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東方綾さんのレビュー一覧

投稿者:東方綾

30 件中 1 件~ 15 件を表示

「正しく知って正しく怖がろう」

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 東海村臨界事故はあんな事故が起きてしまうということがショックだったが、それとは別に、報道などで中性子がいかにも悪者あつかいされていたのが気になった。それは私が中性子線を利用する研究の機会にめぐまれているせいもあるのだが、だいたい、人の体も半分近くは中性子でできているのに、中性子自体が危険だなんていえないはずだと思うのだ。また、もれたといって問題になるのは、放射能なのか、放射線なのか、それとも放射性物質なのだろうか。そう思っていたので、「正しく知って正しく怖がろう」とある本書の帯の言葉にひかれて読んでみた。
 本書はまずX線、α線、β線、中性子線など各種の放射線や、放射性同位体などの放射線源などの基礎をまとめている。そして、放射線が生物に与えるさまざまな影響について述べている。そこでは、動物実験の結果からの推測や、チェルノブイリ原発事故など過去の事件・事故の被害のデータなどをまとめ、どのくらい放射線をあびるとどの程度の障害が考えられるのか、なぜ放射線でそのような障害がおこるのかをいろいろな角度から解説している。原子核の平和利用に関してはこれまで事件・事故でなくなった人の数は世界中で二桁程度だとか、低レベルの放射線を浴びることは健康にいいのかなどというトピックスに興味をひかれた。
 一般向けに書かれた本だが、それほど易しくはないので、多少は知識がないと読みにくい本かもしれない。せっかくだから、もっとわかりやすくてもよかったのではないだろうか。放射能をイメージだけで怖がっている人にはぜひこういう本を読んでいただきたいと思うからだ。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

<目次>
第一章 ”放射能”という言葉
第二章 人類と放射線のつき合い
第三章 放射線と放射線源
第四章 生物面の基礎知識
第五章 放射線障害のあらまし
第六章 身の周りの放射線
第七章 暴発する放射線
第八章 ヒト以外の生物では
第九章 障害が現れるしくみ
第十章 障害の克服
第十一章 低線量放射線の刺激効果
第十二章 放射線の怖がり方
あとがき

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米沢富美子vs立花隆による「物理と社会と生命と」

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 猿渡賞や科学技術庁長官賞を受賞、日本物理学会長を女性で初めてつとめるなど、日本を代表する女性研究者の一人、現・慶応大学教授の米沢富美子氏が、科学ジャーナリストとして有名な立花隆氏と対談してまとめられたのが本書だ。

 米沢氏が研究を行ってきたアモルファスの理論やそのほかのランダム系の物理などに加え、研究者を取り巻く環境や社会の中での科学についても、広く語られている。難しくなりがちな専門の物理の話も、誰にでもわかるようにやさしく解説されている。

 ただし、本書は91年に三田出版会から刊行された単行本を文庫化したもの。注などは多少増やされているが、本文にはほとんど手が入っていないようだ。とくに、コンピュータやインターネットなどの計算機、情報の伝達スピードなどの記述が、さすがに古さを感じた。アモルファスやそのほかのトピックスについても、せめて、参考文献が新しく付け加えられていたらと思う。アモルファスではないがランダム系を研究してきた筆者としては、手直しをしてほしかった気になる細部がないわけではない。

 しかし、本書の面白みは、ランダム系の研究者が、研究で得た知見から社会や生命を語ろうというところにあるようだ。科学者の社会に対する責任について語られた箇所など、興味深く読むことができた。「複雑系」(文中では「コンプレックス・システムズ」と呼ばれている)に興味がある人にもおすすめだ。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
第一章 物理学との出会い
好奇心豊かな子ども時代
大好きな数学を武器に物理の世界へ
安保と大学時代
日本の大学と研究者
優秀な科学者の条件

第二章 新しい材料としてのアモルファス
アモルファスとはどんな物質か
新素材としてのメリット
アモルファスであるからこそ現れる特性
“生きている”アモルファス
半導体として脚光を浴びた出来事
理論研究の牽引力になった応用研究

