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JOELさんのレビュー一覧

投稿者:JOEL

300 件中 1 件~ 15 件を表示
チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害 科学的データは何を示している

チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害 科学的データは何を示している

2012/04/29 20:28

類書と照らし合わせれば、チェルノブイリ原発事故の影響の程度に見当をつけられる可能性がある

11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は、チェルノブイリ原発事故から25年経った2011年4月にドイツで刊行された。日本での出版は2012年3月30日である。チェルノブイリ原発事故による健康への影響についてまとめた最新の本である。「科学的に証明されていない」という言い方で長らく不明とされてきた、チェルノブイリ原発事故の影響について本格的に論じている。これは注目できる一冊だ。

 本書がすぐれているのは、データや統計を可能な限り、たくさん掲載している点である。日本国内にも、放射線の影響について論じた本はいくつかあるが、その中立性、客観性、科学性という点で、今ひとつ物足りなさが残る。そうした弱点を、おおむね克服できていると思われるのが本書である。実質110ページに過ぎないが、その内容はとても濃密である。

 チェルノブイリ事故に関しては、情報公開が不完全で、健康への影響に関して明らかにすることがタブー視されたり、情報操作を受けたり、矮小化されてきた。そのため、正しい情報が日本はもちろん、国際社会にも伝わっていない。

 本書もIAEAやWHOなどが、健康への影響を小さく見せかけようとしている点を指摘する。
 実際、大規模な健康調査が事故直後から継続的になされてきたかと言えば、それは欠如している。1986年の事故当時はソ連の末期であった。事故からほどなくして体制が崩壊したことにともなう社会的混乱のために、きちんとした調査がなされてこなかった面がある。

 ただし、それは大規模な疫学的調査が不足していたのであって、なんらの調査も行われてこなかったことを意味しない。ベラルーシ、ウクライナ、ロシア、ドイツ、北欧といった放射性物質がたくさん降下した国々や地域レベルでは、それなりの調査や研究が積み重ねられてきている。
 なかには、調査研究の方法に妥当性を欠くものもあるようだが、そうした調査から信頼するに足るものをいくつも選び出して、まとめてみせたのが本書である。

 つまり、「独立・中立の機関による大規模で長期的な調査が行なわれていないために、チェルノブイリ原発事故の完全な全体像が描けないとしても、その傾向を把握し、提示することは可能である」(p.13)として、刊行されたのが、この本である。

 探し求めてようやくたどり着いた本という印象を持つ人も、多く出るに違いない。低線量であれば、自然界にも放射性物質はあるから心配はない、といった言説が妥当であるのかどうか、本書を読み終えれば、自分なりの結論を得られるだろう。
 いや、読み終えたとき、チェルノブイリの事故の影響の大きさに驚いたり、怖くなる可能性もある。事故の調査や研究がタブー視されたり、矮小化されてきた理由も、このあたりにあるのだろう。

 健康への影響が、本書におさめられた数々の調査結果から読み取れる。ガンだけでなく、さまざまな影響があらわれていることを伝えているのだ。旧ソ連圏だけでなく、ドイツ南部のように比較的たくさんの放射性物質が降下した地域でも起きている。そして、巻末にあげられた膨大な参照文献の数々がその説得力を増している。

 原子力の普及のためには都合が悪い事実を隠しておきたい政府や国際機関はともかく、WHOという本来、人々の健康を守るために設立された機関は、その役割を忘れてしまっているのではないか。旧ソ連圏やヨーロッパで出された論文から、これだけのことが分かっているのだから。

 日本人の監訳者はあとがきで、「放射線被ばくが人間の体にどのような影響を与えるかは、じつはほとんど解明されていないと言うのが、現在の私の実感である」(p.150)と述べているから、医師として慎重な姿勢を保っている。本書の刊行で、タブーを打ち破ろうといったつもりはなく、淡々とこなしている。そうした人が、翻訳に関わっているからこそ、かえって耳を傾けてみようという気持ちを読者に起こさせる。
 
 健康への影響を、この書評欄でかいつまんで書くのは困難だと感じた。ぜひ、手にとって読んでみられるといいと思う。

 なお、著者は「核戦争防止国際医師会議ドイツ支部」だが、「核戦争防止国際医師会議」は1985年にノーベル平和賞を受賞している。

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EVERNOTE WORKING 仕事のあらゆるシーンで役立つエバーノート活用技

EVERNOTE WORKING 仕事のあらゆるシーンで役立つエバーノート活用技

2012/04/29 10:17

Evernoteの初心者から中級者までをカバーする本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 Evernoteの活用術の本は、今ではたくさん出ているが、それぞれに特長と想定読者が違う。本書は、初心者からビジネスシーンでの活用までと幅が広い。2010年12月発売なので、少し時間が経っているが、この幅の広さは捨てがたい魅力だ。

 アカウントの取得から、web、クライアント(windonws、mac)、iPad、iPhone、Androidなどのデバイスごとに何ができるかまとめてある。ノートの作成法、タグの付けた方など、かなり懇切丁寧にまとめられている。
 
 Evernoteを始めたが、いまひとつ活用法が分からないという人は、こうした本を手にとって、ひと通り学習するとよいのではないだろうか。
 ふだんから情報整理やその活用を実践できていない人は、アプリを入れたものの、いつのまにかEvernoteを放置してしまうことにもなりかねないし、そうなっている例は多い。そうした人が、再入門的に本書を読むのもよさそうだ。

 Evernoteのすごさは、ワードファイルも、写真も、音声もすべてひとつのノートにまとめられるところにある。これまでのPCではひとつのフォルダに置いておくことぐらいしかできないが、Evernoteでは有機的にまとめておくことができ、あとから知的生産活動がぐっとやりやすい。

 そして、何といっても、OCR機能があるので、文字検索が容易にできることだ。これはすごい。iPhoneなどでEvernoteを利用すれば、GPS機能で位置情報も記録できる。名刺をもらったときに、訪問先の会社の位置を記録してしまえるのだ。本書ではGoogleマップと併用して、次回に相手先を訪問するときの経路を表示させる仕組みも説明している。時間と労力を省くことができるのだ。
 Eye-Fi カードを導入すれば、PCを経由しなくてもデジカメ画像をPicasaなどに取り込むことができることにもふれている。

