、そして非凡な能力を一気に発揮し、馬場は全米でもトップクラスのメインエベンターに成長する。その実力はもはや師力道山も一目置かざるを得なくなり、凱旋帰国を果たした。しかし力道山が絶対者だった日本のプロレス界にはまだまだ彼の居場所はなく、再度渡米。そこで事件が起こる。力道山死去。
日本プロレス界の皇帝の突然の死去は馬場をめぐる太平洋をまたいだ綱引きが始まる。日本プロレスと袂を分かったグレート東郷とフレッド・アトキンスたちは馬場をアメリカで活躍させたい。日本プロレス側は次のエースとして馬場を日本に戻したい。それぞれの思惑が渦巻く中、馬場の立場はここで初めて今までと変わっていた。周りの言うことを聞いて動く人生から、全ての決断を自分で下して周りを動かす人生にスイッチしたということに。それが1964年だった。積みあげて来たものが一気に花が開いた年である。
結局、時の山口組の組長からの電話で帰国することになるのだが、そのあたりは深くは書かれていない。帰国後の活躍は最早語るまでもない。自他ともに認める日本プロレスのエース、全日本プロレス旗揚げ。NWA世界王者戴冠。ハンセンとの出逢いと復活。80年代後半以降の方針転換。
とはいっても、全日本プロレス旗揚げから80年代後半以降の方針転換までの動向については、著者の筆は厳しい。アメリカからたくさんトップレスラーを集めただけのプロレス、チャンピオン日本滞在時に借りたNWA世界王座。”体の大きな者が強い””NWA至上主義”1964年までの馬場のアメリカでの成功体験に裏打ちされた興業は、世間のニーズからも確実にずれていた。いつまでもメインにこだわるその姿勢はジャンボ鶴田という逸材を得ながらもその成長を阻害した。衰えた体と遅い動きは揶揄の対象になっていた。業を煮やした日本テレビの介入も素直に聞き入れなかった。本書には書かれていないが、AWA世界王者鶴田戴冠も”この話は俺にきた話なんだよね”と最初は渋っていたのを周りが必死で説得したようだし、日本中を席巻したカブキブームも潰してしまった。
沈みかかった全日本の再興は、ターザン山本たち外部の意見を受け入れることで始まる。天龍革命、完全決着での三冠統一、超世代軍、四天王プロレス。馬場は前座でファミリー軍団を率いて悪役商会との抗争。もはや馬場を笑う人間はいない。NWA至上主義の呪縛からも完全に解かれた馬場は社長、プロモーターとしても不動の地位をものにし、全日本プロレスは全てのプロレスファンからの支持を受ける様になった。
”馬場正平はひとりの心優しい日本人として生き、そして死んだ”
周囲の意見を素直に聞き入れ続けるとき、馬場はその才を惜しみなく発揮し、飛躍的な成長を遂げる。しかし、自分が絶対者として存在しなければいけないときには迷走する。力道山やアントニオ猪木とは好対照な天才レスラー・ジャイアント馬場を表現するにふさわしい言葉は、優しさなのだろうか?

巨人軍の巨人 馬場正平
2020/06/10 09:01
成功者の下積み時代
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かのジャイアント馬場は読売ジャイアンツのピッチャーだったことはプロレスファンなら周知の事実だろう。どんなプロ野球選手だったのか?といえば、二軍ではそれなりに活躍をしたが、一軍では通用せずにひっそりとプロレスに転向をした、くらいにしか知らない人も多い。では実際にはどうだったのだろう?
