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  3. 宇羅道彦さんのレビュー一覧

宇羅道彦さんのレビュー一覧

投稿者:宇羅道彦

30 件中 1 件~ 15 件を表示

繰り返し時を越えて読まれるべき現代の古典

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

宗教を現代哲学の言葉で語る試みが成功することは滅多にない。
多くが特定宗教内部の宗教哲学になってしまうのが落ちである。
この著者は宗教を現象的所与として受け止めるところから分析を始める。

イラン革命に追われ日本に帰国することがなければ我々はこの著書に
出会うことはできなかっただろう。
生涯をかけたイスラムとの取り組みが、歴史の変転という偶然を経てこ
のすぐれた書籍を生んだ僥倖こ読者は大いに感謝するべきだろう。

特に注目すべきは禅についての著述である。
老師がたの語るところと全く矛盾のないところをこの著者は哲学と言語
学の先端の言葉で語っている。実に驚くべき境涯であるといえよう。

井筒俊彦氏は現代の日本人の一つの到達点である。
日本人のイスラム理解はここから始まるかないが、ここから先にゆくには
半世紀が必要だろう。

そして、イスラムを理解することが畢竟、総ての宗教を理解することに他
ならない姿勢で取り組んでいることに、井筒俊彦氏の学問的正統と、そ
の人間の誠実と偉大が見いだされよう。

繰り返し時を越えて読まれるべき現代の古典である。

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幾ばくの経験がある人に

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

外貨預金から始まり、為替取引に参入する人々が急増しているという。
株式や商品先物取引などを経て、為替をやるようになった個人的経験
からいうと、あまりにも無謀な挑戦者の多さに驚かざるを得ない。

スワップ金利に惹かれ預金感覚取り組むというのもあるらしいが、金利
が高いということは、その通貨のインフレ率が高いわけで、いずれ調整
が入ることになる。

まあ、いずれにしろ人生がある種、博打であるように為替は当然のごと
く博打に他ならない。誰であれ経験から学ぶほかないものだが、それも
才能があってのことだ。

相場で損をし、損をした理由がはっきり分かり、かつ二度と同じ誤りを犯
さないことができるなら、それは才能があるということだ。
そして、そんな人間は滅多にいない。

幾ばくの経験がある人には、この書籍をお薦めする。
米国では相場にたずさわるものの必読書であるらしい。

経験を言葉に定着させることは経験から学ぶ大きな方法の一つである。
自らの経験に思い当たることがあって初めて、この種の書籍は読む意味
があると思うからだ。

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紙の本おカネの法則

2003/07/19 16:24

今後十年のデフレを前提として

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

目次と前書きを読めばおおよそ内容は想像がつくだろう。
想像のつかない人には何はさておき、ぜひ一読を勧めたい。

想像のつく人はいきなりこの本を読むよりも、まず目次を見ながら自分の頭でじ
っくりと考えてみることが、きっと為になるだろう。

大竹氏は大局的歴史観を持つ優れた日本人には数少ない国際的ファンドマネージャーである。その、歴史と経済への一貫した視点には学ぶべきところが少なくない。

ただ、今回の著作は今後十年のデフレを前提として構築されている。
この論理に与するかどうかは、まさに事業家それぞれの自己責任に属すことがらである。ギャンブルといえば、まさにこのことこそがギャンブルだろう。

現在の世界的デフレ傾向をさらに十年続くと見るべきか。
それとも、冷戦構造の終焉から始まった中国を巻き込んでの、世界経済の調整
は終わりを迎えつつあるのか。
この辺りの見極めが、戦略の分かれるところである。

私見では、やがて近い将来に人口問題や環境問題が世界的デフレ傾向の歯止
めとして働き出すのではないかと見ている。
全般的デフレ傾向の中にも、局所的インフレ状況が業界や地域により混在する
という、まだら模様の非常に流動的な状況の可能性に現実味があろう。