 アイデアを生む出すための活用法(第4章)、社内でデータを共有する方法(第5章)、タスク管理の方法(第6章)、営業ツールとしての活用法(第7章)などは、ビジネスシーンでの活用法だ。
 こうした仕組みを導入すれば、会社での生産性が高まる。これまでだと有料の高額な営業支援ツールに頼っていたのが、無償になる。ただし、無償利用には上限と機能の制限があるので、その点は踏まえる必要がある。

 Evernoteの本で何を選ぶか迷っている人は候補にあげてもよい一冊といえる。

 追記: 2012年4月25日、Googleが”Google Drive”というサービスの開始を発表した。クラウド・サービスだが、OCR機能も持たせるようだ。Microsoftも、その数日前に、”MS Skydrive”の充実を発表した。
 Evernoteから、こうしたサービスへの移行が進むかもしれない。あるいは、DropBoxやEvernoteは機能をいっそう充実させて対抗するのかもしれない。要注目である。

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内部被曝の脅威 原爆から劣化ウラン弾まで

内部被曝の脅威 原爆から劣化ウラン弾まで

2012/04/26 20:14

低線量被爆の影響について、理解を深めるのによい本

10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 内部被曝、外部被曝、すっかりなじみのある言葉になってしまった。本書は、内部被曝の恐ろしさを、被爆者の治療にあたったひとりの医師として記している。出版されたのは2005年6月のことだ。読み終えて、放射線に対する不明を恥じた。日本は唯一の被爆国なのに、きちんとした放射線に対する知識を持たないままにきてしまったのだ。

 それは、本書によれば、放射線の影響は軍事機密であり、核弾頭を大量に保有し、かつ原発を100基以上もつ米国の圧力のもと、公にされてこなかったからということである。
 広島への原爆の投下後、1週間もたってから爆心地にはいった人が原爆症と思われる「ぶらぶら病」(倦怠感、疲労感のために日常生活にも困る症状)に苦しむ例を著者は医師としてみてきた。

 広島には戦後すぐにABCCという研究機関 がつくられて、被爆者の健康調査が実施された。これは、のちに放射線影響研究所となるが、日米共管である。ABCCにあつまったデータは米国に送られ、日本人にはあきらかにされなかった。原爆の影響は、被曝によって直接的に強い放射線、熱線、爆風を受けて多くの方が亡くなった、それがすべてとされてしまったのだ。その後に続く低線量被曝の影響は隠し通された。
 この体質は、原子力の権威であるIAEAや、健康に関わる権威であるWHOもひきついでおり、「科学的には不明」とされている。

 これは広島にかぎらず、チェルノブイリ原発事故の影響、アメリカの核実験場周辺住民への影響、全米各地の原発周辺の住民への影響に関しても、あてはまる。つまり、こうしたことはほとんどタブーとなっていて、なかなか陽の目をみないのだ。一部の研究者や医師が告発を続けており、著者はそのひとりとなる。

 おどろいたのはイラクやコソボ紛争で使用された劣化ウラン弾についても、放射線によるとみられるガンや白血病、免疫の低下などが起きていることだ。著者は現地に足を運んで確かめている。

 低線量被曝の影響は、高線量被爆よりも少ないとみられがちだが、カナダ原子力委員会のアブラム・ペトカウは「長時間、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間照射するよりたやすく細胞膜を破壊する」(p.91)ことを実験によって確かめている。

 海外でもヨーロッパのECRRは低線量内部被曝の有害説に立っている。しかし、総じて、低線量内部被曝の影響に関する知見は大きな圧力がかかったり、反論にあったりして主流になりえていない。
 米国の原子力施設(原発、核兵器工場、核廃棄物施設)周辺の乳ガン患者は、それ以外の地域よりも高いとするJ・M・グールドの調査結果(p.141)は日本も検討した方がいいのではないだろうか。

 著者自身が広島で被曝した経験をもとに、高齢になっても、こうした著書で危険性を指摘し続ける。ただ、本書はデータや統計資料が少なく、もっと科学的な装いをこらしてもよかったのではないだろうか。新書にそれを求めるのは無理なのかもしれないが、もう少し学術的な書物の方が好ましい。著者の警鐘が世の中に響き渡るためにはそれが重要となるだろう。本書の価値はゆるがないだろうが、体験的に語るだけではなく「医学の水準」で論じてほしい。

 定説はないとか、科学的に証明されていないと言い続けるのではなく、できる健康調査は国内外を問わずにしっかりやって、結果を世界中に広く開示してほしいと思った。それ以外に、低線量被爆の影響を明らかにする道はないのだから。

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財務省が隠す650兆円の国民資産

財務省が隠す650兆円の国民資産

2012/04/24 22:03

国民を幸せにする国政運営はいつになることか

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 苦笑しながら読み終えた。ここまで霞ヶ関官僚の悪口を書き連ねてあるとは思わなかったのだ。古巣の財務省はもちろん経産省も遡上にのぼる。快刀乱麻とはこのことだろう。
 特に今は、震災からの復興も進まないのに、増税路線をひた走る首相がいて、原発の安全対策もなされないていないのに再稼働させようとする経産大臣がいるのだから、ここに書かれていることは、多少割り引いて受け止めたとしても、本当なのだろうと思うしかない。

 よく日本は1000兆円の借金を抱えているというが、ここには財務省の意図的な操作が隠れているという。外国では債務に数えないものまで含まれている。仮に、1000兆円の債務だとしても、書名の通り650兆円の資産を日本はもっている。p.160に賃借対照表が載っているが、平成22年3月31日時点で、647兆円だ。政府の賃借対照表は著者の高橋氏が財務官僚時代にはじめて作成した。それまでは、いくら資産があり、いくら債務があるか把握されていない、というどんぶり勘定だった。

 647兆円のうち300兆円ほどは、その気になれば現金化できるという。つまり、増税などしなくても、財政を健全化できる。資産の多くは、官僚が天下る独立行政法人や特殊法人に流れ込んでいる。出資金や運営費交付金である。著者によれば、独立行政法人や特殊法人は何の役にも立っておらず、なくしても国民は困らないとする。天下りのために維持されているだけなのだ。

 小泉政権や安倍政権で公務員改革が打ち出されても、官僚は実行を引き延ばし、そうこうするうちに首相が代わり、政権交代がなされるうちに、うやむやになり、結局何も変わらない。相当にひどい話だ。

