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ジュンク堂書店 書店員レビュー一覧

ジュンク堂書店 書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

名称未設定ファイル (朝日文庫)品田 遊 (著)

名称未設定ファイル(朝日文庫)

この未来は近すぎる

「名称未設定ファイル」をカチカチとダブルクリックすれば17もの短編作品が整列している。
Twitterでのつぶやきで有名アカウントとなり小説を執筆するようになった品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)氏が綴る小説群だ。
シニカルで、エンターテイメント性にあふれていて、どの作品もおもしろかった。
おもしろかったのだが、同時に胃の腑がしんと冷えている。
フィクションでありながら、「物語はつくりものでこことは関係のない遠い場所で起きている出来事」という安心感がないのだ。
例えば『名称未設定ファイル_03この商品を買っている人が買っている商品を買っている人は』ではモスマン社がレコメンド機能によって顧客が注文していないものを送ってくることが日常となっている世界が描かれている。
気に入らなければ返品すればいいし、気に入ったのであれば3割引きで購入できるという設定のリアルさ。
レコメンド機能の精度の高さは強い支持を受けながらも、反面「考える力を放棄しているのではないか」と警鐘を鳴らす者もいる。
買う、と決めたのは果たして自分だろうか。
選んだつもりで選ばされているだけではないのか。
あと2、3歩いけばたどりつけそうな未来が、ありえないとは言えない、いつか自分もそこに放り込まれるであろう未来が、真っ黒な口をあけて虎視眈々と待ち構えている。
おもしろさの中に、そんな恐怖を感じさせる短編集だった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語 野崎 歓 (著)

無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語

祈りについて

大江健三郎作品に登場する子ども像に焦点をあてた評論です。赤ん坊の泣き声、雨を蓄えることができる木、原生林、神隠し、呪術・・・・・・
大江作品を読んでいて頭に残るのは、何よりも台詞回し。先程申し上げたような情景の中で、大人が、また子ども自身が発する言葉の発光です。
大江さんの小説の中でも、息子さんの大江光氏をモデルとした、「イーヨー」という人の残す言葉は、きわめて強く光ります。ある日「すてご」という曲を、イーヨーは作りました。自分を「捨て子」と思っていたのではなく、自分の周りの人が「遺棄された赤ちゃん」を偶然見つけた経験を忘れないようにするため。いつか自分がそのような場面に出くわしたとき、その子を助けてあげられるように、言葉を選んだのです。
鳥のさえずりや川の流れのように、いつまでも聞けるけれど、いつまでも聞いていることで気が狂ってしまうのではないかとも思える音があります。それを昔の人は「祈り」と呼んだのかもしれませんが、大江作品を読むといつもこの「祈り」という概念について考えさせられます。
わかりやすく、想像しやすい言葉や情景を多く取り上げている評論集だと思います。大江作品のファンにも、これから読もうと考えている人にも、ぜひ読んでほしい書籍です。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

名残の花 (新潮文庫)澤田 瞳子 (著)

名残の花(新潮文庫)

江戸から明治へ過渡期を生きる人々の物語

かつて江戸の町民の贅沢を厳しく取り締まり、「妖怪」と人々に嫌われた鳥居耀蔵こと胖庵。失脚し二十余年の地方での幽閉の末、もどってみれば「江戸」は「東京」へと変わり、明治という新しい世に人々は浮かれているようにみえる。
そんな世間への不満を胸に江戸の町を散策していた胖庵がたまたま窮地を救った若き能役者見習い滝井豊太郎。能もまた古きものとして明治の世では地位を失い、人材も流出し将来の見えない世界。
旧弊の側に立つふたりは新時代にどう向き合い生きていくのか、能にからめ、ていねいに描かれた連作短編集。

作中の胖庵は七十代だか、とにかく元気に町を歩きまわる。そして元気な老人は胖庵だけではない。豊太郎の能の師匠もまたかなりのもの。胖庵が現役の役人の時には取り締まり、取り締まられる側という立場だった二人の含みありの会話は傍で聞く豊太郎とともにひやひやしてしまう。ただここぞという時にはどちらも割りきった上で最善をつくすべくやりあうところがおもしろい。
能にかける豊太郎と師匠の師弟関係もこの作品の見処のひとつ。清々しい感動がある。

鳥居耀蔵といえば悪役として描かれることも多く、時代小説を読まれる方ほどその印象が強いかもしれない。
だが、この作品では胖庵は鋭さ厳しさとともに意外な柔軟さをみせてくれる。そしてやっぱり妖怪といわれただけのおそろしさもある人物だということも描かれているので、油断のできない楽しさがある。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

登場人物の性格を書き分ける方法 物語を作る人必見! 榎本 秋 (著)

登場人物の性格を書き分ける方法 物語を作る人必見!

