海青さんのレビュー一覧
投稿者:海青
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たいせつなこと
2001/10/30 17:47
たいせつなことは、50年たっても100年たっても、たいせつなこと。
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かの内田也哉子さんのはじめての翻訳だそうですが、この本自体はとても地味な本です。でも、この本を選んだ訳者に好感がもてます。
コオロギにとって、スプーンにとって、ひなぎくにとって、あめにとって、くさにとって、ゆきにとって、りんごにとって、かぜにとって、そらにとって、くつにとって、そしてあなたにとって、たいせつなのは・・・。
森羅万象に包まれて、わたしもあなたもいる。
50年以上も前にかかれた絵本ですが、世の中が変わっても「あなたがあなたであること」がたいせつなことなんだよ、と 語りかけてくれる本です。なんと、プラウドなことでしょう。
絵(の背景)がちょっと古いかしら、と思うけれど、それも含めて、マーガレット・ワイズ・ブラウンの詩が、自信をなくしかけたあなたの心をそっとはげましてくれます。
『おやすみなさいのほん』とともに、心のよりどころになる本です。

雲へ
2002/05/14 14:48
ぼく、そらをとんだことがあるよ。
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あなたは、空をとんだ経験をお持ちでしょうか。
わたしは、10年ほど前まで、夢の中でよく、空を翔びました。それが上下にしか飛躍できなくなって、今では夢すらもあまり見ることができなくなっていますが…。
空のむこうへ、高く、高く、雲のかなたまで、遠く、遠く…。
体を動かしてとんだら、こんなかな あんなかなと、心楽しい想いがとても素朴に伝わってきます。作者が幼い日に1度だけ飛翔(と)んだ、浮遊(うか)んだ。その心をとても素直に共有できて、それなのに変にノスタルジックに描いていないところが、とてもすばらしい、と思います。
人間なら誰でも「とぶ」ということに熱い想いを抱いているでしょう。
本当にはとべなくて、飛行機から雲海をながめ、そこに身をおき、空に浮遊(うか)ぶ。
凧を飛ばして風の中に舞うさまに自分を重ねる、高くとぶ鳥に想いを馳せる……。
この絵本がそんな気持ちをゆりかごのようにやさしく揺すってくれています。幼い子にはわかるかしら、と言う意見もありますが、生まれて数ヶ月で、乳母車の中から空をゆく雲をじーっと眺めるのが大好きで、少し大きくなると、たかいたかいや、ふわ〜っと放られるのや、親と親の間でぶらさがりたがる子どもたちにとって、この絵の世界は彼らのもの、だと思います。親子で空をとんで雲まで楽しい旅をしてください。

ゆきとトナカイのうた
2001/12/27 17:11
地球の天辺・北の果てラップランド。白い雪の世界に色彩豊な民俗衣装が美しい。静かで、雄大な絵巻物。
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地球の天辺・北の果てラップランド。白い雪の世界に色彩豊な民俗衣装が美しい。静かで、雄大な絵巻物。
ラップランドのサーメ族の間では、子どもが生まれると、その子にトナカイをプレゼントします。そしてそれは毎年、誕生日に1頭ずつ増えてゆきます。マリット・インガのトナカイがめずらしい白いトナカイを生みました。———
苛酷な自然をそのまんま受け入れて、勤勉にそして楽しく暮らしている人々を、サーメの人々が、トナカイを追って秋の家、冬の家、そして春の家に帰ってゆくまでの一年間が5才のおんなの子マリット・インガを通して、語られてゆきます。
ページをめくる度に驚くほど色あざやかな絵と、静かなたんたんとした語りが不思議なハーモニーを奏でて、心にしみてきます。トナカイを糧として、トナカイを育てながら、幼い子どもでも暮らしの役割を担い、真冬には太陽が昇らない極寒と極北の自然の中で、部族で助け合い、休みの日にはみんなで楽しむ。人々の日常が細やかに描かれています。
特筆したいのは、白一面の中を冬の囲いへ追われひた走るトナカイの群れ、そして、クリスマスの場面です。思い思いの素晴らしい衣装を身につけて人々が町の教会に集います。ホーッとため息のでる美しさです。
それは、この絵本を通して、人々の生活を垣間見てきた私たち読者だから受ける感動!かも知れません。
北欧に憧れている人はもちろん、クリスマスのプレゼントにお勧めの一冊です。
1990年福武書店刊の復刊です。
自然と共存して静かであるがどっしりと生きている人々、絵のタイプはまったく異なりますが、バーバラ・クーニーの『にぐるま ひいて』『満月をまって』などの中の人々を思い出します。

さよなら、「いい子」の魔法
2000/11/21 14:39
いつの世でもどこの国でも恋は従順で勇敢?!それが妖精の呪いにかかっていればなおのこと!!
