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  3. 東の風さんのレビュー一覧

東の風さんのレビュー一覧

投稿者:東の風

298 件中 61 件~ 75 件を表示

紙の本ボヌール 南桂子作品集

2009/01/31 07:36

不思議な静けさの魅力。ポエジーとファンタジーが息づく銅版画+α

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 小鳥、少女、木、町の塔といったモチーフの彼方から、静かなメロディーが聞こえてくるような絵。南 桂子(1911-2004 1954年に渡仏後、28年間をパリで暮らす)の銅版画には、ポエジーとファンタジーが息づいています。秘めやかな音楽が静もり、降り積もっているみたい。不思議な静けさの魅力を感じます。

 収録された70点のカラーエッチング(色刷り銅版画)の中には、現在も文庫本の表紙を飾っている絵もあります。オスカー・ワイルドの『幸福な王子』(新潮文庫)のカバー装画の「花と鳥」、梨木香歩の『ぐるりのこと』(新潮文庫)のカバー装画の「公園」などが、そう。

 教会の尖塔の上、太陽に向かって二羽の鳥が飛んでいく「教会」。
 夜の光のやわらかさ、静けさが、三日月、眠る鳥、首を傾げた少女によって表現された「少女と月」。
 離れたふたつの町の間に、不思議な物語が息をひそめているような「2つの町」。
 木に生るさくらんぼの実が、まるで音符のように見える「さくらんぼの木」。
 冬の海を描いて、静かなメルヘンの情趣をたたえる「時計台」。
 紫のお花畑の中にいるふたりの少女の夢が、赤い蝶となってふわりと舞い上がる「2人の少女と蝶」。

 なかでも印象に残るこうした銅版画のほか、グワッシュの水彩絵の具で描いた「夜のふくろうとキツネ」、カラーインクで描いた「魚」の絵も、とても素敵でよいなあと思いました。

 本書を購入したきっかけは、先日読んだ蜂飼 耳のエッセイ集『秘密のおこない』の中、「南桂子の画集」と題する文章にふれたこと。<独特のさびしさを湛えた銅版画の数々。内気な子どもが、ドアのうしろに隠れて、世界をそっと覗き見ているような雰囲気だ。> これは言い得て妙の至言。うまいこと言うなあ。

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ますますいい味出しているなあ。1960年代の日本を舞台にした恋と友情の青春グラフィティな漫画。大好きです、このシリーズ。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1960年代の日本を舞台にした青春グラフィティ。このシリーズ、とにかく泣かせてくれます。登場人物たちの友情、恋、夢、情熱、失意、葛藤する姿が、どうしようもなく、こちらの心を揺さぶってきます。その泣かせる筆致の、いや、上手いこと、上手いこと。私は1960年代に生まれた人間で、この本の舞台になっている辺りのことはうろ覚えなのですが、それでも、とてもなつかしい気持ちになります。

 この第6巻では、冒頭に描かれた桂木淳一のエピソードがまずよかった。ていうか、ここでこのエピソードを持ってくるっていうのが上手い! 私の中の淳一のイメージ・好感度が、このエピソードを読むことでぐんとアップしました。そのことが、ここから先の話の展開の伏線となるっていうのかな、いい感じで繋がっていくんですね。うん、話の持って行き方が上手いなあって思います。

 「SCENE 27」の扉絵で律子が持っているレコードが、そのジャケットカバーのイラストから、Bill Evans Trio の『Waltz for Debby』だろうと特定できるところ。あるいは、本巻の終盤、駅でのシーンが、ビリー・ワイルダー監督の映画『昼下りの情事』の名シーンを連想させるところ。何やらとてもなつかしい気がするこうした隠し味が、話の端々に隠されているんですね。知っていなくたって構わないけど、知っているとさらに味わいが増すみたいな。料理で言えば、スパイスのような隠し味。さりげないけど、上手いよなあ、いいなあって思うのです。

 巻末に、「夜警」という掌編を収録。ファンタジックで、ちょっとだけホラーなゴースト・ストーリー。『坂道のアポロン 5』所収の「天井娘」、『羽衣ミシン』所収の「番外編 かえりみち」など、こうした粋でファンタジックなショート・ストーリーを書かせると、小玉ユキさん、ほんと上手いなって感じますね。ここでの「夜警」も、ブラッドベリの『火星年代記』収録の短篇のテイストっすね。好きです。

