東京創元社編集部さんのレビュー一覧
投稿者:東京創元社編集部
紙の本朝霧
2003/09/02 22:58
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卒業論文を仕上げ巣立ちの時を迎えたヒロインは、出版社の編集者として社会人生活のスタートを切り、新たな抒情詩を奏でていく。作品中、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする主人公の姿に、読み手は、従前の物語に織り込まれてきた絲の緊密さに陶然とする自分自身を見る想いがするだろう。鮮やかな幕切れは、次作への橋を懸けずにはいない。一人称で語りかける《私》と噺家の円紫師匠が登場するシリーズ第五作。「山眠る」「走り来るもの」「朝霧」の三編を収録。
紙の本神保町の怪人
2003/09/02 22:55
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多くの古書店が集まる神保町——この世界に名だたる本の街を舞台に、愛書家や収集マニアの生態を追った著者ならではのミステリ短編集。古書ブームたけなわの'60年代における展覧会を扱った第一話「展覧会の客」、'70年前後から'80年代末期まで流行した各地の愛書家グループの活動を追う第二話「『憂鬱な愛人』事件」、そして'90年代末期からスタートした古本インターネットをテーマにした第三話「電網恢々事件」の全三話を収録。
紙の本三人目の幽霊
2003/09/02 22:52
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年四回発行の落語専門誌「季刊落語」の編集部は、落語に免疫のない新米編集者・間宮緑と、この道三十年のベテラン編集長・牧大路との総員二名。並外れた洞察力を持つ牧編集長の手にかかると、寄席を巻き込んだ御家騒動や山荘の摩訶不思議、潰え去る喫茶店の顛末といった〈落ち〉の見えない事件が、信じがたい飛躍を見せて着地する。時に掛け合いを演じながら、牧の辿る筋道を必死に追いかける緑。そして今日も、落語漬けの一日が始まる……。「三人目の幽霊」「不機嫌なソムリエ」「三鶯荘奇談」「崩壊する喫茶店」「患う時計」の五編を収録。
2003/09/02 22:50
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落馬事故による昏睡から目覚めると、彼はシャーロック・ホームズになっていた——事故によるショックで、自らを伝説の名探偵と思い込んだまま横浜の洋館に暮らす若き富豪は、何故かその推理能力までもホームズレベルになっていた! 「横浜のホームズ」の推理と絶望、そして再生を描いた連作長編推理。横溝正史尽くしの『探偵の夏あるいは悪魔の子守唄』、クイーンに挑んだ『探偵の秋あるいは猥の悲劇』に続く「本歌取りミステリ」第三弾!
紙の本冬のスフィンクス
2003/09/02 22:48
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失踪した友人の婚約者に招かれた楯経介は、世にも不可解な事件に遭遇する。眠りに就く前に絵画を見ると、その中の世界に入り込めるという特殊能力を持つ楯が、夢の中で遭遇した連続殺人の顛末は? これは夢か、現実か——。幾重もの《夢》と《探偵小説》とがせめぎ合い、読者を幻惑する異端の書。『殉教カテリナ車輪』で第九回鮎川哲也賞を受賞した作家が満を持して書き下ろす、ホラー趣味濃厚な本格ミステリ!
紙の本ファースト・レンズマン
2003/07/23 22:08
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『銀河パトロール隊』から『レンズの子供たち』までの〈キニスン四部作〉から、今回は時代を遙かにさかのぼって、三惑星連合部隊が銀河パトロール隊に再編された時期、人類にはじめてレンズマンが誕生した時代のエピソードが描かれます。もっとも、初代レンズマンとなるのはキニスン家の公安委員長ロデリックではなく、太陽系評議会議長のヴァージル・サムズです。ご注意ください。訳者・小隅黎先生も、「構成表現ともシリーズ内で最高のまとまりを見せている」と太鼓判を押しています。ぜひともひとつよろしくお買上げください。次回第6巻『三惑星連合』は、2004年初春刊行予定です。お楽しみに。
紙の本ぼくは生きている
2003/06/16 20:25
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まずは本書の一節をかかげます。
ぼくは思い浮かべる、ひんやりした十一月の朝、日の光が窓越しにさしこみ、ぼくの両手を包むありさまを。ぼくは毎晩の入浴について考える。母さんが大きなやわらかいスポンジで背中を流してくれ、髪を、もつれがなくなるまで、ヘアブラシで丹念にとかしてくれるのを。こうしたことすべてが喜びに変わる。ぼくにとってさえ、人生はすばらしいものとなりうる。このぼくにとってさえ。
静かな感動をつたえてくれる文章ですが、この“ぼく”は十四歳。おまけに脳性麻痺を患い、自分の筋肉がコントロールできません。知能検査の結果は生後三、四か月なみ。しかし、耳にしたことをそっくり憶えていられる才能のおかげで、生まれ育ったシアトルの街もグランジ・ロックも大好きな、普通の少年に成長しました。意思疎通がはかれなくてじれったくなる(なにしろ瞬きひとつ思うにまかせないのですから)ことはあるにしても、それでもぼくは生きている、というわけです。
物語は“ぼく”が、自分の来しかたと現在の生活を語るところから幕をあけます。聡明で生意気ざかりの少年が人生にむける、活きいきとした眼差しは大変に愉快です。ところが、彼は疑いはじめてしまったと言いだします。父さんは、愛しているがゆえに、ぼくを殺そうとしているんじゃないだろうか?
