凛珠 さんのレビュー一覧
投稿者:凛珠
紙の本武士道とエロス
2002/01/27 01:41
武士道と男色。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
表紙の絵──勝川春潮の「喫煙若衆図」がとても美しい。自然味あふれる河岸に座っている少年は、煙管を片手に扇子を広げている。それは、背後からやってきた振袖の少年(年下と思われる)を、歓迎しているように見える。そこには、男と女のものとは違う、爽やかな色香が漂う。
本書は、主に近世の武士社会における、男色の変遷を考察した本である。男色は、戦国時代の武士においては、必要不可欠のものであった。しかし、江戸時代になり世情が安定してくると、男色は廃れてしまった。それは何故か──男色を通して歴史を探る。そこからは、武士道と男色の、意外なほど密着なつながりが窺えることだろう。
紙の本華岡青洲の妻 改版
2002/01/17 21:59
凄絶なまでの心理描写力。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『華岡青洲の妻』は、言わずとしれた有名な本、「名作」である。とはいえ、読んで見なければ本当のところはわからない。今回読んでみて、まさしく「名作」であると思った。
最初は姑の於継に憧憬の想いを抱いていた主人公・加恵。しかし、夫の青洲が留学から帰った途端、於継の加恵への態度は冷淡なものとなった。その時、加恵の中で於継への憧憬は、凄まじい憎悪へと変わった──ここの描写も、非常に自然である。加恵と於継だけでなく、二人の女と青洲を一歩引いて眺めていた、小姑の小陸も重要人物だ。
真に恐ろしいのは、女か、男の方か──この作者の本は、本作以外は未読だが、是非、他の作品も読んでみたいものである。
2002/01/17 16:17
江戸のホームドラマ。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
作者は、川路家の人々に余ほど思い入れがあるのだろう。他の本でも、川路家の人々を取り上げていた。本書でも、中途からは「江戸奇人伝」ではなく、「旗本・川路家の人びと」となってしまっている。これは確かに褒められたことではないかもしれないが、川路家の面々を見ていれば、そうなってしまうのも無理からぬこととまで思わせる。そこには、「硬派な武士の家庭」という固定観念を打ち崩す、一種ホームドラマ的な世界があった。勿論、現代と江戸時代は同一のものではなく、相違点も多いだろう。例えば妻妾同居などだ。しかし、江戸時代の人々が、我々現代人とは全く違う人間かといえば、そんなことはない。また一つ、真の江戸を発見した。
紙の本悲愁中宮
2002/01/17 11:51
歴史の陰の、女たちの歎き。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
一条天皇の中宮・定子──『枕草子』の作者である清少納言が仕えた、藤原一族の女性である。そこそこ有名ではあるが、藤原道長の陰謀の被害者ということもあり、これまで彼女をメインに据えた小説は少なかったのではないか。
本書では、道長の命を受け、スパイとして定子に仕える左京という女御の目から、定子の光と影を描き出している。時代は違っていても、男と女の関係とは、いつの世もこうしたものだろうということを、如実に感じさせられた小説である。
紙の本直飛脚疾る
2002/01/17 11:33
疾(はし)り抜けた男たち。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
時は江戸時代後期。11代将軍の密書を、定められた刻限までに目的地へ届けることを使命とした、「直飛脚」を主人公にした短編連作集である。
物語は、3人の直飛脚──秋元炎九郎、本荘錦之介、太田又兵衛を中心に進む。6篇の物語は、いずれも、作者らしい仕掛けの魅力に溢れている。
定刻に間に合わぬ場合は即刻切腹という宿命を負い、事件に巻き込まれながらも、懸命に疾り続ける男たち。彼らの行く先には、何が待ち受けていたのか──それは、本書を読むことで知って頂きたい。
紙の本間違いだらけの時代劇
2002/01/27 00:44
タイトル通りの一冊。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
時代劇における考証の嘘を叩くだけでなく、「では何が正しいのか」というように、真実を綿密な考証をもとに紹介した、貴重な本。作者の名和弓雄氏は、ご自身も武術をされているので、武術に関しての考証は机上の論理ではなく、信憑性があって面白い。写真も多く、親切である。
紙の本風の砦 下
2002/01/17 17:47
過ぎる歳月。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
下巻では、蝦夷地の自然の猛威と水腫病が、警備の藩士たちを襲う。ここでもう少し、主人公たちにも危機を迫らせて欲しかったが、全体の完成度の高さから鑑みれば、全く汚点にはならない。
人妻を想う香織、アイヌの娘を想う運平、アイヌと和人の間に横たわる溝──青年たちの想いは、歴史と自然の前には無力であるのか。
歴史をつむぐだけではなく、人間を描いた小説である。読み終わった時、読者は感動を覚え、登場人物と共に自分自身も成長したことを知るだろう。
紙の本海ちゃん ある猫の物語
2002/01/17 15:31
海の横顔。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