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SFをめぐる星、星、星。トンネルを抜けると、そこはショートショートの花咲く町でした。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1001編のショートショートを生み出した星新一の人となりとともに、いかにして星新一という作家がその才能を開花させ、類まれな想像力を羽ばたかせて作品を書いていったか、を記した評伝。文庫本上巻の本書では、星新一晩年の風貌を伝える「序章:帽子」、作家として世に出る前の親一(ペンネームである新一の本名)を綴った「第一章:パッカードと骸骨」から「第四章:空白の六年間」、SF作家として注目され始めた「第五章:円盤と宝石」「第六章:ボッコちゃん」の、大ざっぱに言って、三部から成っています。

 巻頭の「序章」では、まず、星新一のショートショートのなかでも特に気に入っている作品「鍵」(『妄想銀行』所収)を取り上げていたところに、おっ!と引きつけられました。しみじみとした余韻が素晴らしいラストの文章がここで引かれているので、名品「鍵」を未読の方は、作品を読んでから本書に向かったほうがいいのではないでしょうか。また、この序章では、星新一直筆の色紙に書かれている<意中生羽翼 筆下起風雲>(意中 羽翼を生じ 筆下 風雲を起こす)の言葉が、ショートショートの名人にふさわしいもの。とてもいいなあと、印象に残りましたね。

 作家となる前のことを綴った第四章まで。ここは読んでいて、かなり重苦しい気分になりました。父親の星一(はじめ)が創業した星製薬をまぐる記述などは、特に。でも、評伝では地味な箇所であるこの作家・星新一誕生前の記述が、後になって効いてくるのですね。下巻に来て、「ははあ、あの時の親一の記憶がここにつながってくるのか」と。頁をめくる手は重かったですが、第四章までをじっくりと読んでよかったなと、あとでそう思いました。

 そして、1957年1月、レイ・ブラッドベリの名作『火星人記録』(現、『火星年代記』)を読んで<コンナ面白いのはめつたにない>と日記に記し、同年4月、作品のアイデアをいくつも手帳に走り書きするなど、この“昭和三十二年”という年に、作家・星新一が誕生。以後、次々にショートショートを発表していきます。その勢いたるや、開いた窓から飛び出し、花火さながら、一直線に空に駆け上る流星の如し。星新一の才能が作品に発揮され、SFの輝きと軌を一にする様子を活写した「第五章」に入って以降、わくわくしながら頁をめくっていきました。

 万華鏡でも覗くように、時々刻々、ちょっとずつ変化する“星新一”の表情を配したカバー装幀は、吉田篤弘・吉田浩美のクラフト・エヴィング商會のコンビ。この上巻では、若かりし日の星さんの表情がいいですね。「星新一と、いいむぅあす」の声が、聞こえた気がしましたよ。

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今回もドキドキしながら一気に読んでしまいました。あー、すでにして次巻が待ち遠しい・・・・・・

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 今、これほど漫画の中に没頭させてくれて、ドキドキしながら一気に読んでしまえるシリーズって、ないかもしれない。今回も、クイーン・若宮詩暢(しのぶ)への挑戦権を賭けた千早と山本由美との試合が始まって以来、わくわく、ハラハラしながら頁をめくっていました。

 この第八巻で一等、心を揺さぶられたのは、かるたの真剣勝負を繰り広げたあと、敗者が見せる悔し涙のシーン。とりわけ、白波会の原田先生の背広にすがって○○が号泣するシーン。胸がいっぱいになってもうた。この悔しさあるからこそ次につながるんだな、って、なんか先日見てたバンクーバー・オリンピックでの選手たちのコメントを思い出したりして。

 それと、クイーン・若宮詩暢のあまりの変わりようにはびっくりしたなあ。全く別人かと思いました(汗) でも、かるたとの出会いやなんかに触れたクイーンの子供の頃のエピソードが描かれていて、そこはとても興味深かったし、ちょっとだけ、クイーンへの親近感がアップしたかな。

 千早をはじめ、真島と新(あらた)が力をつけて、三人三様、名人に挑戦する試合をいつか見たいっすねー。楽しみです。

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紙の本岳 10 (ビッグコミックス)