日本経済はその個別性において、バブル経済からその崩壊が世界の経済停滞
に先行したように、あるいは世界経済の将来のインフレをも、近い将来、数年に
亘り先取りするのではないか。

ともあれ、 「おカネの法則」という著作が群を抜いて勝れたものであろうことは、
この著作をまだ読んでいなくて、これから読もうとしている私が、その著者の人物において保証しておこう。

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紙の本超帝国主義国家アメリカの内幕

2002/07/24 12:39

史上最大のペテン

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「われわれは史上最大のペテンをうまくやってのけたわけだ」。
ハーマン・カーンこう言葉をかけ、この本の著者マイケル・ハドソンを彼の
研究所のエコノミストとして雇うことになる。

われわれとは米国であり、うまくやるとは米国債本位制が金為替本位制に取
って代わったことをさしている。

アカデミズムがまだ理論化に及んでいない事実を読み解くこの本は既成の経
済学を学んだ人々と、いわゆる常識人にはトンデモ本と見なされるかも知れ
ない。

これは現在の世界をあるがままに見るとき、その国際経済的全体像を把握す
る最も合理的仮説のひとつを説く驚異の仕事である。

日本のプラザとルーブルにおける合意がバブル経済を膨れ上がらせ、やがて
破綻にいたる経済的自殺であったと語る。

つまり、巨大債務国がその債務ゆえに世界を支配する必然的構造。
米国が覇権国家であることの意味は、米国以外のあらゆる世界が、債権国か
債務国かに関わらずともに米国の部分になることであったようだ。

世界の経済と金融のすべてが米国一国の繁栄のために供されている現状への
善悪を超えた冷静な分析はまことに貴重なものである。

これは政治や外交に関わる当局者、あるいは経済や金融に関わる企業人こそ
が立場に関わらず目を通すべき本のひとつであろう。

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紙の本わが生涯 上

2002/06/08 17:39

<ひっそりと>のひと言が効いている。

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

              
  生まれた順番から言えば、私は五番目の子供であった。四人の子供た
  ちは、幼くしてジフテリアやしょう紅熱で死んだ。生き残った子供たちが
  ひっそりと生きたように、ほとんどひっそりと死んでいった。
           
         --------------*---------------
           
トロッキーの「わが生涯」の一節。
こういう文章に出会うと私は訳もなく感動してしまう。
       
どうということのないように見える一文だが、
抑制に満ちた、余韻のあるほとんど詩とも言える一節である。
その人格も含め、それなりの人物にしか書けないものがここにはある。
       
事実を坦々と書く中で<ひっそりと>のひと言が効いている。
訳文であるが、トロッキーが一流の文章家であったことを紛れもなく明かしている。
優れた思想家は間違いなく優れた表現者である。
明晰な思考は明確な言葉によってのみ可能だからだ。

このあたりにトロッキーを読む価値があると思っている。
勿論、マルクス主義の実現されなかった可能性の中に、
人類社会の未来の希望を探ることが主たる関心事だが。

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紙の本クルドの暗殺者 改版 上巻

2002/06/19 17:52

「クルディスタンか、さもなくば死か」はなおも現在の言葉なのである。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1991年に翻訳発行された作品の復刊である。