キャラの整理

人間を性格別に16のタイプに分け、そして小説などのキャラクターの肉付けをしていくための指南書です。
きっと人間のタイプは16にはおさまりません、例えば「インフルエンサー」でも、良い面を活かす人物と悪い面を活かす人物がいるはず。小説のテイストによっても、彼らのタイプがどこに振り分けられるかは違ってくる。そのため著者は、小説を書く上で、「理解のための最初のとっかかり」になればよい、と述べています。
普段の生活でも、人間をパターンに当てはめたほうが便利なのかもしれません。おっちょこちょい、暴力的、楽観主義、しっかり者、無意識に他人を振り分け、「あの人は~だから」と言う。そう言ってはいても、きっと自分も他人に言われているのです。

そのキャラクターを象徴するセリフ、というのも例としてたくさん載っています。例えば、「世渡り上手」なら、「助けに来ました!」というのが書かれています。生きるのがうまい、と言われる人が、他人とコミュニケーションを取らないわけがない。「助ける』ことを「アピール」する人だからこそ「世渡り上手」と言われるのです。本書にはこのような事例がたくさん載っています。

小説を書く人が読んでためになるとは思いますが、小説を読むときにもきっとおすすめの本だと思います。好きな作家の好きな登場人物。彼は、どれにあたるのだろうか。それとも、分類がしづらい登場人物なのだろうか。この作家は、どうやってこのキャラクターに出会ったのだろう。
いくつか、好きな小説を読んでその試みを行ってみましたが、どのキャラクターもここに載っているパターンを逸脱した、突拍子もない行動しか取らなかったため、「どれだよ」「これとこれのキャラクターのミックス?」などと、楽しいけれどモヤモヤした思いが残りました。好きな作家の考えることは、やはりすごいです。人間がこんなにたくさんいることを、さすがわかっている。こうして分類している自分はいったいどのキャラにあたるのか、考えながら読みました。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

歩きながら考える (中公新書ラクレ)ヤマザキ マリ (著)

歩きながら考える(中公新書ラクレ)

コロナ禍の日本で「旅する漫画家」である著者が感じ、考えたこと。

世界中で暮らしていた著者がコロナ禍に日本で生活し、
昆虫の飼育を通して生き物としての人間の生き方やパンデミック中の移動制限から家族のあり方、
「日本らしさ」から見えてきた価値観について、著者のエピソードと共に著者自身の考えが述べられている。
そして最後には、
膨大な情報や「世間体」という明文化されていないものに対し流されるのではなく、
常に疑念を抱き、自分らしく考える必要性を提言している。
とはいえ、いったん常識や倫理を吸収した上で疑い、自分の頭で考えることや
価値観の差異との共生などは難しいことに思える。
しかし、本書では著者の目線でどのように取り組むべきか明示されており、
パンデミックの中、立ち止まっていたのをやめ、歩き出してみようと思える1冊である。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ポール・ヴァーゼンの植物標本 ポール・ヴァーゼン (著)

