由良 博英さんのレビュー一覧
投稿者:由良 博英
紙の本
紙の本ワルの知恵本 マジメすぎるあなたに贈る世渡りの極意
2005/03/04 05:58
不器用なマジメ人間でよろしい。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
警戒すべき相手の言動を考察する、最初の章に興味を惹かれたが、転じて次章の陳腐な社交術の勧めが哀しい。そんな小手先の諂いを為す者にこそ、心許せまい。さらに章を変え、報復の手段として相手を鬱病に追い込む法、その妻を誘惑する法を示すなど、叙述は醜悪さを越え滑稽さを増す。ワルの世渡り術であれ、極意と呼ぶには些か浅薄な内容だ。本書がベストセラーというのも、嘆かわしい世相と思う。不器用なマジメ人間でよろしい。
紙の本
紙の本頭がよくなるクラシック入門
2005/03/18 02:56
「頭が悪い」私は、この著の偏見ぶりを危ぶむ。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
普段は謙虚な性格であると前置きながら、自らの頭のいいのはクラシック音楽を聴いてきたためと書き出す序から、これが「頭がいい人」の話し方なのかと驚く。ソナタ形式を知ることと論理構成能力との関係など、牽強付会、皮相なアナロジの数々にも失笑。芸術がこういうモチベーションから享受されるようになれば、その国の民度も末期的かもしれない。謙虚さを欠く好楽家のひとりにして「頭が悪い」私は、この著の偏見ぶりを危ぶむ。
紙の本
紙の本爆笑問題の戦争論 日本史原論
2006/08/02 17:39
「戦前の日本はすべて悪」の従来ある史観に沿ったもの。
20人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
日清戦争から太平洋戦争までの日本の戦史を、爆笑問題の太田さんが漫才の体裁でコミカルにレクチュアしたもの。「戦前の日本はすべて悪」の従来ある史観に沿ったもので、朝鮮半島の地政学上の意味を理解せず、日清、日露の戦争まで日本を詰るのには閉口した。また、太平洋戦争では軍人の極悪非道ぶりを書き立てる。日本の美談はここには採り上げられない。爆笑問題の著というので斬新な視点を期待したが「おまえもか」という印象。
紙の本
紙の本瀬島竜三日本の証言 新・平成日本のよふけスペシャル
2003/02/27 18:20
大東亜戦争時に陸軍参謀にあった瀬島龍三氏の語り下ろし。
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大東亜戦争時に陸軍参謀にあった瀬島龍三氏の語り下ろし。戦時中の生き証人として興味を惹く話はあるが、己の名の知られていること、人望の厚さをそれとなく匂わさずにはいられない様子に鼻白む。戦後、自衛隊を避け伊藤忠に入ったくだりも「戦場で散った兵士やその遺族も思いは同じであろう」と悲しく感じた。シベリア抑留死者への慰霊塔を建てた際に、天皇の勅使を畏れ多くて拝辞した逸話なども、敢えて述べる真意を訝しく思う。
紙の本
紙の本人生ノート
2007/11/03 09:38
歌手の美輪明宏さんが綴った人生論。
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
歌手の美輪明宏さんが綴った人生論。主に若い層を対象にした読物のようである。「運をよくするには(中略)風水とか気学とかあります」と占いの類に信用をおいたり、「ショパン弾きで、女の人で世界的なレベルの人ってまずいません」と事実無根の思い込みがあったりするのに閉口する。様々な人間を幾つかのステレオタイプに分類して、世の人間をそこに収斂しておいて説いていく論調も少々気になるが、読物としてはおもしろいと思う。
紙の本
紙の本反音楽史 さらば、ベートーヴェン
2004/03/09 15:54
『反音楽』の書となる懸念。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まず、著者の批判するところのドイツ中心の音楽史なるものが、今日の好楽家の間の風潮としてあるのかという疑問を覚える。古典派以前の音楽界にあってのイタリア人の勢力、様式、形式にかかる先進性などは、むしろ一般常識として知られる史実だ。また、著者はそこにおいて、作品の今日にまで通じる内容については捨象し、同時代の隆盛でドイツの後進性を語る一方で、モーツァルトについては、まず、著者個人の美意識に照らしながら、ハイドンの古典派の形式への功績を讃える史家の弁を退け、擁護にまわるという立場に転換する。ベートーヴェンについては、作品の質をその倣岸な生活態度に重ねて貶める。しかし、モーツァルトの不遜さには同情的だ。また、文筆家でもあったシューマンを(若い時期に書かれたピアノ曲と、後のピアノ協奏曲のみ著者は評価している)ドイツ中心の音楽史の喧伝者と説く。その後のロマン派については、一切、なで斬りにされている。全体をとおして感じたことは、現代音楽も含め「自分に理解されない音楽が、一般的に評価されている風潮は、どこかおかしい」というスタンスで、著者に都合よく打ち立てられた「石井・音楽史観」であるということ。「反音楽史」との書名は、些か大仰であろう。従来の固定観念を崩したいという、気負いから著されたものであろうとは思う。しかし、音楽に親しみはじめて間もない読者には、自由な鑑賞をかえって妨げる『反音楽』の書とならないかという懸念を、私はむしろ強く覚えた。
紙の本
紙の本本はこうして選ぶ買う
2004/01/28 03:09
書物を愛する気持ちが強く伝わってくる。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
教訓的な読書論を遠ざけ、いかに本を選ぶかという実学的な話題を中心に展開したもの。その意味から、このごろ流行りの齋藤孝氏の著作に、谷沢さんらしい辛辣な批判が加えられている。文庫、新書などの書物の形態の意味するもの、辞書類の評価、史書の信頼性など、話題は多岐に渡る。古本屋めぐりの章は、著者の私的な体験談に傾きすぎたきらいもあり、若干冗漫さを覚えないでもなかったが、書物を愛する気持ちは強く伝わってきた。
