わこさんのレビュー一覧
投稿者:わこ
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紙の本一人称単数
2023/05/14 03:00
そこにあるのは真実
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村上春樹の好きと追憶があふれている作品。
フィクションでもノンフィクションでもない、ただそこにある彼の真実が、短編集ならではの軽やかさとしめやかさで描かれている。
個人的に印象に残っているのは、「石のまくらに」と「謝肉祭(Carnaval)」。どちらも忘れられない女性の話で、一瞬の関わりが永遠を残している。
特に後者には「幸福というのはあくまで相対的なものなのよ。違う?」というセリフがある。幸せの本質が的確に表現されていて、わたしは首がもげるほどうなずいてしまった。村上春樹からは、世界の仕組みについて教えてもらうことが多々ある。
ところで、タイトルにもなっている「一人称単数」という短編が、この本のラストにおさめられているが、恥ずかしながらわたしはこの話をうまく理解することができなかった。
でも読み終わったとき、理解できないという読み方があってもいいんじゃないかとふとおもった。わたしは村上春樹の言葉を追ってひとつの世界を頭の中に立ち上げられたし、色も匂いも身体に感じた。頭で理解することがさほど重要ではないと、なんとなく、でも、強烈にそう思えたのである。
昨日の喫茶店での読書会に、わたしはこの本を持っていった。村上春樹の短編は、喫茶店との相性がいい。ひとを待つ時間、暇をつぶす時間、珈琲の香りに酔う時間、村上春樹の言葉は、一瞬を永遠にしてくれる気がする。
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