本書は馬場正平の生い立ちから始まる。小学生の時から体がどんどん成長を来す。周囲の人たちの心無い言葉や態度は悪意の有無に関わらず、馬場少年の内向きに追いやって行く。ずば抜けた身体能力からの野球との出逢いも足に合うスパイクが入手できず一旦は断念するなど、何かを始める前から挫折に追い込まれていく。それでも馬場少年の能力を見出した周囲の人の奔走もあり、野球部に入部、甲子園出場こそかなわなかったが、読売ジャイアンツから声がかかり、入団する。入団後も二軍では活躍を見せ、身体の大きさも相まって二軍の遠征では欠かせない存在になっていた。そんな中、視力障害が出現。幼少期からの身体の成長も、下垂体腺腫の症状と判明したため、手術となる。当時は生死を分ける大手術。幸運にも後遺症なく退院した馬場は活躍を続けるが肩と肘に故障が発生、自由契約となる。大洋ホエールズと契約を果たすが、寮での大怪我のため、選手生命を棒に振り野球界を去る。その後のプロレスでの活躍は言うまでもない。
体の大きさ故に常に好奇な目にさらされてきた馬場正平。彼がプロ野球、プロレスと自分の道を見つけることが出来たのは、当時の下垂体腺腫切除術を乗り越えた強運もさることながら、中学時代のモルモン教との出逢いではないだろうか?教義を熱心に学ぶことで、自らの中に神を見出す。そして周囲への感謝の念を抱くことができたのではなかろうか?そしてモルモン教はアメリカ起源で指導者は日系アメリカ人。アメリカには体のおおきい人はたくさんいる。彼は日本では巨大だが、アメリカではそこまで大きいわけでもない。信徒の方々が彼の大きさを好奇のまなざしで見ることなく受け入れたのも日米の違いもあるのではなかろうか?
成功とは言い難い馬場選手の野球人生。王長嶋など、彼より才能豊かな選手たちを目の当たりにしたためか、あきらめがついていたようだ。本書の最後に、プロ野球引退直後の馬場正平のインタビュー記事が載っている。アップの顔写真が載っているが、とても晴れやかな笑顔だ。日本プロレスに入門前の記事だとは思うが、その後の大成功を予感させるような表情だ。
神とともにある
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“神は常に私を支え、どんな苦難においても私とともに進み、パワーを与えてくれる”
ブルロープを振り回し、リング上での荒々しいファイトとは裏腹に、敬虔なクリスチャンである彼は常に神とともにある。
“自分を信じろ。例えば自分が怪我をしたとき、怪我をさせたものを許す心を忘れるな”
キリスト教に裏打ちされた彼の人生哲学は、自分を信じること。自分の良心に正直に生きること。それは自分の中にいる神を裏切らない行為でもある。
“約束したこと=ビジネスは、責任を持って最後までやり遂げる”
彼の人生哲学は、そのまま仕事つまりリング上にも表れている。自らが築き上げてきたことに自信を持つ、自分の置かれた立場を冷静にかつ謙虚に見つめ直す、できることをできる範囲で行う。
全日本での扱いがよっぽど気に入っていたのか、プロレス関係者についての記載はほとんどが馬場に関することである。兎に角人間としても、プロモーターとしても敬愛していたようだ。そして永遠のライバルかつ盟友ともいうべき、ブルーザー・ブロディ。キングコングというギミックでチェーンを振り回して入場するなど、リング上でのスタイルはハンセンと似ている。しかし「プロレスはチェスのようなもの」という発言からもわかるように、計算されつくしたファイトを行うレスラー。妥協を許さぬ性格で世界のプロモーターと数々のトラブルを繰り返すユダヤ人のブロディ。共に米国でも知名度が高く、かつ日本でもトップレスラー。大学時代からの知己ということでウマが合ったのか、とても仲が良かったようだ。
人は神とともにある。神とともにある自分を信じよ。自分の良心に恥じない人生を送れ。不沈艦、壊れたダンプカーとも称され、日本中のプロレスファンから敬愛を受けた彼の人生。それは神を信じよ、ということである。

沈黙 改版
2020/05/20 13:58
神とは?