第三章 “物”の性質を追究する
世紀末に起こる物理学の大発見
量子力学を道具として確立された物性物理学
“ランダム系”に注目した先駆者たち
ランダムであるからこそ出てくる物性
アモルファスにおけるパイオニア的研究
物理学に残された難問
要素論を超えた新しい概念

第四章 コンピューターが描くアモルファスの世界
応用研究と理論研究のギャップ
物理の言葉で生命を語る
コンピューターを使ったアモルファス研究
多様になった科学研究の手段
コンピューター・シミュレーションのメリット
費用のかかる“ビッグ・サイエンス”

第五章 社会のなかの科学を語る
生命における秩序と無秩序
科学は人の意識を変える
いかに科学を知らせるか
患者として見た医者の役割
なぞ解きの面白さ

参考文献
平凡社ライブラリー版あとがき
用語解説索引

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紙の本「原発」革命

2001/10/25 22:16

安全な原発はできるのか

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 安全性が問題とされる原子力発電だが、現在の暮らしを根本的に変えようとするのでもないかぎり、当分は必要な存在だろう。だとしたら、安全な原発をつくることはできないのだろうか。

 本書の著者によると、安全な原発をつくることは可能であるそうだ。本書では、まず冒頭で代表的な軽水炉原発の仕組みを解説し、その問題点を指摘した上で、従来のものとは大きく異なる原発を提案している。その特徴は、固体核燃料ではなく液体核燃料(フッ化物溶融塩)を用いること、ウラン−プルトニウム燃料サイクルではなくトリウム−ウラン燃料サイクルを使うこと、大型の炉ではなく小型の炉を多数建設すること、の3点である。このシステムを利用することによって、できるだけ単純な構造の炉として設計することができ、炉寿命を終えるまで核燃料の取り替えが不要であるため、安全性の高い原発が建設できると著者は説いている。また、プルトニウムなどの超ウラン元素などが含まれる使用済み核燃料の処理問題も解決するそうだ。それを実現する原発を設計し、技術テストと技術者の育成を行うための超小型実験炉の開発を計画しているという。

 著者は楽観的に描き出しているが、この新しい原発には技術的な問題点や従来の原発に比べて劣る点がいくつか存在するように感じられる。それでも、より安全でより健全な核エネルギーの利用技術を考えるため、別のシステムを構想することは、絶対必要だろう。原発のしくみを知り、エネルギー問題全般を考えていくのにも役立つ一冊だ。(東方綾/東北大学金属材料研究所助手 2001.10.26)

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自然の神秘に魅せられた盲目の少年は生物学者になった

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 先生が教室に持ってきてくれた貝殻に触れて、少年は疑問を持った。なぜ熱帯の貝殻はなめらかでつやがあり、冷たい海の貝殻は粉っぽいのだろう。自然の神秘に魅せられたその少年ヒーラット・ヴァーメイは、全く目が見えなかったにもかかわらず、貝類の生態と進化を研究する生物学者となった。本書は彼の自伝である。子供の頃の盲学校での日々からから、全盲の学生・大学教員としての研究生活、これまでの研究成果や進化の分野の最近のトピックスまでをまとめている。
 正直言って、この本を読むまで、盲目の人は観察や実験が必要な科学者になれないだろうと私は思いこんでいた。しかし、彼は目が見えないからといって研究室に閉じこもっていたわけではなく、世界各地の海岸でフィールドワーク研究を行ってきた。貝殻を目で見る代わりに指で触れて、見える人よりよほど多くのことを感じてきた。ハンデを持っているから、あるいは社会的弱者だから評価されたのではなく、評価されるべき業績を持っているから評価される研究者が、これまでの人生を語っている。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

"Privileged Hands", Geerat Vermeij, W. H. Freeman and Company, 1997.

