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カサイウカさん「例えば雪が融け合うように」インタビュー おじさんBLは“歴史もの”

お話を聞いた⼈

カサイウカ

2012年に「いつか友達じゃなくなるとしても」(白泉社)で商業コミックスデビュー。商業誌だけでなく、pixivやTwitterでもイラストや漫画を発表している。現在、「Chara Selection」(徳間書店)にて「こともあろうに愛なんて」、電子コミックストア「スキマ」にて「郁郎さんは甘えたい」を連載中。

「例えば雪が融け合うように」あらすじ

おじさん同士の初恋の行方を描いた「例えば雨が降ったなら」の続編。

地方の場末のストリップ劇場「黄金座」で初恋の相手・充との再会を果たした久我。ある事件の後始末のため、久我が東京へ戻って半年が経った。「帰ってこなくても仕方ない」と、諦めにも似た覚悟で待ち続ける充のもとに、久我は約束通り帰ってくる。そんな矢先、オーナーから告げられた黄金座の閉館。さらに、充には清算すべき過去と向き合う時が迫っていた……。

人生晴ればかりでない、おじさん同士の恋愛

――前作「例えば雨が降ったなら」と本作「例えば雪が融け合うように」の表紙の雰囲気が対照的で印象に残りました。それぞれのタイトルや表紙のイラストに込めた想いを教えてください。

前作の「例えば雨が降ったなら」というタイトルは、おじさんものなので四十年ちょっと生きてきて人生晴ればかりではない時もある、みたいなイメージで付けました。表紙絵は屋上で二人というのは決まっていたのですが、タイトルに合わせて人物より空や水たまりをメインに描く方がインパクトが出るのではと編集さんと相談し、今の絵になりました。

今回の「例えば雪が融け合うように」は続刊だったので、タイトルも表紙絵もシリーズ感が出るようにしています。「雪が融け合うように」は、春の訪れというか、ようやく二人がまとまったよという意味合いです。表紙絵は前作が青だったので、今回は暖色で優しい雰囲気になるようにしました。

――本シリーズは、舞台がストリップ劇場、というのが新鮮でした。どのように舞台設定など考えられたのでしょうか?

少し退廃的で寂れた雰囲気の場所にいるおじさんを描きたいなと思ったので、ストリップ劇場を選びました。ノスタルジーを感じる舞台設定が非常に好きなんですよね。

おじさんだから相手を待てる。テンポ感を大事に

――本作「例えば雪が融け合うように」を描くに当たって、特にこだわったところを教えてください。

久我と充がお互いを受け入れていく過程やテンポ感を大事に描くようにしました。かなりゆっくりなペースで充が心の内を見せる感じだったので、連載中にページ数がまた前作のようにギリギリになってしまうのでは……と心配だったのですが、焦ってくっつけてしまうのも違うし、何よりおじさんなので、はやる気持ちより相手を待つことができると思い、急がせることがないように気をつけました。最後までそれは無理がないように描けたかなと思います。

――再会を果たしてから、久我と充それぞれが徐々に成長というか、変化していくのも読み応えがありました。それぞれを描く上で前作と意識して変えたことなどはあるんでしょうか?

前作は久我視点の話なのですが、続編では充が変化していく話になると思ったので視点は充に寄り添うようにしました。

あとは前作よりも二人がお互い言葉で伝え合い過ぎないようにもしています。もちろん大事なことは伝えるけれど、例えば久我は充が橘(充の昔の男)と何を話したかは一生聞かないだろうし、充も久我がまりか(ストリップ劇場古参の看板女優)に打ち明けた本音を立ち聞きしたことはずっと言わないだろうし、全てを伝え合うより黙ってそばにいることで信頼し合っている状態を描ければと考えました。

お気に入りのシーン、セリフ、キャラクターは?

――心の動きが丁寧に描かれているだけに、本作はグッとくるシーンが多いです。個人的には、黄金座のオーナーから久我との関係を問われた充が「アイツは“生きる理由”だ」と答える姿に胸が熱くなりました。作者としてはすべてのシーンに思い入れがあるとは思うのですが、特にお気に入りのワンシーンはありますか?

二人がようやくまとまって久我の隣で充が眠っているシーンです。眠りの浅い充が久我のそばではよく眠れるというのは以前から入れたいネタではあったのですが、中々シーンとしては入れるタイミングがなくて。でも前作「例えば雨が降ったなら」の終わりではそこまでの距離感ではなかったと思いますし、結果、すべての心のつかえがなくなった最後がちょうど良かったのかなと思います。

――僕は、久我が複雑な胸中をまりかさんに告白する場面で言った「妬いても何でも充の力でありたい」というセリフが心にしみました。作中で思い入れのあるセリフはありますか?

充の昔の男、橘の「素直に生きろ、後悔する時間もない」です。橘は充に選ばれず去っていく立場ですが、負け惜しみや上から助言する感じではなく、橘自身の後悔の念を含ませつつ、それでいて充が受け止めようと思える台詞にしようと思いました。

――あの橘は本当にカッコよかったです! 橘をはじめ、本シリーズは脇を固めるキャラクターたちもとても魅力的ですよね。特にお気に入りのキャラクターはいますか?