冷戦構造の崩壊時期と、米ソ冷戦を背景とする作品の出版が重なる不
幸がかさなり、忘れられていた作品といえるだろう。

いまや絶大な人気を獲得した<ボブ・リー・スワガー・シリーズ>の力がス
ティーヴン・ハンターの初期作品を復刊させたわけだ。

冷戦構造崩壊後の混乱に満ちた世界の状況から思えば、いまや米ソ冷
戦の時代がひどく分かりやすい古きよき時代に見えてくるから不思議である。

思えば世界の冷戦構造がスパイ小説に与えていた作品の構造的安定感は、
作者と読者を通じて共通する幻想に他ならなかったことが今にして明らかで
ある。

おりしも、米国ブッシュ政権はイラク国内の反政府勢力を本格的に支援す
ること決定したと伝えられる。つまり、クルドへの軍事支援である。

この先品中に頻発する言葉、「クルディスタンか、さもなくば死か」はなおも
現在の言葉なのである。

「クルドの暗殺者」は古きよき時代と現代を、クルド人というエピソードでか
ろうじてつなぐ作品になっている。

「彼は上着をつけると、出口とその彼方にあるものに向かって歩き出した。」
こんな素敵な一行のためにも、この本は読むに値すると思うのは私だけで
はあるまい。

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つまらない人間が大きな人物を書くと…

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

とりあげているテーマは道元などを中心に、
関心と問題意識の所在は納得がいくのだが、
そのテーマへの理解あるいは解釈は到底受け入れがたい。

関心のある対象は一緒だが、
関わり方が全く違い、かつ全く気に入らないというのは実に面白い。

講談社学術文庫の名僧列伝1、2で取り上げている夢窓国師や良寛など、
その評価の仕方や記述はまことに強引で、
確認されてない歴史的事実についての思い込みによる独断的視点や、
好き嫌いで人の善悪を語る姿勢には許し難いものがある。

これらの偉大な人物達を作者の人物の小ささで切り刻んでしまっている。
人は自分の獲得した深みに於いてしか他者の深みを理解できない。
そういうものの見本とも言うべき素直で不用意な著作である。
自らが及ばぬ者に対してはせめて黙ることをこの老人に勧めたいものだ。

つまらない人間が大きな人物を書くと往々こうなる。
とはいえ、多くの読者を獲得している著述家のこと、
夜郎自大なこの見解に共感を持つ謙虚な人々も多いのだろう。

そんなわけで、禅の知識を巡る一般人の入門書として<名僧列伝1、2>は、
私の最近のお薦め本である。

このあたりから始め、
やがてそのくだらなさが分かるところ迄行ってもらえれば何よりである。
紀野一義氏も、もって瞑すべきであろう。

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紙の本物語を生きる 今は昔、昔は今

2002/06/03 21:37

単なる事実としての虚無

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本当の納得は、知的な因果的把握を超えて、自分の存在が「そうだ」という
体験をしなくてはならないし、それは極めて個別的なものである。一般原則
に基づく説明は、本当の納得につながらない。
                         河合隼雄「物語を生きる」より

人はみな物語を生きている。
物語とは事実への解釈に他ならない。
だから単なる同じ事実を用いて様々の物語が果てしなく語られる。

人のアイデンティティはその人の生きている物語にかかわる。
しなやかに生きることは自在に物語を書き換えてゆくことを意味する。
特定の物語を生き続ければ、やがてかたくなな人格が出来上がる。

しかし、河合隼雄がいうように個人の物語は納得がいかなければ十分人を支
えることはない。つまり、強靭な物語は容易に書き換えが効かないのである。

物語の大きな基本の構図は維持しながら、その細部は時々の気分に任せる。
そんな心の技術が求められるところである。

家や企業や国家や民族も、つまりあらゆる人間の集団もまた物語を必要とす
る。存在理由がなければ存在できない。あるいは存在に安住できない。
これは自意識をもつ人間ならではの心の問題である。

宗教やある種の科学思想は世界についての物語を語る。
多くの社会思想や歴史も人間社会についての物語である。
人と人の対立は物語の対立という側面を有している。

あらゆる人に適合する物語は存在しない。
人はそれぞれ自分ならではの物語において、初めて個別的な価値を自らに見
出すものであるからだ。物語には正しいか正しくないかという問題はない。
問われているのは納得だけである。

どんなに不可解と見える宗教や思想も納得するに人がいる限り存在し続ける。
個別的体験に基づく納得はあらゆる合理性に優先するからである。

5000年前さながらの物語を生きているインドのベナレスの人々から、最新の
シャネルやエルメスを身にまとうニューヨークのセレブまで。
現代の人類世界はいまだかつてない重層的な物語によって構成されていると
いえよう。

