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東の風さんのレビュー一覧

投稿者:東の風

298 件中 31 件~ 45 件を表示

紙の本ジャンピング・ジェニイ

2009/11/05 18:27

エンディングのひとひねりと併せて、何とも旨みのあるミステリ

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 これには、まいった! 通常の犯人探しの探偵小説とは全く違うミステリ。ユーモアとウィットの利いたコメディを見ているみたいな趣って言ってもいいかな。本当に面白かった。

 名探偵ならぬ迷探偵、ロジャー・シェリンガムが活躍する作品。あちこちで、「おいおい」とツッコミを入れたくなるシェリンガムの右往左往ぶり、状況をややこしいものにする推理と行動が、とても愉快でしたね。シェリンガムったら、全くとんでもない探偵だよ!

 普通の探偵小説とは、全く違う趣向が凝らされています。それは、シチュエーションの風変わりな妙味と、被害者の死をめぐって一致団結する登場人物たちの言動の面白さにあったように思います。二転三転するシェリンガムの推理も愉快でしたし、シェリンガムをはじめ、登場人物たちの奮闘(?)は、「頑張れ~」と思わず応援したくなったくらい。エンディングのひとひねりと併せて、何とも旨みのあるミステリでしたね。

 そうそう。死体とその他の事件関係者をめぐる構図、話の展開に似た味わいがあるかなあって思い出したミステリがひとつ。クレイグ・ライスの『眠りをむさぼりすぎた男』(国書刊行会)。よろしければ、こちらもどうぞ。

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紙の本アラスカ風のような物語

2009/05/11 13:37

写真と文章の、静かで美しいハーモニー

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 カリブーの群れや巨大なムース、グリズリー(ハイイログマ)の親子、ハクトウワシにシロフクロウといった野生動物たち。エスキモーやインディアンのアラスカ原住民と、極北の大地に根を下ろして暮らす白人たち。そして、森と川、氷河、夜空にゆらめくオーロラの風景。遥かに広がるアラスカの自然と、人々の暮らしを撮ったカラー写真の数々が、とても素晴らしかった。自然と人間の関わり方について、何か大切なことを語りかけてくる感じ。そこには著者の、「この地で暮らす生き物たちは皆、アラスカの自然に生かされているのだ」という祈りにも似た気持ちが込められているかのようで、一枚一枚の写真に見入ってしまいました。

 見ごたえのある写真の数々と、静かで美しいハーモニーを奏でている文章も素敵ですねぇ。<突然、背中に強い衝撃があった。かがんでいた僕は思わずバランスを失った。>(p.45 「コクガンの賭け」)に続く五行の文章。著者が思いがけず、シロフクロウの攻撃を受けるシーンのスリリングだったこと。どきどきしました。

 あるいは、線路際に立って手を振れば、それがどこでも列車は止まり、その人を乗客として乗せるというアラスカ鉄道のことを紹介する件り(p.218~223 「冬のアラスカ鉄道」)。白い原野が続く中、まっすぐに延びる二本のレールの上を、平均時速48キロで走るシベリア鉄道。「なんだかまるで、地球という星の、雪と氷の大地を走る銀河鉄道999みたいじゃないか」と思うと、胸がほかほかしてきました。

 とりわけ心がじんとしびれたのは、「シシュマレフ村」と題されたエッセイ。十八年前の1971年の夏、十九歳だった著者が初めてアラスカに来て、エスキモーの家族と過ごした村。神田古本屋街の洋書専門店で、一冊のアラスカの写真集と出会い、その中にあったエスキモーの村の写真に惹かれた著者は、この村に宛てて手紙を出します。<Mayor Shishmaref Alaska U.S.A>と住所を記した手紙を。それから半年後、家のポストに外国郵便が届きます。差出人住所欄に、<Clifford Weyiouanna Shishmaref Alaska>と書かれた一通の手紙が。<遠いアラスカがすぐそこで、自分の憧れを受け止めていた。>(p.242)という一行の魅力的なこと。「ここからアラスカをめぐる著者の旅がはじまるんだなあ」と思うと、しみじみと胸に迫るものがありました。