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東海村臨界事故犠牲者の“凄絶な「生」の姿”を描くルポルタージュ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1999年9月に茨城県東海村のJCO東海事業所で起きた臨界事故は、まだ記憶にも生々しいのではないだろうか。事故が起こってから、もう3年以上たったことが信じられないくらいだ。
 起きてはいけない事故だったけれど、本書は、事故の責任を追及するとか、原子力政策を考えるとか、そういうものではない。ただひたすら、被曝した作業員の治療に当たる医療チームの姿だけに、焦点を絞っている。2001年5月にNHKスペシャル『被曝治療83日間の記録〜東海村臨界事故〜』が放送されているが、本書はそのドキュメンタリーをもとに、単行本化したものだ。
 放射線をもっとも浴びた作業員は、8シーベルト以上の被曝量で死亡率が100パーセントといわれるところ、20シーベルト前後も被曝したと考えられるという。それなのに、はじめ彼は一見どこも悪くないようにさえ見えたという。さまざまな処置がとられ、回復する希望を抱かせたりしたこともあったが、それでも患者の容態は刻々と悪化していく。本書で語られているその様子は、凄絶としかいいようがない。苦闘が続くにつれ、治療を続けることは本人の苦痛を長引かせるだけではないかと、医師と看護婦たちは苦悩することになる。だが、治療をやめることは、即、患者の死につながるのだ。本書では、そんな現場の葛藤もそのまま、冷静な語り口で治療にかかわった人々の姿を描き出している。
 多くの人のインタビューをもとに時間を追って構成されているが、テレビとはちがい文章でインタビューを再現するのは難しい。そこで、言葉だけを伝えることに徹底して、その代わりにテレビでは放送されなかった資料もできるだけ取り入れるようにしたという。だが、よけいな脚色を加えなくても、なんともいえない迫力が伝わってくる。
 生きるということの意味さえ問われているように感じた。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
被曝 一九九九年九月三〇日
邂逅 被曝二日目
転院 被曝三日目
被曝治療チーム結成 被曝五日目
造血幹細胞移植 被曝七日目
人工呼吸管理開始 被曝十一日目
妹の細胞は…… 被曝十八日目
次々と起きる放射線障害 被曝二七日目
小さな希望 被曝五〇日目
被曝五九日目
終わらない闘い 被曝六三日目
一九九九年十二月二一日 被曝八三日目
折り鶴 未来
あとがき
参考文献

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紙の本トムキンスさん コミック

2002/10/15 22:15

不思議な時間と空間の世界へとつれていく、科学読み物の名作のコミック化

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 ジョージ・ガモフによる『不思議の国のトムキンス』といえば、一般向けの科学読み物の古典的名作だ。銀行員のトムキンスが不思議な時間と空間の世界で体験する奇妙な冒険を、イマジネーション豊かに描き出している。それが今度は、古川タクによるコミックとしてよみがえった。

 とぼけた感じがなんだか魅力的なトムキンスに、ちょっとエキセントリックな教授、キュートな教授の娘のモードが主な登場人物だ。トムキンスは休日にたまたま相対性理論の講演会にでかける。だが、気がつくと、彼は光の速度が時速30キロメートルほどでしかない奇妙な世界「のろのろ町」にいた……。そして、バカンスに出かけたトムキンスは、海へと向かう列車のなかでうつらうつらするうちに、ふたたび「のろのろ町」に戻っていた。そこで彼は、教授と二人で奇妙な殺人事件を目撃する……。相対性理論や宇宙論を題材とした科学ファンタジーだ。教授の講演などの形で解説もはさまれているので、ただおもしろおかしいだけではなく、物理的な説明もきちんとおさえられている。

 原作の『不思議の国のトムキンス』が最初に本にまとめられたのは1940年のことだ。だから、少し古めかしく感じられるところがあってもしかたがないと思っていたのだが、このコミックを読んだかぎり、まったくそんなことはなかった。また、手元にあったラッセル・スタナードによる改訂版の『不思議宇宙のトムキンス』と読み比べてみたのだが、驚くほどきちんと内容が再現されていた。登場人物たちが原作より多少コミカルに強調されているかもしれないが、そのためよりおもしろく読みやすくなっている。絵柄もおしゃれな感じで、科学の本としてでなくても、ふつうにコミックとして楽しめる。

 不思議な時間と空間の世界を読者に体験させてくれる一冊だ。原作の『不思議の国のトムキンス』を知らない方にも、ぜひお勧めしたい。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
第1話 のろのろ町
第2話 トムキンスを夢の世界に誘いこんだ教授の講演
第3話 休息の一日
第4話 宇宙についての教授の講演
第5話 脈動する宇宙
第6話 宇宙オペラ
この物語について [ジョージ・ガモフ]
2002年のトムキンス [古川タク]
著者紹介

