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ぼさぼさ頭さんのレビュー一覧

投稿者:ぼさぼさ頭

12 件中 1 件~ 12 件を表示

さながら妖術を施された絵巻物の如く

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「ロンポポ(虎姑婆)」は、三人の娘たちと、母親の留守中に祖母の姿に化けて家にまんまと入り込んだ年取ったオオカミの話である。姉娘の機転であやうく逃れ、力を合わせてオオカミを殺してしまうという中国の昔話。

光と影が織り成す恐ろしく美しい絵。さながら妖術を施された絵巻物の如く、息をのむような展開で次々とページをめくらせてしまうという絵本なので、一度読むと必ず手元におきたくなるはずだ。

作者エド・ヤングは、中国・天津生まれ、上海育ち。20歳からアメリカへ。大学で学び、現在ニューヨークに住む。
幼い頃にたくさんの昔話を聞いて育ったそうだ。「ロンポポ」「怪物ヌングワマをたいじしたむすめの話(偕成社・絶版)」も子どものころに聞いた昔話だそうである。

エド・ヤングは冒頭で、オオカミは「人の世の闇を示す徴(しるし)」と述べる。
日本の物語ではさしずめ、山姥もしくは鬼婆なのだろう。この世のものではない。恐ろしい力を秘めたあちらの世界の住人。
彼らは、まるで自然災害のように、ある日理不尽に主人公に襲いかかる。主人公たちは、智恵と勇気で困難な場面を乗り切らなくてはならない。

訳者は、「ロンポポ」を日本の「天道さま金の鎖」になぞられた。
「天道さま金の鎖」は、母と乳児である弟を山姥に食べられてしまった兄弟が主人公である。
山姥に追い詰められて絶体絶命のところで、兄弟はお天道様に救われて天へ上る。一方、山姥はお天道様に地面にたたき落とされて死ぬのである。
途中までは智恵でうまく逃げていたが、結局追い詰められ、天に救われるという展開は、ずいぶんロンポポと異なっているように感じる。天道様に救われるということで、幼い読者はほっとするが、私などは、「天に上がって星になった」というのは、本当は死んだということなんじゃないのかと思えてしまう。自然の脅威に屈せざるを得なかった昔の物語が人々の希望や願いと共に変容したのかもしれない。

そこへいくと「ロンポポ」は、すっきり人間の物語になっている。「怪物ヌングワマをたいじしたむすめの話」も同様。
これは、昔話の育った土壌の違いなのだろうか。それとも数多くある昔話の中で、こういう物語がとりわけエド・ヤングの心に残ったということなのであろうか。

まあ、なんにせよ、「ロンポポ」は耳で聞くとかなりこわい。デリケートなお子さんへの寝る前に読み聞かせは、少し配慮してあげてほしい。楽しい物語といっしょに読むとか、その晩はぎゅっと抱きしめていっしょに眠るとか。
もっとも子どもが2人以上いると、こわい話もおもしろい話に感じられてしまうようだ。きょうだいでくっつきあいながら聞き入っている姿を見るのは読み手としての醍醐味を味わえる瞬間でもある。

というわけで、大人にも子どもにもインパクトのある秀逸絵本。どうかご一読を。

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紙の本佐賀のがばいばあちゃん

2006/08/23 21:36

いいなあ

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ある夕ご飯の席のことだった。
「ばあちゃん、この二、三日ご飯ばっかりでおかずがないね」
俺がそう言うと、ばあちゃんはアハハハハハハハ……と笑いながら、
「明日は、ご飯もないよ」
と答えた。 (本文プロローグより抜粋)
いきなり読者の心をわしづかみするエピソードである。試しに家族や友人にこの部分を読んであげるといい。きっと吹き出し、興味を持って読み始めると思う。
島田洋七氏が自身の子ども時代をつづったエッセイであるが、冒頭で笑うのは序の口、この後、これでもかと思われるほどのばあちゃんとの貧乏エピソードが、あっけらかんと語られる。
不思議なことに、読んでいるうちにいつのまにか、川から野菜を拾う生活も、湯たんぽをポットや水筒替わりに使う生活も、磁石をひもでひきずりながらくず鉄を拾い集める生活も、シンプルでたくましく生き生きと輝いているように思われてくるのだ。
今生きている自分のありようがすっかりくすんでしまっているのに気づく。
とはいえ、貧乏は切ない。その切なさは、母から離れて暮らす少年のつらさやさびしさといっしょに、爆笑エピソードの合間にさりげなく語られる。そしてその切なさに伴奏するように、周囲の人々が示すさりげない優しさが語られる。さっきまで笑い転げていたのに、運動会や豆腐やさんのエピソードに思わず泣かされる。
「本当の優しさとは、相手に気づかれずにすること」
ばあちゃんの信条が、読者である自分の胸にもストンと落ちた。

