dakaraさんのレビュー一覧
投稿者:dakara
知的生産の技術
2000/10/13 16:43
古さを感じさせない1冊
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
言わずと知れた「京大式カード」による知的生産法を世に知らしめた1冊です。いま手元にあるこの本を見ると、初版第1刷が1969年になっています。いまから30年以上も前ということになります。確かにいまの技術から見ると「笑える」ような話も出ていますが(カナモジ・タイプライターのはなしなど)、決して古さを感じない、すごい本です。学校では知識の教育はするけれども、じゃあ知識をいかにして身につけるか、という「ハウツー」のことは一切教えてくれない、という問題意識から本書はスタートします。そしておなじみの京大式カードやこざね法などの解説があります。また読書や手紙、文章の書き方など知的生産にかかわるあらゆることの方法が綴られています。大学時代にはじめて出会いましたが、いまでも愛読書で1年に1回は目を通すようにしています。そして毎回、新しい発見がある本です。
外国語上達法
2001/07/13 12:25
外国語学習のための正統派テキスト
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「こうやればTOEIC900点」とか、「こうして英語を克服した」といったハウツー本が書店にはたくさんあります。しかし、この本は、そのようなハウツー本とは違い、外国語上達のための即効的な特効薬(2週間で英会話ができる、といったような)とはなりえませんが、外国語の学習者に興味深い視点を提供してくれる、優れた本です。
この本がおもしろい理由をまとめると、次のようになると思います
一。「外国語上達法」というだけあって、英語に限定していないこと。あらゆる言語に使える方法論や「コツ」を紹介している。
二。著者は言語学の専門家であるため、単なるノウハウを紹介するのではなく、科学的な裏付けのある、持論を論理的に展開していること。とりわけ、「文法」のおもしろさについて、うまく説明している。
三。辞書選び、教師選び、学習書選びといった、普通のテキストがあまり触れない内容について、ページを割いている。
といったところでしょうか。200ページ強の小冊子ですが、外国語学習に関する考え方の転換をはかることができます。特に、ハウツー本に飽きてしまったひとにはおすすめできる一冊です。
競争の戦略 新訂
2001/01/16 18:04
競争戦略論の古典
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
競争戦略といえばこの人、というポーターによる最初の戦略論の翻訳です。経営戦略論やマーケティング論を学ぶときには必読とされている文献です。
いま戦略論の世界では知識や資源が注目されており、ポーターのような「業界の構造分析」は少し時代遅れの感じがしますが、それでも彼のフレームワークは、理論的な美しさと実践性を兼ねそろえているという点で驚くべきものです。
本書では、「業界の構造分析」と非常に有名な、差別化、コスト・リーダーシップ、集中という3つの基本戦略も構造分析との絡みで議論されています。
分厚いのでなかなか手を出しにくい本ですが、それでも時間のあるときに熟読したい本です。
真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか
2001/02/15 07:54
顧客満足を考える上で、必読です
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この本は、瀕死の状態にあったスカンジナビア航空を変革し、業績を飛躍的に向上させた社長自らが書いた経営書です。
タイトルになっている「真実の瞬間」とは、第一線の現場で働く従業員が行う15秒間の接客が企業の成否を左右する、という意味がこめられた言葉です。
本書には、官僚的な体質であった航空会社が、新しい社長のリーダーシップのもとで、いかにお客様本位の企業体質をつくっていったのか、そのプロセスが大変おもしろく描かれています。本書の随所に挿入されている同社のエピソードは、思わず「ニヤリ」としてしまうほど、いい話です。
日本語も読みやすいです。薄い本ですが、学ぶことは多いです。
組織の盛衰 何が企業の命運を決めるのか
2001/02/15 07:41
活きた組織論の教科書
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者が20年にわたって行ってきた組織論の研究をまとめたものだそうです。確かに、非常に優れた本であると思います。
本書の問題意識は「戦後、日本に繁栄をもたらした官僚組織や経営組織を蝕んでいるものはなにか」ということです。そのような観点から、日本的組織の現状を見なおし、そこから考えられる処方箋を書いています。
本書のもとになったハードカバーのほうは、1993年に出版されたそうですが、むしろ21世紀を迎えた、今こそ読むべき本だと思います。日本的組織の多くに、未曾有の閉塞感が漂っているいま、本書から学ぶことは非常に多いような気がします。
経営に終わりはない
2001/01/23 14:58
世界のホンダを作ったもう一人の男
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本田宗一郎とコンビを組んで、世界のホンダをつくった藤沢武夫自らの手による体験的経営理論です。
小さな企業が世界的な大企業に発展していくプロセスには、名経営者とともに、女房役のような有能なサポート役が重要な役割を果たします。松下電器の高橋荒太郎などは、その例でしょう。そのような女房役のことに関してはあまり多くのことが語られていません。松下幸之助や本田宗一郎に関する著作は多いのに、高橋荒太郎や本書の著者である藤沢武夫に関しては多くのことがいわれてきたわけではありません。
本書は、本田宗一郎の女房役であった藤沢武夫自身によるものです。本田宗一郎は技術のことをよくわかっていたといわれていますが、経理や経営に心眼のある藤沢武夫がいなかったら、本田技研はここまで大きな会社にはなっていなかったでしょう。
本書には、本田と藤沢が衝突しながらも、「よい会社をつくっていこう」という夢を失わず、世界的な優良企業に至るプロセスが、一人称でいきいきと描かれています。特に、最後の本田と藤沢の引退の場面は、感動的ですらあります。
ちょっとした小説よりずっとおもしろいです。
マネジャーの仕事
2000/11/14 00:40
マネジャーは一体何をしているのか?