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紙の本ノーザンライツ

2009/05/09 17:47

アラスカのひとつの時代を生きた人たちの物語が綴られてゆく、深い輝きに満ちたエッセイ集

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ただアラスカに飛んでゆきたいという強い憧れのもと、半世紀近く前の1946年にアラスカに舞い降りたふたりの女性パイロット、シリア・ハンターとジニー・ウッド。1960年代の初め、アラスカでの核実験計画の国家プロジェクトに反対し、アラスカを追われた生物学者ビル・プルーイット。白人の血が流れていても精神的にはエスキモー、違った価値観と文化を持つふたつの世界のどちらにも属しきれないジレンマを抱える若者、セス・キャントナー。アルバムをめくるようにして、アラスカのひとつの時代を生きた人たちの物語が語られてゆきます。

 白黒、カラー取り混ぜて、多くの写真が掲載されているせいでしょうか。それは全くアラスカのアルバムをめくるような感じで、それぞれに旅をしている人間の物語が綴られていきます。<さまざまな人間の物語があるからこそ、美しいアラスカの自然は、より深い輝きに満ちてくる。人はいつも、それぞれの光を捜し求める、長い旅の途上なのだ。>(p.276)と記す著者のアラスカへの想い、アラスカで出会った忘れがたい人たちへの親しさが、あたたかく息づいているんですね。決して声高にならない、静けさをたたえた文章の底に流れる、アラスカの自然とアラスカで暮らす人たちの精神的な豊かさ、スピリットの輝き。清々しい風のような物語に魅了されました。

 掲載された写真のなかでは、マニトバ大学の研究室に立つビル・プルーイット(本文庫でも紹介されている彼の著作が、『極北の動物誌』という書名で出版されています。ただし、現在は絶版中)を写した一枚と、部族の集会に参加したグッチンインディアンの人たち(全部で200人くらい、いるかな)を記念撮影した見開き二頁にまたがる一枚が印象的。ほのぼのとして、あたたかな気持ちに誘われました。

 1996年8月、不慮の事故により著者が急逝したことにより、未完のまま刊行されることとなったエッセイ集。アラスカの風と匂いが行間の隅々にまで浸透した、豊かな味わいに満ちた一冊です。

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紙の本パラドックス13

2009/04/19 18:25

流石、リーダビリティーあるなあ。絶望的な状況下での人間ドラマを描いて、はらはら、ぞくぞくさせてくれました。

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 最初のほうは分かりづらくて、これはちと期待ハズレだったかと心配したのですが、複数の登場人物のキャラが立ちはじめ、作品を貫く太い芯が見えてきた中盤から面白くなってきて、結局、最後まで読まされてしまいましたね。期待以上のリーダビリティーで、はらはら、ぞくぞくしながら、一気に読んでいくことができました。

 突然、自分の周りから、人間が消えていなくなる異常事態に面食らう複数の男女。彼らが、3月13日の13時13分13秒から13秒間にわたって発生した「パラドックス13」現象、略して「P-13現象」に巻き込まれるんですね。で、未曾有の大災害(大地震、道路の陥没、建物の倒壊、大雨による水害)が立て続けに起きる無人の東京を舞台に、様々な危難、人間関係の衝突を乗り越えて、必死に生き抜いていこうとするストーリー。そういうSF風パニック小説の顔をしているのですが、小説の底を貫いているのは、絶望的な状況に直面した複数の人間たちが繰り広げる人間模様、その決死のドラマです。途中で、映画『ポセイドン・アドベンチャー』のこと、思い浮かべたりしました。

 複数の登場人物の個性も無理なく、自然に描かれていて、馴染みやすかったです。なかでも、集団のリーダー的存在として皆を引っ張っていく誠哉(せいや)と、優秀な兄に複雑な感情を抱いている冬樹(ふゆき)、久我兄弟のふたりのキャラが印象に残りました。人を救う使命感に異常な熱意を傾ける超人的な兄と、人間らしい過ちや性急な行動に走る傾向のある平凡な弟、という構図。危機的な状況のなかで、ぎくしゃくしていた兄弟の間に信頼の絆が生まれていきます。この信頼関係が築かれていくテーマは、久我兄弟のふたりだけでなく、ほかの男女の間にもあって、そこに本作品の一番の妙味、読みごたえを感じました。

 エンディングは、タイムトラベル映画の素敵なシーンを彷彿させるもの。新味は薄いけれど、すっきりとして心地よい余韻でしたね。私は好きです、このラスト。

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紙の本枕草子

2009/03/09 19:13

『枕草子』のエッセンスが詰まった、親しみやすい一冊

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 全部で約三百の章段からなる『枕草子』の中から七十段あまりを選び、現代語訳、原文(いずれも、総振り仮名付き)、寸評の順に掲載された文庫本。坂口由美子・執筆による現代語訳が平明で親しみやすく、原文の味わいを見事に生かしています。作者・清少納言のきらきらした才気がほとばしる世界、千年前の作品なのに今に通じる人間の息吹、人情の機微を感じる世界に、すっと入っていくことができました。

