テツ2さんのレビュー一覧
投稿者:テツ2
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2024/02/13 18:41
原作読まずに映画観てきました:静謐な、解答を押しつけない寄り添いの物語
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【これは原作本の感想ではなく、映画の感想です。ご理解の上お読みください】
観てきました。もしこの作品に何らかの「答え」や「解決策」を求めて観に行った人は大きな戸惑いの中に投げ込まれたような感覚を覚える作品ではないだろうか、というのが第1印象でした。前半部では上白石さんの患うPMSについて、そして松村さんの患うパニック障害について、本当に繊細に、セリフを意識的に控えた含蓄のある表現で語っていきます。そして、主人公の2人が、まるでDNA遺伝子の二重らせんのようにからみ合いつつも決して交叉しない、独特の距離感をもって関わり合っていく姿が丹念に、そしてていねいに描かれていきます。この丹念な描写が実に前半部から、後半のラスト直前まで意図的に、意識的に続けられます。これは明らかに、映画監督の狙った構成だと思われます。原作本を読んでいないので、これが原作者の狙いなのか、映画監督の狙いなのかは私にはよくわかりませんが、たぶん、狙いの意図は「明らかな解答や、とってつけたような展開や、カタルシスはこの物語には必要ない」ということなのでしょう。普通の映画などでは、「何か」を契機に物語が進展して、カタルシスを伴う「結論」が提示されて、観客は溜飲を下げることになるわけですが、この映画では「結論」や「解答」は一切提示されません。ただし、ラストの最終盤で、移動式プラネタリウムの場面において、「壮大な宇宙の中では、星さえも(北極星がいずれはちがう星に置き換わってしまうように)変化していく・変化せざるを得ないという現実・事実」が示され、「明けない夜がないように、変わらない現実もない」ということだけが、ぽつんとランプの灯りのように提示されるだけです。きっと、原作者あるいは映画監督がこの映画で言いたかったことは、パニック障害やPMSのつらさ・苦しみを壮大な宇宙の中の星々に例えた時、きっと、それぞれの人々の中に、変わっていく「何か」がきっとあるから、大丈夫、希望をもっていこうよ、という、寄り添いの気持ち、なのではないか、と思ったのです。病気の苦しみの真っ最中では、そんなことに思いが至ることは決してありません(映画でも、そのように表現されています)ただ、ちょっとだけ引いた位置から、俯瞰してちっぽけな自分の小ささに自ら気づけた時、「その人なりの苦しみに対する考え方」というものが、本当に自然に、生まれてくるのではないだろうか?監督や原作者は、そう言いたいのではないのかなあ、と感じたのです。私はジャズをよく聴くので、この映画を観て、リッチー・バイラークの「Sunday Song」そのものの世界観だなと感心してしまいました。静謐で、結論を押しつけず、解釈を聴いた人々にゆだねるある種の優しさ・寄り添う気持ち。そんなものに包まれて、映画館を後にしてきました。
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