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キリスト教迫害が続く日本で棄教したと噂されるフェレイラ神父。彼の弟子、ロドリゴはその真偽の程を確かめるため、そして日本の信徒を救うべく日本に渡る。地下組織として潜伏しながらも布教活動を続けていたが、ある日当局に日本の貧しい信者たちとともに逮捕される。拷問にかけられ、ロドリゴの目の前で何人も殉教していく。殉教とは強い感動を伴なうもの、と思っていたロドリゴが愕然としたのは、その前後で何も変わらなかったこと。神はなぜ黙っているのか?いったい神とは?神に対する疑いすら抱き、師フェレイラと再会する。変わり果てた姿になったフェレイラ。そしてロドリゴが最後に出した結論は・・・棄教。踏絵を踏むこと。自らのアイデンティティかつ自分の一部たる神を足蹴にする行為で痛みを感じた時、始めて神からの語りを聞く。
「踏むがいい。私はお前たちに踏まれるためこの世に生まれ、お前たちの痛みを分かち合うため十字架を背負ったのだ」
神とは何か?生きとし生きる全てに等しく愛を授ける。それは強きもの、弱きものに等しく授ける。信仰を貫き通して死んでいった人たちにも愛を授ける。彼らは彼等で自分の運命と苦痛を納得して死んでいった。信仰を貫くことが出来ずに己を曲げて生き続ける者たち。彼らは生き続けることで、葛藤を持ち続け、苦痛を持ち続ける。体の痛み、心の痛み、そのすべてを受けとめる。それが神。たとえ神を否定したとしても、その人の中に生き続ける。神を否定した自分自身として、存在を続ける。そして神により、我々の苦痛はいずれ癒され、昇華される。神は我々一人一人の中に存在し、かつ我々自身でもある。神を愛する行為とは、自分自身を愛することに他ならない。そして、それは人を愛することでもある。それがたとえどのような人であっても。
「たとえあの人は沈黙していたとしても、私の今日までの人生があの人について語っていた」

享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」
2020/03/04 10:49
全く知らなかった享徳の乱
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応仁の乱と時を同じくして、鎌倉公方と関東管領が対立。関東を二分する大乱が繰り広げられた。それが享徳の乱。さて、その実態はいかに??
私の高校時代にはまったく習わなかったこの享徳の乱、当時の関東の事情も含めて、発生した背景も分かりやすく書いてくれている。鎌倉公方と関東管領という支配層だけでなく、新田岩松氏という国人衆も取り上げて当時の関東事情も合わせて説明している。
享徳の乱自体は出てくる人物像がよく見えないことや、乱が終わっても既存の価値は大きく変わらなかったことから、何というか、地味。しかし、鎌倉公方がこののち関東の一部の実効支配を果たし、戦国大名の奔りとなったことが本書でよくわかった。研究が進めば、もっと魅力ある分野になるかもしれない。

応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱
2020/03/02 16:17
何というか、地味。
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応仁の乱。室町幕府の形骸化そして戦国時代がここから始まる・・・と歴史の授業では習う。京都の人は、先の戦さ、というと、太平洋戦争ではなく応仁の乱のことを指すらしい。。。
ということを、日本人の多くは知っている。じゃあ、実際にはどんなことがあったのだろうか?そもそも、東軍と西軍、どっちが勝ったのだろうか?
