知的生産の技術 八木氏 代理さんのレビュー一覧
投稿者:知的生産の技術 八木氏 代理
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2005/07/13 13:54
「ノウハウ」を越えた合意術
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久恒啓一『合意術』(日本経済新聞社)を読んだ。合意については、そこに導く方法を述べた本は、説教調とか道義論とかいう説き方を除いて、合理的に誰をも納得させられるような方法を説いた本はかつてなかった。
この本は、そういう荒野に現れた希望の星であろう。この問題で悩んでいる日本全国の人、とりわけ、リーダー的な位置にいる人に読んでもらいたい本である。
例えば、アンケート用紙のいちばん下の方に、「その他、ご自由にお書きください」という欄がたいていあるが、ここに書かれた意見はひとりひとりまったく違った意見である。これはあまりにも個別的なので処理できない。せっかく書いてもらったのにその人の意見は活きないで終わる。
久恒さんはこういう意見は感度のよい人が発した、やがて数年後には多くの人の共通意見になる未来の声であるという。したがって彼は、これらの意見を定性情報として処理する方法を自ら編み出し、その過程で合意がどのようなかたちで得られるかということを発見した。
これらの定性的な意見の奥にある意味を読み取っていけば、一見バラバラにみえる意見も通じ合っている場合がある。したがってこれらの意見をかたまりにまとめることが可能になる。この「まとめる」という過程が合意となる。この小さな複数の合意のかたまりは、やがてより大きな合意に流れ込むことがあり得る。
人々が自分の意見に固執するのは、専門家としての面子や自分の立場や利害関係とかでそうする。あるいは情報がすくないためにそう思い込んでいる場合がある。
久恒さんはよく山のたとえをひく。山の七合目にいる人は見晴らしがよいために下界がよく見える。つまりいろいろ広い情報が入るから総合的に判断できる。一方、三合目あたりにいる人はそこのレベルでの景色しか見えない。つまり情報が限られている。それで7合目の人と合意がとれないことが多い。久恒さんはこういうときは七合目にいる人が見晴らしのいい情報を三合目の人に伝えてあげれば、おなじレベルに立てるから合意が取りやすくなるという。
久恒さんは定性情報を徹底的に収集し、丹念に図解していく。こうして全体の図解ができたとき、それは見晴らしのよいところから鳥瞰した図であるから、異なった立場や専門領域の人がこの図解をみたときに、自分のいる位置を知り、自分が固執する意見は局部的なものにすぎないことを理解する。さらに頂上から見晴るかした裾野や平野に圧倒的に多くいる人たちは住民とか消費者である。専門家とかそれぞれの立場の人、利害関係者は所詮これら多数者のために奉仕する身であるから、全体の幸福のためには、自分はどうすればよいかを考えるようになる。こうして納得した場合に「よい合意」が生まれる。
久恒さんは合意には「悪い合意」と「よい合意」があるとしている。「悪い合意」はむりやり力関係で合意させられた場合とか、まあ声の大きい人にしたがっておこうなどという場合である。こういう悪い合意は合意しても実行の段階に入って皆が動かないとかエネルギーが沸かないから、やがてうやむやになるか、乏しい成果しか残らなくなる。しかし、「よい合意」は実行段階にうつって皆がエネルギーを燃やして行動するようになるから成果が上がるという。
久恒さんがこのような確信的な本を書けたのは、長い間の知的生産の技術研究会での活動から図解というコミニュケーション手段に到達したこと、ビジネスマン時代の経験や宮城県立大学教授になってからの地方の町おこしの経験、さまざまな行政や業界と接触した経験がバックにあったからである。
単なるノウハウを超えてこの本は英知の高みにまで到達している。どのような領域にいる人にもこの法則は適用可能である。ほんとうに心から納得させられた本である。
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