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昔々、とある国に、誕生のスペシャルプレゼントとして、軽率な妖精に、あらゆる命令にたいして従順になるよう、魔法をかけられたおんなの子がおりました。ウィットに富み、ユーモアのある美しいおかあさまがふとした風邪がもとで亡くなって、自らの欲望を満たすことのみ考える氷のように冷たいおとうさまはお金持ちで爵位を持つ女の人と再婚しました。その人には、2人の娘がありました…。あら あらら どこかで聴いたお話。
従順で逆境を耐え忍ぶ「いい子」のシンデレラを書こうとしてつまづいたこの作者は「人はみんな、従順にふるまったり、無理をしてみんなの期待にこたえようとしたり、思うままに行動できなかったりする“呪い”をかけられているのです。」(訳者あとがき)ということに気がつきました。
こうして発想の転換がなされ、このお話の主人公エラは、だれかの助けを待つ受身のおんなの子ではなく、自分にかけられた“呪い”を果敢にも解き放ち、いとしい王子シャーと結ばれるのです。このシャー王子がまた、考え深くて、行動力があって、お茶目でハンサムときたら、いかにも女の子が好きなお話です。
いつかどこかの国のこのお話は、主人公エラを守り愛する名付け親の台所妖精マンディの存在あってこそ。ほかにノーム、エルフ、オグル、巨人、セントール、ヒュドラ、グリフィン、ユニコーンなど、空想の世界の住人が登場して、あたかも言語のちがう隣国人のように仲良くしたり、戦ったりして人間と隔たりなく生活しています。読んでいて作者のイメージが伝わり、それぞれに愛着を憶えます。
そしていつかどこかの国のこのお話は、ファンタジー仕立てではあるけれど、“自分が自分であること”を求めるいまの女の子に共感をもって迎えられるでしょう。
テンポが早く、ぐいぐいと物語の中に引きずり込む力は見事。でも、その調子で早足で進んでゆくと、急につまずいてしまいそうな箇所がいくつかありました。これが著者のデビュー作だからでしょうか。
1998年ニューベリー賞のオナー賞受賞作品。

シロクマをさがしに
2002/05/21 14:39
おとな向きのナンセンスストーリー、ではある、が、なんともくつろぐ。
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おとな向きのナンセンスストーリー、ではある、が、なんともくつろぐ。老人と犬の絶妙な関係、あなたもひととき、いっぷう変でおかしな世界へどうぞ!
動物園のシロクマの生活が惨めに思えるわしは、ほんとうのシロクマの暮らし振りをみたいと、北極へ出かけます。ゴルフバッグにすべての荷物を詰め込み、愛犬ルーを引き連れて!
北極にペンギンが…。老人(わし)と犬のルー、絵が彼等の性格を見事に顕わしてとても楽しい。とてもおかしい。荒唐無稽であるのにあったかい雰囲気です。
何だか、現実の気ぜわしい生き方なんか、人生なんかどうってことない、ゆっくり行こうよ、という気分になること請け合い、ぜひお試しを!