 たとえば、「春は、曙(あけぼの)」ではじまる有名な第一段の現代語訳は、こんな感じ。ここでは字数の関係で、春と夏の部分のみ、引いておきます。
 <春は、なんといってもほのぼのと夜が明けるとき。だんだんとあたりが白んで、山のすぐ上の空がほんのりと明るくなって、淡い紫に染まった雲が細くたなびいているようす。
夏は、夜がすてきだ。月が出ていればもちろん、闇夜でも、ホタルがいっぱい飛び交っているようす。また、ほんの一つ二つ、ほのかに光っていくのもいい。雨の降るのも、また、いい。>(p.11)

 言い得て妙だなあと、清少納言の味わい深い機知に感心させられた箇所では、格別、第一六一段「近くて遠いもの」と第一六二段「遠くて近いもの」が並べて配置された所が印象に残ります。ここも、現代語訳を引いてみましょう。
 <近いくせに遠いもの。宮のべの祭り。愛情のない兄弟・親族の間柄。鞍馬の九十九折(つづらおり)という、幾重にも折れ曲がった坂道。十二月の大晦日(おおみそか)の日と正月の一日(ついたち)の間。>
 <遠いくせに近いもの。極楽。舟の旅。男女の仲。>

 本書を手にとったのは、小川洋子『心と響き合う読書案内』の中で紹介されていたのを読んで、読みやすそうだな、面白そうだなと興味を誘われたから。その期待どおりの、本書はとても親しみやすい、『枕草子』のエッセンスが詰まった一冊でした。

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紙の本危険な世界史

2009/02/05 19:09

歴史上の点が線になる面白さがあるから、頁をめくる手が止まらない

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 1789年に勃発したフランス革命によって捕らえられ、ギロチンの斬首刑に処せられたマリー・アントワネット。彼女が生きた十八世紀後半の前後百年間、1683年~1883年にかけてヨーロッパならびにロシアで起きた事件や活躍した人物たちのスキャンダラスなエピソードを取り上げながら、その背景にあったかもしれない出来事や相互関係を紹介していくミニ・コラム集。

 全部で100のコラムのそれぞれは2頁ほどと小粒ながら、著者の語り口の上手さ、歴史的エピソードの切り口の面白さで、あれよあれよと、頁をめくる手が止まらなくなっていましたね。歴史上の点として見えていた人物や事件などが、読み進めていくうちに線としてつながっていき、それとともに、十八世紀~十九世紀にかけての近代ヨーロッパという時代が秘めていた血なまぐさい匂いが漂ってくるような、そんな妙味がこの一冊にはありました。

 当時の君主たちの命がけの権力闘争や、王族のスキャンダルなどを取り上げた【魑魅魍魎の宮廷世界】。チャイコフスキーやドストエフスキーといった芸術家たちにスポットライトを当てた【芸術家という名の怪物】。十八世紀ヨーロッパの奇妙な流行などを垣間見ていく【宮廷の外もまた・・・・・・】。以上、大きく三つの章で構成されています。

 とりわけ印象に残ったのは、「フランス革命からフランケンシュタインへ 一八一八年」「フランケンシュタイン誕生前夜 一八一六年」と続くふたつのコラム。フュースリの『夢魔』の絵を皮切りに、そこから展開される歴史の不思議な因縁、つながりに戦慄させられました。

 戦慄させられると言えば、単行本表紙カバーに描かれたスペイン王室のカルロス二世の肖像画も怖いなあ。この少年の青白い顔に、当時の西欧社会の歪みのようなものが象徴的に出ている気がして、眺めているとぞっとします。

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ブッシュ政権って、ほんとに滅茶苦茶でサイテーの政権だったんだな

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 イラク戦争はじめ、二期8年にわたって愚策を垂れ流してきたブッシュ政権の滅茶苦茶ぶりをメインに、現在のアメリカが抱える深刻なトラブルの現実、その裏舞台を、痛烈なコメントで暴露し、ぶちまけたコラム集。コラム執筆当時、アメリカのカリフォルニア州オークランドに家族と暮らしていた(現在は、同じカリフォルニア州のバークレー在住とのこと)著者が、現在のアメリカのしょうもない破たんぶり、かつての世界の大国の凋落ぶりを、「宗教」「戦争」「経済」「政治」「メディア」のそれぞれのフィールドから紹介していくのですね。