 鳩山首相、菅首相にしても、野党時代や政権奪取時の意気込みはあっさりと失われ、容易にあやつられてしまう。消費税増税ばかり言う現在の首相ともなると、もう財務省の操り人形である。
 それにしても怖いのは、こうやって次々に籠絡していく巧みさだ。官房長官、官房副長官、官房副長官補およびこれらの秘書官をはじめとする官僚たちが、日々首相にインプットし、洗脳していく。こう書くと、そんな三文小説のようなことがあるものかと思うが、実際そうなのである。

 消費税の増税前に、これだけやれることがあるのだ。埋蔵金も使い切ったらおしまいとマスコミは言うが、特別会計は剰余金が出るように設計されているので、いったん使ってしまっても、しばらくすれば、また積み上がるのだと言う。マスコミもまた操られているが、震災以降、国民の目にはこの点は、かなり明るみになってしまっている。

 こんなに首相もマスコミも消費税増税に前のめりになっているのは、空恐ろしいことだ。97年に消費税率を上げて以降、税収は回復していない。この国会で税率を引き上げる法案が通ると、2年後には景気が冷え込み、国民は生活が苦しくなるだけである。

 これだけ税率アップに邁進するのは、財務省にとっては、権益拡大につながるからだ。
 著者は「官僚は優秀だという幻想を捨てなければならないときに来ていると思う」(p.298)と言う。「もし、霞ヶ関が有能な頭脳集団であれば、この国の経済はこれほど激しく地盤沈下していなかったはずだ。債務残高が1000兆円に迫るという状況もないはずである」(p.299)は至極もっともである。皮肉である。

 ただ、著者の高橋氏の主張には苦笑せざるを得ないところがある。「とくに東大は百害あって一利なし。解体して完全民営化したほうが、ずっと国民の利益になる」(p.267)という下りには、ちょっと賛成しかねる。

 1966年の国連総会で採択された国際人権規約では、「高等教育は、無償教育の漸進的な導入ですべての者に均等に機会が与えられるものとすること」とあるからだ。日本は79年に批准したが、この条項は保留にしたままにしてきた。約160の締約国のうち留保しているのは日本とマダガスカルだけとなり、2001年には国連から撤回するように勧告まで受けている。国立大学の授業料が上がり続け、年間50万円を超えるまでになったのは、人権規約を守るどころか反する行為だった。

 こんな風に、話題によっては、やや筆が走りすぎているところもあるが、日本という国の舵取りがうまくいっていないとすれば、底知れぬ官僚支配がそこには働いていることを疑ってかかる必要があることを著者は教える。

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すぐわかるアメリカンフットボール ルールと試合

すぐわかるアメリカンフットボール ルールと試合

2012/04/23 21:09

ただ見るだけの観戦から、戦況分析をしながらの観戦にステップアップできる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アメフトは「究極のスポーツ」と評されることがある。考え抜かれたルールは、見てよし、やってよしのスポーツを生みだした。あらゆる角度から楽しめる。しかし、日本人にはけっこうむずかしいスポーツというイメージがつきまとう。それを払拭しようというのが、本書の目的だ。

 実は、4回の攻撃のうちに10ヤード進めば、再度、攻撃権を与えられる。それを更新していき、相手の陣地にはいればタッチダウン。それを知っているだけでも十分に楽しめる。

 本書は、そんなアメフトの初歩から始まる。そして、そこから一歩文出た領域に広がる楽しみを教えてくれる。つまり、多才なフォーメーションの例の数々を。
 P.88以降は、フォーメーションの紹介とともに、オフェンスとディフェンスのバリエーションを次々に解説している。ここにあがっているのは、アメフトをやる側の人には当然のことだが、見る側の人には新鮮だ。どういう意図で、各プレーヤーが動いているのか、試合と照らし合わせながら見れば、なるほどと納得がいく。

 相手のオフェンスラインの動きを見ながら対応しているディフェンスの動き(リードディフェンスと呼ぶ)と、オフェンスラインの動きと関係なく最初からQBめがけて突進していくディフェンスの動き(ブリッツディフェンスと呼ぶ)がある。こうしたことが分かるだけでも、楽しみがぐっと増す。そして、サッカー度同様に、ゾーンカバーとマンツーマンカバーがある。

 相手の攻撃を鋭く読みながら対応力を増し、最後には試合をひっくり返すチームがある。やはり、やる側の人は頭がよくなくてはできないスポーツだ。ひとつひとつのプレーの意味が分かれば、「なぜ、あそこでああいうプレーをしたのだろう」という疑問への答えが自分で見つけられる。

 「トリプルオプション」とは、走る可能性のある人がFB、QB、TBと3人いる攻撃パターンのこと。
 「スクリーンパス」とは、オフェンスラインを前にあげて、その後ろにできたスペースにいる選手に短いパスを通し、オフェンスラインに守られながらその選手が走るプレーのこと。
 「ショットガン」とは、4人のレシーバーが敵陣深くに入り込み、長いパスを受けるプレーのこと。

 アメフトの試合を見ていればたびたび耳にする、こうしたプレーやフォーメーションについての理解が進む。

 初歩からはいって、中級の手前ぐらいまでのスキルが身に付く本書は、アメフトファンの拡大に貢献するに違いない。なかなかにいい本である。

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エースの品格 一流と二流の違いとは

エースの品格 一流と二流の違いとは

2012/04/23 20:36

野球人としての功績大

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 2008年5月に単行本で発売された本である。野村監督が楽天の監督3シーズン目に入った頃になる。野村監督の本は何冊か読んだが、さすがにネタが重複している。どれか一冊を読めば、野村監督の考えをつかむことができる。

 野村監督は努力の人だ。プロ野球入団時から単なる球の受け手としてしか見なされていなかった。「かべ」といわれるような存在だったとご本人も書いている。試合に出される予定もなかった。そこから血もにじむような努力が始まった。苦労して子どもを育ててくれた母親への恩返しのために、簡単に郷里に帰るわけにはいかなかった。

 カーブが打てないとからかわれると必死になって、打撃の名手の技術を盗もうとした。直接教えてもらおうともしたが、教えてはくれない。そこから観察と努力を重ねて、投手の癖を見抜き、配球を読んでヤマをはることを覚える。当時は来た球をカーンと打てばいいとしか指導されなかったのだから、ある意味画期的な取り組みである。

 野村監督は、ひとりで、日本の近代野球を進歩させた感じがある。江夏をリリーフに起用し、敗戦処理というリリーフ投手のイメージをがらっと変えた。しかも、球威が落ち、使えない投手になりつつあった江夏を再生させながら。