2009/08/30 19:52

いいなあ、このシリーズは。胸にじんとしみるものがあって。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 疲れ気味だったり、重たい気分のとき、実によく効く漫画です。この第10巻も、ナオタ君がふたりに贈る言葉が素敵な最初の「春一番の柄」の話からもう、涙腺がゆるみっぱなしで・・・・・・。

 <重いと思うと急に重くなっちゃうんだな、これが。不思議なんだけど。>という三歩の言葉や、<人ってどうしてこんなに簡単に死んじゃうんだろって思うのと、またその逆で、どうしてこの登山者はこんなボロボロになってまで生きられたんだろって・・・・・・>という久美さんの言葉。いいっすねぇ。ぐっときました。

 阿久津君は試練の時を迎えていて、心の中で、「ガンバ!>阿久津君」てエールの旗を振ってました。三歩さんはもとより、久美さん、ナオタ君、谷村のおばちゃん、阿久津君と、シリーズ・レギュラーへの親しみが、ますます湧いてきています。彼らそれぞれの葛藤や悩み、それを乗り越えていく姿が、山の清澄な息吹とともに生き生きと、あたたかく描き出されているところ。ほんと、素晴らしいなって思います。

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紙の本神の守り人 上 来訪編

2009/07/30 04:19

大河のようなストーリーが、ゆるやかに広がってゆく。素晴らしいなあ、このシリーズは。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ロタ王国ならびに新ヨゴ皇国の西部・国境地域を舞台に、女用心棒バルサが、恐ろしき神<タルハマヤ>を呼び寄せる力を持つ少女アスラを追っ手から守るというのが、本書のメイン・ストーリー。

 本作品について、作者は次のように語っています。
「アスラという少女をバルサが連れて逃げるイメージを追いかけていくうちに、物語の根がロタ王国の創世にまで広がっていき、あれよあれよという間に、枝葉を広げて、とても一冊ではおさまりきらない大樹へと育ってしまったのです」と。話がひとり歩きをはじめ、ぐんぐんふくらんでいくというのは、きっとこういうことを言うのでしょうね。「ゲド戦記」シリーズといった上質の海外ファンタジーを読んでいる気分になりました。ゆるやかに広がっていく大河のような物語。素晴らしい。

 <帰還編>へとつづく本書の中で最も印象に残ったのは、恐ろしき神<タルハマヤ>をめぐる伝説がロタ王国の氏族間で異なっている、というところ。ある氏族の伝説で「恐怖の時代を招いた恐るべき人」と言い伝えられてきた人物が、別の伝説では「善政を敷いた神聖な方」となっている。祖先を美化するためか、それぞれに都合のいい伝説があり、そこから根深い対立と憎しみが生まれている。作品の底に流れるそうしたモチーフが巧みに織り込まれ、作品に深みを与えているのが見事です。

 異文化・異民族の違いを具体的に描いているところも面白い。「ロタ人は、相手の手首を握り合って挨拶する」「タルの民は、額と鼻と口を三本の指でとん、とんと撫でてから、床に頭をつけて、心からの感謝を示す」といった描写が、物語を一層、彫りの深いものにしている印象を受けました。

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紙の本新編物いう小箱

2009/06/07 21:03

梅の香がほのかに匂い立つような作品の風合い、馥郁とした作品の品のあるたたずまいに魅了された一冊

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 図書館でふと手に取った文庫本。種村季弘が編んだ怪奇短編アンソロジー、『日本怪談集』(河出文庫)の上下巻。その下巻に、本文庫にも収録されている「猫が物いう話」「碁盤」の二篇が収められていて、そのふっくりとした怪談の味わいがなんとも心地よくて、それで本書を購入しました。江戸時代の日本を舞台にした二十四の小品を本文庫の前半に、唐をはじめとする中国を舞台にした二十の小品を後半に収めています。

 江戸の怪を、さらさらっとこう、スケッチブックに描きつける感じで書きとめた前半「一」の項に、いくつか、実に得難い妙味のある作品がありました。その妙味は、杉浦日向子の漫画・怪異譚集『百物語』(新潮文庫)に通じる風情のあるもの。実際、本書の巻頭を飾る小品「猫が物いう話」の「二 春の日」は、ほとんどそのまま、杉浦日向子の『百物語』の中の一篇になっています。「其ノ五十四 猫と婆様(ばさま)の話」というのがそれです。