 序章に、<アメリカ人の時事問題への無知の原因には、右派メディアの暴走や、教育の崩壊などいろいろな理由があるが、とにかく、ニュースを知らない人たち、外国に興味のない人たちによって大統領が決定され、その大統領が無茶な戦争を起こし、デタラメな政策で経済メルトダウンを起こして日本や世界を巻き込んでいるわけで、この不条理には、もはや笑うしかない>とありましたが、あちこちで紹介されているブッシュ大統領(当時)と彼を支える政治家、サポーター、キリスト教原理主義者や右翼メディアの傍若無人なこと、言ってることとやってることがまるっきり逆の偽善者ぶりには、おぞましさを覚えました。

 第一章「暴走する宗教」から第五章「ウソだらけのメディア」までは、アメリカの恥部、暗部をさらけ出したスキャンダラスで、「うげっ・・・・・・」と絶句するコラムの数々。おしまいの第六章「アメリカを救うのは誰か」のみ、ブッシュ政権後のアメリカへの期待を感じるコラムでしたね。
 なかでも、2007年7月23日に行われた民主党・大統領候補たちの公開ディベートの模様を活写した、「奴隷制度の賠償してくれる人に投票するよ」と題したコラムがよかった。一服の清涼剤を飲んだ気分というか、「こういう公開討論会ができるってところは、アメリカのいい面だね」と思ったから。

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身にしみて深い漫画。ストーリーが実によく練り上げられていて、めっちゃ面白いです。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 江戸時代は徳川幕府の正史(実際の歴史)に対して、「日本男子の人口が女子の四分の一にまで激減。それに伴って、女将軍が誕生。大奥もまた、男女比逆転の世の中そのままに、美貌あるいは切れ者の男子で構成されるようになる」 if もしも・・・の江戸時代を描いた漫画。ストーリーが実によく練り上げられ、考えられていて、読みごたえがありますね。殊に、女将軍それぞれの性格描写と行動、大奥はじめ、将軍側近の人間たちが織り成す運命的な出会い、人間模様などが深いところまで掘り下げられていて、めっちゃ面白いです。

 シリーズ第五巻の本書では、五代(女)将軍・徳川綱吉が君臨する元禄時代という設定。前巻のラストで大奥総取締の座に就いた右衛門佐(えもんのすけ)の活躍、愛する我が子を失った綱吉の惑乱と狂気、赤穂浪士の討ち入り(別バージョン)の話がメインとなっています。

 なかでも印象に深く残ったのが、主要登場人物の邂逅。本巻のラスト、女将軍同士の一度きりの出会いを描いた場面もよかったけれど、格別、素晴らしかったのは、三代(女)将軍・家光公のもとで活躍したふたりが再会する場面。本シリーズ第三巻においては、密接に、深く関わっていたふたりの人生が、ここでは「何と遠くまで来てしまった事か」。カッコ書きにした家光公の台詞(第四巻 p.28)も思い出されて、なんや、しみじみしてしもたなあ。ふたりがたどった人生の変転、浮き世を離れた人生と世俗にまみれた人生の対比が鮮やかに描き出されていて、心にしみる味わいがありました。

 絵という点で言えば、同一人物でも、若い頃と年をとってからの顔つきが描き分けられているのが凄いっすねぇ。綱吉の風貌の変化など、本当に見事。本の中で人間が年をとるってこういうことなんだなあと、ひとりの人物の一生に立ち会っている、そんな気持ちになりましたから。

