紙の本
反ユダヤ主義は根深い
2019/01/29 09:27
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ウンベルト・エーコといえば、「薔薇の名前」の作者として有名だが、今回は「プラハの墓地」に挑戦。主人公のシモニーニはユダヤ人嫌いの祖父に育てられて、遺言状偽造を主な仕事の糧にしている。この作品のすごいところは主人公のシモニーニ以外の登場人物はすべて実際の人物だということで、この作品の世界では主人公シモニーニのユダヤ人に関するあらゆる偽書からヨーロッパ人の人々は「こんなに一生懸命働いても報われないのは、ユダヤ人が金を牛耳っているためだ」と考えてしまう。時代がナポレオン3世の独裁、パリコミューンと混とんとしていたということもあるだろうが、人々の心にある「反ユダヤ主義」がいかに根強いかを表しているともいえる。人種間の諍いは現在にいたってもトランプの出現によってより具現化している。何も変っていない
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ユダヤ人の暗黒歴史がこんなに面白くてええんか!?
2017/05/23 16:26
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投稿者:chartreux - この投稿者のレビュー一覧を見る
たしか、ウンベルトエコー最後の作品となった本作。
表紙もおどろおどろしいし、なんだか
暗い怪談めいた話かと思うような題名にもかかわらず、
むちゃむちゃ面白いねん。これが!
もう読みだしたら止まらない。世界史に出てくるような有名人の実名もバンバン
出てくるし、怪しげな人間の魑魅魍魎としたヨーロッパの暗黒歴史がこんなにも
躍動感溢れていて、ある意味、人間臭い悪臭を放ちながら、一方でドキドキする
サスペンスとドラマ。
特にロシアが絡む「シオン賢者の議定書」に関しては、ほぼ史実に
基づいているというのだから、おまけにすごく勉強になる。こんなすごい小説を最後に
残してこの世を去ったのだから、彼は思い残すことはないんちゃうかな?とすら
思いたくもなるわな。
そして、一番強烈に悪辣な描写でユダヤ人をこき下ろすところが、
なんだかやっぱり、ヨーロッパの人間って心の底でこういう風に連中のことを
思ってたのか~と、そういうところが正直日本人として参考になってん。
ユダヤ陰謀説などがいまだにあるけど、まさにその発端がもしこういう歴史に
あるとしたら、侮れないもんだありまっせ。
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謀略・偏見
2016/08/02 22:34
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投稿者:Freiheit - この投稿者のレビュー一覧を見る
イタリアとフランスを舞台に、ナチスのユダヤ人虐殺の根拠であるシオン賢者の議定書が誕生するまでの経緯が書かれている。現在、世界に蔓延するヘイトの連鎖も同じように思われた。
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物語として
2016/05/27 21:30
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
普通に非常に面白いです。
厚さにたじろぐけど、連載小説のつくりを擬してのものでもあるので、登場人物が入れ替わり立ち代り画策します。
主人公はユダヤ人への憎しみを植えつけられた男。
というか自分への歪んだ愛以外は持たない男。
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ヨーロッパを問う
2023/09/25 22:57
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
悪名高き偽書『シオンの議定書』。この荒唐無稽な偽書が人類史上においても最悪レベルの非人道的行為を引き起こすことにつながるのだが、これを問うとことはヨーロッパを問うことでもある。
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エーコの最新邦訳書。本書刊行と前後して訃報が届いたのはショックだった……。
『シオンの議定書』をテーマにした歴史小説であり、冒険小説であり、ミステリでもある。重層的に重なり合う物語は『薔薇の名前』を思わせる。
遺作となった作品は夏頃に河出書房新社から刊行される予定だそうだ。こちらも楽しみだが、岩波から出ると言われていた『女王ロアーナ、神秘の炎』はどうなったのだろう……。
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つい先ごろ亡くなったウンベルト・エーコの最新長篇小説。その素材となっているのは、反ユダヤ主義のために書かれた偽書として悪名の高い『シオン賢者の議定書』である。その成立過程が明らかにされてからもユダヤ陰謀説を裏付けるものとして、反ユダヤ主義を広めたい者たちによって何度も利用されている史上最悪の偽書だが、そんなものがどうして世に出ることになったのか。そしてまた、イエズス会、フリーメイソン、ユダヤ人、と時代や場所によって誹謗する対象を変えながらも、何度も息を吹き返しては現れる、この偽書が民衆に対して持つ意味とは。