この多様性を価値と見るか混乱と見るかで、世界に対する見方は大きく分かれ
ることになる。進歩思想に毒された近代知識人はそこに混迷を見出すだろう。
進歩思想自体がひとつの物語に過ぎないことへの無自覚のなせるわざである。

どんな物語も可能だということは、あらゆる物語の虚構性を意味している。
しかし、人は生きるために物語を必要とする。
高杉晋作の「面白きこともなき世を面白く」生きる工夫である。
単なる事実としての虚無を引き受けたその向こうに、現代人の人生はある。

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戦時経済体制

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

構造改革か景気回復か。                        
この問題で日本は十年の歳月を過ごしてきた。              

この問題に答えているとも言うべき一冊の書籍がリチャード・A.ヴェルナー著の
「円の支配者」である。          

日本が最近まで戦時経済体制であったことを構造的に論証する挑戦的論文で 
あり、このメールマガジンがテーマとしてきた歴史認識に極めて共通する問 
題意識に貫かれた立論である。                     

その中央銀行の果たす役割への注目は未だかつてない新鮮な視点を孕んでい 
る。いや、むしろ彼は通貨の動きを追う過程で日本における戦時経済体制の 
継続を発見したようだ。                        

表舞台のスターである大蔵省に引き替え日銀はまことに盲点であったといえ 
る。バブルを創ったのも、今日の不況を長引かせているのも実に日銀の意図 
に他ならないことが隠れもなく論証されてゆく文脈は見事といえるだろう。 

構造改革が進展しなければ日銀は決して信用創造を拡大しない。      
畢竟、信用の拡大が実質経済成長に結びつく見極めがつけば日銀は一気に信 
用創造の拡大に打って出るだろう。                   

政治家も経営者もひいては一般国民も通貨を通じて中央銀行に実質的に支配 
されていることをそろそろ気づいても良い頃だろう。           
米国のグリーンスパン氏がいかなる力を国家と国民にふるっているかに、我 
々はもっと早く思い至るべきであった。                 

今後の政治的混乱にも関わらず、どのタイミングで景気回復と経済の拡大が 
始まることになるのか。あるいはどこまで低迷するのか。         
見えるものにはほぼ見えてくることだろう。               

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紙の本日の名残り

2002/06/11 08:09

意識されたこの作品行為は思いのほかしたたかな方法論に支えられていると思われる

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

下記の言葉は、巨大な不良債権に苦しむ大銀行の、末端に勤務する定年間近か
の誠実な一行員の感慨を思わせる。

「大問題を理解できない私どもが、それでもこの世に自分の足跡を残そう
としたらすればよいか… 自分の領分に属する事柄に全力を集中すること
です。文明の将来をその双肩に担っておられる偉大な紳士淑女に、全力
でご奉仕することこそ、その答えかと存じます。」

カズオ・イシグロの「日の名残り」をこんな風に読むのは皮肉に過ぎるだろう
か。職業が身分を保証する階級社会の残照を巧みに捉えたイシグロの作品はも
ちろん意図してであろうが、極めて辛らつな英国への文明批評とも読める。

身分制度が価値として信じられた時代の不幸と幸せ、そしてそれらへのノスタ
ルジー。充実した断念の人生を書くイシグロの言葉は決して冷たいものではな
い。現代日本の定年間近かの一行員には、おそらく下記のような感慨は到底訪
れることはないだろう。

 「卿の一生とそのお仕事が、今日、壮大な愚考としかみなされなくなった
としても、それを私の落ち度と呼ぶことは誰にもできますまい。」
 「私どものような人間は、なにか価値あるもののために微力を尽くそうと
願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。そのよう
な試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実践したとす
れば、結果はどうあれ、そのこと自体が自らに誇りと満足を覚えてよい
十分な理由となりましょう。」

失われたのは自制と節度をもたらしていた社会の制度である。
制度の崩壊がもたらした自由が、一方では誇りと満足を奪い去ることになる。
自らの卑小さに安住する幸せは、おそらく今日では誰にも許されていない。
むしろそのような幸せを嘲笑することが、気の利いたことであると思われてい
るだろう。