大和国を支配する興福寺や土豪たちの内部抗争から、大和守護畠山家内の家督争いに発展する。そして時の将軍義政、次期将軍候補で弟の義視、管領細川勝元、勝元の舅・山名宗全たちの派遣争いへ。権力者たちの思惑が各地の守護や守護代たちを巻き込み、越前、播磨での紛争にも発展する。その後は京での疱瘡流行をきっかけに、補給路を確保した東軍が有利に傾く。山名宗全・細川勝元の死を経て、最終的には1477年、東軍が勝利する。。。
乱の後も幕府内の争いは続く。将軍職は足利義政の子、義尚→若くして死後に義視の子、義材へと引き継がれる。そして1492年、日野富子らは明応の政変で、堀越公方足利政知の子を義澄をして将軍に擁立。こののち義材側と義澄側、2つの将軍系統の覇権争いとなり、戦国時代が本格的に幕開けをする・・・
というのが流れのようだ。きっかけと終わりがわかりにくく、人の流れが複雑なので、時系列ごとに図示しなければ理解が難しい。そして、応仁の乱にとどまらず、明応の政変まで記載することで、後の戦国時代への流れをつかむことができる。そして、応仁の乱のことをよく知らなかった理由もわかった。
惹きつけるものが少なく、地味なんだわ。始まりは奈良県内そして大阪府東部の小競り合い。当事者の思考は自分の領地や肩書を保持すること、魅力的かつ革新的な人物も不在。大将たちが死んでも終わることなくズルズルと続く。そして何が変わった?何も変わっていない。
ということを、丹念に読んでいけば理解ができる、良書であった。

殺戮の世界史 そして世界大戦を超える惨劇が始まった
2020/01/21 13:30
二〇世紀に流れ続けた血潮と、その上に現代世界が築かれた事実に、私達は改めて直面させられる
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20世紀初頭までにゆっくりと円熟してきた各列強の利害関係の衝突と、その下で抑圧されてきた人々に対する矛盾。科学技術の進歩が加わり、2つの未曾有の大戦争として表面化しただけではなく、戦後処理も大きな混迷を呼んだ。
敗戦国の日独の苦悩はともかく、経済的に疲弊しきった戦勝国の西欧、共産圏の衛生国にならざるを得なかった東欧。地理的に離れた米中ソも戦後の矛盾にさいなまれていた。植民地から独立をきたしたアジア・アフリカも同様だった。
ここに紹介されている国は苦難を乗り切った国だが、そこにはたくさんの人の命が奪われた。偶発的なものだけではなく、ドイツによるユダヤ人、トルコによるアルメニア人に対するジェノサイドも入る。
第一巻同様、各地域・国における出来事を一章完結の形式で書いている。知っている章は簡単に読み飛ばし、知らない章はじっくり読み込むことができる。知っている章にも、世界史や日本史で習わなかったことも書いてあり、読み応えがある。
20世紀の歴史に興味のある人すべてにお勧めできる本だ。

ゆううつ部!
2020/01/18 09:20
鬱病患者が周りにいる人のために
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鬱病。そのつらさは本人にしか分からない。そして、まだまだ分かっていないことがたくさんある。
発症の確認、休養と投薬での治療。ここまではかなりわかってきたようだ。自殺を減らすことはできてきている。
でもまだわかっていないことがある。休養と社会復帰とのせめぎあい。自分自身がどうできるのか?周りは何を期待してどう思っているのか?