 また、盗塁の名手の福本対策として、投手にクイックモーションで投げさせた。当時は、この呼び方もまだなかった。

 球団を強くするには、なにより好投手をそろえることが大切といい、ドラフトでは投手を指名させた。どんなにすぐれた野手のドラフト候補がいても投手指名だった。これが数年のちに、戦力アップにつながり、勝利を増やす。松井秀喜がドラフト候補にいる年でも、投手を指名した。

 すなわち、人の育て方を考え抜き、規律の保ち方を徹底し、考える野球を導入したのだ。こうしたことを、人まねではなく、自分で考案していった。

 本書には、往年の有名選手や2000年代の名選手の名前が登場する。なつかしくもあるし、どの選手をどのくらい評価していたかもわかる。速球投手としては、全盛期の江夏を押している。

 野村監督の言っていることは、球界のみならず、ビジネスにも応用できそうだ。したがって、講演の依頼も多い。ヤクルトの監督をする前は依頼が引きも切らなかったそうだ。

 考えながら仕事をしているか、きちんと目標を立てて仕事をしているか、それを達成するために何をすればいいか分析できているか、どれも応用編のようだ。自分の仕事にも当てはめてみようかと思った。過去の著作物と重複する部分が少ないが、その分、野村監督の考えがしっかりつかめる読書となった。

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ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図

ホットスポット ネットワークでつくる放射能汚染地図

2012/04/21 21:41

これぞ反骨のテレビ・ジャーナリズムだ

10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 NHKにもまた筋金入りのジャーナリストがいた。こうした人たちのおかげで、私たちは日本のジャーナリズムに失望せずに、思いとどまることができている。
 震災後、NHKのETV特集で福島の放射能汚染の実態が詳細に描き出された。そのときのディレクターやプロデューサー、研究者たちの活動の軌跡が本になった。テレビ番組で見るのとはひと味違う。実に、興味深い。番組を見そびれた方はぜひ読んでみるといいと思う。

 福島第一原発から北西方向に放射能の雲が流れて、雨や雪とともに地表に放射性物質が落ち、汚染された。汚染の濃度が高く、避難地域に指定されたり、自主的に避難している方が、たくさんいる。その数16万人と言われる。その汚染の実態を東電や政府発表でなく、在野の放射線の専門家とNHKのディレクターが力をあわせて明らかにした最初の報道となった。

 見えない放射能の恐怖にもまけず、各地で放射線の測定を行い、放射能汚染の地図を描いた。その勇気は褒め称えられるべきだが、それ以上に、放射線測定の専門的技術をもった数少ない研究者が日本にもまだいたことが救いだった。
 ただし、ひとりは国の研究機関に辞表を出して測定に参加し、もうひとりは80歳を超えている。こうした人たちがいなかったら、今でも「ただちに健康に影響の出ないレベル」という表現ではぐらかされたままだったのだ。

 おそるべきは、この番組を作ったディレクターも、東海村での原発事故を描いた番組を作ったあとNHKの放送文化研究所に異動させられていた事実だ。NHKもまた、原子力ムラの磁場に絡め取られていたのだ。著者はNHKのそうした体質にもきちんと言及している。
 このETV特集にしても、原発に近づいて番組制作をしたことで幹部からはげしいバッシングにあい、根も葉もない噂を他部局のディレクターたちから流されている。結局、放送後の視聴者からの反響の大きさが、著者たちを明るい場所につれだした。今に至るまで、海のホットスポットなどでこの番組は回を重ねている。

 NHKもこうした反骨のディレクターやプロデューサーのおかげで、命脈をつないでいることを知らされる。信念を曲げないディレクターの系譜が「あとがき」で語られる。過去の名作は、組織の論理にあらがって作られたものが多いのだ。

 それにしても、福島第一原発の事故の前は、原発への賛否はイデオロギーがかっていた。それが、この番組を含む献身的な研究のおかげで、原発への賛否が科学に基づく賛否に変わった。その変化の潮目をつくったのが、ETV特集の番組だ。

 p.253-269にかけての二本松市の家族の外部被曝・内部被曝を測定するくだりでは、息をのんでしまう。やはり少なからず被爆しているのだ。

 原発は、大地震の危険と隣り合わせの列島で許容される発電方法ではない。
 福島第一原発事故で汚染された土地で私たちは暮らしていかなくてはならない。ほかの原発が再稼働される限り、いつまたこうした事故が起きないとも限らないのである。

 

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起業のワナ 脱サラ社長がはまる7つの落とし穴

起業のワナ 脱サラ社長がはまる7つの落とし穴

2012/04/21 00:10

誰しも陥る危険なワナを回避するために親切すぎる助言の数々

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 リーマンショック以降、「起業」のムードは吹き飛んだ。ホリエモンがメディアをにぎわしていた頃が、起業に夢が持たれていた最後だろうか。本書を読んでいると、最初のうちは、起業家のやる気をなくさせる本であるかのように感じられるが、だんだんと甘い起業に警鐘を鳴らそうとするいたってまじめな本であることが分かってくる。

 著者は十数年にわたりベンチャー企業やニュービジネス起業を取材している。その実話を書き留めているのだ。だから、安易な起業には本気で止めにかかっている。サラリーマンのミスは単なる失敗で済むことが多いが、起業の場合、人生がかかってしまう。取り返すことが困難な失敗にまで至るというのだ。

 そう書くと、「自分は違う」と思いがちだ。そして、そこに危うさがあると著者は指摘する。自己評価が高すぎるのだ。
 p.86-87には、「脱サラ社長がはまる7つの落とし穴」が掲げられている。1.自分の実力や能力を過信する、2.世間の評判や他人の影響を受ける、3.起業と事業を混同する、4.事業計画や市場調査にこだわる、5.思い入れが強く、市場を読み誤る、6.過去の成功体験にしがみつく、7.会社の常識が社会の常識と思い込む。こうした指摘に頭をかくような人はまだいいのだろう。それでもまだ「自分は違う」と思う人こそが危うい。

 顧客を見つけるのは相当にむずかしい。たとえサラリーマン時代と同じ業界で起業したとしても。同じ業界であるために、かえって会社の信用で仕事をもらえていたのが分からず、うまくいかないものらしい。著者は成功している起業家の7割は、未経験分野に足を踏み入れての成功だと言う。そのくらい、それまでの常識を捨てて、よほどのアイデアと熱意をもってしないと成功しないと繰り返す。しかも、20代や30代の若さであることが望ましいらしい。近年の起業家はサラリーマンに行き詰まったシニア層が多い点を鋭く指摘する。