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
非常に興味深い本です。本書の基本的な問題意識は、「マネジャーは一体何をしているのか」という素朴なものです。普通は、部下を動機づけるとか、計画を立てるなどといった答えが思い浮かびます。しかし、著者はマネジャーの実際の行動を観察することで、分刻みで電話や会議に追われているマネジャーの本当の姿を明らかにしています。経営学において観察という手法をとったという点でも面白いし、無味乾燥な理論ではなくて、実際にマネジャーが企業で何をしているのかを明らかにしたという2つの意味で非常に優れた本だと思います。
液晶ディスプレイの技術革新史 行為連鎖システムとしての技術
2000/10/10 19:49
日本のイノベーション・システムを考える上で必読の1冊
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
非常に高価な本なのですが、大枚をはたいた甲斐がありました。本文、付録、参考文献をあわせて600ページを超える本ですが、文章は明快なので、読むのにそれほど苦労はいりません。もちろん、根気は必要でしょうが(僕も随分かかりました)。タイトルにあるように、本書の核心は第2部に詳細に記述されている日本の液晶ディスプレイ産業の事例なのでしょうが、僕はむしろ第1部と第3部で述べられている日本企業の技術革新に関するところを興味深く読むことができました。日本企業の技術革新に関しては、カイゼンに代表されるインクリメンタルなイノベーションは得意だが、コンピュータに代表されるような旧技術を破壊するようなラディカルなイノベーションは苦手であるというようなステレオタイプ化された主張がよくなされます。しかし、それは非常に偏った見方であり、本書はそのようなドグマからわれわれを解き放ってくれます。筆者の学問に対するひたむきさ、真摯さには本当に頭が下がります。理論の香りが強く、ビジネス書ではないので、この本を読んだからといって、明日からの自分の行動が変わるわけではありませんが、社会現象を見るための考え方のようなものが自然と伝わってくる本です。
論文の書き方マニュアル ステップ式リサーチ戦略のすすめ
2000/10/08 22:49
論文を書くための必須本
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
世の中には「論文の書き方」というタイトルの本がたくさんありますが、どれも実際に書く上であまり参考になったためしがありません。論文の書き方のはずなのに、「が」の使い方に多くのページを割いていたり、精神論になっているものなど、あまり「役に立つ」ものではなかったと思います。本書は、いま市販されている論文の書き方系の本の中ではもっとも優れたものだと思います。どうやってテーマを選ぶか、トピックを切り出すか、文献を選ぶか、またそこから得られた情報はいかに整理するか、いかに論文を書くかについて事細かに記述されています。そういう意味では、確かに『論文の書き方マニュアル』という本なのですが、それだけではなく、本書を読むことで、研究ってこんなにわくわくするものなのかということを感じることができます。卒論執筆に追われている大学4年生はもちろん、レポートを書かなくてはいけない企業人にもオススメの1冊です。
カレーライスと日本人
2001/04/12 17:36
カレーの奥深さを実感
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「カレー」の発祥の地はインドであることはよく知られています。しかし、われわれがふだん「カレーライス」として食べるものは、インドのカレーとは全く異なっています。もはや日本食とでもいえそうな「カレー」ですが、そのカレーにまつわる「なぜ」を徹底的に検証しようというのがこの本です。
「日本人はなぜカレーが好きなのか」、「カレーライスかライスカレーか」、「ラーメンとカレー」など、見出しを見ているだけでも、興味がそそられますが、本書の中身はその期待を裏切りません。読んでいて、「なるほど」、「びっくり」と何度感じたか知れません。
とにかく、おもしろい本です。また、筆者のカレーに対する執念がよく伝わってきます。カレーの奥深さをよく実感することができますし、あなたのカレーに対する見方が変わることは間違いありません。
小倉昌男経営学
2001/02/15 05:29
「持論」の経営学
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