【関連書】
ジョージ・ガモフ、ラッセル・スタナード著『不思議宇宙のトムキンス』白揚社


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「永遠の輝き」ダイヤモンドをめぐる人々

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「ダイヤモンドは永遠の輝き」というキャッチフレーズは、誰もがどこかで聞いたことがあるだろう。これは1940年代のデビアスの広告で使われたものだそうだが、もうすっかり慣用句として定着している。
 ダイヤモンドの輝きはたしかに魅惑的だ。だが、もし、そのダイヤモンドの輝き以上のことについて知りたくなったら、本書を読むといいだろう。
 ここで描かれているのは、ダイヤモンドをめぐる人々だ。著者によると、ダイヤモンド販売業者の一人は「ダイヤモンド業界の全体は二本の支柱の上に載っている——虚栄心と貪欲さである」と断言していたという。虚栄と欲にふりまわされているのは消費者だけではない。ダイヤモンド採掘の現場で、独特な習慣を持つダイヤモンドの流通の間に、緊張のたかまる原石のカットの作業中にも、さまざまな、ときにはどろどろとした人間模様がある。悪党たちが盗みや詐欺の機会を常に狙っていて、ダイヤモンドが原因だといってもいい戦争も起こっているという。
 いわくつきの宝石の歴史の真実も興味深いが、巨大なダイヤモンド帝国デビアスなど、ダイヤモンド業界の内情にはもっと驚かされる。新しい技術を駆使した探査方法による90年代のダイヤモンド・ラッシュや、新勢力の台頭によるシンジケートの危機など、大きく変わりつつある現状も本書ではレポートされている。
 現場にいあわせた人々の視点で臨場感いっぱいに描き出され、迫力を感じる読み物となっている。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
1 ラージ・ピンク
2 ダイヤモンドの海
3 中王国
4 長い追跡
5 バレンランズのダイヤモンド・ラッシュ
6 古いカルテルの終焉
7 欲望の製造
8 盗品
9 ダイヤモンド戦争
10 カット師
11 ロージー・ブルー
12 ドグリブ族の土地
謝辞
解説
参考文献

【原書】Diamond, by Matthew Hart, 2001.

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「知覚することの不思議」を感じる共感覚者の世界

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 本書の著者にとって、アルファベットはそれぞれ違う色をしているという。単語も色を持ち、たいていは頭文字のアルファベットと同じ色だ。ねこ(cat)は青色、子ねこ(kitten)は黄緑色の単語だった。それが、少女の頃、誰もがそのように感じているわけではないと知ったときには、衝撃を感じたという。彼女は文字に色を感じる共感覚だったのだ。共感覚とは、五感のうちの二つ、あるいは、それ以上の知覚がからみあって起こる。味覚で形を感じたり、音を聞いて手触りを感じたりと、さまざまな知覚がからみあっている例が報告されている。
 単語と色が関連づけられることは、普通の人にもあるだろう。たとえば、「レモン」は黄色、「トマト」は赤のように。しかし、文字に色を感じる共感覚者の場合、感じる色は常に一定で、十年たってから調べてもまったく同じ色なのだ。また、文字に色を感じる共感覚者同士であっても異なる色を感じているのだが、それにもかかわらず共通の色を感じる文字も存在するのだそうだ。知覚するということの不思議さを、あらためて感じさせられる。
 自分の知覚が他の人たちと異なっていると知ったショックに、それが共感覚というものであり、他にも似た知覚を持つ人が存在することを知ったときの安堵感。本書では、著者自身の体験を中心に、最近の研究成果や、共感覚をもつ芸術家についての話など、共感覚について読みやすくまとめてある。研究者の立場から共感覚について解説された『共感覚者の驚くべき日常』と一緒に読むと、いっそう興味深いだろう。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
プロローグ 五十匹の青いネコをパパへ
1 父のために描いた色彩豊かな単語の数々
2 成長過程の子どもたちと共感覚
3 歯医者で出会った共感覚
4 共感覚芸術家キャロル・スティーンと知り合う
5 生存競争を生き抜く知覚
6 作曲家マイケル・トーキーと音楽の色
7 マルシア・スミラックの共感覚的カメラ・ペインティング
8 符号化は人それぞれ
9 さまざまな知能
10 一年は色鮮やかな十二枚の四角形
11 共感覚・イン・サイバースペース
謝辞
解説 養老孟司
参考文献

【原書】
Blue Cats and Chartreuse Kittens, by Patricia Lynne Duffy, 2001.