この作で日本初登場のハリー・ホースはイギリスで大人気の挿絵画家とか。新聞に政治マンガを書き続ける一方、子どもの本を30冊以上描いているそうです。

ルドルフといくねこくるねこ
2002/04/16 16:35
お久しぶり!今日のはなしは昨日の続き—前作から14年経ったけど、ルドルフ健在。
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お久しぶり! 今日のはなしは昨日の続き—前作から14年経ったけど、ルドルフ健在。さあ、今回も、ルドルフと仲間たちの世界へ レッツ・ゴー!
『ルドルフとイッパイアッテナ』『ルドルフともだちひとりだち』に続く(と言ってもだいぶ待たされたけれど)3作目。杉浦さんの挿絵もますます冴えます!
初版で読んだ子どもたちはすでに成人? してるけど、ずーっと読み継がれている人気本。私たちが『寅さん』の世界を楽しむように、子どもはすーっとルドルフと仲間たちの世界に入り込んで、彼らといっしょに行動しちゃうのでしょうね!
その時の気分で、イッパイアッテナの飼い主さんの家と神社の軒下を行ったり来たりしながら、自己自立を貫いているルドルフのもとに、ある日、川向こうからかつての敵ドラゴン兄弟が相談ごとを持ってやってきた。——
何ともいえない気持ちのよいけだるさの中で、話は思いがけない方向へ進んでゆきます。
イッパイアッテナ、ブッチー、ブルドッグのデビルにドラゴン兄弟が絡んで、彼らが持ってきた相談ごとを解決すべく、ネコたちが動きます。背景になっている江戸川べり、浅草の仲店、浅草寺境内の様子が、なつかしい日本の味わいを醸してくれます。日常の中の非日常がすっかり日常として受けとめられる世界を、斉藤さんは見事に構築し、子どもにはワクワクする冒険ごころを、大きい人には、なつかしさとこそばゆさを伝えてくれます。
ブッチーに血統書つきの恋人ができ、川向こうに行ったイッパイアッテナにもどうも彼女が…。はてさてわれらがルドブン(ルドルフ親分の略)は、と言うと、まだまだかつての飼い主・岐阜のリエちゃんを忘れられないらしい。
取りたてて珍しい話ではないのだけれど、斉藤さんは(特にこの話は)、さすがにストーリーテラー。物語のあちこちにかくし味がほの見えて、読む者をひっぱっていきます。そして、読んでやろうじゃないの! と思ってしまうおもしろい「もくじ」のつくりです。
わたしは、なんと言っても永遠の男の子・ルドルフがすき。
ところで、ね、ネコが何匹も電車に乗りあわせたらあなたなら、どうします?

おまもり ホロコーストを生きぬいたある家族の物語
2002/02/19 14:55
わたしは、5歳から11歳まで収容所以外の世界をしらなかった…。
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ドイツからオランダへ、そしてまたドイツへ——。わたしは、5歳から11歳まで収容所以外の世界をしらなかった…。
ホロコースト。ヒトラー台頭で、人種差別政策のあの忌わしい極限の恐怖の生活を強いられたユダヤ人たち。その中で、常に生きることに照準をあわせ、考え、行動し続け、幸運にも生きのびることのできたある家族の記録です。
娘マリオンの記憶をしっかり者のおかあさんが補って、語られます。
マリオンはおにいちゃんのアルバートと靴屋のおとうさん、いつも前向きなおかあさん、おじいちゃん、おばあちゃんとドイツの小さな町ホーヤに住んでいました。
——ユダヤ人に対する不買運動、強制収容所の設置(1933)、ニュルンベルグ法の制定(ユダヤ人の市民権剥奪、他民族との婚姻の禁止)(1935)——
