アキアカネさんのレビュー一覧
投稿者:アキアカネ
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紙の本アウステルリッツ
2003/08/13 20:54
類を見ないふしぎな世界——目の鋭さがすばらしい
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読み終わったあと、久しぶりになんとも形容のつかない、ぞくぞくする感動におそわれた。
ふしぎな語り口である。ヨーロッパの歴史と重なった過去をもつ「アウステルリッツ」という謎の人物の個人史もさることながら、さまざまな物を見つめる視線がきわめて印象的なのだ。
収容所のベッドに残されたガサガサのわら布団、旧収容所の町に残されていた、かつてどこかの居間を飾っていたらしい古道具、丸いランプシェードに描かれている為に永遠に循環して流れつづける大河、ダム湖の底に今も残っているはずの消えた集落の写真、1世紀半前から時を止めてしまった月面学者のビリヤードルーム、暗闇の中で目を光らせる夜行獣、ランプの光にあつまってくる無数の美しい蛾……。
駅の建物や砦、裁判所などのヨーロッパの重厚な建物が出てくる反面で、そのような小さな目立たない事物や生物が独特の書きぶりでとらえられている。そしてそれらの向こうに各様の歴史や、消えていった人間たちの生き様が見えてくる。冒頭のフクロウの目の写真がいみじくも語るとおり、暗闇を透かすすばらしくいい「目」をもっている著者だと感じた。じつに驚くべき、熟読玩味したくなる一冊。
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