【関連書】
リチャード・E.シトーウィック著『共感覚者の驚くべき日常 形を味わう人、色を聴く人』草思社

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紙の本数の寓話

2002/07/17 15:15

不思議な数学の世界をかいま見させてくれる8つの寓話

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アラビアンナイトのシェヘラザードが千三夜めに語った物語では、経験と知識の豊かな隠者に靴屋の主人が子供は何人産まれるだろうかと問いかける。アリアドネの糸玉がもつれてしまったテセウスが迷宮で出会ったのは、詩心を持ち合わせたミノタウロスだ。中国の亀の古老は、伝説的な禹皇帝の前に神の伝言を甲羅に記したて現れたときのことを語る。そして、バーミューダ・トライアングルの空間の裂け目に入り込んだ数学教授は、宇宙人に相談を受ける。

 本書は、そんな8つの物語に、数と数学に関する話題が盛りこまれたものだ。

 扱われている内容は、数列、トポロジー、魔法陣、フラクタルにカオスなど。こう書くと難しそうな話題に見えるが、ファンタジーにやさしくくるまれて登場するので、読む前に何のことだかわからなくても心配することはない。物語のあちらこちらに、さまざまな不思議な数がたくさん出てきて、美しい数学の世界をかいま見させてくれる。

 何かというと詩を口ずさんだり、哲学の議論を始めたりする、どこかユニークな登場人物たち。彼らのユーモラスな会話を楽しみ、提示された謎に挑戦していくうちに、いつのまにか数学の神秘を自分自身で味わうことができるだろう。そして、数学的な考え方が現実世界とどのようにつながっていくのか、そんなことまで頭に入ってくる。

 数学が苦手な人、嫌いな人にこそ薦めたくなってしまうような、ちょっとおしゃれな感じさえする一冊である。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
はじめに
第1話 隠者が靴屋に語った森羅万象の物語
第2話 偉大な王様とユーフラテスのイカサマ師たちの物語
第3話 テセウスとミノタウロスの結び目をめぐる物語
第4話 中国の亀の甲羅に記された魔法陣の物語
第5話 アイザック・ニュートンが魅せられた3人の従姉妹たちの物語
第6話 バーミューダ・トライアングルに生じた途方もない物語
第7話 心配症のデミウルゴスとちっぽけな人間たちの物語
第8話 偶然性をめぐって語り合うディレッタントと時計職人の物語
訳者あとがき