 考えさせられるのは、大企業でサラリーマンとして成功した人たちの失敗例がいくつも取り上げられている点だ。有名企業で、そんなに成功していたのに、どうして起業ではうまくいかないのかと。

 本書で注目すべきは、フランチャイズの怖さだろう。コンビニをはじめとして、さまざまなフランチャイズが世の中にはあるが、本部の収奪ぶりはすさまじいのが分かる。本部との契約は、圧倒的に本部に有利なようになっている。最初は気づかなくても、いざというときに自分を守る術がないことに気づかされる。新聞に広告を出しているようなフランチャイズだと、だれしも簡単に信用してしまうというのだから、おそろしい。

 悪徳商法というのは、メディアに取り上げられるくらいひどい事例だと思いがちだが、だまそうとする輩はそこらへんに、いくらでもいるらしい。詐欺だと思っても、それを立証するのは困難だ。よほど真っ黒か、だました側がそうだと認めなくては詐欺罪は成立しない。そして、「だましました」と言うケースはまれで、「払おうと思っていた」とか言い逃れられて、泣き寝入りとなる。そうした実例がたくさん載っている。

 いえ、よほどのアイデアマンなら起業すればいいと思う。ただ、本書を一読してからでも遅くはないはずだ。

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メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

2012/04/17 23:07

これを読まずして、原発の再起動の決定はりえない

12人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 あっぱれ、大鹿記者。そう、唸ならざるを得なかった。筋金入りのジャーナリストではないだろうか。福島第一原発事故発生から、2011年8月30日の菅内閣総辞職までを徹底的に追求している。引き込まれるようにして読み進めた。

 原発事故をめぐる不明な点の数々が、次々に明らかになっていく。その迫り方に興奮を抑えきれなかった。朝日新聞の記者だが、今はAERAに出向している。それがいっそうの取材の自由度と、思い切りのいい書きぶりを可能にしているのだろう。朝日新聞に在籍していては、ここまで書けなかったのではないか。

 それにしても、東京電力はひどい企業である。その存在が許されてもいいのだろうか、とすら思えてくる。代替電力が開発され、その安定供給が確保されれば、今の東電の救済策など破棄して東電を法的整理をしていいくらいのひどさだ。

 まるで人ごとのような態度をとり、記者会見には中間管理職ばかり立たせる。会長・社長・副社長といった幹部は本店にこもりきり、批判から逃げてばかり。それが東電の体質なのだ。これを許してきた行政と法律の仕組みにも問題があるが、あらゆる姑息な手段を講じて生き延びようとするさまは、おそろしく見苦しい。
 東電の資産は可能な限り売却して賠償に回し、いつかは解体してしまってもよいという気持ちになる。体調不良を理由に入院していた清水社長が、その入院先から、自らパソコンを操作して、住宅ローンを一括返済している事実など、被災者の逆上を買わないはずがない。

 また、経産省も実にひどい。こちらも原子力発電の温存のために暗躍する。彼らもまた、見えないところで、あらゆる手を回し、原子力政策を維持しようとする。
 経産省は原子力政策を推進してきた責任の重い官庁だが、ただの一人も責任をとらないで済ませている。更迭されたかに見せかけて、事務次官以下3人の幹部は割り増し分を含めて退職金を6000〜7500万円も受け取っている。著者が、せめて割増分くらい返上してはどうかと問うても、「制度がそうなっていますから」と答えて、受け取っている。
 繰り返しになるが、経産省は無傷のままである。これでは、この先、いくらでも巻き返す力を蓄えていると警戒すべきである。

 おおよそ肯定しているのは菅政権の対応だ。事故直後の初動に依然不明な点があるとしながらも、要所で、東電や経産省のむしのいい動きを牽制し、押さえ込もうとした。一部の民主党政権に批判的なメディアのために、菅政権の失態であるかのように報道された件も、間違った対応ではなかったことが分かる。むしろ、そうそいた批判は菅政権を陥れる謀略だったりしたのだ。

 菅首相は、唐突に脱原発を言い出したり、再生可能エネルギーを後押ししたりしたのか? そうではない。浜岡原発の停止も、突然言い出したかのように一部報道されたが、どれも伏線があったり、経産省の策略にあらがって打ち出したものだったりして、なかなか機転が利いている。

 本書によれば、どうやら菅首相が起用したブレーンの知恵が働いているようだ。なかには粗製濫造になった内閣参与もいるが、有能なブレーンは、ここぞという場面で、知恵を貸し、難局を乗り切っている。
 セカンドオピニオンやサードオピニオンを活用した菅首相の姿が垣間見える。もし、ほかの人が首相の地位にいたら、いまごろ全国各地の原発は再稼働されて、事故前とたいしてかわらない状況になっていたおそれがある。再稼働のハードルをあげるのに菅首相は一役買っている。

 ただ、著者は菅首相を一方的に持ち上げるばかりではない。本書の終わりで、経産省に立ち向かうには、菅政権は力不足であったとしているのだ。郵政改革に反対する官僚を更迭した小泉首相のような果敢さが足りなかったと。ただ、これができなかった点は、著者の取材でも不明である。著者は、こうした不明な点がありながらも、できるだけ多くのことを記録しておくべきとして本書を書いた。

 そのジャーナリストとしての志やあっぱれである。原発事故関連の本の中では、抜きんでた価値があると言ってよいだろう。保身と責任転嫁に逃れてしまう人間の悲しさも、本書にはしっかり描かれている。自分自身にもそんなところはないかと、結構考えさせてくれる本でもある。

 一読する価値あり。いや、再読する価値がありの一冊。お勧めである。

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大震災’95

大震災’95

2012/04/12 21:36

もっと本書が読まれれば、大地震への備えが進むのでは

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 東日本大震災のあと、阪神大震災の記録が気になった。本書は、小松左京氏が95年から96年にかけて毎日新聞に連載したものをまとめた本だ。阪神大震災をふりかえるには十分な内容になっている。当時の行政や消防、メディア、自衛隊などの動きを克明に記録しているのだ。おそらくここまで、詳細に記録したものはないのではないか。