結末を書くわけにはいきません。笑わせ、はらはらさせ、心に残る……この珠玉の少年小説を愉しんで、胸に湧く想いをかみしめていただければ、これに勝る喜びはありません。
紙の本密猟者たち
2003/06/16 20:22
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フォークナー、カポーティ、あるいは、先日筑摩書房から全短編が二巻組で刊行されたばかりのフラナリー・オコナー。アメリカ南部には、強靭な文学的想像力を育む土壌があるのかもしれません。
本書の作者トム・フランクリンは、そうした伝統に連なる輝かしい才能の持ち主です。1963年にアラバマ州に生まれ、少年時代にはスティーヴン・キングやエドガー・ライス・バローズに熱中したといいます。雑誌にはじめて短編が売れたのは23歳。99年にデビュー短編集として本書を上梓し、全米で賞賛を浴びました。
収録作品のいくつかについてご紹介しましょう。
冒頭におかれた「グリット」は、間然するところのない犯罪小説の逸品。賭博の借金をたねに工場の闇操業を強いられた冴えない中年男の苦境をスリル満点に描いて、巻をおかせません。「青い馬」を読んで浮かぶのはヘミングウェイです。ある朝、銃を手に知人らしい男のもとへむかう主人公たちの言動が抑制の利いた筆でたどられ、静かな余韻を残す。語られない男たちの心のうちに、ぜひ思いを馳せてみてください。「ダイノソア」は、ひなびたガソリン・スタンドをめぐる哀歓が切ない。乾いた情感が胸にせまるのは、そこに過ごしてきた人生への想いがこめられているからでしょう。完成度の高い好編です。巻末にひかえた表題作は、百四十枚近いボリュームの中編。密猟者の三兄弟と狩猟監視官の暗闘を活写する筆致は力強く神話的で、フォークナーさながら。アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞にも輝いた、現時点におけるフランクリンの代表作です。
凝縮された物語が人生の普遍的な瞬間を照らしだす、鮮烈多彩な中短編の精華。どうか、じっくりと味わってください。
紙の本しゃべくり探偵 ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの冒険
2003/06/11 10:08
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東淀川大学の守屋ゼミ有志一同、ロンドンへ。この外遊にまつわる四つの事件——旅費調達に斡旋された払いのよすぎるアルバイト、高価な洋書の紛失、お別れパーティの殺人、帰国後のドッペルゲンガー騒動——を、ボケ・ホームズこと保住君&ツッコミ・ワトソンこと和戸君の会話と書簡で綴る。いしいひさいちのイラストがぴったりな、連作形式の妙も愉しい、正調安楽椅子探偵譚。
紙の本遠い約束
2003/06/09 19:42
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浪速大学ミステリ研究会の一員となった吉野桜子は、大叔父の遺言捜しを三人の先輩に依頼する。ミステリ好きだった大叔父は、マニアが喜びそうなことをしているはず——表題作を基調に山荘での合宿に出現した密室、土曜日の例会風景といった他事多端なミステリ研ライフを織り込んだ軽快な連作短編集。
紙の本死角に消えた殺人者
2003/06/09 19:40
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驟雨に洗われた坂道を疾走し、崖を飛び越えた真新しいブルーの車体……。その朝、千葉県銚子の景勝屏風浦で、大破した車の中から同乗四名の遺体が収容された。現場の状況から単なる事故ではなく殺人事件と断定されるが、懸命の捜査にも拘らず被害者間の交友関係は浮かんでこない。母の亡骸に復讐を誓った塩月令子もまた真相を追うが……。天性のストーリーテラーによる本格ミステリ。
紙の本誘拐作戦
2003/06/09 19:05
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失敬したフォルクスワーゲンに乗り込んだ四人とおんぼろフォードの主が、道で拾った女で一儲けしようと、のるかそるかの誘拐作戦をぶち上げた! ワーゲンの持ち主の私立探偵が事件の関係者として登場、捜査官の向こうを張って局面を更にかき回す……。章を交互に書き進める二人の語り手捜しなど、趣向満載のトリッキイな本格探偵小説。
紙の本名探偵に薔薇を
2003/06/09 19:03
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怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 人気コミック『スパイラル〜推理の絆〜』原作者デビュー作!
紙の本掌の中の小鳥
2003/06/09 18:44
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カクテルリストの充実した小粋な店〈エッグ・スタンド〉の常連は、不思議な話を持ち込む若いカップルや何でもお見通しといった風の紳士など個性派揃い。そこで披露される謎物語の数々、人生模様のとりどりは……。「掌の中の小鳥」「桜月夜」「自転車泥棒」「できない相談」「エッグ・スタンド」の五編を収録する、キュートなミステリ連作集。