ポール・ヴァーゼンの植物標本

誰かの目を通じて

庭師のボランティア活動をしたことがありますが、夏にジニアという花を切り取った時、しおれてゆくその花のスピードに、驚いたことがあります。
朝に切り取って水につけておいたのに、夕方にはもう花の色は半分くすんでいました。ドライフラワーにするため、部屋に花たちを置いておきました。夜に、異様な気配がして飛び起きると、部屋中が、野原のむせ返るような匂いになっていました。
ジニアが、さいごに何か伝えてきたのだと思いました。一晩経つと野原の匂いは、全て消えていました。
フランスの蚤の市で日本の古道具屋が見つけたのは、100年ほど前のスイス、フランスで採集したと思われる植物標本でした。ポール・ヴァーゼンという女性が集めたらしき、可憐な押し花たち。びっくりするのは、彼女の押し花がまるで生きているかのようであること。風のそよぎや花びらに残った色など、ぞっとします。とても100年前のものとは思えないのです。
堀江敏幸さんによってつけられたテキストが掲載されていますが、そこには「私たちの記憶には、ほんとうのところ葉緑素がないのかもしれない」と、書いてあります。色素はたえず移り変わり、本を新しく開けた人のなかに、また新しい色が生まれるのかもしれない。ポール・ヴァーゼンがとどめたかったもの、彼女にまつわる人物がとどめたかったもの。もうふたたび見ることがかなわない景色でも、誰かの目を通じて、花の色が蘇ることがあるのです。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

文にあたる 牟田 都子 (著)

文にあたる

安心する「悩み」

仕事について書かれた本は数あれど、仕事をしている人の「悩み」「迷い」が、際立ってこちらの方まで押し寄せてくる本はそうはありません。また、稀にそのような本を読んだ時、人は不快感を感じるのではないかと思いがちですが、校正者の牟田さんのエッセイは違います。むしろ、彼女の悩みや迷いは、彼女の本や著者に対する真摯な姿勢の裏返し。そこに何度も、心動かされるからです。
『モチモチの木』という絵本があります。そこに描かれている月の形が、読者からの指摘によってあるとき変わった、ということについて牟田さんは取り上げました。「自分なら指摘できたかと考えると自信がない。」と、牟田さんは言います。多くの子どもの記憶に残り続ける本が、ある一つの文章だけで変わってしまう。その恐ろしさ。そのことを重視する校正者がいる世界だからこそ、私たちはこの本を読んだあと、さらに多くの本を、知ろうと思うのかもしれません。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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怪談未満 三好 愛 (著)

怪談未満

恐ろしさが飴になった

近年、自分の買うどの本の表紙にも、謎の生き物が現れるようになりました。毛玉のような、ふわふわもこもこした、触ろうとするといなくなってしまう妖怪のようなもの。
それを描いている方こそ、この本の著者でイラストレーターの三好愛さんでした。三好さんは、時折ぞっとするような出来事に遭遇されます。しかし、それに対して騒ぎ立てたり、叫んだりすることはしません。どちらかと言えば三好さんの描く生き物のように、「おそろしいこと」を飲み込み、その毛玉の中に収納してしまうような印象を受けます。
たとえば、コンタクトレンズを眼の中に入れるような動作をしていた母親が、今までに全くコンタクトを入れたことがないと告白してきたこと。引っ越した部屋にあった前の住人の衣類。食堂でたまたま口の中に入った、憧れの老婦人の髪の毛。
叫びだしたくなるような衝動を、ジャム入りの飴のように文章に巧みに内包すると、そこには不思議な酩酊や、いつまでも読んでいたいと読者が思うような甘さが生まれます。本当におそろしいのは、そのくらくらするような甘さなのかもしれません。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

定本本屋図鑑 永久保存版 本屋図鑑編集部 (編)

定本本屋図鑑 永久保存版

本屋が初めて知ること

47都道府県の「街の本屋さん」が紹介されています。その数76店舗。今ではもう行けない本屋さんもあります。この本は記事を追加して再度刊行された、いうなれば増補版です。もちろん、9年前の「本屋図鑑」刊行時から、増えた本屋さんもあるでしょう。
巻末に「知っておきたい本屋さん用語集」なるものが載っていますが、本当に本屋で働いているのに知らないこともわりと多く載っていました。本当にすみません・・・。例えば「書皮」。ブックカバーのことです。なるほど・・・。勉強になります・・・。載っている本屋さんもさまざまです。川の近くにある本屋さん。駅前にある本屋さん。地下街にある本屋さん。ギャラリーのある本屋さん。
本が置かれる場所によっても本の動きは違ってくるはずです。ある本屋では1回も入荷しない本も、ある本屋では何十回と入荷しているのかもしれません。私がこの中の違うお店、どこかで働いていたら、「書皮」など、とっくに知っているのかもしれない。そう考えると、なんだかパラレルワールドを散歩しているような気分になります。触ったかもしれない本、出会ったかもしれないお客様、たくさん話し込んだかもしれない同僚。それも、良く知っているようであるけれど、「初めて知る」こと。
自分の働いている場所とは違う本屋さんを見に行くことは楽しいけれど、同業者だと気づかれているのではないかと、いつも少し緊張します。できるなら、本屋ではなかったあの頃の自分に戻って、こころゆくまでいろんな本屋さんを見てみたい。「書皮」と、いつか言ってみたい。リアルでは難しいそんな要求も、この本は叶えてくれるのです。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