本書は回復した人の話から、うつの原因、治療のきっかけ、休養・治療から社会復帰のハードル、回復のカギ、うつで本当につらかったことを聞き出している。
概ね共通しているのが、本当の自分に折り合いをつけられずに、無理に頑張ってしまうので発症してしまうこと。いまの自分の像と、自分のこうありたいという願望との差異に悩み、ハードルになっていること、回復のカギは自分の居場所を見つけることと自分に折り合いをつけること。
人間ならだれにでも起こり得る病気だし、起こった時の自分や周りの負担も大きい。まだまだ分からないことだらけだが、少しずつ、こうやって紐解いていくことで解決していくのだろう。それは個人として鬱を向き合うだけではなく、社会として鬱と向き合うために。

2011年の棚橋弘至と中邑真輔
2020/01/17 16:35
歴史と伝統を作り直した男たち
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「私は躊躇した。棚橋弘至は自分で本が書けるからだ。著書も複数ある。とっさに”棚橋弘至ひとりの本は難しいが、棚橋弘至と中邑真輔ふたりの本なら書けると思う“と返事をした。新日本プロレス再生の主役は、じつは棚橋弘至と中邑真輔のふたりではないかと感じていたからだ」
1976年のアントニオ猪木、1993年の女子プロレス等、過去の記事とインタビューを丹念に読み取り、エポックメイキングな出来事のあった年を中心にプロレス史を書いていった著者。過去の著作と異なっているのは、本人たちへのインタビュー記事の割合が多いことだ。共に現在進行形の人物のためだろうか?今の彼ら自身が過去を語ることで、当時の状況がより鮮やかに描かれる。
「棚橋は思想家であり革命家であり、それゆえに孤独だった」
確固たるビジョンを持ち、自己プロデュース能力に長けた棚橋。その歩んできた道は、理不尽な誹謗中傷や罵倒に耐え抜いてきた厳しい道だった。愚直にプロレスを続けることで、世界を変えた。
一方、デビュー直後から“神の子”と言われ、期待された役割を果たすべく、もがき続けた中邑。ストロング・スタイルの後継者たるべく、IWGP最年少戴冠、総合格闘技での実績を積んできたが、どこか殻を破り切れない。しかしある時、ふと我に返る。
「今こそ、会社が自分に求めるレスラー像を離れ、自分自身に立ち返る時ではないか」棚橋弘至の最大のライバルが、最大の理解者にもなった時だった。総合格闘技の経験、アントニオ猪木との葛藤など、過去の経験全てを昇華させ、中邑真輔でしか作りえないレスラー像を磨き上げる。ゾーンに入った中邑が全世界でブレイクするのに時間はかからなかった。
「戦う姿勢や自分の感情をお客さんに伝えるプロレスは、言葉を超えて世界中の人に届くんです。」
そして今、次世代へのバトンタッチも果たした後も、棚橋弘至は“エース”として新日本プロレスに君臨している。一方中邑はWWEのスーパースターとして、USベルト・ICベルトを戴冠し、世界のプロレスを牽引する存在である。
そんな棚橋ももう43歳、中邑も39歳。彼らはどこに行きつくのだろうか?この先、どこまで行くのだろうか?いや、どんな結末でもいい。彼らが進む道、それ自体が正しい道だ

戦争の世界史 それは大英帝国の凋落から始まった
2020/01/17 16:33
戦間期の欧州史が分かりやすい
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20世紀は2つの世界大戦の前後という区切り方が正しいのかもしれない。本書はその序章、第1次世界大戦後の戦間期から、第二次世界大戦に至るまで、各国の状況を記載している。
帝国の崩壊と多額の賠償に苦しんだドイツ。戦勝国にもかかわらず人的被害、インフラ被害共に大きかったフランス。7つの海を支配する絶頂期から一気に経済的に苦しくなったイギリス。賠償、領土とも何も得ることのなかったイタリア。国際連盟を作るべく、奔走したが、国内の反発や恐慌などで苦しんだアメリカ。ロシア革命で一気に国家が転覆したソ連。
わずか5年の第1次世界大戦のために、全ての常識と枠組みが覆ってしまった。どの国も、国民も得るものがなく、むしろ経済的に困窮していく。各国の政府は国内の矛盾に苦慮し、疲弊していく。そんな中、最も奈落の底につき下ろされたドイツは、あの独裁者を生み出し、新たな秩序を作るべく力を蓄えていくが、他の国は指をくわえてみるしかなかった。各国の問題点を、指導者を上げながら明快に記載していく。そしてあの未曽有の大戦争に突入していく。