暗雲のきざしが見えはじめた頃、家族はアメリカへの移住を考え始めました。そして、それは、思わぬ道を辿るアメリカへのはてしなく長い旅の始まりだったのです。
目次の隣ページに出ているちいさなヨーロッパ地図をご覧ください。それは彼らの旅(と言ってよいならば)がどんなに長く厳しいものだったか、私たちに物語ってくれます。
地図をみながら私たちも辿ってみましょう。
(1938)ドイツ(ホーヤ〜ハノーヴァ強制撤去)——オランダ(ロッテルダム〜ハウダ収容施設〜ヴェステルボルク収容所)——ドイツ(ベルゲン=ベルゼン収容所〜死の列車〜トロビッツで開放)——(1945)オランダ(強制移住者としてアムステルダム〜ブッサム)——アメリカ移住へ(1948)
彼らの軌跡がたんたんと語られます。余分なことはこそぎとられ、その時、あったこと、起こったことが、ひたひたと、胸にしみ込んできます。そして同じ人間が間違って作り上げてしまったこの歴史を、その証人と一緒に辿っていくうちに、読者は、どんな状況でも、人間の生への希求に、光りは射しているのだと気づくでしょう。
同じ大きさ、同じ色、同じ形をしたそっくりな4つの小石を集めることができれば、生きのびられる…。
マリオンとその家族を死の淵から救ったのも、彼らの生きのびようとする強い意志の結束だったのではないでしょうか。
巻末にリストアップされているホロコーストの本ともども、家族で読んで話しあってみてはいかがでしょうか。

ジェイミーが消えた庭
2002/02/19 14:46
ぼくは、たしかに、あの難関ロードをジェイミーと完走したんだ!
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数学の点がちょっとよいくらいで何の取り柄もなかったぼくの生活は、ジェイミーが転校してきて変わった。——
裏庭から裏庭へと駆け抜けて、住人に見咎められずにどこまで行けるか競いあい、自分の運や力をためすクリーピング。ぼくのにいさんカールも伝説のクリーパーだった。ジェイミーとぼくはもう少しで、最難関ロードをやっつけるところだった。なのに、ぼくのヘマで、ジェイミーは警察に捕まり、怒ったジェイミーはパートナーを解消すると言う。ぼくは何とかして、ジェイミーの立場と機嫌をなおしたいと、ぼくなりに知恵をしぼる。それなのに、ジェイミーはぼくをおいて火事で死んでしまう。
ゾクゾクハラハラする大人の知らない子どもだけの秘密の世界、を覗く気分。彼らと一緒にダッシュして『丸住』を避け、『カゲ』に入り込み『犬のルール4番』を使って運動場までかけぬける——
兄カールの弟(過ぎ去りし自分)へのやさしさ、ちょっと不良少女のルース、そして悪たれ達、登場人物もピタっ。
ロバート・ウェストールの作品に出会い作家を目指した作者21歳の作品。友情と喪失のせつなさを駆け抜ける思春期のモニュメント!
あの夜、ジェイミーは本当にぼくと走ってくれたんだ。———

炎の秘密
2001/12/28 16:26
地雷で姉を失い、両足切断した実在の少女ソフィアに、作者は何を見たか。
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アフリカ東南部の小さな美しい国、モザンビーグ。1975年、ポルトガルの長い支配から開放され独立したのも束の間、政府対反政府軍の長い内戦に巻き込まれた普通の人々。家族を一瞬のうちに殺され、侵略、剥奪、殺戮を逃れ生まれた土地をあとに、住むところを求めてあてどない旅を続ける人々。
1983年、12才の少女ソフィアも父を失い母、姉、弟と安心して暮らせる場所を求めてやっと落ちついた地で、今度は地雷にあった……。