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はりつめてて苦しくなったらちょっと読んでみて

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東京下町、昭和30年代の生活風景が懐古趣味に陥ることなく、やたら元気に息づいている本である。というか、最初からとばしてくれるもんだから、気がついたら電車の中でうっかり声を出して笑っていたというヤバイ(こんな言葉の使い方はまずいなあ)本。
高校の国語教師で小説家の父。専業主婦の母。運動神経抜群でやたらに強すぎる好奇心のせいでいつも失敗してる小学5年生の兄・鉄平。そして「ぼく・新太」は小2か小3か。
この家族と、職人さんがいっぱいな近所と、あのころの学校の先生とで繰り広げるとんでもない話が50も入っている。
だいたいが変な家族なのである。
職業が小説家ということからして、変な父親だろうと容易に想像がつく。しかもこの父さんは、とことん子どもと(子どもで)遊ぶ人なのである。
子どもたちが嫌いな体育をサボれるように、嘘八百の理由を書いた「体育見学届」を1か月分束にして書いてあげる。
子どもの嘘話の尻馬に乗って先生をだましてしまう。
出たくないパーティーに長男を代理出席させてしまう。
体が弱く勉強もできないため、委員長とか班長をやったことがないという新太に「よし、父さんがお前をうちの便所長に任命してやろう」。
けれども成績が悪くても、子どもに勉強を強制したりしない。子どもの好奇心や探究心を満たすために二升のお酒をケチったりしない。
もっぱら子どもたちを叱り飛ばすシーンの多い母親もまた、ある意味すごくできた人で、少々のことではびくつかず、犬小屋へ家出した息子に「エサ」を作ってやり、「そんなところにいないで中に入りなさい」なんて、懇願したりなんかしない。子どもが自分で悟るまで待っていられるこのおおらかさと余裕。
爆笑ものの生活風景を読みながら、ここの家の子はいいなと思う。つくづく思う。そしていつの間にか肩の力が抜けているのを感じる。
2作目の
「父さん、ぼく面倒みきれません」新風舎
も、とてもいい。ぜひ読んで!

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私が無知でした

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

愕然としながら最後まで一気読みしました。

「日米の協力体制は堅持する」といいながら憲法改正をしたい安倍首相は、
大ダヌキでしょうか、はたまた、アメリカべったりのいそぎんちゃくでしょうか。
前者なら、直前までアメリカに警戒感を抱かせずにこの不平等な協定を廃止までもっていくでしょう。
後者なら…考えたくもありません。日本はもう独立国と名乗れない(今も実態は独立国とは言い難いけれど)。それどころか、アメリカにしたがって世界中どこへでも人と物とお金を拠出する国になるでしょう。

読み終わって、自分の国に対して情けない思いでいっぱいになりました。
つたない感想でも人に伝えたいと思います。
沖縄をはじめ、がんばって運動している人たちがたくさんいるのですから。

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紙の本HLAの不思議

2010/10/04 15:16

こんなにおもしろいものだったのかとびっくり! HLAをめぐる専門家の話

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

HLAは、白血球の血液型のことである。

全国骨髄バンク推進連絡協議会の会長・大谷貴子さんをご存知だろうか。骨髄バンクの生みの親で、現在はより良い移植医療を実現させるため東奔西走しておられる元患者さんである。

HLAの型は、きょうだいであれば25パーセントの確率で一致する。両親とは合わないのが普通である。一致しなければ、わが子であっても親はドナーになれない。

姉と一致しなかったことで、一度は絶望した大谷さんに、両親のどちらかと一致する可能性が大きいことを教えてくれたのが、著者である佐治博夫氏である。
佐治氏は、ふたりのHLA型から、姉の睦子さんがアメリカで調べたHLA型に一部間違いがあることを推理し、そして父親か母親のHLAと貴子さんのHLAが同じだろうという見解を伝えた。そして大谷さんは母親と一致し、移植して元気になられた。
この話は、本の中に詳しく載っているのでぜひ読んでいただきたい。