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新しい科学の世界を開拓してきた女性たちが語る研究人生

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 猿橋勝子氏は日本の女性科学者の草分けの一人で、「女性科学者に明るい未来をの会」を設立し、自然科学分野の50歳未満の女性研究者を対象にした猿橋賞を作り上げてこられた。本書では、その猿橋氏と猿橋賞の受賞者から計10人の女性科学者が、これまでの研究や人生について語っている。
 どうして研究者になったか、どんな研究をしてきたか、女性であるということが研究者人生にどのように影響してきたか。インタビューからまとめられたもののようだが、研究内容の専門的な部分もわかりやすい言葉で書かれていて、読みやすい文章だ。女性科学者を集めているだけあって、経歴に結婚や出産の年が記載されていたり、子育てと研究を両立させた経験や研究者になると決めたときの周囲の人たちの反応などが語られていたりする。こういった女性だからこその問題への対処の方法はそれぞれだが、いろいろな考え方があるとわかるだけでも研究者を目指す女性には励みになるだろう。
 しかし、本書で読んでもっとも印象に強く残ったのは、各氏の研究に対する態度だった。みなと同じことをやっていてはいけないというのは当然そうなのだが、では実際にどうすればいいのかは簡単ではない。それが、この本では、実際に成果をあげてきた人の言葉からポイントをつかむことができそうな気になり、研究のあり方・進め方をいろいろ考えさせられた。若手研究者なら、女性に限らず読んでおきたい一冊だ。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
推薦の言葉/古在由秀・元国立天文台台長・群馬県立ぐんま天文台台長
未来へ生きる女性たちへ——甘えていては道は開けない/猿橋勝子・「女性に明るい未来をの会」専務理事
遺伝子進化の本質に迫る「ほぼ中立説」/太田朋子・国立遺伝学研究所名誉教授
50年後につながるアモルファスの夢/米沢富美子・慶應義塾大学理工学部教授
信念に支えられた新触媒開発への夢/相馬芳枝・産業技術総合研究所研究顧問
地震が教える地球の中の神秘/石田瑞穂・防災科学技術研究所研究主監
ゾウリムシの複雑さに魅せられて/高橋三保子・筑波大学生物科学系教授
世界に咲かせたい「キラリティ」の花/黒田玲子・東京大学大学院総合文化研究科教授
表面化学で謎解きを楽しむ/川合真紀・理化学研究所主任研究員
人間の英知を超える植物の不思議/中西友子・東京大学大学院農学生命科学研究科教授
隕石が語る宇宙と生命の接点/永原裕子・東京大学大学院理学研究科教授


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音を見る、味に触れる。共感覚の謎にせまる

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 ローストチキンを味わって「丸くてとがりが足りない」と思い、ポケットベルの音を聴くと「赤くて光ったぎざぎざ」を感じる。まるで比喩のようだが、十万人に一人いる共感覚者と呼ばれる人々は、実際に味や音をこのようにも感じることができるという。たとえば、ある共感覚者にとってローストチキンの「形」は、目には見えないけれど手の中で肌に触れて「ある」のだ。
 共感覚(Synesthesia)とは、五感のうちの二つあるいはそれ以上の知覚がからみあって起こる。古くから知られていたものの、その性質は明らかにされていなかった。神経科医の著者は、味覚や臭覚で形を感じる共感覚者の友人と知り合ったことから、この共感覚の研究に取り組むこととなる。
 著者は、友人に被験者になってもらって実験を行い、共感覚が想像の産物ではなく実在することを証明する。そして、脳のどの部位が働くと共感覚が得られるのかを調べていく。本書では、友人の共感覚者らとの会話によって、その探求の過程を小説のように再現している。あわせて、脳の働きの基本や共感覚のこれまでの研究もわかりやすく説明されている。著者はさらに、共感覚の研究で明らかになった脳の仕組みから考察をすすめ、理性と情動が人間をどのように人間らしくしていくのかという問題を議論する。
 徐々に共感覚の謎が明らかにされていく様子は、ミステリーを読んでいるかのようだ。後半50頁を割く理性と情動についてのエッセイは共感覚とあまり関係ない点が残念だが、共感覚の不思議さに驚き、それだけでなく脳と精神の複雑さに改めて気づかされた一冊だった。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
第1部 ある医学ミステリー
 第1章 チキンのとがりが足りない——一九八〇年二月十日
 第2章 裏がえしの世界
 第3章 神経科医ができあがるまで——一九七五年、地下室で
 第4章 正しい脳科学入門
 第5章 「科学的とは思えないな」——一九七七年と一九七八年の冬
 第6章 テクノロジーに溺れる医学
 第7章 もう一人の共感覚者——一九八〇年三月二十五日
 第8章 共感覚、二〇〇年の歴史
 第9章 巻ひげがついた味——一九八〇年四月十日
 第10章 共感覚を診断するには
 第11章 共感覚はどこで起きているか——一九八〇年四月二十五日
 第12章 すばらしい戦略
 第13章 実験をおこなう——一九八〇年夏
 第14章 共感覚者は世界じゅうにいる——一九八三年九月
 第15章 共感覚者は何を感じているのか
 第16章 共感覚に似ているもの
 第17章 ドラッグを使った実験——一九八七年五月二十一日
 第18章 生きている脳を調べる——一九八一年六月二十九日
 第19章 脳は情動で動いている
 第20章 共感覚の意味
 第21章 情動の生きもの——一九八二年十月五日