水平線 滝口 悠生 (著)

水平線

語ることによってそこにある

過去、硫黄島に生きていた人々の時間。その時間が、2020年を生きるその子孫たちに流れ込み、枝分かれしていく様子が描かれた物語です。子孫の兄妹は、不思議なメールや電話を通して、先祖が自分たちにコンタクトを取ろうとしていることに気づきます。その描写は全く突飛ではなく、コロナ渦ということもあって兄弟は自然に、むかしの人間たちと言葉を交わすようになります。
お盆が来て、日本ではご先祖を家に迎えます。ご先祖様たちはむかし、何を見て、何を思っていたのか、小さいころから不思議に思っていました。私が見ていたような雲の形を見たのか。暑さは、雨の匂いは、果たして今と同じだったのか。
滝口さんの小説では、硫黄島と2020年、双方から見た空気感や風景も丹念に描かれています。そこでは一度壊れたものも、人々が語ることによって蘇り、壊れた前の姿を読者に提示してきます。
小説の中だけでなく、現実の世界もきっとそうなのでしょう。ただ私たちは人の声を聞くよりも多くのことに夢中になってしまいます。本当はご先祖様の話した言葉も、そのへんを飛び交っているのかもしれません。気づいていないだけで、海を泳ぐ魚のように。顔を見たこともない誰かの、自分だけに向けた言葉。そのことを考えることは、海上において陸地を思うことと、どこか似ています。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

いけない (文春文庫)道尾 秀介 (著)

いけない(文春文庫)

家の中で楽しめるエンターテイメントミステリ

単行本発売時には全国で品切殺到し重版が間に合わない状態だった本著『いけない』がとうとう文庫化された。
この物語を楽しむにはまず冒頭の「本書のご使用方法」を確認しておく必要がある。
「まずは各章の物語をじっくりとお楽しみください。」
「各章の最終ページには、ある写真が挿入されています。」
「写真を見ることで、それぞれの“隠された真相”を発見していただければ幸いです。」
ミステリ好きには喉がなるようなスタートをきり、とある街を舞台に不幸な事件はたまつき事故のように続く。
〇〇してはいけない、という意味深な各章のタイトルに込められた謎を物語と写真から考察する楽しさはまさに読者参加型のミステリといえる。
“隠された真相”がはっきりと明かされるわけではないゆえに、
果たして自分の考えはあっているのだろうか?
あの時ああなっていたのは結局どういうこと?
写真に込められた意味ってこういうことだよね?
と思わず誰かと答え合わせをしたくなる衝動にかられてしまうのだ。
ちなみに続編の単行本化も2022年9月下旬に決定している。
まだまだこの楽しみは終わらない。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

引き出しに夕方をしまっておいた ハン ガン (著)

引き出しに夕方をしまっておいた

固まった詩

登場人物がつらい境遇にいることが多くても、雪のように美しい小説があります。ハン・ガンさんの小説は、まさにそれだと思っています。
この本はハン・ガンさんの詩を集めた本。小説でも、いくつもいくつも心に残って、読んだ翌日も、その翌日も甦ってくる言葉がありますが、詩を読んだら、いったいどうなってしまうのだろうと思っていました。
「血を流す目」という詩で、彼女は「私は血を流す目を持っている」とつづります。目から流れるのは通常涙であり、血ではありません。比喩だとしても、血を流すしかない状況というのは、きっと普通ではない。しかし、そのことについて彼女は多くを語りません。読み進むたびに、口に、複雑な味のする固いものを、何個もつめこまれたような感覚になります。わかろうとするけれど、あまりにも濃くて飲み込めません。スープのような彼女の小説が、さらに凝固したコンソメになって、次々にそれを噛み砕いているみたいだな、と思いました。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

居場所がないのがつらいです 高橋 源一郎 (著)