HLA研究の第一人者である佐治氏のこの本は、専門的な話でもあるはずなのに、ギリシャ神話や鏡の国のアリスなどを引きながら、非常に読みやすく興味深い。

第1章 運命の「赤い糸」を科学する
に、興味深い実験が載っていた。

米国の男子学生達に数日間同じTシャツを着てもらい、体臭のしみついたそれを女子学生達に嗅いでもらう。
そして女子学生には自分の恋人やセックスフレンドを連想させる匂いのTシャツの番号を選んでもらうという実験である。
その後、Tシャツの持ち主である男子学生と、選んだ女子学生のHLAを調べる。
すると、ペアのHLAは、6分の5以上違っていたという実験結果が出た。

つまり、自分と違うHLAの持ち主を求めるという結果になったわけである。
著者は、寄生虫やウィルスなどのパラサイトと戦い、種として生き残るために、人間がHLAの多様性を増してきたのだろうと伝える。

これに関連して、エイズで絶滅しかけたため、現在では2種類の系統のHLAしかないチンパンジーや、1種類しかHLAを持たないため、皮膚などを移植してもGVHD(移植された白血球が宿主の体を攻撃する症状)が出ないチーターの話なども載っていて、興味はつきない。

「HLAと病気」には、そのHLAを持つためにある特定の病気になりやすいことが判明している実例が載っている。
そのほか、民族のルーツや犯罪捜査とHLAのかかわりの話など、素人の私でも十二分に楽しめる話がたくさんある。
紹介しきれないから、ぜひ一読をお薦めする。

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紙の本みるなのへや

2011/10/14 16:35

これはちょっと…

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

片山健さんの絵は大好きです。
でも、これはどうもいけない。
背景もそうですが、特にラストページの壊れた顔には絶句。
多分、このストーリーに合う絵を、ということで、そうなったのだろうと解釈して、自分なりに落ち着いています。

ストーリーは、「みるなのくら」を下敷きにしているのだと思いますが、あまりにもお粗末で、やっつけ仕事のような感じがしました。
ていねいに民話を咀嚼したようにはとても思えません。
いきなり始まって、いきなりうぐいすの家に行き、いきなり留守をお願いされる、といった調子で最後までいきます。

あまりに乱暴な絵本のように思えます。

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紙の本本屋さんのダイアナ

2016/08/30 12:30

いそうでいない友達

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ブリーチしまくって傷んだ金髪、目立つ美人顔。
外見から想像もつかない知的かつ繊細な内面。
父親は不明、母親はキャバクラ勤務、というバックボーン。
おまけに「大穴」と書いてダイアナと読ませるファーストネーム。

こんな強烈なクラスメートがいた試しはなかった。
遠巻きに眺めて近寄ろうとしないクラスの子達の気持ちは、わかる。

でも、この子、本が好きなんだ。

ということがわかって好感度急上昇…というのは、レビューをのぞいて見ようと思うくらいの読者ならみんな同じなんじゃないのかなと思う。

しょっぱなからこうやって読者を強烈にひきつけて、アンの世界を遠景に、現代日本でリアルに生きているダイアナ達(彩子もダイアナもお互い相手こそアンだと思っているように思う)。
私は「あのころ」から四半世紀以上経ってしまったけれど、彼女たちが経験した痛みや後悔や疼きは、今も胸の奥にある。
こうやって読者の共感を引きずり出し、そして自分には叶わなかった未来を見せてくれる、なんとも憎い作者だと思う。
ありがとう。読んで良かった。

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紙の本オニのサラリーマン

2016/02/28 12:34

蜘蛛の糸を先に読んでからにしましょ

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ストーリーは、富安陽子さんの2015年初夢 だそうです。
あまりに完成度の高い夢だったので、これはもう作品にするしかない、と思われたとか。

このすてきにおもしろいストーリーをさらにふくらませてくれるのが、
大島妙子さん。
ただのさし絵にならないどころか、思いっきり楽しく遊んでいて、
何度見返しても飽きない絵本になってしまってました。
富安さんが絶賛する画家さんの1人だそうです。

大人も子どもも楽しい絵本です。

あ、でも芥川の「蜘蛛の糸」を知らないと、魅力半減するから、
お子さんに読むときは、そちらをぜひ先に読んであげてください。

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だって嘘をつくと狼になっちゃうから…

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嘘をつくと狼になる呪いをかけられた狼少年の一族がありまして、
お山に住んでいるのですが、
素性を隠してこの社会にまぎれこんでいる者もいるのであります。
そんな「嘘つくと狼」の4人兄弟末っ子がこの物語の主人公です。