 森 銑三(せんぞう 1895-1985)のこの江戸綺譚のなかでは、「仕舞扇」「碁盤 その一」「朝顔」の三篇がよかったですねぇ。いずれの掌篇も、登場人物の死にまつわる怪談なのですが、梅の香がほのかに匂い立つような作品の風合い、馥郁とした作品の品のあるたたずまいが、実に良いのです。格別、「朝顔」の一編に、心惹かれました。わずか四頁とちょっとの小品ですが、宮部みゆきの江戸の怪(あやし)の物語に通じている、そんな味わいに魅了されたのです。

 片や、小さな『聊斎志異』とでもいった趣のある本書後半「二」の項の掌篇のなかでは、「衝立の女」が気に入りました。「二」の項にいくつか収められている絵画綺譚のうちのひとつ。ユルスナールの「老絵師の行方」(『東方綺譚』白水Uブックス所収)のような神韻縹緲たる趣はないけれど、すっきりとした話の秘めやかなたたずまいがいいなあと。なんとはなしに心に残る一編です。

 本書裏表紙の作品紹介文に、<『怪談』を愛してやまなかった著者が「八雲に聴かせたい」との思いで書き綴った怪異談>とあります。怪談・奇談の小品がお好きな方に、特におすすめしたい一冊。

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紙の本怖い絵 3

2009/06/06 15:46

絵の中の「闇」に思いをめぐらす著者の想像力が素晴らしい。シリーズ完結編の本書も、実に読みごたえがあります。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 世界史の中に潜む闇。いつの世も変わらぬ人間心理の闇。神話や宗教の世界と深く関わっている闇。一枚の絵に秘められたそうした様々な「闇」の彼方に目を向け、思いをめぐらす著者の想像力が素晴らしいですね。生半可でない西洋史の知識と、優れた観察眼に裏打ちされた論考であるだけに、その想像力は極めて説得力があります。

 絵解きをしていく文章表現が的確で見事なせいもあるのでしょう。「なるほど。この絵の裏側には、そういう悲惨な歴史があったのか」とか、「最初はこの絵のどこが怖いのかさっぱり分からなかったけれど、そう言われてみれば、これは確かに怖いなあ」と、あちこちで目から鱗がぽろり。シリーズ完結編である本書は、絵の中の「闇」の奥深い所まで分け入り、その核心を鋭く衝いていることでは、先の二冊以上の出来映え。頁をめくるほどに引き込まれ、堪能させられました。

 取り上げられた絵は、全部で二十点。
◆ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
◆イリヤ・レーピン『皇女ソフィア』
◆伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』
◆ヤーコプ・ヨルダーンス『豆の王様』
◆ルーベンス『メドゥーサの首』
◆エゴン・シーレ『死と乙女』
◆伝ブリューゲル『イカロスの墜落』
◆ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』
◆ミケランジェロ『聖家族』
◆ドラクロワ『怒れるメディア』
◆ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』
◆リチャード・レッドグレイヴ『かわいそうな先生』
◆レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
◆ジャン・フーケ『ムーランの聖母子』
◆ベックリン『ケンタウロスの闘い』
◆ウィリアム・ホガース『ジン横丁』
◆トーマス・ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』
◆ジャコポ・アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』
◆ジェームス・アンソール『仮面にかこまれた自画像』
◆フュースリ『夢魔(むま)』

 とりわけ、次の絵解きが面白かったなあ。首までずっぽり浸かって、頁をめくってました(笑)

◆シーレ『死と乙女』・・・・・・絵の中のふたりと現実のふたりの人生、画家シーレと恋人ヴァリの人生が重なるところ。しみじみとした哀しみに満ちていて余韻が残った。
◆ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』・・・・・・絵にこめられた画家の怒り、魂の叫びが聞こえる。気合いのこもった著者の筆致に唸った。
◆ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』・・・・・・文中で紹介されているフロイトの解釈がとてもユニークで面白い。ダ・ヴィンチ先生も真っ青の仰天・名(迷?)推理。
◆フーケ『ムーランの聖母子』・・・・・・絵それ自体から受けたインパクトではこれが一番。十五世紀の絵とは思えないエキセントリックな味わいに、思わずのけぞってしまった。
◆ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』・・・・・・絵の中にないものに思いをめぐらす時、むくむくと広がっていく暗雲のような怖さ。ぞくっとするその味わいは、アガサ・クリスティーのミステリにも似て。
◆アンソール『仮面にかこまれた自画像』・・・・・・とっておきの手品の種明かしでもするように、この絵に仕掛けられたトリック(?)を終盤で明かす構成の妙。うまいっ!

