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宮本大人さんのレビュー一覧

投稿者:宮本大人

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執筆者コメント後編

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 もう一つのポイントは、戦時児童文化統制の影響です。

 昭和12(1937)年の「支那事変」以後の日中戦争の泥沼化は、国の物的・人的資源の総動員を必要とするようになり、将来の人的資源として、子供の存在が大きくクローズアップされることになります。このあたりについては、複雑な論理と色んな方向性をもった力が関わり合っているので、第1章をご覧いただきたいのですが、国家が、学校だけでなく、子供の生活のあらゆる局面をコントロールしようとし始めるのです。

 その中で、昭和13(1938)年に「児童読物改善ニ関スル指示要綱」という、子ども向け出版物全般に対する検閲のコードが定められます。この「指示要綱」の影響が、絵本の世界にも及び、絵本の題材の選択や表現方法などに劇的な変化がもたらされます。当時は「絵本」の一種とされることの多かったマンガ本(いわゆる「赤本漫画」)は激減し、弱くて卑怯な敵軍をやっつけてバンザイバンザイといった調子の戦争描写も影をひそめます。そして、「銃後」の守りとして農作業にひたむきに取り組む人々を描いた絵本などが増えることになります。戦争の進行に従って、戦闘の場面を描いた絵本は減っていくのです。

 この本の多くの章が、「指示要綱」以降の統制との関わりの中で、版元や編集者、作家、画家たちが、どのように仕事をしたかを検証する形で組み立てられています。その中には、戦後、丸木位里とともに「原爆の図」を描くことになる丸木俊(この当時は赤松俊子)の仕事や、横山隆一らが旗揚げした「新漫画派集団」の一員であり、この第2巻の表紙にも使われている作品を残した小山内龍の仕事、現代詩人として知られる吉田一穂が編集と「詞」を担当した仕事など、かなり水準の高いものを見出すことができます。戦後に先駆けるような翻訳絵本の仕事も発掘されていて、驚かれる方も多いのではないでしょうか。

 また、「指示要綱」以降、マンガ本が減っていくのに伴って、マンガ家が(コマ割も吹き出しもない、今日言う意味での)絵本を手がける例が増えます。小山内龍は最も成功した例ですが、ほかにも多くのマンガ家の仕事をこの本の中に見出すことが出来ます。もちろん、竹内オサムさん担当の第7章では、マンガ形式の作品、絵物語形式の作品が多数取り上げられます。この「主婦之友絵本」シリーズは、田河水泡、島田啓三、石田英助、大城のぼる、新関健之助、倉金良行など、当時の人気マンガ家たちによる描き下ろしで、マンガ史的にもきわめて重要な意味を持つものと思われますが、今まで全くと言っていいほど紹介のなかったものです。

 第1巻に引き続き、評価の基準や記述のスタイル、分析の視角等々は、各章ごとに、かなりのばらつきがあります。しかし、こうした状態は、この本の主題の厄介さに対応したものだとも言えます。今後さらに批判・検証されるべき問題を多々含んではいますが、はっきり言って、画期的な内容だと思います。絵本の歴史や、「手塚治虫以前」のマンガ史などに興味のある方にとっては、必読の1冊です。また、日本の近現代の歴史・文化・社会と「戦争」との関わりに興味のある人にとっても、ぜひお読みいただきたい本です。不協和音の只中で、一音一音を聞き分けようとすることのできる読者との、出会いを待ち望んでいる本だと思います。

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