終末期医療に携わる医師の長男は、患者さんのために嘘をつくことが多く、しょっちゅう変身。
絶対に嘘をつかない実業家の次男。
大学の研究室勤務の三男は、自由でやわらかい性格で、ケモノの耳、ときにはしっぽも出しっぱなし。
四男は大学生。不器用と間の悪さを絵に描いたような学生生活で、友達もいず、あこがれの同級生の前で醜態をさらし、就職も失敗。

まるで性格の違う4人はケンカも多いけれど、本当に仲が良い。
彼らの会話を通して
不器用さって恥ずかしいことなのかな、
うまく嘘をつけるということってほんとに優しいことなのかな、
そんなことをいろいろ考えさせられます。
この社会では脱落組となってしまうだろう四男が、
その愚直な生き方ゆえに、
マドンナ的存在の同級生やまっすぐな高校生から好意(?)を抱かれるという展開も
現代のメルヘンかもしれません。

細かな感情表現がうまく、
くすっと笑える場面を数多く仕掛けてあり、
読後感にいやみがなくて、何度も読み返せるマンガでした。

2巻まで読みました。
次巻を期待しています。

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紙の本ペンキや

2003/03/07 12:44

これはほんとうに美しい絵本です

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「ペンキや」
世の中には世間的には評価されないで終わってしまう美しい仕事がたくさんある。その職人芸の恩恵を被るのは、その人に仕事を頼んだ依頼主だけ。そんな「人間の仕事」に対する作者の尊敬の念、この美しい絵本にこめられた切ない思いを読者はそっと受け取ることができる。

私の友人にペンキやの娘がいる。その彼女がこう言ったことがある。
「お客さんがこういう色を、と持ってきた見本を見れば、何と何をどのくら混ぜればその色が出るか、一目でわかるし、言葉で言ってもらえれば、作り出せる」。
ペンキやが高度な職人芸なのだということは、彼女から教わった。そしてこの絵本の主人公しんやとその父もまたそうだった。しかも、人の思いの奥底を感じて色で表現することのできるペンキやだった。

パリへ向かう船上でしんやが注文を受けた「ユトリロの白」は、この絵本の象徴である。人生の喜怒哀楽を織り交ぜた白。そのときどきで様々な光と影、そして色、美しさもはかなさも夢のように奏でてくれるユトリロの白。非凡な仕事を平平凡凡とこなしていくたくさんの人たちの人生の象徴。

仕事を終えたしんやを向こうの世界に連れて行った女の人は誰だったのだろうか。父が残したはけで彼が最後にした仕事は「不世出のペンキやここに眠る」という文字を自分の墓に書くことであった。その文字は彼の妻であるゆりさんにしか見えなかった。ここにいたってはっとする。しんやがパリで父の墓をどうしても探せなかった訳を知って。父の墓に書いてあるという「不世出のペンキやここに眠る」の文字は、しんやの母にしか見えないものだったのだ。夫と夫の仕事を信頼し愛したふたりの女性の存在は、この物語に温かみと悲しみを添える。

出久根育さんの絵には、絵本としてはまだ少し硬さを感じるので、私としてはもう少しやわらかさや感情表現を望みたいけれど、この珠玉の物語に見劣りしない絵を、心をこめて一枚一枚仕上げたように思う。ただの挿絵に終わらない「絵本の絵」を描ききった仕事に対し、美しい絵本ができあがったことを一人の読者として喜びたい。

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紙の本黄昏の岸暁の天

2003/02/25 16:48

十二国シリーズの醍醐味を味わえる物語

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

泰麒は「風の海 迷宮の岸」の時から魅力的なキャラクターだ。繊細で優しく素直、周囲への気配りを忘れないという美点と、育った環境から来る自分への自信のなさの上に危うく成り立っている性格。それでいて、伝説と言われた妖魔・饕餮(とうてつ)を指令に下してしまうほどの秘められた力を持つ麒麟である。
驍宗(ぎょうそう)が王となり、順風満帆に見えた戴の国は、阿選の謀反によりめちゃめちゃになる。王・驍宗は行方不明となり、阿選に角を切られた泰麒もまた行方不明。6年の間に王のいない戴の国は、妖魔が跋扈し、阿選によって焼き尽くされた村が点在する荒れ果てた国に変わった。戴の将軍である李斎は、泰麒と同じく胎果でありまた同じ年ごろである慶王・陽子を頼り、謀反人という汚名を着せられて追われる身で、妖魔の巣窟を越えて、命からがら慶国に助けを求めてやってくる。深く同情した陽子が発起人となって、十二国の主だった国々の王・麒麟が協力して泰麒の捜索を始める。
一方、蓬莱の生家に戻っていた泰麒は、角を失くしたため麒麟であった記憶をなくし、泰麒を守るために暴走を始めた指令たちが殺人・殺人未遂を繰り返すために怨恨の的となっていた。そのためにもう麒麟と呼べないほど病み衰えているところをぎりぎり救われることになる。
西王母により病は払われたけれど、指令も持たず転変もできない泰麒。しかし彼は、戴の民としてするべきことがあると、右腕を失くし剣を操ることもできなくなった李斎を伴い(傍から見ればみすみす命を落としに)、戴へと旅立つ。

