kyokoさんのレビュー一覧
投稿者:kyoko
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一九三四年冬−乱歩
2002/01/04 20:56
読者のためだけに上演された舞台『乱歩』と『梔子姫』
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読み始めた瞬間から、目の前に登場人物からその情景、湿度や香りに至るまで緻密に浮かび上がってくる話は、そうそうお目にかかれない。本書『一九三四年—乱歩』は、まさに、読者のためだけに上演される舞台を見ているような錯覚に陥る。
四十歳を迎えた乱歩が味わう『己』に対しての逡巡、人間的愛らしさや悲哀がきめ細かく描写され、乱歩ファンにとっては、稀代の小説家に、より一層の愛着が増すことだろう。また、乱歩ファンではない人間にとっても、人生の岐路に立った一個人としての思索を味わうことが出来る。
特に、内容と並行し、作中の『乱歩』が執筆する『梔子姫』は、作者である久世氏に、ただひたすらに感謝したい。現実の『乱歩』の死後、待ち望んでももう味わうことが出来ないだろうと諦めた新作が、申し分のない形で描かれている上に、この『乱歩』の物語を補完する上でも、最も重要な『物語』でもある。
読み終わる頃には、白日の陽光と共に、夢とうつつの舞台の幕が降りていた————そんな印象を与える一冊である。
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