発行が1977年であるため、まだ第2次世界大戦の空気が残っているのか?ナチス政権、イタリア・ファシスト政権への記述は辛辣で、事実を元にした記載より著者の感情からの文章が多い。しかし、戦間期の各国の抱えた問題点を、当時の指導者を入れて、時系列とともに明快に記載している。特にフランス、イタリア、スペインの問題を日本語で簡潔に読めるのは、ありがたい。

日本病院史
2019/12/08 21:14
日本の病院の歴史の集大成
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聖徳太子の時代の悲田院、戦国時代の西洋医学の黎明、その後消滅と再興を経る。幕末からの西洋医学への本格的な傾倒、大学や病院の起こり、はたまた赤十字や済生会などの各公的機関の成り立ちもそして現在の医療制度を踏まえての今後の日本の病院の展望まで、簡潔丹念に、しかも読みやすい文章で書いている。
こういった書籍でよくあるのは、どこまでが資料に基づく調査結果なのか、どこまでが著者の意見なのかよくわからず、眉唾ものになってしまうことだ。冒頭に著者自身が”本書の内容は、特に日本医史学会等で学問的に議論が尽くされたものではない”と述べており、著者の一意見である、と正直に述べている。実際、引用がよくわからないところもあるのだが、極力主観を排除する表現で書いてあり、日本の病院の歴史をたどるには格好の教科書にもなる。
本書で日本の病院の成り立ちを学ぶことで、今後の日本の医療制度の構築に寄与であろう。

新日本プロレスV字回復の秘密
2019/12/03 11:34
ビジネスとしての成功
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新日本プロレスのここ数年の業績回復、原動力はなんなのか?
著者の長谷川博一は、プロレス、ロックを中心に著作を発表している。そして、新日本プロレス自体が監修を行っている。つまり、新日本プロレスが、自分で自分の分析を行っている。
本書は2015年に発行された。猪木によって収奪されてつくし、危機的状況に陥った後の業績回復までの経緯、今後のビジョン、現在の新日を引っ張るレスラー像の三部で構成されている。
本書から発せられるのは、ひたすら新日本プロレスへの愛。現実離れした肉体をもつ人間が、人間離れした動きをしてみんなを楽しませることができる。こんなすごいもの、みんなに見せて楽しませてあげたい!レスラー、裏方、経営陣。どうしたら愛する新日本プロレスが盛り上がるか?方法論は異なれど、皆、足並みをそろえて考えていっている。
「プロレスとは闘いであるが暴力ではない。一方的な勝利は寧ろ二流とされ、互いの技量を認め合う信頼感があってこそ、名勝負は生まれていく」
大切なことは、やりたいこと、好きなことをしっかり見据えてやること。ここに尽きるんだろうな。
余談だが、本書は何人かのインタビュー発言も元に記事にしている。その一人が外道である。おそらくは業績回復のキーパーソンにインタビューをしているのだろう。新日監修であることを考えると、外道がマッチメーカーであることをみとめたようなものか。
もう一つ。、何でみんなこんなにも新日本プロレスを愛しているんだ?結局みんな猪木が好きだったんじゃないのか?
猪木が壊した新日本プロレス。再生したのも、実は猪木だったのかもしれない。

流血の魔術最強の演技 すべてのプロレスはショーである
2019/10/27 09:32
新日本プロレスV字回復の礎
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「本当に強い、”いかにも強そう”と思わせる演技力を含めてファンに納得させる力、その力を兼ね備えたエンターテインメント、それが今後のプロレス復活に必要不可欠な条件ではないだろうか」
新日本プロレスが斜陽に入った2001年に本書は出版された。”すべてのプロレス”と名打っているが、内容は当時の新日本プロレスに対するアンチテーゼである。
本書を遡ること2年前の1999年、当時のWWFは株式上場に伴い、プロレスに筋書きがあることを全米にカミングアウトした。