十二国のオールキャスト登場とばかりに、ユニークな王・麒麟が集まって、泰麒捜索のためにあれこれ手を尽くすありさまがおもしろい物語でありながら、こちらに戻った泰麒が目を覚まして以後の方が強く心に残る。景麒に、何もできない麒麟だった自分が、やっとできるようになったのにまた何もかも失くしてしまったと告げ、「僕はまだ間に合うでしょうか。僕にもまだできることがあるとお思いになりますか」と問うあのシーン。そして驍宗を探しに旅立つ決心を李斎に話すシーン。16歳になった泰麒のまっすぐで純粋な決心、戴の民を思う心情。角を失くしても彼こそ本当の仁の生き物・麒麟なのだと胸を打たれる。
この物語と合わせ鏡のような「魔性の子」を読めば、彼が蓬莱の国でどれほどつらい思いを重ねてきたか、それが地獄のような6年間だったということがよくわかる。それでも泰麒は麒麟の本性を失わなかった。むしろ純化したように思われる。不安と自信のなさから何もできなかった幼少時から大きく成長し、自分がゼロであっても自分のいるべきところを知ってそこにあえて立つ潔さを感じて涙なくしては読めない。どうぞ他の十二国記の物語同様、大団円に終わりますようにと祈りたい。

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3,990円でもう1つの世界が買える本

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冒頭は、ロンの元ペットであるスキャバーズ、実はワームテールがヴォルデモートの手下として戻ったシーンから始まる。これから始まるストーリーの暗い夜明けだ。ハリーの周りはクイディッチワールドカップ、三校対抗試合、と興奮のるつぼだが、明るい華やかな場面に、まるでしみのように「あの人」の影がくっきりうつり、物語はただならぬ雰囲気を漂わせ始める。
ルーピン先生の代わりに来たマッド・アイ・ムーディ先生、他の魔法学校から来た先生・生徒達やロンの兄さん達を加えて、一段と多彩な顔ぶれ。呪いの魔法を習得するハリー、うるさくつきまとって嘘八百のゴシップ記事を書く女魔法使い、チョウ・チャンに寄せるハリーのほのかな思い、ダンスパーティで美しく変身したハーマイオニー(ロンは自分でもなぜかわからないまま彼女が気になってしょうがない)、ハグリッドの恋と初めて語られる生い立ち、なぜネビルが祖母に育てられているのか、などが語られ、限りなく興味をかきたてられる。また前作でこれ以上はないほどかっこよかったシリウス・ブラックも再登場している。
念入りに様々な伏線が張られ、物語は急展開でハリーとヴォルデモートの対決へ。危うく逃げ出せたハリーだったが、息つく暇もなくさらに驚くべき展開が待ち受けていた。

期待を裏切らず、長さをまるで感じさせないすばらしい作品だが、ムーディ先生をどのように扱うかで、もしかしたら書き直したのかなという不自然さを感じた。また、シリウスが今回は端役でちょっと狂言回しみたいという感じを受けた。
ダンブルドア校長はいつもながら、いつもにまして偉大で頼りがいのある魔法使いとして描かれていた。一度はヴォルデモートの側にいたのにどうやら自分の意志で戻ってきたスネイプ、という設定もなかなか興味深い。単にハリーの敵役としてだけでないのである。

胸をつかれる場面もあるし、涙ぐんだり思わず笑い転げたりしてしまうシーンもあるしで、本当におもしろかった(「おもしろかった」では書評にならないか……)。話題の本で、周囲がみな読んでいるからといって焦って読み急ぐ必要はない。じっくりと味わって読んでください。それだけ豊かなファンタジーなのですから。

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