記号学の大家としても知られるエーコ先生だが、こ難しい理論を開陳しようというのではない。たしかに、偽書の成り立ちについてくわしく語ってくれてはいるが、そこはあのドストエフスキーにも影響を与えたといわれるウージェーヌ・シューばりの大衆小説的技法によって、モデル的読者ではない初歩的読者でも飽かずに読ませる工夫がなされている。しかも、読み様によっては、ウンベルト・エーコの小説理論をそのまま具体化した見本としても読めるように書かれているから楽しみだ。
というのも、この本のストーリーの母体となった『シオン賢者の議定書』の成立過程を論じたものが、『小説の森の散策』(岩波文庫)の第6章「虚構の議定書(プロトコル)」にほぼそっくりそのまま載っている。もともとハーバード大学ノートン詩学講義(1992-93)として行なわれた講義を文章に起こしたもので、小説『前日島』を執筆していた当時のエーコの頭の中には、すでに『プラハの墓地』のストーリー(物語)が、あらかた完成していたといえる。
あとは、カピタン・シモニーニという主人公の人物像をふくらませ、縦横無尽に活躍できるよう、『シオン賢者の議定書』成立に関与する人物たちを、いつどこでシモニーニに出会わせるか、という鉄道のダイヤグラムにも似た精密な図式を仕上げればいい。ご丁寧なことに、そのプロット(筋)とストーリーを表に現したものが巻末に付されている。博覧強記を誇るエーコらしい、と思われるかもしれないが、そうではない。
エーコは、前述の『小説の森散策』の第1章「森に分け入る」の中で、ただただ、ストーリーを追っかけて、次に何が起こるか、最後はどうなるのかと読み続ける一般読者(経験的観客)と、遊びのルールを心得た上で遊びの同伴者になれるモデル読者を区別している。一般読者として物語を楽しむことはいっこうに構わない。ただ、エーコ自身は物語テクストの経験的作者としての存在には意味を感じていない、という。つまり、この扇情的な通俗小説を模した『プラハの墓地』というテクストもまた、モデル読者を想定して書かれているというわけだ。
パリの場末のいかがわしい界隈にある部屋の克明な情景描写に始まるこの小説は、いうまでもなくシューの『パリの秘密』や『さまよえるユダヤ人』などの連載小説(フィユトン)を意識したものだが、テクストはそう簡単なものではない。まずは主人公シモニーニの手記がある。それに、謎の人物でありながら、主人公の部屋に出入りするダッラ・ピッコラという名の神父が書き残すメモがあ���。さらに、それらの手記を人物の肩越しに覗き込み、読者に分かりやすく語りなおす<語り手>の存在がある。三種のテクストはフォントの異なる活字で明確に区別されている。経験的読者はそんなこと、はなから無視して読める。モデル読者は、三者の視点から読み分け、その異同の趣向を味わうことができる。
実際は複数の人物による度重なる捏造、複製、引用加筆の果てに成立した偽書を、シモニーニという典型的な文書偽造者に託したことにより、主人公はシチリアでガリバルディのイタリア統一運動に参加してみたり、パリでドレフュス事件に関与したり、と自在にいろんな場所、いろんな時代を往き来することになる。それらを無理なくこなすために、語り手はフラッシュバックやフラッシュフォワードという語りのテクニックを駆使する。また同様に、到底一人ではこなせないだろう仕事を可能にするため、「分身」のモチーフを採用して主人公に第二の人格を与えるという奇手まで使ってみせる。
小説家エーコの卓越した技量によって描かれる、社会の裏で暗躍する謀略、諜報合戦。それに従事する各国情報機関、あるいはイエズス会やフリーメイソンのような秘密結社、黒ミサの儀式を執り行う破戒僧、死体を隠した地下水路、といかにも大衆小説向けのキッチュな要素が入り乱れ、絡み合って物語は進行してゆく。その隙間を埋めるように点綴されるのが、デュマやバルザックからプルーストに至る同時代の錚々たる作家、芸術家の噂話。それと、文書偽造の手腕を認められてスパイ活動に携わる以外、これといって何をするでもない主人公の唯一の道楽である美食についての情報。『バベットの晩餐会』にも出てくる19世紀パリを代表するレストラン、カフェ・アングレの献立をはじめとするフランス料理の列挙、と楽しみどころはいろいろ用意されている。
経験的読者として読んでも期待は裏切られないが、モデル読者として読むのなら、先にあげた『小説の森散策』などの文学評論を手元において読まれると作家の手の内を読むことができ、よりいっそう愉しみが増すにちがいない。こういう作品に効用を求めるのも無粋だが、読んでいてはたと膝を打ったところがいくつもあった。その一部を引いておきたい。
「人々はすでに知っていることだけを信じる。これこそが<陰謀の普遍的形式>の素晴らしい点なのだ」
「おわかりでしょう。普通選挙によって独裁体制が実現できる! あの悪党は無知な民衆に訴えかけて強権的クーデターを成し遂げた! 」
「愛国主義者は卑怯者の最後の隠れ家だと誰かが言いました。道義心のない人ほどたいてい旗印を身にまとい、混血児はきまって自分の血統は純粋だと主張します。貧しい人々に残された最後のよりどころが国民意識なのです。そして国民のひとりであるという意識は、憎しみの上に、つまり自分と同じでない人間に対する憎しみの上に成り立ちます。」