 地震当初は、淡路島北端の野島断層が動いたことが分からず、なぜか名古屋・岐阜から東海地方にかけての震度が報道される。地震が直撃した神戸の震度が7になるまでに3日を要したという。通信手段がまるごとダウンしてしまうと、被害の状況が伝わるのに時間がかかるのだ。また、東京の視点で扱われるので、大きな被害を生じているのに、いまひとつ東京のメディアや行政は反応がうすい。

 そうした点は差し置いても、阪神大震災の被害が局地的であり、かなりむらがあることが強調される。建物がいくつも倒壊している場所から少しはなれたところで、意外にも被害がないことが報告される。これは直下型地震の特徴として、把握しおいた方がよさそうだ。自分やその周りが大丈夫でも、2km先では救助を求めている可能性がある。

 それにしても痛感するのは、阪神大震災の教訓がいまに伝えられていないことだ。災害時の初動が鈍いこと、大地震など来ないという思い込みがあったこと、万一の時の備えが不十分であること、阪神大震災も千年に一度の地震と言われたこと、などなど。次から次へと、東日本大震災のことを言っているのかと思える記述が続く。

 地震学もたいして進歩していないのではないかとさえ思えてくる。局地的すぎて、この震災の意味を受け止め損なっていたのだろう。もっと阪神大震災のことを理解していれば、東日本大震災の被害は少し小さくてすんだのかもしれない。

 読み終えての発見は、ビルの途中階がつぶれてしまう現象が説明されていることだ。ビルは横揺れに対してはゆらいである程度耐えるが、縦揺れに関しては、その力を逃すことができないからだということだ。最新の知見は、知らないが、当時の知見での説明がなされている。
 東日本大震災のあと、免震構造のタワーマンションなどが人気を集めているというが、阪神大震災のような縦揺れにも強いのだろうか。ちょっと慎重になった方がよさそうだ。

 この本にも出てくる大阪の埋め立て地にあるWTCビルは、免震構造を備えた近代ビルとして紹介されている。最上階に近いところにバランサーが備え付けられているという。しかし、東日本大震災のとき、震源から数百キロ以上はなれたこのビルが2.7mの幅で揺れて、壁などが壊れた。つまり、長周期の横揺れでも、被害を出してしまったのだ。果たして、東京や名古屋にあるような高層ビルは、大地震にどこまで耐えられるのだろうか。少し怖くなった。

 本書にも、少し原子力発電のことが出てくる。原発は地震に神経質であると書かれている。このときから、安全神話を守り抜くために、非常にガードが堅かったことがわかる。やはり、95年の時点で、原発の危うさに気づいておくべきだったのだ。少なくとも、情報が開示されず、どのくらい危ないのかも分からないまま、これまで運転されてきたことを。

 こうした本が、今からでもいいので広く読まれて、次の大地震への真剣な備えのきっかけになるとよいのだがと思わずにいられない。

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さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別

さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別

2012/04/09 14:39

改革派の官僚が主流をなすような状況はいつ生まれるのか

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 東大数学科卒の異色の財務官僚だった高橋洋一氏の著書だ。経済学科も卒業しており、東大法学部閥の強い財務省の中では異彩を放つ官僚生活だった。ご本人も書いているとおり、数学の才能は相当にずば抜けものがあるようだ。東大法学部卒では、予算などの数字を扱ってはいても、専門的な計数処理には疎く、高橋氏のやっていることは理解できなかったようだ。

 本書は、著者が官僚だった頃の、さまざまな財務官僚、他省庁の官僚、政治家などとのやりとりがかなり赤裸々に語られている。小泉政権下で、改革派として鳴らした官僚といった印象が強いが、実際にはその数学的才能を生かして、ほかの官僚にはできないリスク管理や財投改革をやってのけている。数学的ロジックを適用すれば当たり前のことをただやっただけという風に述べている。

 高橋氏が任官するまでは、国がとてつもない金利リスクを負っていたりしたのが、次々に解決するか、軽減されていく。それはそれですごいのだが、こうした計数処理能力をもった官僚を毎年のようにとらなくてはまずいのではないだろうか。郵政改革も、当時の郵貯の金利の付け方が妥当かどうか、結局のところだれも知らなかったとあっては、おそろしい。霞ヶ関の常識をうち破った人というよりは、ひとつ間違えば大きな損失を国が被るリスクをひとつひとつ片づけていった人ということではないだろうか。

 郵貯に味方するような考えをまとめたというので、郵政省(当時)のあつまりで万雷の拍手を受けたりするが、ただ単にシステムの誤りを修正しただけなので、高橋氏は当惑している。そのくらい、自分たちの扱っている巨額の資金のあやうさを知らないというのは、郵政官僚もそうだが、財務官僚にも怖くなってしまった。

 高橋氏としても2008年に退官しているので、その後を引きつぐ改革、というより「業務改善」が進んでいないようだ。ひところメディアをにぎわせた「埋蔵金」も、本書では50兆円(p.197)とされているが、いったいあのあとどうなってしまったのか? もう使い尽くしたかのようにいう声も聞くがはたして・・・。この点は、高橋氏の新しい著書を読んで、調べてみたい。

 最近では、日本財政は危機にあるとして、政府の債務は1000兆円近くにのぼると、よく新聞・テレビで言われる。本書の時点ではそれは834兆円だ(p.207)。これについては、「粗債務」であって、国際的に用いられる「純債務」ではないと、高橋氏はまず数字のレトリックを指摘する。そして、日本政府は多額の資産をもっているので、純債務は約300兆円に減るという。なおかつ、日本政府は、対外的には、財政は危機にはないと言っているのだから、そもそも矛盾している。

 数字に疎く、霞ヶ関(財務省)の情報を流すだけの日本の新聞・テレビを見ていると、増税やむなしという気持ちになりそうだが、本書では増税ありきの考えを明確に否定している。1.デフレ脱却、2.政府資産の売却、3.歳出削減、4.制度改革、5.増税という順番が小泉・竹中路線の頃は聞かれたと繰り返し出てくる。

 この議論が野田政権下でなくなってしまい、5番バッターの増税だけが登場している。デフレ脱却や、資産売却、経済成長の戦略はどうなってしまったのか? 増税に政治生命や命を懸けてやるという今の首相は、命のかけどころを誤っていると感じる。

 増税で景気が冷えこめば、思うような税収を得られず、さらに増税をするという悪循環が待っているのではないか?