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紙の本クライム・マシン

2009/09/18 06:44

ひねりの利いたミステリ短篇ならではの妙。軽快なテンポの筆致。尾を引かない口当たりの良さ。ちょっとした空き時間、待ち合わせの時間などにおすすめの、さらっと楽しめる一冊。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 随分前になるんだけど、図書館で借りてとても面白かったミステリ短篇のアンソロジーに、石川喬司が編んだ『37の短篇』(早川書房の『世界ミステリ全集 18』)いうのがありました。ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」、ロイ・ヴィカーズの「百万に一つの偶然」、デイヴィッド・イーリイの「ヨット・クラブ」、リース・デイヴィスの「選ばれた者」、クリスチアナ・ブランドの「ジェミニイ・クリケット事件」など、本当にわくわくさせてくれるミステリ短篇がたくさん収録されていて忘れ難いのですが、その37の短篇のひとつに、ジャック・リッチーの「クライム・マシン」(丸本聡明訳)があったんだなあ。いま、森英俊・編の分厚い一冊、『世界ミステリ作家事典 本格派篇』(国書刊行会)の頁をめくっていたところが、「クライム・マシン」ジャック・リッチーの名前にぶつかり、「あっ!」となったところ。だから確かに一度は読んでいるはずなのですが、どういう話だったか、すっかり忘れていたんですね。今回、本文庫で読んでみて、「おーっ! これはひねりの利いた、なんとも洒落たミステリじゃないか」ってね、とっても楽しめましたです。

 本書に収められたジャック・リッチーの十四の短篇。読んでいる間は、極上のひととき。時の経つのも忘れて読み耽っていたはずなのですが、読み終えて二、三日経った今、印象的な短篇のあらましを書いてみようとして、もういっぺん読み返さないと、それができないことに気づいて愕然とした次第。表題作「クライム・マシン」をはじめ、「エミリーがいない」「縛り首の木」「デヴローの怪物」など、すごく面白かったって記憶は確かに残っているのですが、ただそれだけ。あんまり口当たり良く、ひょいひょいと読んでいける味わいのせいかなあ。あんなに楽しめたのに、これほど見事に記憶から飛んでしまっているなんて、ほんと、不思議です。これぞ、ジャック・リッチーの記憶消去マジックの妙、なんてね(わはは)

 ミステリが好き、短篇読むのもいいよねって方なら、恰好の気晴らし、暇つぶしになる文庫本だと思います。

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大胆かつ華麗なアレンジ、霜月マジックが楽しめる「ジョーカー・ゲーム」が絶品。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 スパイたちの活躍を描いた柳 広司の連作短編集『ジョーカー・ゲーム』。五つの短編の中から、最初の「ジョーカー・ゲーム」と、二番目の「幽霊(ゴースト)」を取り上げて、霜月かよ子が作画した本書。質・量ともに、「ジョーカー・ゲーム」の読みごたえが格別。実は昨日、図書館から借りてきて、柳 広司の原作を読んだばかりだったのですが、霜月かよ子の大胆かつ華麗なアレンジに接して、「やるもんだなあ」と堪能させられた次第。楽しめました。

 大胆かつ華麗なアレンジ、その一。原作よりも、三好少尉(D機関のスパイのひとり)を大きくクローズアップして描いている。こうすることで、佐久間中尉に象徴される戦時の常識、軍人の思想や行動とは全く異なるスパイの個性を浮き彫りにしている。特に、三好が口の端でにやりと笑う絵が印象的。
 大胆かつ華麗なアレンジ、その二。漫画の冒頭で「あれっ?」と意表を衝かれたのだが、原作とは違う順番にして、話を提示、展開させていったところ。原作と比べて、この漫画版のほうが、シリーズ最初の話として掴みやすい気がした。
 大胆かつ華麗なアレンジ、その三。原作にはない漫画の描写が、作品の雰囲気にぴたりとハマっていたところ。なかでも見事だったのが、ラスト、佐久間の肩に桜の花がひとひら、舞い落ちるシーン。心憎いばかりの漫画家の想像力に、唸りました。

 この「ジョーカー・ゲーム」と比べると、もうひとつの「幽霊(ゴースト)」ははっきり、物足りなかったですね。原作のほうが、数段、面白かった。ただし、漫画のラスト三頁は、原作とはまた違うひねりが加えられていて、そこは気が利いているなあと。

 『ジョーカー・ゲーム』の原作のあと三編、「ロビンソン」「魔都」「X X(ダブル・クロス)」を、霜月かよ子がどんな風に描いて見せてくれるのか。殊に、一押しの「X X(ダブル・クロス)」の霜月・漫画バージョンが楽しみ。