雨上がりの道ですべってちょっと道路からずれた途端、地雷は爆発して瓜ふたつの姉マリアは死に、ソフィアは両足切断……。
姉の死を乗り越え、病院、施設で闘病とリハビリに過ごした孤独な日々。義父との軋轢、家出。好きな縫製の仕事を身につけ仕事師として独立するまでのことがソフィアの心の声で読者に語りかける。12才の子がこんなこと、できるの、という思いを払拭する生来の不屈の魂を支えているのが、ムアゼナばあさんの教えてくれた「炎の秘密」…。
このような災難(とだけ言えるのか)に遭遇する子ども全員がソフィアのように自らの力で自らの生きる場所をみつけることは出来ない。
しかし、この本を読んだ子どもたちはきっと彼女の恐怖を共有するだろうし、このような苦しみを同じ人間が作り与える結末を、理不尽で許せないと痛感することと思う。そして、彼女(=人間)の再生力に感嘆するだろう。そして現実に起こっているアフガン状況にしっかりした目を向けるに違いない。
この本はノンフィクション文学であるが、スウェーデンの子どもたちが「この本絶対読んで!」とインターネットで薦めているという。
作者は『少年のはるかな海』(偕成社)など現代スウェーデン児童文学の旗頭のひとり。モザンビーグへ移り住んで、たくさんの同じように足を失ったばかりの子どもたちのなかからソフィアを見つけた、という。ほかの子とちがう雰囲気ゆえに。
そして、この日本語版は、当時ソフィアと同い年(12才)の訳者のお嬢さんの、ぜひ日本の友だちにも読んでほしい、との薦めで実現したという。

約束の丘
2001/10/16 16:52
2001年9月11日にアメリカで起きたテロ事件は、いま世界中を不安と恐怖のうずに巻き込んでいます。
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2001年9月11日にアメリカで起きたテロ事件は、いま世界中を不安と恐怖のうずに巻き込んでいます。これももとは、信教のちがいが始まりでした。
15世紀末のスペイン・バスク地方ビトリアが舞台。
信ずる宗教のちがう人々——国教であるキリスト教を信じるスペイン人、国を追われ世代を経てもユダヤ教を信じて生きるユダヤ人、キリスト教に改宗したと見せかけキリスト教会に通いながらなおもユダヤ教を信じるコンベルソ(マラーノ)と呼ばれる人々。過酷な歴史の重さを潜り抜けて、それでも人々は助け合って生きていました。スペイン国王のお触れがでるまでは。———
何がそんなに楽しいのだろう。丘をおりてくるあいだ、少年たちは笑いどおしだった。
(中略)笑いはわけもなくこみあげてきた。それもそのはず、少年たちは15歳。みどりの風が、一輪の野のスミレが、陽気に飛びかうツバメが、春の到来を告げる季節だった。——
はじめの1ページで完全に著者の手の内に入ってしまう、心地よいリズムのある文。
あー 15才の少年たちの友情と成長の記だな、ファン、イサーク、フェルディナンドの。
ところがページをめくると、物語は思いもかけず次から次へと驚きのドラマを展開してゆきます。あの笑い転げた3人の少年を巻き込みながら。———
ユダヤ人に対するスペイン国外への退去命令。それが生んだ人々の疑心暗鬼の結末。ペスト発生。多くの身近な人々の死。そんななかで、信じていたキリスト教を捨てねばならないユダヤ人ファンの葛藤と決意。彼を支え、見守るそれぞれ立場の異なる2人の友。
そして国外追放の日がやってきます。追われる身でありながら、ビトリアの街をペストから死守したのはユダヤ人医師たちでした。
別れの時を迎え、スペイン人は云います。私たちにしてあげられることは?