第2部 情動の重要性についてのエッセイ
 第1章 人間原理
 第2章 ランチサービスと想像力
 第3章 意識は情動の一種
 第4章 人工知能の限界
 第5章 さまざまな知
 第6章 メタファー
 第7章 情動は独自の論理をもつ
 第8章 他者の経験
 第9章 私たちがほんとうに生きているところの深さ
 第10章 理性は際限のない精神のペーパーワーク
 第11章 科学と霊性

訳者あとがき
参考図書


【原題】THE MAN WHO TASTED SHAPES

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「真実はそこにある」?X−ファイルを科学する

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 FBIの捜査官、モルダーとスカリーが奇妙な事件の謎を追うTVドラマ『X-ファイル』をご存じの方は多いだろう。その科学監修をつとめている著者が、各エピソードを支える科学を、生物学を中心に解説したのが本書である。

 『X-ファイル』といえばUFOや宇宙人や政府の陰謀の話で、「本物の科学」なんて含まれているはずがないと思う人も多いにちがいない。しかし、遺伝子の秘密や極限環境にいきる不思議な生物、ウイルスや細菌の謎など、実際の科学をベースにしたエピソードもいくつも登場している。そして、主人公の一人のスカリーは医師でもあり、常に科学者らしい手法でそういった事件を解決しようとするのだ。本書では、そのどこからがフィクションかを押さえたうえで、わかりやすく説明している。

 題材に使われたエピソードはあらすじがわかるようになっているので、ドラマを見たことがなくてもおもしろく読める。もちろん、見たことがあれば間違いなく楽しめる一冊だ。ドラマの裏話もユーモアを交えて語られている。

 著者アン・サイモンの本職は、生化学の研究者で大学教授。科学のおもしろさを知るきっかけの一つがSFだったらしい。そこで、『X-ファイル』を見て科学に興味をもってもらえたらと、本書を執筆したという。『X-ファイル』がきっかけで科学者をめざす人がいてもいいだろうし、そんな若い人にも本書はきっと参考になるだろう。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
真実という基盤の上に
プロローグ
第一章 闇に潜む飢えた影
第二章 虚空からの訪問者
第三章 ミュータントとモンスター
第四章 遺伝子の魔力を解き放つ
第五章 若さの泉を探して
第六章 母なる自然をもてあそぶ者
エピローグ
謝辞
あとがき(X-ファイル監督総指揮クリス・カーターによる)
索引

★詳しい目次はこちら→【目次】

【関連書籍】
金子隆一著『新世紀未来科学』八幡書店
ロバート・セクラー、ランドルフ・ブレーク著『スタートレック脳科学大全』扶桑社
デイヴィッド・G・ストーク編『HAL伝説 2001年コンピュータの夢と現実』早川書房
ローレンス M.クラウス著『SF宇宙科学講座 エイリアンの侵略からワープの秘密まで』日経BP社
福江純著『やさしいアンドロイドの作り方 SFはどこまで現実になるのか』大和書房

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宇宙を解き明かす理論が誕生する瞬間に生きているのかもしれない

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 近代の物理を大きく変化させることになった相対性理論と量子力学。この2つの理論はどちらも確立されたものであるにもかかわらず、両立することができず、多くの研究者たちを悩ませてきた。その中で2つの理論をつなぐものとして有望だとされているのが、本書の主題となる「超ひも理論」だ。

 超ひも理論によると、空間3次元と時間次元以外にも次元が「巻き上げられて」おり、全部で時空次元は11個あるという。また、超ひも理論を使えば、なぜ何種類もの素粒子が存在するのかという疑問を説明する事が可能で、ブラックホールや宇宙の起源の謎を解くかもしれない。実験で直接検証するのは非常に難しいのだが、このような証拠があれば超ひも理論を立証できるという予測が進んでいる。

