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投稿者:喫読家
2002/01/08 14:49
超ひも理論をやさしくていねいに解説
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20世紀後半、物質の基本構造を解明する研究(素粒子物理学)は、加速器の性能向上、量子場理論の発展など、実験と理論の二人三脚で物理学に次々と新しい成果をもたらした。そのうちもっともめざましい成功のひとつが、3つの力(強い力,弱い力,電磁力)の統一的理解(大統一理論)だった。しかし、現在知られる自然界4つの力のうち、残る1つ「重力」だけが量子場理論への組込がうまくいっていない。このことは、物理学の土台となる理論、量子力学と一般相対性理論(重力理論)について、なにか大きな問題が生じているように見えた。
1984年、「超ひも理論」(スーパーストリングス)の登場は、そういった状況の中、一躍脚光を浴びることになる。
『エレガントな宇宙』は、超ひも理論を一般向けに解説した、わかりやすい語り口の読みものだ。超ひも理論が登場するまでの歴史的背景から、ブラックホールに関する最新の研究成果まで、十分な紙幅を割き、ていねいに説明している。前半、次々に繰り出されるユーモアをまじえた挿話(思考実験)は秀逸。また、超ひも理論の分野でいくつかの発見を行ってきた著者の体験談は、読む側にも新発見の興奮が伝わってくる貴重な現場報告となっている。
超ひも理論とは、11次元世界に存在する微小な「ひも」の張力と振動が、この宇宙での物質と力の関係すべてを決定するというもの。そして、この理論の数学的枠組の中には「重力」を含めた自然界4つの力すべてを包含できるという。空間の3次元と時間の1次元を除き、残りの7次元の世界は(現在の技術では検証できない)微小な領域に巻き込まれているとのことだ。この理論に物理学者が感じるであろう美しさ(エレガント)をひとことで喩えるならば、「この宇宙の物質とすべての現象は、ストリングス(ひも)の奏でる壮大な交響楽の調べである」ということになるのかも知れない。
しかし、ここまでの話でも想像がつくように、超ひも理論はまだ発展途上の研究であり、この研究自体に懐疑的な物理学者も少なくないといわれる。超ひも理論には次のような批判される点があるからだ。
・超ひも理論のスケールがあまりに小さいため実験で検証できるものがない.
・数学的に難解な理論の正当性の検証には将来にわたりまだ多くの研究が必要.
・量子力学と重力理論を統合する方法は超ひも理論以外にもまだ考えられる.
科学解説書としては、話題が絞られ説明がていねいな分、『ホーキング、未来を語る』よりも本書の方が理解しやすい内容と感じたが、さて、ほかの方はいかがだろうか。