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紙の本海の底

2009/05/29 23:37

ぐいぐいと話の中に引っ張り込むこの面白さ。圧倒的です。

9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 横須賀に巨大ザリガニの大群が襲来。荒唐無稽に感じたのは、話の開始早々からはじまるこの「巨大ザリガニの群れが人間を襲う」という設定だけで、後の展開は、手に汗握る第一級の冒険活劇。潜水艦に立てこもったふたりの海上自衛隊員と子供たちの密室・人間ドラマが、話の一方の軸。片やもう一方の軸として、巨大ザリガニ群vs.神奈川県警機動隊の死闘が描かれていきます。いずれ劣らぬ話の両輪ですが、ぐいぐいと読むほどに引きつけられ、引っ張り込まれていったのは前者、潜水艦『きりしお』艦内の活劇でした。

 夏木と冬原、ふたりの自衛官が、森生(もりお)姉弟をはじめとする十三人の子供たちと潜水艦に避難し、子供たちのもめ事、トラブルに否応なく巻き込まれてゆくという話。子供たちの対立から浮かび上がってくるそれぞれの悩みや歪み、個人的な事情がきっちりと、丁寧に書きこまれていたところ。「あの、くそガキ!」とか言いつつ、子供相手に真剣に怒り、悩みを分かち合っていく夏木と冬原のキャラがユニークかつ魅力的だったところ。森生 望(のぞみ)、17歳の女の生理が、実にきめ細やかに活写されていたところ。たいした筆力であり、見事な人物造型力であるなあと、惚れ惚れさせられました。

 巨大甲殻類に対する神奈川県警の活躍を描いた話の方では、明石(あかし)警部と烏丸(からすま)参事官のコンビ、単刀直入な物言いをする切れ者ふたりのキャラが印象に残ります。

 本文庫本には、本篇の後に「海の底・前夜祭」と名付けられた番外編が収録されています。本篇の冒頭、夏木と冬原が二百回の腕立てをする原因となった対テロ模擬戦の顛末を描いた話。初出は、『電撃文庫MAGAZINE』創刊号。作者と出版社の粋な計らいに、感謝。

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紙の本中国怪奇小説集 新装版

2009/04/11 15:01

怪談の名手が差し出す中国志怪の文章の妙

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 六朝(りくちょう)時代の『捜神記(そうじんき)』から、唐、五代、宋、金、元、明と来て、清朝の『閲微草堂筆記(えつびそうどうひつき)』まで、中国歴代の小説・筆記の中から二百と二十の怪談、奇談を抄出した一冊。

 岡本綺堂の訳文が、まず、素晴らしいですね。変にあざとかったり、自己主張したりすることのない、いっそ清々しいほどさっぱりとした訳文の心地よさ。さすがに、怪談の名手だけありますね。話の素材をよく活かして、淡々としたなかに味のある文章に仕上げているものだなあと魅了されました。

 例えば、怒り心頭に発した男が、天に向かって言い放つ罵詈雑言(p.70 「雷を罵る」)の、何て気持ち良かったこと! 大見えを切るが如き威勢のいい台詞に、胸がすっとしました。

 あるいはまた、次の文章の凛としたたたずまいの見事さ。格調高い文章の風情が、何とも言えず、いいですねぇ。惚れ惚れさせられます。
<そこに古寺があったので、彼はそこに身を忍ばせていると、ある夜、風清く月明らかであるので、彼はやるかたもなき思いを笛に寄せて一曲吹きすさむと、嚠喨(りゅうりょう)の声は山や谷にひびき渡った。たちまちそこへ怪しい物がはいって来た。かしらは虎で、かたちは人、身には白い着物を被(き)ていた。>(p.169 「笛師」)

 ほかの怪異談とのつながり、通じ合う響きの妙を感じたことでは、『夷堅志(いけんし)』の中、「鬼に追わる」(p.233~235)の話が印象に残ります。寺の住職が、客室の怪を語る件り。ネタバレの恐れがあるので詳しいことは書けませんが、怖さのツボにあたる箇所が、下記の作品と似ているかなあと引っかかったのですが・・・・・・。
◆エルクマン=シャトリアン「見えない眼」(『恐怖の愉しみ 上』創元推理文庫所収)
◆江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」(『屋根裏の散歩者』春陽文庫所収)
◆牧 逸馬「ローモン街の自殺ホテル」(『牧 逸馬の世界怪奇実話』光文社文庫所収)

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紙の本白川静さんに学ぶ漢字は怖い

2009/02/10 20:23

それからそれへと漢字が繋がり、立ち上がってくる面白さ

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 本書の一年前に刊行された『白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい』同様、漢字の繋がりの面白さと、ひとつひとつの漢字が立ち上がってくる面白さ、それを強く感じましたね。普段、なにげなく読んだり使ったりしている漢字には、実はこういう意味が込められているんですよと教えられて、目から鱗がぽろり、てな気持ちになりました。この二冊の漢字シリーズ、面白いですねぇ。