そこでユダヤ人は云うのです。私たちの亡き兄弟たちが眠るユダヤ人の丘をずっとそのまま残していっていただけますか。—————
そして、この約束はどんなに時代がかわろうと守られたのです。460年後の1952年、1492年ビトリアを去ったユダヤ人の子孫との新たな約束が交わされるまで。
物語は今もってとても大きな重い課題を投げかけます。でも希望が見えます。綿々と続く人類の歴史のひとこまとして、そこに生きた人々の誠実さに、この約束が守られたという史実に心うたれます。ひとりでも多くの若者に読んで欲しい本です。

かぐや姫
2001/05/22 17:28
TimeCapsuleMessageforthe21thCentury———
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Time Capsule Message for the 21th Century———
たなびく雲にのって、天のはごろもをまとったかぐや姫は、なげきかなしむ、おじいさんと、おばあさんをのこして、しずかに天にのぼっていきました…。
あの絵本はいつ、どこへいってしまったのだろう。幼い頃ともだちだった……。
その懐かしい絵本のいくつかが帰って来た。講談社の昔話絵本です。つくりも昔のまま。
一人っ子のわたしは、それらの本の絵に話しかけながらページを繰ったもの。このかぐや姫の絵をみて、絵本でみた昔話のひとつひとつが、また息を吹きかえした。特別の時、祖母が目の前で焼いてくれたカルメ焼がふぁっと膨らむさま、あのなつかしい甘さと共に。
——天のはごろもをきたかぐや姫は、もう天の人になり、人の世界のことはすっかりわすれてしまいました。——
だから、あんなにいつくしみ育ててくれた、おじいさんおばあさんをおいて、天に帰っていけたのだと、幼いながら、必然とか運命とかをおぼろげに受け入れたのだろうか。涙をながしながら心が昇華されていた気がする。それは、ひとえに、この絵本が見るもの、読むものに、すなおな心を呼び起こす絵であり文だからだ、と思う。
家の佇まい、庭のうつくしさ、人々の彩りゆたかな着衣の妙……、そして平明な無駄のない美しい文章。絵と文のハーモニー。(今回は、現代かなづかいにあらためたという)
時代(初版1930年代)は移っても、美しいもの、まっすぐなもの。納得のいく結末へと導いてくれる話の展開は、読む、聴く、ながめる者に心地よいやすらぎを与えてくれる。
子育て現役中のおかあさん、若い人々,教科書の古典とちがったぬくもりをどうぞ。
いまの子ども達はどう受けとめるだろう。孫がもう少し大きくなったら、いっしょにページをめくるのが楽しみである。
一寸法師がすでに出て、猿蟹合戦、舌切雀、桃太郎、かちかち山、浦島太郎、花咲爺と続々登場。うれしい復刊です。

世界のむかしばなし
2000/10/31 17:46
このお話集には、短くて、おかしいお話が詰まっています。
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世界各国から集まったむかしばなし14篇。
“七人さきのおやじさま、小さなおうち、くぎスープ、ちびのこひつじ、おばあさんとぶた、だれがいちばん大きいか、このよのおわり、やりこめられないおひめさま、五本のゆびさん、いたずらおばけ、こなべどん、ねこの大王、はんぺらひよこ、きつねのたび”
瀬田さんのなつかしい語り口が復刊本として戻ってきました。
昔話の本、語りの本は今年もたくさんでています。でもこの本には特に、日溜りの中でまどろんで夢みたおどろきと、それを楽しく包みかえすぬくもりが感じられるのです。
このお話集には、短くて、おかしいお話が詰まっています。
よく知られたお話も再話者の心と体と頭をとおって、微妙にすがたかたちをかえて生まれ出ます。この本は、言うまでもなくそれを安心して受けとめ、その世界で想像をふくらませ、子どもに伝えてゆける、瀬田さんの再話です。
この本がはじめて出た1970年代は子育ての真っ最中、子ども達に早く寝てもらうために?毎晩読み聞かせをしたものでした。幼い子から眠り始めて、最後まで長男は目ぱっちり。こちらはうつらうつらしながらも日常の面倒なことなど突き抜ける磊落さを感じていたような気がします。
『七人さきのおやじさま』『いたずらおばけ』『ねこの大王』『くぎスープ』など良く読まされました。
お話のおかしさや不可思議さを子どもと一緒に味わいましょう。
太田大八さんの力強い絵がまたまたそれぞれのお話の想像を描きたてて楽しいです!!