紙の本
紙の本国民の教育
2003/07/28 04:44
戦後の教育行政、歴史教育等のありかたへの問題提起に関しては、大いに共感するところがあった。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
戦後の教育行政、歴史教育等のありかたへの問題提起に関しては、大いに共感するところがあった。ただし、細かい部分において、著者の個人的体験による予断を読者に与えかねない表現のある点も、若干気になる(例:少年時に芥川を読んでいた知人が長じて痴漢になった話など)。また、古い著作から引き出した最後の幾つかの章には、既に時代にそぐわない内容が見られ蛇足の憾みも否めず、書物の構成を弱めたことは惜しかった。
紙の本
紙の本口語訳古事記 完全版
2002/11/29 04:21
平明な口語訳に努めた姿勢そのものは、評価できると思う。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
平明な口語訳に努めた姿勢そのものは、評価できると思う。古老の語り部に擬した「じゃった」「のう」という文体も、親しみやすさの効果をねらったものだろうが、しかし、これはあまりにも俗な表現に傾きすぎだ、と私は感じた。村山富市・元首相の談話を聞いているようで、どうにもいただけない。資料は豊富であるが、価格は一般書としては高く、サイズも大きすぎると思う。広く「古事記」を親しませる趣旨であれば、少し憾みが残る。
紙の本
紙の本将の器参謀の器 あなたはどちらの“才覚”を持っているか
2003/07/28 04:38
将たる者、あるいは参謀たる者の心がまえを説いている。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
戦国時代の武将から明治維新の志士までの逸話を取りあげながら、将たる者、あるいは参謀たる者の心がまえを説いている。しかし、著者によって箇条書きにまとめられたその文言は、紋切り型な啓発標語の類にとどまっており、いささか具体性に欠け、実感として訴えかけるものは少ないようだ。けれども、その逸話自体におもしろいものがあるので、まずそれらを純粋に楽しむだけでも読む価値はあると思う。文章は平明で読みやすい。
紙の本
紙の本わが朝鮮総連の罪と罰
2003/01/03 03:34
朝鮮総連の元幹部による告発本。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
朝鮮総連の元幹部による告発本。「総連の活動で、ただの一つでも同胞の役に立っていることがあるだろうか」という自責の念から書かれたものらしいが、権力抗争に敗れた無念の手伝っているようすも強くうかがえる。少なくとも、書名の「罪」とは日本に対してのものではない。日本海にある北朝鮮工作船「接岸ポイント」、パチンコによる錬金術など興味深い情報が得られた。ただし、日本人の拉致問題については一切ふれられていない。
紙の本
紙の本クヨクヨ気分が晴れる本
2002/11/17 23:13
仏教に基づく処世術を説いたもの。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
東洋インド哲学者、ひろさちやさんによる文庫書下ろし。仏教に基づく処世術を説いたもの。多数ある同著者の既刊と、同工異曲の憾みが拭えない。また、個人の内的世界に根ざす宗教と、国民への結果責任が第一義に問われる為政者のモラルとを一元的に捉える視点には、私は共感できなかった。政策の話を抜いて単に腐敗の構造の観点からのみ、数年ごとの政権党交代を政治のありかたを善しと主張するのは、いかにも皮相に過ぎると思う。
紙の本
紙の本北朝鮮という悪魔 元北朝鮮工作員が明かす驚愕の対日工作
2002/10/08 14:50
かの「地上の楽園」とは何であったのか?
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
北朝鮮から日本に脱出した元・対日工作員の手記。小泉首相の訪朝前に出版されている。昭和35年、希望を胸に「地上の楽園」に帰国した著者は、独裁恐怖政治下の人民の窮乏ぶりに絶望する。このルポは実に生々しい。しかし、工作員になって以降の経過では、自らに不都合な点を駆け足に書いている憾みもある。ただ、「日本人は法に反しなければ、私益のために国益に反することでも平気でする」との主旨の指摘は、正鵠を射ていると思う。
紙の本
紙の本明治天皇の生涯 上
2002/10/03 03:55
明治天皇を描いた小説は少ないだけに…
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
童門冬二さんには、歴史小説とも評伝とも分けがたい独特のスタイルがある。登場人物の台詞をして著者の意見を語らしめることはどの作家にもあるところだが、童門さんの場合はこの度合いが強すぎると思う。いま少し遠めに史実を捉えてほしい。読みやすいけれども、「もろに」「(何々し)まくる」などの俗な言いまわしや「細井平州という十八世紀の学者」という面妖な表現も気になった。明治天皇を描いた小説は少ないだけに、残念。
紙の本
紙の本不肖・宮嶋青春記
2005/03/15 04:48
不肖・宮嶋さんがユーモアたっぷりに語りおろした青春期。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
カメラ小僧から日大芸術学部進学、写真週刊誌専属カメラマンからフリーへ。破天荒な青春時代を、不肖こと宮嶋茂樹さんがユーモアたっぷりに語りおろしたもの。芸能ネタから戦場まで、幅広い活躍ぶりには驚かされる。ただ、その危険な逸話のほとんどは既著にあり、不肖の愛読者である私には目新しさは少なかった。最後は離婚の話で終わる。若い女性にとっては「報道カメラマンの嫁にはなるな」という教訓を与えるものかもしれない。