 本書は2008年の本だが、今にも通じる議論が少なくない。それにしても、これだけ改革への抵抗が強い国では、根本的治療はむずかしそうだ。今でも抵抗勢力は、幅を利かせているのだから。
 高橋氏のような改革の意志のある人が、結局は退官せざるを得ないのでは・・・ため息が出る。

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考具

考具

2012/04/01 18:51

今となっては古いが、アイデア出しの基本をおさえるには優れた本

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 アイデア出しに困っている人には好評の本だ。ネット上でも評価が高い。しかし、2003年の本だからいかにも古さは否めない。今では、iPadやiPhone、グーグルなどをフル活用した仕事術の本が百花繚乱だ。そんな中、本書はだんだん目立たなくなってきている。

 ただ、最近の仕事術の本は、けっこう使いこなそうという意思がないといけないので、使いこなすことが出来ずにいる人も少なくない。
 本書はアイデアを考え、企画をまとめるためのごく初歩的なヒント集になっているので、だれでも実践できる、社会人になって、3-5年程度の、アイデア出しに苦しんでいる若手には有用だと思う。

 マダラートという9つのマス目を埋めて、無理にでもアイデアを拡げる工夫やマインドマップ、ブレストなど仕事術の基本がもれなく紹介されているので、企画会議でまごついている若手社員は、こうしたヒント集から得られることが多いに違いない。
 
 これに満足できない層は、いまではたくさんあふれる最新の仕事術の本に手を出せばよい。基本を手軽に押さえる本として、新人研修などで使える本として、すすめられそうだ。

 まずは手にとって、自分に有用かを見極めて選ぶといいと思う。

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円高の正体

円高の正体

2012/03/28 21:19

2月14日の日銀による10兆円の国債購入の決定で、ある程度実証された?

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 安達氏に関しては、『デフレは終わるのか』(東洋経済新報社)という本を読んだことがある。専門的な内容ながら、とても勉強になった。
 一方、この新書は、おそろしくやさしい。円高・円安の意味やデフレのこと、そしてなぜこうしたことが起きるのかを、これ以上ないくらいに分かりやすく説明してくれる。ふだん経済に関心がない人でも、きっと読み通せるし、理解できる。

  「円高の正体」という書名は、「デフレの正体」というベストセラーを記録した本をライバル視して、編集部が付けたものだろうか。生産年齢人口が減少するためにデフレが起きているという、「デフレの正体」の主張を、本書は明快に否定している。その意味では、結構挑発的な本だ。しかし、懇切丁寧に説き伏せるあたり、正統派だ。

 ドイツやウクライナ、ルーマニアといった国の例をあげながら、生産年齢人口が減ってしまった国であっても、デフレにはないことを著者は言う(p.179)。インフレ率がプラスの国がたくさんあるのだ。なかには、ひどいインフレの国もあるので、生産年齢人口が減少することがデフレに結びつくわけではないことが示されている。「デフレの正体」の著者藻谷浩介氏は、安達氏の主張にどう応えるのだろう。書物で反論すれば、面白い。

 安達氏は、いいかげんなエコノミストに我慢ならなくて、本書を出したのだろう。「伝説のカリスマ○○」といった肩書きの人は痛烈に批判している。ただし、実名はあげない。

 藻谷浩介氏だけは名前と著書名をあげて、異論を唱えている。つまり、相手の存在を認めた上で、きちんと経済学者として、デフレの正体の議論をただしているのだ。

 著者はとにかくデータをきちんとひきながら読者に持論を伝えようとしている。超円安がくるとか、ハイパーインフレがくるといった煽りを繰り返すカリスマ○○とは同じにしないでほしい、と自分のアイデンティティをかけて本書を書いているのが分かる。

 著者は、要所で自説を囲み記事にまとめているので、読者が議論から脱落することはない。日本がデフレから脱却し、円安につながり、経済成長が促されるには、市場への通貨供給を増やせばよいと明快に言っている。
 日銀がマネタリベースを増やせば、将来のインフレ期待が高まり、好循環が生まれるとする。ちょっと単純化しすぎている感じもあるが、データで、そのつど例証されているので、理路整然として、ここにたどり着く。

 インフレが起こるという将来への期待が生まれると、設備投資が増え、景気もよくなるという。日銀はマネタリーベースを増やしてはいるが、その政策の規模が不足しており、成果がでていないとする。2%の経済成長率を達成するためには、28.8兆円の量的緩和が必要とまで言い、金額をはっきり提示する。

 米国では量的緩和策(QE1、QE2と呼ばれている)を実施してきたために、市場では円高がすすんだ。ただ、量的緩和後もそれほど景気が回復していない。失業率は8%台にようやく下がってきたが、まだ不十分だ。
 これ以上の量的緩和(QE)をしても、効果があるかどうかわからないという声も聞かれる。量的緩和策は、うまくやらないと投機を誘い、バブルをふたたび生む。

 日本のデフレは果たして、マネタリーベースを増やせば、克服できるのだろうか。最近、欧米経済が日本の失われた10年に状況が似てきているとも言われる。米国などを手本にした金融政策で、これからの日本経済がうまく運ぶのかどうか、いまひとつ確信がもてない。

 さて、28.8兆円の資金供給はデフレが克服できるのなら安いものか。
 ただ、きっと日銀関係者は、これだけでは動かないだろう。速水日銀総裁(当時)の主張をひきながら、これをはっきり否定して見せるなど、著者は日銀の手法は支持していない。著者と日銀関係者の溝は大きそうだ。

 円安とGDPがきれいにリンクしている図表を多用するなど、データ面が充実しているので、その都度、納得しながら読み進めることができる。
 あとは、28.8兆円を試してみるだけの責任を日銀関係者が負うかどうかだろう。

 ところで、2月以降に、やや円安にふれているのは、2月14日に日銀が10兆円の国債購入という緩和策を打ち出したからという説明を聞くことがある、だとすれば安達氏の主張はある程度、実証されたことになる。このあとは、どうなるのだろうか、興味深い

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ひきこもれ ひとりの時間をもつということ

ひきこもれ ひとりの時間をもつということ

2012/03/24 21:09

わかりやすい本だが、吉本らしい考えが典型的に見られる

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 『共同幻想論』、『言語にとって美とは何か』などが盛んに読まれていた頃に、自分も少しばかりかじっていた。だから、吉本にふれたのはずいぶん昔になる。そのころ、どの程度、理解できていたのか、今となってはあやしい。

