書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店」のレビュー
- ジュンク堂書店
- MARUZEN&ジュンク堂書店|渋谷店(1月31日閉店)
走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)村上 春樹 (著)
同じスポーツジムに通う男性からお薦めされた1冊
同じスポーツジムに通う男性からお薦めされた1冊。一汗かいたあと、ラウンジで静かに本を読んでいる様子がとても気持ちよさそうだったので、「何を読んでいるんですか?」と訊くと、ちょっと笑って文庫本の表紙を見せてくれました。
「最初にもお断りしたことだが、僕は負けず嫌いな性格ではない。
負けるのはある程度避けがたいことだと考えている。人は誰であれ、永遠に勝ち続けるわけにはいかない。人生というハイウェイでは、追い越し車線だけを走り続けることはできない。
しかしそれとは別に、同じ失敗を何度も繰り返すことはしたくない。ひとつの失敗から何かを学びとって、次の機会にその教訓を生かしたい。
少なくともそういう生き方を続けることが能力的に許されるあいだは。」
指で指し示してくれたこの部分がとても印象的だったので、さっそく書店で購入して読み始めました。読み始めてすぐに気づかされるのは、この作品は他のエッセイとは一線を画しているな、ということ。
村上春樹のエッセイは、小説と違って軽い読み物に仕上がっている場合がほとんどですが、この本は読みやすいながらも深い思索に富み、心の深いところまで静かに降りてくる言葉で満ちています。まるで、とても読みやすい哲学書みたい。
30代に入り、若さで押し切ってきたいままでとは違う生き方を模索しつつある私たちにとって、人生の伴侶となり得る作品です。読みたいときにいつでも手に取れるよう、結局私も買いました。
(評者:MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店 実用書担当 青柳真紀)