「プロレスは作りものだということを、WWFは堂々と公言したことになる。」
「それが出来たのは、彼らが本当のプロフェッショナルだったからだ。スポーツか芝居かわからん、中途半端なバタバタではなく、完成されたショーを全米の何百万もの人に提供しているのだ。」
それに引き換え、新日本プロレスは
「群雄割拠というよりは、ドングリの背比べ、秀でたものが見当たらず、また秀でる可能性のある若者を引き出そうともしていない。」
「会社がレスラーの引退に寛容なのは実ははっきりした理由がある-プロレスの秘密を世間に暴かれるのが怖いためだ。」
長年近くで仕えてきたアントニオ猪木に対しては
「猪木さんはさも自分がやってきたことを受け継がせるようなポーズで、弟子には全く違う戦いをやらせている。」
と批判する。過去の異種格闘技戦で、ブックがなかったのは、アリ戦とペールワン戦のみだったからである。
しかし、アントニオ猪木に対しては批判というより、むしろ長年つかえてきて驚嘆する記述が多い。
ペールワン戦では
「ふだんリング上で過激な芝居を演じている千両役者の猪木さんが、まさに死の恐怖すら漂う真剣勝負に臨んで勝ったのだ。」
雪の札幌事件も直前に猪木の意志が入ってのこと。おかげで藤原喜明はブレイクを果たした。そして、第1回IWGP決勝の失神事件も、
「これは猪木さんが意外な結末をリアルに演出し、それによってIWGPとホーガンの価値を高めようとする仕掛けだということが分かった。」
引退後の橋本小川戦についても、
「橋本が怖くてそうしたのではなく、ぬるま湯につかった新日本に活を入れ、緊張感を取り戻したい意図だったのだろうとみている。」
例えて言うと、アスワンダム建設前のナイル川の洪水のようなものだ。毎年大被害を出すが、その後肥沃な土地に生まれ変わらせて作物を実らせる、といったことを繰り返してきたのだ。
しかし、それは新日本プロレスの創立者であったこと、1970年代から80年代にかけてだからできたことで、永続できるものではないだろう。新日本プロレスがまた隆盛を誇るにはどうすればいいのか?だからこそ、著者は本書を書くことに踏み切ったのだろう。
本書が出版された時には、新日本プロレス、プロレスメディア、ファンもそっぽを向き、批判も沢山受けていた。しかし、本書でのマッチメーカー時の裏話、新日レスラーを評したことなど、その内容には興味に事欠かず、その記述はプロレス愛に満ちている。
本書が世に出た10年後、新日本プロレスどころかプロレス界全体が本当に危ない状態にまで追い込まれてしまった。新日本プロレスはじめ業界やプロレスメディアは、公式声明として未だにプロレスの筋書きの存在を認めていない。しかし、残った外道、ライガー、中邑真輔、棚橋弘至たちが、新たな親会社ユークス、ブシロードとともに新日本プロレスの構造改革を断行し、業績のV字回復をきたした。その構造改革の根本は、本書のアンチテーゼであったことは間違いない。

自分のアタマで考えよう 知識にだまされない思考の技術
2019/09/13 14:14
”かんがえること”の初心者におすすめ
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自分で考えよう、自分で考えた。でも、ほんとうにそうなのか?誰かのお仕着せの知識を披露しただけではないのか?
じゃあ、考えるってどういうこと?“考えるプロセス”を、筋道立てて書いた本が本書だ。
この手の本によくあったのが心理学的アプローチの学問書。難しい用語を並べて、理解しにくい日本語で書かれてある。あるいは欧米の翻訳書。最近の翻訳書は原文が理解しやすかったり、翻訳文がこなれて読みやすいが、出てくる例が日本人にとって一般的でなかったりする。登場人物も“ボブ”とか“サリー”とかで、どうもしっくり入ってこないこともままある。
本書は日本人の著者が、学問的なアプローチではなく、書いてある。なので、表現も平易で理解しやすい。
“考えるプロセス”自体は、まとまっており、1ページで言い切ってしまえるほどのものである。なので、日頃自分が“考える”と言っていることが、どの部分できちんとできているのか、どの部分で不十分なのか?チェック項目とすることで確認できる。
かつ出てくる例が豊富なので、実際の各チェック項目が、出来ているのかできてないのか、判断がしやすい。
特に考える、ということに自信がない人、お勧めだ。