 面白いと言えば、その中にある「白」という文字は、白骨化した頭蓋骨、髑髏(どくろ)の形を模したものなんですね。で、白骨化しているから「しろい」という意味を持つようになったんだそうな。本書にそう記されているのを読みまして、目から鱗がまたひとつ、ぽろり。

 「妖」という漢字は、エクスタシー状態の巫女が両手を上げ、頭を傾けて舞い興じる姿をあらわしたものだということ。数字の「九」は、身を折り曲げた竜の形を示したものであること。「九」が雌の竜の形であるのに対して、雄の竜は「虫」の字形をとること。白川静がことのほか気に入っていた「遊」という漢字には、もともと、神のように自由に行動し、移動するという意味があったこと。「遊」つながりで、「旗」や「旅」の漢字が引っ張り出されてきて、紹介される件り。さらに、神様と「遊び」との深いつながりを記した箇所など、興趣尽きない一冊。おすすめです。

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スリリングな表題作に、わくわくしました

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 第二次世界大戦を舞台にした短篇が二本と、自伝エッセイ風の掌篇が一本、その前後に宮崎駿の漫画「ウェストール幻想 タインマスへの旅」を収めた一冊。

 表題作「ブラッカムの爆撃機」が、実に面白かったなあ。1943年のイギリス対ドイツの空中戦。イギリスのウェリントン爆撃機、通称ウィンピーをめぐる怪談話。
 まず、見開き二頁にわたって描かれた宮崎駿さんの「主人公ゲアリーの乗る(ウィンピー)C号機」の構造図が有難く、話を読んでいく時に参考になりました。
 ストーリーでは、C号機クルーたちの連帯感が生き生きと描かれていたところ。面白かったなあ。途中から、大空の恐怖みたいな話が展開していって、終盤に向かってぐんぐん上昇していくスリリングな感じ。わくわくしました。
 爆撃機もの(?)の中短篇では、フォーサイス「シェパード」(『シェパード』角川文庫所収)、稲見一良「麦畑のミッション」(『セント・メリーのリボン』光文社文庫所収)とともに、大好きな作品になりました。

 次の「チャス・マッギルの幽霊」は、戦争がはじまった1939年にエルムズ屋敷に移り住んだ少年チャスが、その大きな家で幽霊と出くわす話です。ピアスの『トムは真夜中の庭で』、アトリーの『時の旅人』(いずれも、岩波少年文庫)に似た雰囲気が好ましいファンタジーでしたね。
 物語がくるりと回転してフェイド・アウトしていくラスト。Gone,goneと尾を引く余韻に、妙味がありました。

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紙の本ゲイルズバーグの春を愛す

2009/02/08 04:10

時のかなたへの憧れが、心に静かに満ちてくる

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 タイム・トラベル小説の素敵な魔法使い、ジャック・フィニイ。タイムトラベルとロマンスをブレンドさせた多くの作品のなかでも、本短篇集に収められている「愛の手紙」と、ロバート・F・ヤングの短篇「たんぽぽ娘」の二篇は忘れられません。

 本作品集の三年前に刊行された著者の短篇集『レベル3』(1957年刊行)が、異世界とのコンタクトをスリリングに、スリラー風のタッチで描いていたのに比べて、本書『ゲイルズバーグの春を愛す』(それにしても、なんて素敵なタイトルなんだろう)では、時のかなたへと旅立ち、溶け込んでいく人たちの姿が、これ以上ないというくらいあたたかく描かれていますね。

 「ノスタルジックに過ぎる」「単なる逃避でしかない」と嫌う方もいらっしゃるかもしれない。でも、わたしはそこが素敵だと思うんだなあ。過去への憧れを、タイムトラベルというロケットに乗せて打ち上げた作者の思いが、この宝石箱のような短篇集の中に煌めいている、そんな気がして仕方ありません。

 収められた10の短篇のなかでも、「クルーエット夫妻の家」「大胆不敵な気球乗り」「愛の手紙」が好きですね。

 内田善美さんの手になるカバーの絵もいいですねぇ。氏の“ゲイルズバーグ・ストーリー”、四つの作品を収めた漫画『かすみ草にゆれる汽車』も、機会がありましたらぜひ!

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