お話の種本としてもよく使われます。1971年学研刊の復刊。
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さよならエルマおばあさん
2000/09/29 15:25
死ぬということは生きるということ
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この絵本の素晴らしさに感動してぜひ紹介したい、と云った友人は、つい最近父上をなくされた人。その父上を看取ったあれこれが、この絵本とだぶり、思い出され、つらくてやっぱり書けないと云いました。
85歳のエルマおばあちゃんの、癌の宣告から死に至る一年間の、おばあちゃんに寄添う猫の目を通して綴られる写真と無駄な言葉は一言もないドキュメント。
作者とエルマおばあちゃん、家族の人々の信頼なくしては描き出されなかった厳粛なと・きを、私たちは共有するのです。
ともかく、見てください。読んでください。私たちに、私たちの身辺に必ず訪れる死を、やさしく、静かに受けとめられるでしょう。
そして、あなたに子どもがいたなら、いつの日か時を違えず、人の“生と死”を語りあう大切な本(みちしるべ)になるでしょう。
エルマおばあちゃんは、自らの生に責任を持つことによって人が美しくなるということを、死ぬことは生きるということだと、死への旅立ちはその人の知性と感性の総決算であることを伝えてくれます。
エルマおばあちゃんの一家にめぐり合った作者の誠実なあとがきを読んで、自らを生かしながら、それでも相手をも生かすことを、考え、努力したとき、人と人との絆はいつまでも生きてゆくものだと、深く感動しました。
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波紋
2000/08/04 18:41
多感な少女の5歳から思春期にかけての魂の彷徨
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【この夏、あなたもあの頃に帰って、内なる魂の声に耳をかたむけてみませんか!】
翻訳ものを読むとき、時としてその話に訳文がなじめず原作ってこう書かれていたのかなあ、と思うことがありませんか。
でもご心配なく!この本は、言葉、文章がすすっと心地よく主人公の心の世界へ私たちを連れていってくれます。
ドイツの話。戦争の足音が聞こえ始めた町をあとに、母と2人、田舎の僧院の大叔父と叔母のもとに身を寄せる、鋭い感性を持った5歳の少女。
精神世界(僧院での生活)と現実世界(田舎の自然の中で生きる人々とのふれあい)を行ったり来たりしながら成長してゆくひとりの少女の魂の記録ですから、明るく楽しい物語とは言えないのに、はじめの3行を読む間に私の心は少女の世界に吸い込まれていました。物語は少女の一人称で進みます。
外の世界とかけ離れた、静謐で神秘的な僧院の中のこと、わがままとおもえるほど自分にまっすぐな魂ゆえに起きる不幸な出来事、未知なる自然への逍遥、死にゆく祖父との邂逅(めぐりあい)、同性へのあこがれと失墜、娘の心の彷徨を理解できない父母との葛藤…。やがて6年経って再び訪れた田舎そして僧院、2人の少年との友情も変形していって……。
思春期をむかえ、昔とかわらぬ“聖なる泉の波紋”をみて、少女ははっきりと、自分の生を導いてゆくのは、“精神の鋭い透明な法則”であることを悟るのです。
60年を経て、時代の様相も、人の考え、心の持ちようも変わりましたが、この若き魂の成長記は未だ私たちの心を捉えて離さない普遍性をもっています。
私が嬉しいのは、自分にたちむかうまっすぐさと、抵抗してまで、容易に受容しないくせに、人が生きるのに抗えない購えないものがあることも理解する清明な心です。
かなり宗教色が濃く出ていますが、日本の子どもたちにとっても、異文化世界、僧院の様子に不思議な魅力を感じるのではないでしょうか。思春期の、そして若い人たちにぜひ立ち寄ってほしい一冊です。
とにかくルイーゼ・リンザーの筆運びは素晴らしく、たんたんとした文章なのに想像力を掻き立たせ、作者の心に添った上田さんの日本語に、あなたは極上の文学を満喫すること請け合いです!
「ことばを紡いで書く人、それを読んで追体験する人、その双方にはたらくことばというものの持つ力をあらためて思った」 と、訳者も後述しています。
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