三中信宏さんのレビュー一覧
投稿者:三中信宏
3 件中 1 件~ 3 件を表示 |
2000/07/10 01:23
初めての女性越冬隊員二人による南極ルポ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
タイトルにまず惹かれる。「南極に暮らす」−−一般人には生涯そういう経験をもつ機会がない。
それだけに、南極越冬隊の日常生活の詳細をレポートした本書は私にとって楽しい本読みのときを与えてくれた。初めての女性越冬隊員として1997年から99年にかけての約1年4ヶ月を昭和基地で過ごした著者らは、昭和基地内外での豊富な体験談、閉ざされた集団の中での個人的感情の起伏、故国にのこされた家族との交流などをたくみに織り交ぜることにより、雪と氷の世界という南極のやせ細ったイメージを鮮やかに肉づけしてくれる。
なによりも、越冬中の基地の中で、隊員どうしのコミュニティーが次第に生成・変化・成熟していくさまは私には印象的だった。
もちろん、著者たちが専門とするオーロラ観測や自身観測といった専門的話題も盛り込まれている。「生活の場所としての南極」−トイレのこと・ゴミ処理・娯楽・食事などなど−を擬似体験させてくれる本書はルポルタージュとして貴重だ。
紙の本ダーウィン自伝
2000/07/09 07:21
現代進化学の祖が自らの言葉で語る人生
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
自然淘汰に基づく生物進化理論を世に問うた書『種の起源』(1859年)で、チャールズ・ダーウィンの名は不滅となった。しかし、19世紀のイギリス社会においてダーウィンの主張は宗教的軋轢を生んでいた。そのため、彼が書き遺した自伝原稿は、遺族の強い要望によりキリスト教に絡む記述を大幅に削除された形で出版された。
今回復刻された『ダーウィン自伝』(原書は1958年:1972年に元の翻訳が出た)は、ダーウィンの孫娘である編者ノラ・バーロウによって原稿の削除箇所を復元した完全版の伝記である。ダーウィンが、当時の英国の文化と社会のもとでたどってきた人生について、自らの言葉で語っている。
けっして構えたりせず、むしろ内面的な言葉が連なる中に、現代の読者は現代進化学の祖であるダーウィンの隠れた一面を見出すだろう。ダーウィン産業の進展により詳細に知られるようになったダーウィンの生涯をこの自伝と照らし合わせて読むのは興味深い。
2000/07/09 06:56
第一線の思想家たちの誤思考・迷思考・欠陥思考を指摘
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
いわゆる「サイエンス・ウォーズ」の火ぶたを切った張本人とされている、物理学者アラン・ソーカルとジャン・ブリクモンの話題の書『「知」の欺瞞』がようやく日本語で読めるようになった。社会構築論を標榜するポストモダン人文科学と素朴実在論を楯にとる自然科学との激論を期待する読者は、見事に裏切られるだろう。本書はそういう論争の書ではない。むしろ、現代の一部の哲学に見られる「当世流行の馬鹿話」(原著のタイトル)−すなわち数学・物理学などの科学の誤用と濫用−を徹底的に暴いた本である。現代哲学のビッグネームたちが次々と俎上に上げられては、なます切りにされている。自然科学者の目から見て明らかなまちがいを、「彼ら」が何一つ理解できていないのは滑稽ですらある。たいへん刺激的でおもしろい本で、私は笑いながら読んでしまった。
訳書の帯には正しく「これは,サイエンス・ウォーズではない」と大きく書かれている。確かにそのとおりである。「科学戦争」というキャッチコピーはあたかも両者が丁々発止の戦いを繰り広げているかのような誤解を生んでいる。しかし、私は、本書を読んで、むしろ別宮貞徳の名物コラム「誤訳・迷訳・欠陥翻訳」を連想してしまった。サイエンス・ウォーズという大仰な言葉とは裏腹に、本書は淡々と現代の第一線の思想家たちの誤思考・迷思考・欠陥思考を指摘し続ける。勝負は最初からついていたのだ。一読をお薦めする。
3 件中 1 件~ 3 件を表示 |