海の飼い主であった、作者の岩合光昭氏と岩合日出子氏は、海を可愛がり大切にすると共に、海に対する負い目も感じていたのに違いない。岩合夫妻は、自分たちの子供が出来た時、海を実家へ預けてしまったからだ。岩合夫妻にとって海は、ただの猫ではなく、「長女」であったのだ。そうした負い目が深みを与え、この本を単なる「可愛い猫の本」にはしていない。
海の写真と共に、小説を読むように短文を読んでゆくことで、海の生涯を直に感じることが出来る。きっと海は、人間の気持ちを知ることが出来たのに違いない。表紙の海の横顔を見ていると、そんな気持ちにさせられる。
2002/01/17 19:24
今も昔も変わらぬ少年犯罪。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ここ数年、少年犯罪が急激に増えたかのように言われているが、実際には減少しており、一番犯罪者が多いのは、1950〜60年代生まれなのだという。それはともかく、「津山三十人殺し」という殺人事件があったことは知っていたが、本書を読んで、22歳の若者の犯行だったのだということが分かった。彼がなぜ殺人に至ったのかというような、犯行の背景もよく分かった。それも妙に分析的に書くのではなく、客観的に書いているところが良かったと思われる。野次馬根性ではなく、しっかりと考証して書かれた本である。
2002/01/17 15:58
死体と、大らかな江戸。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
江戸の町は、死体とは切っても切れない縁があった。川には水死体が流れ、遊郭への通り道には獄門首が晒されている。人の肝は薬にもされた。だが、これは決して、江戸が殺伐として野蛮であったということを示すものではない。むしろ、江戸人の大らかさとして捉えるべきだろう。彼らにとって死体とは、恐怖の対象というだけではなく、一種の「隣人」でもあったのか。舟で川遊びをしていれば、時には水死体が漂ってくる。心中した死体が晒されていれば、いさんで見に行く。彼らの世界では、たしかに死体は身近な存在であったのだ。それは、あるいは無知ゆえであったかもしれない。だが、ここにも「江戸らしい大らかさ」を発見することが出来るだろう。
紙の本ネコの赤ちゃん
2002/01/17 15:05
一石二鳥のネコ本。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
沢山の愛くるしい仔猫の写真と共に、仔猫を飼うにあたっての心構えや躾けの仕方、猫についての豆知識などが収録された本である。写真集ではあまり知識を得られず、本では文字ばかりで写真の少ないものが多いのだが、本書ではどちらも兼ね備えていて、まさしく一石二鳥である。
印象的だったのは、本のしめくくりとして、「猫はペットではない」と書かれていたことである。猫にとって飼い主とは「仲間」であって、「主人」ではないということだ。まさしくその通りで、そこが猫の魅力と言えるだろう。このことをよく肝に命じておけば、捨て猫などということをする人間はいなくなるに違いない。
2002/01/17 11:04
歴史の中に潜む不思議な出来事たち。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本のタイトル通り、古代から江戸時代までの様々な文献から、今日で言うUFO目撃談や、超能力者、妖怪など、「不思議な出来事」を抜粋し、紹介した本である。
文献の書名や作者名が書いてある為、内容の信頼性も高く、原本を勉強してみたいと思う者にとっても親切である。
本のタイトルが「不思議な事件」ではなく、「不思議な出来事」であるところに、本書の性質がよく現れている。「出来事」という柔らかな言葉が示す通り、学術的な内容ではない。しかし、当時の人々と妖しの者どもの、奇妙に密接した関係──両者の間には、必ずしも恐怖だけが介在するのではない──を表現するには、非常に適したタイトルである。
本当の歴史というものは、表側に現れない、こうした「出来事」によって知ることが出来るのかもしれない。
紙の本吸血姫美夕 2
2002/02/01 00:26
哀しみの結晶。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人魚と出会った少年「海がさらった宝石」、人形のように美しい少年の謎「人形の森」、病弱な妹とその兄の悲恋「鳥が啼く時」の3編を収録。
それぞれが幻想的・耽美的であり、終わり方に一抹の物哀しさがある。絵柄には日本的な美しさがあり、コマの使い方も上手い。テンポが速く面白おかしい漫画が好きな人には合わないかもしれないが、物語の世界の雰囲気を楽しみたい人には、お勧めの漫画だ。
紙の本吸血姫美夕 1
2002/01/31 15:14
悲劇の吸血少女。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
化け物と戦う少女漫画のヒロインといえば、大抵は人間の味方であり、純真無垢な少女だろう。だが、本書の主人公・美夕は違う。彼女の生きる糧は人間の血であり、それを得る為には、人間を襲うこともある。化け物退治も彼女の「使命」であり、人間の味方というわけではない。とはいえ、美夕も元は純真な人間の少女であった。その身を流れる「吸血姫」の血が、彼女が平穏に生きることを許さなかったのである。冷徹でありながら非情になりきれぬ美夕は、時に己の宿命を嘆き、泪する。その姿は痛々しくさえある。奥の深い少女漫画だ。