 本シリーズに魅せられた方なら、著者の『危険な世界史』『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』もきっと気に入ることでしょう。まだでしたら、ぜひ!

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紙の本映画篇

2009/04/07 23:26

ここ数年で、一番、泣けた感動本。映画好きの方は、ぜひ!

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本の扉に置かれた『ローマの休日 上映会』のポスターが、収録作品を読んでいくうちに、あたたかな光を帯びて輝いてくる、そんな連作短篇集。
 面白い映画を通して心を通わせていく登場人物たちがいとおしくて、肩をぽんと叩いたり、ぎゅっと抱きしめたくなったりしました。

 五つの話のなかでも、最初の「太陽がいっぱい」での主人公と龍一(リョンイル)の友情を描いた話と、おしまいの「愛の泉」での鳥越ファミリーの話がよかった! 何度も目頭が熱くなって、涙がこぼれました。ここ何年かで読んだ中では、たぶん、一番たくさん、涙を流した本だと思います。

 登場人物たちにとって映画の存在がかけがえのないものになっていること、町内のある店やなんかが共通して出てくること、上記の8月31日(日)の上映会が話の中で大切な意味を持っていることなど、五つの話のそれぞれがどこかでつながっている辺りの趣向も、とても面白かったな。

 映画好きの方で、まだこの本を読んでいない方には、「ぜひ読んでみて!」と、おすすめしたくなった一冊。めっちゃ感動しました。

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紙の本あちん

2009/03/31 23:26

ああ、怖かったなあ。ぞっとしたなあ。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 「あちん」と「タブノキ」、冒頭とそれに続く短篇ふたつの怖さが、格別。黒くて禍々しいものに、白い画用紙が徐々に塗りつぶされ、埋め尽くされてゆく・・・・・・。地霊というか、土地の氏神というか。その土地に古くから根付いている大いなるものが、ずるりずるりと迫ってくるような、そんな雰囲気を持つこの二篇。最初のうちはさほどでもないかと感じていた話の空気が、次第次第に邪悪なものに覆われ、ただならぬどす黒さを帯びてゆく気配。ああ、怖かったなあ。

 オホリノテと呼ばれる、影を喰らう黒い藻草(もぐさ)。顔半分が潰れた片腕の年寄り、鉄五郎。何やら不吉なものがひとつ、またひとつと出てくる話の中は、今しも土砂降りの雨。北陸のF市、県庁への帰路を急ぐ主人公が、化け物じみた鉄五郎とぶつかるところ。「私」の足元を見た鉄五郎が、<あちんあちんあちんあちんあちんあちん!>と、鋭い声を出す場面に、まずやられました。主人公が履くパンプスの黒い汚れ、その不快な悪臭が鼻にこびりついて離れなくなるのと同時に、<あちんあちん>の声が、耳の中で渦巻くように反響しはじめるんですね。第2回『幽』怪談文学賞の短編部門、大賞を受賞した表題作「あちん」は、半端じゃない怖さで、びびりました。

 著者の書き下ろし短篇「きたぐに母子歌」(東 雅夫 編『怪談列島ニッポン』所収)も、面白かったな。この短篇に登場する部長と営業部員のコンビ、そのコミカルな味がどういうわけか、かなり気に入りまして。連作短篇のコンビニじゃない、コンビ・キャラにならないかなあと、ひそかに期待しています。

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紙の本海辺の王国

2009/03/24 22:42

十二歳の少年が、シェパード犬と、そして人と心を通わせていく物語。しみじみと心を揺さぶる味わいが、とてもいいのです。

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 1942年の英国、ノーサンバーランド州を舞台に、空襲で家族を失くした十二歳の少年ハリー・バグリーが、ドイツ・シェパード犬のドンとともに、放浪の旅をして行きます。戦時下、ハリーは色んな人と出会い、多くの困難に見舞われるのですが、そのひとつひとつを相棒のシェパード犬と乗り越えながら、少年から一人前の男へと成長していくのですね。

 第二次大戦の暴風雨が吹き荒れる中、少年と犬が海辺を旅してさすらう姿が、物語のキャンバスに、生き生きと、力強いタッチで描かれていたのが素晴らしかった。本の中に登場する犬がこれほど魅力的に感じられたのは、クレイグ・ライスの『暴徒裁判』以来。魅了されました。