イシグロのこの作品は英国を斬ってみせる返す刀で、現代の先進社会の進歩と
みなされるありようを密かにより鋭く斬っている。執事の人生のという些細な
現実の細部を描いて見せることが、結果的に世界の真実を表現する。
優れた作品の常とはいえ、イシグロの意識されたこの作品行為は思いのほかし
たたかな方法論に支えられていると思われる。

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紙の本市場

2002/06/08 02:01

経済のグローバル化を理解するための一冊。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

経済のグローバル化を理解するための一冊。
優れた分析ですが、問題の解決が容易でないことも教えてくれます。

盛んにテレビ出演などで活躍している著者だが、アダムスミス以来の経済学を
鳥瞰する中で、現代を説明する独自の視点は十分な説得力に満ちている。

共同体と共同体の間の交換から成立した市場が、やがて共同体自体を侵食しつ
つ、ついにはそれを解体に導く。
「都市は人を自由にする。」とかつては希望を持って語られた都市生活者の共
同体の束縛からの解放は、市場原理の貫徹によりいまや耐え難い孤立まで人々
を追い込んできた。

一方で市場はさまざまな位相の共同体を侵食する過程においてのみ成立する。
資本は差異を利益機会として運動する存在であるからだ。

著者は市場と共同体の共存を政策的妥協により夢見ているが、それを担う具体
の政治勢力を見出せてはいない。
もちろん原理的な解決を提示する経済思想は今のところ世界のどこにもない。

市場と共同体に引き裂かれた近代人は、市場社会のきわみで共同体の再建に赴
くことが予想される。
経済のグローバル化が世界のナショナリズムに火をつけてしまった様相がすで
に見え始めているではないか。

思えば市場は経済学の不可能性を日々主張してきたと考えることもできよう。
この著者がいうように矛盾が人間自身にあるとき、歴史はその悲惨の規模を科
学技術の進歩に従って拡大しつつ繰り返すばかりだろう。

「神は死んだ」とするなら永劫回帰があるばかりだ。

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国際政治に道徳を説く著者

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

現在の現象を追って、明日を語る試みが成功するのことは希有
である。明日の状況は、今日は目に見えていない要素によって
変化するのが常であるからだ。

従ってこの著者の、恣意的に選択した既存の情報を水平的に網
羅し、世界の歴史的状況を読み解こうとする試みはほぼ空しい。

博識やいわゆる裏情報ではなく、見えないものを見抜く鋭い鍛え
られた洞察力だけが時に未来を語り売るだけである。

「自宅近くの空き地を借地して自給用のジャガイモや野菜を自分
で作る練習を始めるのも一案だ。」とこの著者はどう考えても本気
で書いている。冗談のつもりだとしたら悪ふざけが過ぎていよう。

要するに、床屋談義を越える論議が全くといってない駄本である。
極めつけは次の一文だろう。
「感情にまかせて腕力にものをいわせるという、そうした態度が、
やがて<帝国の衰退と崩壊>を招くのである。」
これが「世界覇権国アメリカの衰退が始まる」という題名をかざす
書籍のさわりである。

そして、日本は米国に「もう少し冷静になるべきではないか。これ
までの諸外国へのやり方で反省すべき点もあるだろ」と諭すべき
だと説く。

現代の国際政治に道徳を説く著者の姿勢は、到底一読者の理解
が及ぶものではない。

何より笑わせられたのは世界が金融経済から実物経済へ移行しつつ
あるという認識である。経済を金融と実物に分けるという発想をこ
の著者は一体どこからもってきたのだろう。
時節遅れの床屋談義の典型とでもいうほかあるまい。

この書籍の読者は現象の細部にこだわって大局を見失う、という
よりも初めから歴史の大局への視線が欠落した凡庸な人物から
現在の世界がどのように見えているかを知ることができる。