久我の友人の鍼沢がお気に入りです。鍼沢は外見も自分の好みを入れたおじさんなので描くのも楽しかったですね。

充には多少かっこよく思われたいとか、頼りにされたいという気持ちが久我にはあると思うんですけど、鍼沢は久我が一番フラットで居られる相手なので、気の置けない友人と話す、ちょっとくだけた久我が描けるという点でも重宝しました。

最終的にまりかと気が合いそうだなと思って二人をくっつけましたが、二人が居なかったら久我と充はどうにもなっていなそうなので本当にありがたいキャラクターです。

私が「おじさんBL」を好きな理由

――カサイさんといえば「おじさんBL」ですよね。僕も以前「両想いなんて冗談じゃない!!」を記事で取り上げさせていただいたほど「おじさんBL」が好きなのですが(笑)、おじさんを描くようになったきっかけは何かあるんでしょうか?

小さい頃からおじさんキャラが好きだったので、お話を作る時に自然と選択肢におじさんが出てきたんですよね。特に「おじさんBLを描こう!」というきっかけはなかったです。

一番のきっかけは、おじさんBLにOKしてくださった編集さんだと思っています。とても感謝しています。

――おじさんBLを描くことは、ある意味、必然だったんですね! おじさんBLの魅力はどんなところにあると思いますか?

普段「大人」として暮らしていて昔ほどときめくこともないし、生活が変化するのも疲れるし今更……と思っているところに恋が訪れるタイプのおじさんBLが、二度目の青春のような感じがして、好きなんですよね。

おじさんBLは、おじさんたちが右往左往したり、一喜一憂したり、それが大変で楽しくもあって、大人げなくじたばたするのが可愛いし、魅力的だと思います。

あと、おじさんBLは歴史ものだと思っていて、大体40年以上の人生を踏まえてお互いを選んでいるという前提がとても好きなんですよね。

頭に浮かんだ映像を漫画にしていく

――カサイさんの創作スタイルはストーリー先行型、キャラクター先行型のどちらになるんでしょうか? 普段の作品づくりについて教えてください。

私はストーリー先行型ですね。最初に文章でひとつのお話について思いつく限りを脈絡なく書いていき、そこから整えて全体プロット、一話分のプロット、台詞書き出し、ネームと続きます。

書いているうちに思いついていくことが多いですが、ネタの種になりそうなことは普段メモするようにしていて、それを参考にすることもありますね。散歩をしたり、テレビのバラエティ番組やラジオを見聞きしたりしている時によくメモをしていて、特に自分では分からないおじさん当人のリアルなぼやきというか、嘆きみたいなのは、キャラクター作りに入れることが多いです。

キャラクター自体はストーリーがこうなら、こういう人物かなと作っていくので、外見は最後に決めています。

――外見が最後というのは意外でした! 作品を創る上で一番楽しいと感じることや好きなことは何ですか?

全体プロットを書いていく作業が一番楽しいです。作品を一本作ったような気持ちで満足感があるのかなと思います。

あとはネームの段階できれいにページがはまった時が好きですね。作画は基本ずっと唸っていますけど、髭を描いている時はちょっと楽しいです(笑)。

――髭はいいですよね(笑)。BLに限らず、クリエイターとして影響を受けた作品や作家さんはいますか?

作品づくりで直接影響を受けたのは映画や本だと思います。

岩井俊二監督や2000年代前半の邦画や洋画を片っ端から見ていた時期があって、ストリップ劇場など少しノスタルジーを感じるものが好きなのは、この時に見た作品の影響があるのかなと。

基本、頭の中では三次元の映像が浮かんでいてそれをコマ割りしていく感じなので、漫画というより映画のカット割りに近いのかもしれません。

小説は向田邦子さんがとても好きです。あとエッセイを読むのも好きで、いろんな方のエッセイを読んでキャラクター作りのヒントにもしています。

――映像で浮かんだものを漫画に落とし込んでいくというのは面白いですね。最後に、今後チャレンジしてみたいテーマや描いてみたいものを教えてください。

長い片思いをしているおじさんの日常ものを8ページ×隔週みたいな感じで描きたいです。基本、BLだと決着させないといけないのですが、片思いをしている間も楽しかったり辛かったりもするし、長く片思いをしている分、日常すぎて片思いのことを忘れている時間もあって、わりとうまく暮らしていると思うんですよね。そんなおじさんを追う日常ものを描いてみたいです。あとはミステリーやホラーなど、今までと全く違う題材のものも何でも挑戦してみたいですね。

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BLことはじめとは・・・BLの世界を知りたい、読んでみたいという入門者に向けて、朝日新聞社「好書好日(BLことはじめ)」にて毎月さまざまな切り口でおすすめのBL本を紹介している連載企画です。

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