居場所がないのがつらいです

本は人

作家、高橋源一郎さんによるお悩み相談室第二弾。書店員にとっても、かなり切実な悩みが載っていて、あわてて読みました。
「本を最後まで読みたい」。最後まで読まないのは失礼だし、自分のためにもならないのだと思っていました。毎日すごい量のプルーフやゲラも、たまる一方で手が付けられていません。しかし高橋さんは、本を最後まで読み通す必要はないと仰います。そのわけは、読む人が刻一刻と変化することによって、本も変わってゆくから。恋人のような本、友人のような本、会う人全員と深く付き合うことは無理、本も同じ。
読んで、読書へのハードルが下がると同時に、小さい頃のことを思い出しました。本を読まなくてはいけないなどと、思ったことはありませんでした。ただ教科書や、料理のレシピ本に至るまで、貪るように毎日読んでいました。
あのころ出会った本のことを考えると、懐かしい友達のことを思い出すようです。あの友達は、今私にとってどう映るのかな。十年後はどうなるのかな。そう思って読書をできる日が来るなんて、思ってもみませんでした。他にも「生きるのが億劫です」「人をほめてもいい?」など、多くの人にささるような悩みがたくさん。書店員以外の方にも、ぜひ、ご一読をおすすめします。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

N/A 年森 瑛 (著)

N/A

良いと思ってぶつけているもの

N/Aは、該当なし (not applicable)という意味。
主人公のまどかは、生きているだけで誰かにカテゴライズされ、毎日、良かれと思って様々な言葉を友達や親、教師、恋人からぶつけられます。一見優しい言葉、丸い言葉、生々しい言葉、そして、吐き気を催すような言葉を。
女性として生きること、日本人であること、同性と付き合うということ、若いということ、背が高いということ、痩せていること。多くのまどかをかたちづくる「要素」に向かって他人は言葉を紡ぎ、「要素」を尊重しようとします。しかし、尊重する過程で彼らはたしかに、まどかの何かを、少しずつ削り取り、自分の思い描く「要素」に、結びつけようとします。それは小説の中だけでなく、私達が人間と関わる限り、日々考えていかなくてはならない「問題」なのだと感じます。
差別的な言葉を教え子に向かって吐く、まどかたちを教える教師の姿も描写されています。しかし、彼が教え子を「カテゴライズ」してそれを教え子にぶつける寸前、教え子もまた、教師に向かって『カテゴライズ」した言葉をぶつけています。負の側面から「カテゴライズ」したときに、負は、確実に連鎖する。しかし、まどかが心から悩む部分はそこではありません。誰かから「かばわれた」とき、たしかに傷つく自分に、まどかは、はっきりと気付いているのです。
食事を取らないことも、同性と付き合うことも、病気や強制ではなく、自分の意志や信念で行っていたとしても、誰かから不用意な言葉で「かばわれる」ことがある。そのことによって削り取られる心がある。それよりも救われる言葉があるとしたら、それはいったい、何なのだろう。
本を読みながら、ずっと考えていました。まだ、答えは出ていません。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ−コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)稲田豊史 (著)

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ−コンテンツ消費の現在形(光文社新書)

映画を早送りで観る理由に潜む様々な思い

映画やドラマを早送りで観ることに対して、「けしからん」と否定するのではなく、この本では、早送りする理由やその背景が著者のリサーチによって明らかにされていく。
その理由は、経済的な問題、可処分時間の減少、個性発信欲の増加、
快楽主義の追求など、人それぞれであり、多岐にわたっている。
また、それらの理由は驚きや感心の連続であり、自分が思いもしない考えに面白いと感じるだろう。
そして、映画やドラマの見方の変化は今にはじまったことではなく、
昔は映画館からテレビ、VHSから配信と変化している。
時代とともに、経済面、時間面、環境、価値観が変化し、技術が進歩するにつれ、映画の見方や楽しみ方も変わってきており、
その変化に沿って映画はどうあるべきか、考えるきっかけの一冊となるだろう。

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信仰 村田 沙耶香 (著)