尤もそんなものを敢えて知る必要は誰にも毛頭ないか。
題名に騙されて買ってしまった読者は、一読後笑ってゴミ箱へ捨て
ればよい。それが大人というものだろう。

というわけで、現在の時流に合わせた一般啓蒙書籍のレベルの低さ
を知るにはお奨めの一冊である。

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紙の本生命40億年全史

2003/04/28 00:37

生命の歴史的事実

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様々なことを考えさせてくれる興味深い本である。

四十億年にわたる総ての地球生命の歴史的現在は、ただ一つの生命に発する
ことが知られている。今生きてあるあらゆる命は四十億年を生きてきたので
ある。そしてまた、あらゆる地球の命は一つの命を生きているわけでもある。

食物連鎖の頂点に位置する人類は、他の命を食らうことで命をつないでいる。
太陽の恵みを葉緑素(クロロフィル)によって光合成でエネルギーに転換で
きる植物以外の生き物は、すべて他の命を頂くことで自らの命をつないでい
る。それは、地球の命の総体の結果的意志あるとみなされよう。

個体を生きる命はその命に至る果てしない世代の、自らの命を未来につなご
うとする意志の累積として現在を生きつつ、自らをもまた未来への命の橋で
あらしめようする存在である。

ただ、自己対象化能力という意識を獲得した人間だけは生物学的遺伝子のみ
ならず、観念に属する文化の遺伝子をも心として未来につなごうとする。
総体としての人間に貢献することを、心を持った個体生物としての人間が選
択した結果である。

命が生きることを意志する存在である限り、単に生きること自体がすでに意
志の実現として基本的喜びを構成する。
人の死は生物学的あるいは文化的遺伝子の後継世代における命の実現におい
ては一つの人の自然として、またそうでない場合にも、好むと好まざるに関
わらず、事実として受容せざるを得ないものとしてある。

以上は鳥瞰的な視点からの、生命の歴史的事実への認識である。
つまり、以上の文脈に矛盾する思想や哲学や宗教は、すべて事実に背理する空
想的虚妄であると見るべきだろう。
もちろん、この認識自体も一つの観念に過ぎないのは当然であるが。

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ぬかりない塩野女史のことなのだから

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このシリーズで、買ってから三日間以内に読み上げなかった
初めての本である。

著者も言うように、前例のない貴重な仕事であるが、同時に
まことに読みにくい一巻ではある。

あらゆる出来事を物語として読み解く著者にしてなお、イン
フラストラクチャーばかりは緻密なデーターの積み上げ以外
に方法がなかったと見える。

本気で十全なるローマ史に取り組むならさけようのないテー
マだっただろう。
完璧をめざす仕事は、時にこういうものを生むわけだ。

だから心ある読者には、この一巻を倦むことなく読む努力が
求められている。

今後の楽しみがいっそう深まることがきっと約束されている
はずである。何といってもぬかりない塩野女史のことなのだ
から。

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紙の本バッドラック・ムーン 上

2002/06/08 17:57

他人の気持ちを傷つけるには…

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 
    他人の気持ちを傷つけるには、
    真実を語ることがいつでも、
    もっとも効果的な手段だ。

        「バッドラック・ムーン」(講談社文庫)
           ミイクル・コナリー/木村二郎 訳

高校時代以来の盟友、ミステリー作家・木村君の翻訳新刊書で上記の言葉を見つけた。
木村君の翻訳は原作を大切にし日本語の翻訳にありがちな解釈をしない訳文である。
あるいは解釈をしていないように感じさせる硬質の文章である。
翻訳小説をどう読むかはは読者により様々な嗜好があるだろうが、
原作者の言葉を大切にするといわゆる翻訳調になりやすい。
米国の現在を熟知しつつ日本語の修練を積む以外、
原作を大切にしつつ日本語に翻訳するという作業は容易なことではなかろう。
木村君は日本語らしさよりもあえて米国のミステリーらしさを選んでいると思える。
このポリシーが彼の翻訳のオリジナリティであろう。

休暇のひとときを楽しませてくれた木村君に感謝。

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