19世紀フランスの話だというのに、昨今の世情を見るにつけ、何かと引き比べて考えてしまう文章がやたら目につく。最後に、「虚構の議定書」の中から次の文章を引用して結びとしたい。「こうして読者と物語、虚構と現実との複雑な関係を考察することは、怪物を産み出してしまうような理性の眠りに��する治療の一形式となるのです」。エーコ亡き後も、我々は決して理性を眠らせてはなるまい。
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さすがエーコ。何が何だかさっぱりわからない。亡くなってしまったのはほんと残念だ。
大デュマなど19世紀の娯楽小説の体裁をとりながら、二重人格の解釈や陰謀家・オカルティストに向ける厳しい批判の姿勢は今日的。作品の評価としては極上だけど、個人的には『フーコーの振り子』の方が好きかな。
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ユダヤ人排斥の根拠ともなった偽書『シオン賢者の議定書』を巡る意図的に的に作り上げられる憎しみの構図。
ある程度そうあってほしいと人々が思うようなフィクションをそれらしく物語る事によってフィクションだったはずのものが事実になる。もしくは歴史になる。ていう怖さ。
フィクションが信念を補強していく大きな物語と、シモニーニとピッコラ神父が互いの日記の対話を通してただの覚書が肉付けされていくという小さな物語の二重構造も仕掛けとしてもすごく面白い。
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エーコ、亡くなるのと販売が前後した遺作、ってことでいいのかな。 去年の年始くらいから発売予定になってて待ちくたびれたところはあったけれども、まさか亡くなるとは…か
ユダヤ人迫害の根拠の一つながら実は偽文書だったと言われる「シオンの議定書」の誕生を巡るミステリー。 ややこしいのは主人公シモニーニ以外の登場人物は実在したってこと。とはいえ、あくまでフィクション。寝不足気味の通勤電車の車内ではなかなか読み進めないんだけど、そんなブツ切れの時間に読んでも読み進められるくらいには読みやすいし、特に時代についての知識がなくても読むのには困らない。
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イタリアの近代史を知らないので,人物がよくわからないところもあって,面白さが半減したのかもしれない.表の歴史を知っていての裏の歴史なので,知識のなさが残念でした.できるならば参考文献で人物相関図や,簡単な事件の説明があれば読みやすかったと思います.悪人,シモニーニに魅力がないのも,この本の読みにくさの一因だと思うし,最後もしり切れとんぼのような感じだ.ただ,挿画は素晴らしいの一言.
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よく考えずに手を出したらとんでないお話だった。
主人公はユダヤ人嫌いの祖父に育てられたシモニーニ。祖父の死後、公証人のもとで文書偽造に関わった彼はやがてその腕を買われ、各国の秘密情報部と接点を持つようになり、守備範囲を政治的な文書へと広げていく──というストーリー。主人公以外の人物はほぼ全員が実在。さまざまな人種、思想が入り乱れての陰謀、策略の上塗り大会。
構成も凝っており、主人公とある神父の書簡のやり取りから始まる。主人公はこの神父と自分が同一人物ではないかと疑っており、そんな主人公の曖昧な記憶を埋めるかのように「書き手」が物語を補足する。書簡の中には身に覚えのない死体が登場し、時系列もあやふや。この殺人を巡る展開はミステリでもあり、そう思うとストーリー全体がフーダニットにも思えなくはないのよね。
勉強不足に加えて、実在の人物・事件と身構えたので余計に難しく感じてしまった。逆にフィクションだと思い込む方が面白く読めるのかも。
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イタリア統一、パリコミューン、ドレフェス事件、シオン賢者の議定書を、全てに関わる1人の男がいたとしたら?
陰謀の普遍的形式、人々は既に知っていることだけを信じる、
暴露記事と言うものは、奇想天外割衝撃的で、現実離れしていなければならない、そーゆー場合に限って人は信じ込んで憤慨する.世界征服のためのユダヤ人の企み、
人間の1番の特徴は、なんだろうと信じ込むことです。信じやすい人ばっかりでなかったなら、どうして協会が2000年近くも存続できているでしょうか?
敵を作る、集団のアイデンティティーを強化し、自らの価値を確信するために脅威となる癖を乱す事は、極めて自然な現象である.異民族、異教徒、1部にし、マジオネアいたん、ユダヤ人が悪魔扱い、
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二人が二人とも、所謂 " 信頼できない語り手 " っつー奴で、近代イタリア・フランス史はサッパリで、もう振り回されっぱなしだったけど、ちょいちょい美味しそうなのが挿入されてて読んじゃった。ゴッドファーザーのカンノーリとか。そしたら巻末に、章題とプロットとストーリーの対応表があった!先に出せよ〜( ̄▽ ̄)
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最後の一行
「ガヴィアーリが最後の注意をしてくる。『ここに気をつけろ、そこに注意するんだぞ』
まったくなんてことだ、私はまだ老いぼれじゃない。」