 非常に難しそうな理論なのだが、本書が難解かというと、そんなことはまったくない。相対性理論と量子力学というものがあるということを知ってさえいればいい。これらの基本的な概念からわかりやすく説明がされており、比喩や概念図が多用されて、ポイントを押さえて紹介されている。超ひも理論を生み出すにいたった歴史的な背景や、第一線で活躍する著者をふくめた研究者たちのドラマも描かれている。宇宙のすべてを解き明かす理論が誕生する瞬間に生きているのかもしれないことを実感させられる一冊だ。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

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地球の隣の星・火星のいま

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 赤く輝く姿から戦争の神の名前で恐れられ、あるいは、運河がはり巡らされて火星人が住むと空想のもとになってきた、地球のお隣の惑星、火星。マリナーやバイキング、そして現在周回しながら観測を続けているマーズグローバルサーベイヤーやマーズオデッセイなどの火星探査機によって、徐々にその姿を明らかにしつつある。本書は、これまでの観測による最新の火星の姿を解説したものだ。

 まずこれまでの火星観測の歴史からはじまり、巨大なオリンポス山やマリネリス渓谷のような特異な地形に、フォボスとデイモスの二つの衛星の謎など、この一冊で火星の歴史から現在の様子まで一通り知ることができる。火星には海が存在したのか、火星からの隕石に生命の痕跡があったというのはどういうことか、また、火星に今も生命を見つけることができるのだろうかというトピックスが、いろいろな情報とともに読みやすくまとめてある。火星を題材にしたSF作品や一見荒唐無稽に見えるさまざまな仮説などの話題もあって、わかりやすいだけではなくておもしろく読めた。

 今後数年の間に、日本の「のぞみ」を含めた各国の火星探査機が続々と火星に到達して、調査することになっているそうだ。どんどん新しい情報が得られていくのだろうが、その前に現在までにわかっている火星の姿を本書でおさらいするというのはどうだろうか。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

【目次】
プロローグ
第1章 火星とはどんな星か
第2章 火星の魅力にとりつかれた人たち
第3章 火星の名所をたずねて
第4章 火星四六億年の歴史をたどる
第5章 謎を秘めた火星の衛星
第6章 火星に生命を求めて
エピローグ 人類にとって火星とは
あとがき
参考文献・サイト案内

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一般向けにやさしく解説した読み物

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 今年初め二ホウ化マグネシウムMgB2が超伝導になるとの発見がニュースとなった。 この物質が超伝導になるのは 39 K で、たとえばこれまでに水銀系の酸化物で発見さ れた最高139 Kに比べるとそれほど高い温度ではない。それなのにニュースになった のは、この物質が2種類の元素からなる簡単な物質で、試薬として市販されているよ うな物質であるにもかかわらず、比較的高い温度まで超伝導状態であり、新たな超伝 導材料として実用化が期待されるからである。高温超伝導といっても、その「高温」 は室温よりずっと下の温度でしかない。しかし、すでに超伝導はすでに実用化がすす んでいる技術なのである。
 「ちょうでんどう」には「超伝導」と「超電導」の2通りの表記がある。どちらも 使われているのだが、基礎の物理の研究者と工業への応用をはかる研究者でおおよそ 使い分けられている。この本ではおもに超伝導がどのように社会に使われているの か、つまり「超電導」の側面をまとめている。本書を読むと、医療や研究の分野です でに超電導物質が様々な分野で使われていることに驚かされることだろう。また、超 電導技術がさらに日常的に使われることが可能になったら、どのような利点があるの か、すでに研究が始められている様々なアイデアが紹介されている。超電導の歴史や なぜ超電導になるかの簡単な説明もあって、一般向けにやさしく解説した読み物であ る。

(東方綾/東北大学 金属材料研究所 助手)

目次
はじめに
序章  超伝導と超電導
第一章  超電導の特徴
第二章  夢の高速列車−−走れ超電導
第三章  超電導が変える医療の世界
第四章  超電導を電気に使う
第五章  超電導で変わる携帯電話
第六章  超電導でスーパーコンピュータ
第七章  超電導で環境をきれいに
第八章  農林水産と超電導
第九章  超電導で究極の素粒子を探せ
第十章  夢の技術−−超電導
第十一章  夢は果てしなく
第十二章  超電導とは何か
おわりに

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