くらひとさんのレビュー一覧
投稿者:くらひと

しずく
2021/12/11 20:55
前向きになれる短編集
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2人の女性の友情を描く、6つの短編集。
いずれも読んだ後に前向きになれるような心温まるお話。
特に「影」が好きだった。みさきとのやりとりを通じて、他の人が思う自分を演じているのも「自分」と気づくところが素晴らしかった。「変わりたい、と思っている、自分がいるだけ」は秀逸な表現。
「シャワーキャップ」もよかった。雑だけど憎めない母親としっかり者の娘との関係性が、よくある形ではなくてもいいんだと思わせてくれる。「現実は何も解決していないが、それでも」というところは読者にも響き、これぞ小説の醍醐味である。

アイネクライネナハトムジーク
2021/08/21 12:44
心温まる短編集
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恋愛をテーマにした6作の短編集。微妙にいずれも繋がっているが、単独で読んでも面白い。
「メイクアップ」が1番好きでした。あの時必死に踊った自分を否定したくない、という理由がよかった。
やり返さなかった時に同期の佳織が笑みを浮かべていた、というのも素晴らしい描写。過去から1歩踏み出すためにやり返せ!という思いはもちろんあっただろうが、あそこでやらない結衣のこともよく分かっている、ということでしょう。
いろいろな愛を感じる作品でした。

うつくしい人
2021/12/11 20:53
離島のホテルで自分を取り戻す
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他人の目を気にして生きてきた百合と、離島のホテルで出会った、バーテン坂崎と外国人旅行者マティアスとの関わりを描く。
坂崎、マティアスは西加奈子さん得意の一風変わった人物だが、百合が「普通」寄りの感性なので共感しやすい。初見での百合の坂崎に対する評価はかなりリアル。坂崎は結局何者なんだろう?
後半の、マティアスと百合のやりとりがよかった。マティアスを通じて、姉を美しいと思っていたことに気づく展開が素晴らしかった。

スケルトン・キー
2021/11/18 12:35
伏線をじっくり楽しみたい人におすすめ
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児童養護施設で育った錠也が、同じ施設で育ったうどんと再会し、母親の死の真相に気づき、動き始める。
構成がよくできており、もう一度読みたくなる。本の工夫には、五で初めて気がついた。
サイコパスの自覚がある錠也の内面を丁寧に描いていたのが面白かった。
他の金魚がひろわれたときは不幸になっていることを想像するが、いざひろう人が来ると自分をよく見せようとする、という金魚の例が心に残った。

サラバ! 下
2021/10/15 12:59
僕が歩き出す物語
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僕が生まれてから、イラン、大阪、エジプト、東京と過ごす人生と、個性的な家族との関わりをえがく。
幼稚園時代など、この描写いる?というくらい詳細に書いているところが多々あるが、最後まで読むと、僕の人生の物語として必要だったのだと思い直すことができた。
30歳以降の展開は中々読むのが辛かった。須玖や鴻上との再会や澄江の存在など、前を向けるポイントはいくつもあったけど、その瞬間には気づけずどんどん落ちていく。
復活のきっかけになるのはこれまで振り回されていた姉というのがよかった。姉を含め家族の不安定さが、それぞれまとまっていくラストが爽快だった。
矢田のおばちゃんが教祖のようになっていく様子は淡々としていて、リアルに感じて面白かった。

星の子
2020/08/15 23:46
家族の幸せとは何か
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宗教にはまってしまった家族のお話。
両親が完全に悪だ、とは私は言い切れないため、宗教にのめり込んでいく様は読んでいて暗い気持ちになるが、なべちゃんらちひろの周りの「普通の」子の反応には救いがあった。
物語の最後、ちひろが両親と中々会えず不安になって、ようやく会えて一緒に流れ星を見ようとする場面は、ちひろの心境とリンクして、臨場感があった。
自分の家族はおかしいのかもと思い始めるが、春ちゃんの彼氏が言っていたように、「自分の好きな人が信じていることを信じたい」と、最後は両親の信じる奇跡を待つことに決めた、ということだろう。
どうか、「金星のめぐみ」を作っている人も、その効能を本気で信じていて欲しいと思った。

ふる
2022/01/29 12:08
人との関わりで一歩踏み出す
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28歳の池井戸花しすはICレコーダーで日々の会話を記録して、寝る前に聞き返すのが日課である。他人の気分を害さないように気をつかって生きている花しすは、過去と現実を通して気持ちに変化が現れ始める。
現実と過去、そして花しすが記録した音声が入り混じる不思議な構成。
一緒に暮らすさなえとの会話は録音しない理由が興味深かった。花しすが人との関わりについて一歩踏み出す様子に元気をもらえた。

鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまで
2022/01/29 12:07
超能力を描く
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超能力を持つ3人の女性を描く3つの中編。
能力を失いつつある人や今はなくなってしまった人など展開はいずれも異なるが、超能力によるメリットと超能力を持ってしまった苦悩など心理描写が巧みである。
未来予知能力者だった智子を描く「朽ちてゆくまで」が特に好きだった。両親の愛を知って、力を幸せな方向に使ってほしいと思う。

炎上する君
2022/01/29 12:05
不思議な短編集
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かなり不思議なファンタジーの8つの短編集。
いずれも独特な世界観のお話。
よくわからないお話もあるが、巻末の又吉さんの解説でなるほどと思わされたりする。
「ある風船の落下」が好きだった。「裏切られて傷ついても、人間を信じて生きる」という言葉で、前向きになれた。

満願
2022/01/10 13:25
短編集
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6つの短編集。
いずれも読みやすく、論理的にも原因などをしっかり説明している、質の高いミステリー。
「関守」と表題作「満願」が特によかった。
「関守」は超常現象っぽい雰囲気を出しつつ、着実に謎が明らかになっていく構成がよかった。タイトルの意味も秀逸。
「満願」は主人公と奥さんの関係を丁寧に描きつつ、ラストで明かされる奥さんの真意はゾッとした。

舞台
2022/01/10 13:24
自意識過剰さに共感
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初めての一人旅でニューヨークに来た29歳の葉太は、初日に荷物を盗まれてしまう。恥ずかしい思いをしたくない葉太は、領事館にすぐには行けず、ほぼ無一文の状態で滞在を続けることにする。
葉太の自意識過剰さは異常に思えるが、根っこの部分では共感できることが多かった。
滞在を続ける中で、葉太が極限状態になっていく様の描写は西加奈子さんの真骨頂である。
「地球の歩き方」を見つけて一人旅に出かけようと決心する理由から、葉太の周りで亡霊が現れる意味、自分を演じることが思いやりもあるのでは、という気づきの一連の流れが素晴らしかった。

龍は眠る 改版
2021/12/31 12:08
推理を積み上げていく
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超能力をもつという少年慎司と出会った週刊記者の高坂。同じ力をもつという直也に慎司の力はトリックだと言われ、その力が本当かどうかを調査し始める。一方、高坂に謎の脅迫が行われるようになり、慎司や直也を巻き込んだ事件が発生する。
慎司の力が本当なのかを調査していく様子が非常に丁寧。
最後の事件は犯人の意図が全く分からず、予想がつかない展開だった。ここも、高坂の少しずつ推理を積み上げていく感じがよかった。

未来
2021/12/31 12:07
未来を願いたくなるラスト
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章子は、夫の良太を亡くし人形のようになってしまった母親の文乃を支えながら生きていた。そんな中、20年後の自分から手紙をもらい、自分の未来が幸せであると伝えられる。半信半疑ながらも信じたいと思った章子は、未来の自分に返事を書き始める。
章子の章は、手紙という形式をとっているからか、展開が冗長に感じる部分が多かった。また、自分から自分に宛てた手紙とは思えない、明らかに読者に向けた描写をしているところも多く、入り込めなかった。
全体を通して文乃の扱いがよく分からなかった。場面ごとに都合のいいように動かされている感じ。いざという時だけ力を発揮するということか。
篠宮先生のエピソードがよかった。物語の象徴であるドリームランドで自分の未来を想像して、生きる力を取り戻す過程が素晴らしかった。
章子と亜里沙の未来を願いたくなるラストだった。

せんせい。
2021/12/25 01:41
先生にまつわる6つの短編集
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先生にまつわる6つの短編集。
色々な人々の後悔ややり直したい気持ちを丁寧に描く。
いずれも心温まる優しいお話。先生も1人の人間で、失敗をしながらも進んでいくということを実感できる。
「気をつけ、礼」は重松清の実話?
「泣くな赤鬼」が1番好きだった。
「ぶざまなところも、みっともないところも、すべて見届けられるのは親以外では教師しかいない」というセリフは先生としての矜持を感じられた。
「泣くな、赤鬼」と声をかけるシーンもよかった。

i
2021/12/25 01:29
自分を取り戻すお話
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シリアで生まれ、アメリカ人の父親と日本人の母親に育てられたワイルド曽田アイの人生を描く。自分が恵まれていることに罪悪感を感じ続けながら生きてきたアイが、友人のミナと写真家のユウとの関わりで、自分を取り戻していく。
出会ってからずっとかっこよかったミナだったので、メールで、アイと初めて話した時の心情は意外だった。思っていた以上にミナもアイに救われていたことを知って嬉しくなった。
また、子どものことで謝ることはない、という文章はハッとした。自分はその立場だったら謝ってしまう気がするが、確かに自分のからだは自分のものだ。そこから繋がるラストシーンが素晴らしかった。