 作者のウェストールは、1929年生まれ。本書の設定である1942年当時は十三歳くらいですから、主人公の少年とほぼ歳が重なるんですね。作者は、どんな思いを胸にこの作品を書いていったのだろう。それが腑に落ちた気がしたのは、巻末の「日本の読者のみなさまへ」を読んだ時のこと。ここにはあえて引用しませんが、はっと胸を衝かれる文章です。

 物語の中、時にほっと一息つくことがあっても、少年は自分に、次のような警報を発せずにはいられません。<ぼくはまた一人ぼっちになる。そういう日はかならず来る。よいことは長つづきしないものなのだ>と。
 こうした寂しさを常に心に抱きながら旅を続けていく少年と、大きな悲しみに打ちひしがれた人物とが出会い、お互いの気持ちを通い合わせていくところ。その辺の描写も、味わい深い趣に満ちていました。心にしみじみと響くものがありました。

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奔放な奇想が縦横無尽に躍る絵の数々。わくわくさせられます。

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 幕末から明治の動乱期にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎(かわなべ きょうさい 1831-1889)。北森鴻のミステリ『狂乱廿四孝』で知った絵師ですが、本書を見るまでは、正直、これほど凄い絵師だとは思っていませんでした。

◎蛙たちが興じる様、相撲をとる様子を眺める女。その裾(すそ)から覗く白い脚と赤い下着・・・・・・【美人観蛙戯図(びじんかんあぎず)】

◎鯉に乗る魚籃(ぎょらん)観音、赤い衣を着た天女、飛脚のような鬼を描いて、絵の中を左から右に駆け抜けていく風を感じる・・・・・・【波乗り観音図屏風】

◎いつもはやられっぱなしの蛇を枝に縛りつけ、自由を効かなくした上で、歌えや踊れのお祭り騒ぎに興じる蛙たちの様子が愉快な・・・・・・【カエルのヘビ退治】

◎今しも掛け軸からすーっと抜け出ようとしている、うつむいてギョロリとした目の幽霊・・・・・・【幽霊図】(1883年作品)

 などなど、何かしら一工夫してみせようとする暁斎の心意気、権力に抗する反骨の精神、人の意表を衝く奔放な奇想が、縦横無尽に躍っている。生き生きと、ダイナミックに展開されている。縦290mm、横220mm の大判のムック本の頁をめくっていきながら、「見事だなあ」「面白いなあ」の声を連発、歓声をあげていましたね。

 好きなミステリ作家、北森鴻のエッセイ「鬼・狂(暁)斎」が載っていたのも嬉しいです。

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紙の本新選組血風録 新装版

2009/03/12 00:35

容赦なき殺戮集団の中にも、血の通った人間の息遣いがある。粒ぞろいの連作短編時代小説に、胸が熱くなりました。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 新しい時代の足音が聞こえる幕末の京都を舞台に、新選組隊士たちのエピソードを描いた作品が全部で十五、収められています。

 京洛を戦慄させた殺人集団・新選組の非情ぶりがひしひしと伝わってくる作品の緊迫感。血煙をあげる争闘の日々の背後で、確実に移り変わっていく時の歯車の音を聞くような臨場感。そして何よりも、恐るべき殺人組織を構成する有名無名の隊士たちの、血の通った人間のドラマ!
 頁をめくるうちに、本の中の世界に吸い込まれていくような読みごたえ。夢中のひとときを堪能させられました。

 局長・近藤勇の名刀への執着(「虎徹」)。副長・土方歳三の粛清の苛烈さ(「鴨川銭取橋(ぜにとりばし)」)。一番隊組頭・沖田総司の哀しいほどに澄み切った明るさ(「沖田総司の恋」「菊一文字」)。新選組の面々の性格がその行動とともに、話の中に鮮やかに活写されています。見事、というしかありません。
 ほかの隊士たちにも魅力的な人物が多いですね。「胡沙笛(こさぶえ)を吹く武士」の鹿内(しかない)薫、「弥兵衛奮迅」の富山(とみやま)弥兵衛の人間味には、殊に心惹かれました。

 作品の配置では、「油小路(あぶらのこうじ)の決闘」が冒頭に置かれているのが、やや引っかかりました。冒頭の話としては、いささか唐突な感じがしたのですね。この作品は「弥兵衛奮迅」の後に置いたほうが、読みごたえが増すのではないかなあ、と思ったのですが・・・。

