いずみさんのレビュー一覧
投稿者:いずみ
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2005/07/15 14:26
手品の種明かしをされているような本。自信が湧いていきます。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
会議が上手く行かない、集団の士気が低い、もっと考えて行動する人材が欲しい……そんな思いを抱いている人はこの本を読んでみる価値があります。
非常に良い本だと思いました。やさしい言葉・豊富な具体例で誰でもすらすらと読むことができるはずです。著者は日本航空の労務担当・広報担当を経て、大学教授として宮城県の自治体のコンサルティングをしている人物で、その体験が具体例として描かれています。それゆえ机上の空論からは程遠く、実践的な内容となっているのです。
この本に書かれていることは、一言で言うならば「どんな議論のしかたが理想的か?」ということです。議論が決着すると、そこに合意が生まれます。それゆえタイトルが『合意術』なのです。
/著者は合意には「よい合意」と「悪い合意」があると言います。「悪い合意」とは司会者や会議の重要人物などの鶴の一声によってなあなあに決まってしまう合意のことです。逆に「よい合意」とは参加者が「腑に落ちる」感覚を持てる合意です。
「よい合意」は、その後のやる気が違います。なぜならば「よい合意」に至る過程で参加者がお互いに議論を尽くし、全員が「何が問題なのか?」を深く理解し、解決するための意欲が湧くからです。そのための具体的なステップとして「定性情報」を見つめる、全体の見晴らしを良くする、相手を納得させる、の三つがあります。
「定性情報」というのは、アンケートやヒアリングなどで得られた「お客さまの声」「住民の声」などのコメントのことで、数量化できる情報ではありません。このような情報こそが問題を深く理解するきっかけになります。
/特に感心したのが少数意見についての考察で、少数意見こそが、問題を読み解く鍵になることを著者は主張します。例えば、著者が勤めていた日本航空が機内禁煙に踏み切ったきっかけは、利用者のコメントカードに寄せられた少数の苦情(食器のニオイ、スチュワーデスの化粧のニオイ、タバコのニオイ)をきっかけに匂いに敏感な人が増えてきたという隠れた情報を読み取ったためです。これらのニオイに関する苦情を最初に提出した人は、普通の人よりも時代を先取りした感度が鋭い人なのです。このようなデータは数学的な分析から手に入れることはできません。
感度が鋭い人からの隠れた情報を読み取り、全員が新しい行動を起こすための合意とするためには議論が必要です。しかし議論をするにしても、全員が同じ問題を共有しなければ合意は生まれません。
そこで、筆者は図解を使って見晴らしを良くすることを提案します。見晴らしが良くなり、問題の全体像が理解されると、どのように解決すべきかが自然と見えてきます。なぜ合意が生まれないのかといえば、相手の情報が不足していたり、自分の立場を最優先に議論を進めて行こうとする人物がいたりするからです。こうした時に、問題の全体像を分かりやすく示すのが図解なのです。図解によって深い理解が生まれた議論では全員が「腑に落ちた」合意が生まれる、というわけです。
私の拙い説明でどれほど良さが伝わったのか非常に心許なく思いますが、読んでいて何より「ああ、こうすれば良いんだな」という実感が湧きました。次の日から少しずつ実行しています。この本の一番良いところは、特に難しい技術を覚える必要が無い、ということです。筆者の主張を私なりに噛み砕くと「相手に問題の全体像を示して(見晴らしをよくして)、一緒に答えを探っていく」というものなので「見晴らし、見晴らし」と考えつつ著者の考えを実行しただけで、確かに会議の雰囲気が一変しました。反応が良くなったような気がします。
この合意に関する議論が深まって欲しいという願いをこめて星4つです。
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