 先日、とうとう吉本が亡くなったと聞いて、驚いた。時代を画するような人がいなくなった。世のなかを見渡しても、代役のつとまりそうな人はいない。吉本の死はすべての新聞の夕刊の1面を飾り、社会面にも関連記事が出ていた。その週末、さらなる追悼記事が掲載されていた。
 吉本は、そんな扱いをされる最後の思想家になるのかもしれない。

 時代は変わって、吉本もずいぶんわかりやすい本を出しているのが分かった。本書がそうだ。「ひきこもり」が否定的ニュアンスで語られるのを筑紫哲也の番組で聞いて、それは違うと思ったのが動機だ。
 この目の付け方は吉本らしい。みんながそうだというものを違うと言ってみせる。みんなが「白」だと言っているときに、吉本は本当にそうかと疑う。白と言われるものをひとり考え抜いて、ついには白ではないことを言い当てる。白以外の色を言い当てられて、周囲は慌てふためいてしまう。みんなが予定調和の世界に安住しているときに、ひとり核心をついてしまうのだ。

 核心をついているがために、世界にとっては都合が悪い。吉本はそんな思想家だった。

 みんなが幻想で成り立たせているものに、それは実はこういうものなのですよと切り込んでしまう。といっても、吉本以外にも見えている人はいる。そうした人には、吉本は特別な存在となる。吉本がいるから、自分は自分でいられる。そうした人は少なくないのだ。

 「ひきこもり」もまたそうだ。吉本自身、引きこもりだったという。ひとりで考え抜く作業をしているのがひきこもりだ。そうした時間は、世界の本当を理解するためには欠かせない。みんなで騒いでばかりいる人には、世界の本当は見えない。だから、ものすごく、引きこもりを肯定する。

 そんな吉本という存在をうしなって、「空気が読める」、「空気が読めない」という言説ばかり、幅をきかせる世の中というのは、実は、とても生きづらいのだと思えてくる。

 「それは本当は違うのだよ」、そう言ってくれる思想家を失った2010年代の私たちは、寄る辺なき時代に入ってしまったのかもしれない。自分の中の吉本を大切にしながら、生き抜いていくしかなくなってしまった。

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プロメテウスの罠 1 明かされなかった福島原発事故の真実

プロメテウスの罠 1 明かされなかった福島原発事故の真実

2012/03/20 13:48

こうした徹底取材はマスメディアが果たすべき基本である

21人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 原発を巡っては、マスメディアが機能していないといった批判が多く聞かれる。事故報道はするものの、なぜそうした事故に至ったのか十分な説明がないという人が多い。「ただちに健康に影響のないレベル」という政府の発表を伝えるしかなかった事故直後の新聞・テレビ。
 マスメディアは権力から距離を置き、だれよりも厳しい目でその行いをチェックしなくてはならないはず。マスメディアもまた原子力をとりまく不可思議な磁場に絡め取られていたのだ。

 ただし、そのことの反省に立って、検証をし、自己批判をしながらでも、報道をすると決めたメディアがある。そのひとつが朝日新聞だろう。テレビではNHKだ。
 へたをすると読者を失うかもしれないことを、果敢にやってみせている。本書は震災および事故から1年以上を経てもなお連載が続く「プロメテウスの罠」を2月時点でいったん区切って、書籍化したものだ。この連載を切り抜いて保存していた人は少なくない。その切り抜きが必要なくなるのだからありがたい。

 特に、首相官邸で何が起きていたのか、可能な限り真実に迫ろうとしている点は貴重なものだ。東電が撤退して、福島第一原発を放棄しようとしたのか、それとも一時的に第二原発に待避して様子を見ようとしたのか、いまだ判然としない点がある。
 本書では、「官邸の5日間」の項で検証されている。官邸にいた菅、枝野、寺田、細野、福山といった人たちは、第一から撤退すると受け止めていた。撤退はありえないとしつつも、万一原子炉自体が爆発すれば、作業にあたる人員がいなくなり、首都圏も含めて日本の主要地域が人の住めない土地になる。ひょっとしたら、撤退もやむを得ないのかもしれないという空気が漂ったことを本書は教える。
 一方、東電は「作業に直接関係のない一部の社員を一時的に待避させることがいずれ必要となるため検討したい」といった、まわりくどい主張を今年の1月時点でもしている。
 こうしたところは、ほかにも出ている原発事故をめぐる類書と照らし合わせながら、事実関係を整理していくしかない。

 菅首相は怒鳴り散らす癖があるために、霞ヶ関、永田町では不人気となり、退陣した。しかし、その迫力が、東電の清水社長に撤退という選択肢をあきらめさせ、最後まで事故収束にあたらせる結果をもらたしたのは、たしかなようだ。それにしても、東電の清水社長(当時)は、きちんとメディアの前に出てきて、事故後にどういう方針を立て、どういう対応をしようとしたのか、説明すべきではないのか。
 いまだに原発事故の影響で生活の見通しが立たない方がたくさんいることを考えれば、引責辞任して、それで終わりという訳にはいかないだろう。マスメディアがまだやり遂げていないとすれば、東電の体質、経産省の有形無形の電力業界の後押しを歴代の社長や幹部に徹底取材し、明らかにしていくことだろう。

 学長の逮捕の項も興味深い。チェルノブイリ事故後に健康被害を調べたバンダジェフスキー医師が、別件で逮捕され、服役したことを書いている。同医師は内部被曝の危うさに警鐘を鳴らしている。一方で、この項では、ウクライナの検診センターのグーテビッチ副所長の言葉として、子どもの甲状腺がんは増えたものの、がん一般に関しては「とくに増えていません」と伝える。ただし、免疫力の低下の話となると同副所長は歯切れが悪くなることも記者はしっかり伝える。別の医師、ゴルディエンコから「確かに、がんがとくに増えているとはいえません。しかし、免疫系がダメージを受けているのは確実だと思います」という言葉を取材によって引き出している。

 放射性物質が飛び散ったチェルノブイリ事故の例があるのだから、健康への影響があるのかないのかよくわからないはずはない。この朝日の取材はその先鞭をつけている。日本の専門医や厚生労働省は、すでに海外で明らかになっている事実を日本国民にしっかり伝えるべきだろう。

 本書は、事故後のさまざまな関係者の動きをダイナミックに描き出すのに成功している。朝日新聞が好きとか嫌いとか、まったく関係なく、福島第一の原発事故後を生きていかなくてはならない日本人は、目を通しておいた方がよいと思われる。

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