 主人公の妖しい美貌に思わず興奮、どきどきしながら頁をめくっていった「前髪の惣三郎」。主人公の心境と行動の変化に強く共感させられた「胡沙笛を吹く武士」。そして、一輪の野の花を彷彿させる、はかなく、切ない恋の行方が胸にしみた「沖田総司の恋」。
 特に気に入った作品は、この三つ。

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紙の本六本指のゴルトベルク

2009/03/08 19:45

音楽の不思議、音楽の魔が降り積もっていくエッセイ集

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 本書のタイトルになっている六本指の人物が弾く『ゴルトベルク変奏曲』の話からはじまるエッセイ集。バッハの『ゴルトベルク変奏曲』が主題のアリアと30の変奏から出来ているように、本書は30のエッセイ+あと書きで構成されています。

 音楽を扱った小説やミステリーを取り上げながら、100%の完璧を望む演奏家気質や、コンサートを前にしたこの世の終わりかと思うほどの緊張、高額な楽器と演奏の「ホンモノ」「ニセモノ」をめぐるテーマ、言葉を超えたところに生まれる共感の心理など、音楽と作曲家、演奏家の神秘に思いをひそませ、そのヴェールの裏側にあるものを垣間見ていくのですね。

 著者の身の回りに起きた体験談を話の枕に、音楽小説やミステリーの同じテーマやモチーフ、印象的なシーンを読み解いていくなかで、音楽の不思議、音楽の魔が降り積もっていくところ。著者の<ツボにはまった感>が、精妙な文章の調べに乗って響いてきたところ。そこがよかった。グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』のあとのほうの演奏、ゆったりとしてたゆたうような1981年盤の音楽に耳傾ける感じで引き込まれていきました。

 思索の深い底から、バッハの楽譜が現れ、音楽が紡がれてゆく様を描いたイラスト。ミルキィ・イソベの装丁も、本書に一層の趣を添えて素敵です。

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紙の本心と響き合う読書案内

2009/03/03 17:50

豊かで、深い味わいに満ちた水先案内書です

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 春、夏、秋、冬。四つの季節それぞれに十三の本が取り上げられ、全部で五十二の本が紹介されています。
 『万葉集』、清少納言の『枕草子』、芭蕉の「おくのほそ道」、宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』から、夏目漱石の『こころ』、芥川龍之介の「羅生門」、中島敦の「山月記」といった日本の古典文学、カフカ『変身』、サン・テグジュペリ『星の王子さま』、エンデ『モモ』といった海外の名作、村上春樹の『風の歌を聴け』、梨木香歩の『家守綺譚』、アリステア・マクラウドの『冬の犬』といった現代文学の名品まで、実に幅広い文学作品の数々が取り上げられています。

 その本への深い共感に満ちた著者の思いが、的確で分かりやすい文章によって表現されていたところ、素晴らしいと思いました。格別、心にしみじみと響いてぐっときたのが、『アンネの日記』の紹介文。思わず、胸が熱くなりました。

 著者の曇りのない眼差しによって、その作品のテーマ、核となる部分が、くっきりと照射されていたところも見事でしたね。金子みすゞの童謡集『わたしと小鳥とすずと』の紹介文のなかの次の言葉など、作品の深いところにある生命(いのち)の源(みなもと)を、あざやかにすくい上げているとは言えないでしょうか。
 <どの詩にもどこか寂しさや切なさがあります。しかもそれは一個人の感情を越えています。人間という存在が大地に跪く(ひざまずく)時、大地から響いてくる寂しさ、切なさなのです。高い場所からではなく、地べたに這いつくばって世の中を見ている詩ばかりです。土や草をモチーフにした詩が多く、また海を歌うにしても海の底を歌っています。こうした作者の姿勢の低さが、大勢の人の心を打つ要因ではないでしょうか。>(本書 p.20より)

 ラジオ番組、TOKYO FMの『Panasonic Melodious Library』(毎週日曜、朝10:00~10:30放送)、2007年7月~2008年6月放送分を、書籍化にあたって再構成したのが本書です。

 読書の広大で、はるかな旅へといざなってくれる一冊。文学作品に寄り添い、深く味わうというのはこういうことを言うのかと、目を見張る思いがしました。

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