クロネコヤマトといえば、今や日本でシェアナンバーワンの宅配便業者。本書は、そのクロネコヤマトを長年にわたり率いてきた著者が自らの経営に対する考え方や思いをまとめたものです。
著者は、以下のような言葉を用いてはいませんが、マネジメント、リーダーシップ、ロジスティックス、労務管理などについて、本当に多くのことが語られています。それは、小倉氏が長年の経験を経て得たものであり、決して「科学的」なわけではありませんが、体系化されており,誰にでも納得できるという意味で、「経営学」と呼べるものです。
このような経営者自らによる著書は本当にたくさん出版されています。そのなかには、自らの手柄や自慢話ばかりで、何も得ることのできない本が少なくありません。経営者が持論を披露する上で重要なのは、自らの考え方を「絶対視」せずに、「相対化」できているかどうかにかかっていると思います。そういう意味で、小倉氏は、常に時代の流れに応じて自らの考え方を相対化してきたのではないかと思います。そのあたりも読み解くことができて、本当にすごい本です。
コア・コンピタンス経営 未来への競争戦略
2001/02/07 20:46
資源ベースの戦略論
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
いま、経営戦略論の世界では、ポーターの業界分析のような外部環境の分析という問題以上に、組織内部の資源や資産(たとえば、ナレッジ、組織ルーティンなど)に注目するアプローチが注目を集めています。本書は、そのような資源に注目する戦略論のきっかけとなった本であり、「コア・コンピタンス」という多くの人が知っているコンセプトを産んだ本です。
コア・コンピタンスとは、企業にとっての中核能力を指します。他者には真似できない自社独自の強さです。
アメリカの経営書にもかかわらず、日本企業の事例が本当に多く登場します。日本では、いま安易なリストラや経営手法が流行していますが、長期的な視野で自社の強みを認識し、それを育てよという本書の示唆は、当然のことのようで、意外と忘れられていることかもしれません。
味わい深い1冊です。
創られた伝統
2001/02/02 13:25
伝統は創られる
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「伝統」というと、古の時代からいままで脈々と受け継がれてきたものであるとわれわれは考えがちです。しかし、本書のタイトル(「創られた伝統」)にあるように、世間で「伝統」と考えられているものの多くが、それほど古いわけではなく、しかも人為的に作り出されたものであるのだと本書は主張しています。
本書では、イギリスでの具体的な事例(英国王室の儀式、バグパイプなど)を挙げながら、いかに伝統が創られるかについて、大変興味深い考えを提示しています。
日本でも井上章一さんの『つくられた桂離宮神話』のような、「神話が人為的に創られた」ことを示すユニークな本があります。この本と合わせて読むと面白いかもしれません。
火星からの侵入 パニックの社会心理学
2001/01/21 14:46
SFではありません
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「火星からの侵入」というタイトルだけを見ると、まるでSFのような感じがしますが、そうではありません。サブタイトルにあるように、「パニックの社会心理学」の文献です。
本書が扱っているのは、1938年にアメリカのCBSのラジオ・ドラマの中で「火星人がアメリカに侵略」という内容を流したことから始まります。この内容を、多くの人が本当だと信じて、パニックが起きたというケースです。
本当にこんなことが起こり得るのかと思いました。しかし、いくら60年以上前のこととはいえ、その当時よりはるかに情報の伝達が容易かつ迅速になった現代にもきっと何らかの示唆を得ることはできるはずです。
認知心理学 5 学習と発達
2001/01/14 23:00
学習と発達に関する最新の理論を紹介
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人はどのように知識を獲得するのか、という学習と発達の問題は認知心理学で大いなる研究テーマになっています。
本書は、「学習と発達」に関する国内外の最新研究を踏まえた上で、認知心理学の初心者にも丁寧かつわかりやすくそれらを紹介してくれる非常によい教科書です。実験室実験をベースにした従来研究はもちろん、日常研究での人間の有能さに注目した状況的認知アプローチなどの最新研究も踏まえています。
また、丁寧な文献解題やジャーナル、学会案内など初心者にとっては非常に有益な1冊に仕上がっています。