信仰

「信じる」とは

著者が海外から依頼を受け執筆した作品を含む短編&エッセイ集。
表題作『信仰』は、現実主義者で、好きな言葉は「原価いくら?」の主人公・永岡ミキが同級生の石毛からカルト商法を始めようと誘われる物語。
石毛は同じく中学の同級生だった斉川さんを仲間にしていた。斉川さんは大学を卒業してすぐの頃、マルチにハマり浄水器を売っていたらしい。一方、ミキの友人たちはそんな石毛と斉川さんを嘲笑いながらも、縄文土器にしか見えないお皿のブランド「ロンババロンティック」に夢中になっていた。
私たちはみな、目に見えないものにお金を払い、そのことに楽しみや喜びを感じている。では、それはカルトと一体何が違うのか。価値観が大きく揺さぶられる作品である。

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コークスが燃えている 櫻木 みわ (著)

コークスが燃えている

コークスのある人

福岡が出てくる小説ですが、チェーンのうどん屋の駐車場で柄の悪い者同士がもめそうになるという描写があって、その巧みさから引きこまれました。(福岡県民にはあるあるとしか言えない描写です)
そんなふうに、自分たちの現実世界と小説の間の膜がうすく、時にわからなくなる小説というのがあります。櫻木さんの小説は、まごうかたなきそれです。
薄給の、いつ仕事がなくなるかもわからない労働者。人間の優しい部分と切り捨てる部分に一喜一憂し、自分の中に生まれた新しい存在をなくして、それでも生きなければならない。
これはこの小説の主人公だけでなく、世を生きる者すべてにあてはまることです。
コークスというのは石炭のかたまり。ずっと熱くくすぶって、なかなか冷めないもの。皆、どのようなサイズかはわかりませんが、コークスを持って生きています。

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ジュンク堂書店
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そこに私が行ってもいいですか? イ グミ (著)

そこに私が行ってもいいですか?

どこかに行ける可能性

植民地時代の朝鮮。その土地から、日本、満州、アメリカを渡り歩く二人の女性の生涯。日本軍慰安婦やアメリカ日系人収容所なども登場するため、人種や差別問題を大きく含む内容となっています。二人の女性の人生も、決して明るく穏やかなものではありません。
タイトルが示す通り、自分のアイデンティティを隠さなくては生きられないような環境で、多くの人と関わりながら生きなくてはならないことは苦しいです。そういった環境をなくしていくことは私たちの課題でありますが、人間から迫害を受けながらも、人間によってその人生を輝かせ、見知らぬ場所でさらに多くの人と出会う人もいます。本書は、その可能性の瞬間を、何度も何度も書き連ねている作品だと思います。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ボタニカ 朝井まかて (著)

ボタニカ

名前を知る

時代小説の名手、朝井まかてさんによって描かれる植物学者牧野富太郎の生涯。物語は「お前の本当の名が知りたい」と草花に話しかける富太郎の幼少時代から始まります。
私事ですが、最近多肉植物を育て始めました。その多肉たちの名前を、いつの間にかメモし、寝る前にずっとその植物について調べてしまいます。
そんな人間にとって、この小説は「自分を見ているかのよう」です。なぜここまで植物を育てている人の気持が朝井まかてさんにはわかるのでしょう。ひとつ草の名前を知ると、道に生えているそれに似た植物が、花が、ことごとく気になりはじめます。
いつ生まれたの。どんな風に吹かれていたの。一体誰が、あなたをここまで運んできたの。
話をしない草花だからこそ、色づいた花びらや茎の色が、深くまで伸びた根が、語りかけてくることをこの本は教えてくれます。いつか草や木の近くで、この本を読める日が来たらいいなと思います。

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毛布 あなたをくるんでくれるもの 安達 茉莉子 (著)

毛布 あなたをくるんでくれるもの

「熱」をくるむ

安達さんの文章の中に、自分自身と「一致」するということについて書かれている箇所があります。
安達さんは人から、「組織で働くことになったとしても、組織とは別のチャンネルを作っておけ」という意味のことをある時言われます。そうすることは「自己決定権を高めることに繋がるから」と。
毛布というタイトルのエッセイ集、毛布をまとった動物のカバーも挿絵もふんわりとしていてむつかしくない、優しい言葉で書かれています。しかし読むと、安達さんのほとばしる思いに素手で触れるようで、読んではいけないものを読んでしまったかのような思いにかられます。
もはや温かいを通してじんじんしてくるエッセイ集なのではないでしょうか。

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