紙の本
人類への珠玉のプレゼント
2006/08/06 01:27
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:濱本 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
音楽の世界を垣間見た学生時代から続いて20代私は、最高の音楽は、ドボルザークの「交響曲第8番」であった。しかし、人生経験を重ね30代、それは何時の頃からかベートーヴェン「交響曲第9番合唱付」に変わって行った。そして、今現在も、それは同じである。「第九」の荘厳な第一楽章、第三楽章の神の言葉としか思えないような美しいメロディ、そして続くシラーの詩を荘厳に盛り上げる合唱を奏でる第四楽章。どの楽章を取っても、神がベートーヴェンを介して人類にプレゼントした作品に思えてならない。
本社は、ロマン・ロランが親愛の念を持ってベートーヴェン研究を行なった、その成果である。本書を読むと、ベートーヴェンがその耳の病を大いに苦にしていた事が良く分かる。自分の職業に取って、致命的な病を彼は隠しに隠した。その悩みは、我々凡人には思いも付かないところであろう。しかし、何故、彼は、その致命的な病に犯されながらも、人類への多くの数々のプレゼントを残し得たのであろうか?私は、神の存在を確信しているが、ここでもその証明が有ると思う。神の意志が彼の頭脳に舞込みベートーヴェンの手を介して作品にしたとしか思えないのである。
「第九・歓喜の歌」は、ベートーヴェン自身でも特別な交響曲であったようである。シラーの「歓喜の歌」を取り上げるのは、彼の全生涯の目論見であったのである。そして、それは、「第十交響曲」の構想にまで及んでいた。歓喜の主題が初めて現れようとする瞬間に、オーケストラは突然中止する。急な沈黙が来る。歓喜の歌の登場へ、この沈黙が一つの不思議な神々しい性格を与える。本書でこう記述する部分を私は、思い当たる事が出来る。そして、改めて、「歓喜の歌」と「第九」と「ベートーヴェンの思い入れ」の関連を思い浮かべるのである。毎年、暮に私は「第九」を聴く。今年は、改めてこの部分に注意して聴いて見ようと思う。1828年5月7日にこの歴史的作品は、初演された。その成功は偉大で、ほとんど喧騒にまでなったのである。ベートーヴェンは演奏会の後で、感動のあまり気絶したのである。想像を絶する人類の偉大な作品は、生身の人間には、通常では、絶えれなかったのであろう。
ロマン・ロランは、ベートーヴェンの生涯を嵐の一日に例えている。最初さわやかに澄んでいる朝。にわかに天候は崩れ、重くるしい予感がある。突如、悲劇的な雷鳴と、凄いざわめきに充ちた沈静と、猛烈な嵐の打撃が来る。「第三交響曲エロイカ」と「第五交響曲」である。1810年以後、魂の平衡は破れる。魂の平衡が破れた精神は、深い静寂と平穏を求める。「第六交響曲田園」と「第七交響曲」である。そして、稲妻を荷って膨張している重い真っ黒な雲の団塊、それが「第九交響曲」の最初の部分である。しかし、嵐は去り、静寂と歓喜に充ちた空が甦る、それが、最初の部分に続く「第九交響曲」の第三、第四楽章である。
本書は、音楽という人類の無形文化遺産に大いに貢献したベートーヴェンの生涯を彼の書簡、手記と共に纏められた優れた書である。楽しみながら、感心しながら、あっと言う間に読めた一冊である。
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投稿者:onew - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベートーヴェンの生前の友人などへ送った手紙もいくつか掲載されている。芸術家だからなのか彼だからこそなのかは分からないが、情熱的で素敵な文章だと思った。
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ベートーベンの力強さが感じられる作品
2015/12/04 20:56
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投稿者:匿名 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品からは力強さが感じられます。
ベートーベンが運命に抗い作品を作り続けた闘争を静かに、しかしながら力強く描いています。
「運命の喉元を締めてやる」という言葉は自分が辛い時に力になってくれる言葉です。
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様々な文面が凝縮
2019/02/18 08:46
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投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の論説文や、ベートーベン自身からの手紙、ベートーベンを取り巻く人たちからの手紙など、種々の文面が1冊に纏まっています。
ベートーベンといえば耳が聴こえない病と闘って・・・、というのは知っていましたが、その悲痛さが本書からひしひしと伝わってきました。音楽家にとって耳は大切な要素です。
著者自身はかなりベートーベンに傾注した人物でしたが、著者の論説自体は私にとってそれほど強い印象は残りませんでした。手紙の文面からの訴えの方にインパクトがあったからかもしれません。
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評伝の力作
2020/11/29 21:24
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投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ジャン・クリストフ』でもロランはクリストフの言葉に託してたびたびベートーヴェンへの尊敬を語っている。ここでは直接にその生涯を語っている。短いが良い評伝。
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著者ロマン・ロランという人はベートーヴェンを愛してやまない人だと思います。訳が少々読みづらい硬い文章ですが、それでも、ベートーヴェンという人間が確かに生き、素晴らしい曲がこの世に生まれた事実をロマン・ロランが渾身の想いで書いています。よりベートーヴェンの曲に理解を深めたい方へ。
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ベートーヴェンという天才は、他の天才的芸術家の例に漏れず、健康問題、人間関係、貧困という苦難にもまれながら名曲を残していった。
ベートーヴェンというと、まず、難聴の天才音楽家というイメージが強いが、それによる精神的な問題以外は屈強な身体をしていた。この点が、音楽の戦闘的な戦慄、激しさ、雄雄しさにも反映されているように感じる。
もちろん難聴という障害が彼の生涯、精神、作風に与えた影響は語りつくせぬものがあるであろうが、著者の記述からはそういった側面はあまり感じられない。耳の障害とベートーヴェンという天才、その音楽についてロランは、むしろ耳が聞こえなくなったことが一層、ベートーヴェンの自然に対する愛を深めたというように積極的に捉えているように感じる。
一方で、彼自身は自身の才覚を意識し、「救済者」、音楽を通じて人々を救うという使命間にも似たものを背負っていたようだ。
たとえばそれは、「俺は人類のために精妙な葡萄酒を醸す酒神(バッカス)だ。精神の神々しい酔い心地を人々に与える者はこの俺だ。」という彼の光栄の時期における発言にも感じ取ることが出来る。
またその使命感は、家族に対する愛にもつながる。ベートーヴェンは甥カルルを引き取って正しく育てようとしたが、彼の愛は甥には必ずしも通じず、生涯を通して天才はこの問題に苦悩した。
そしてベートーヴェンは家族愛だけでなく、恋愛にも没頭した。ジウリエッタやテレーゼといった女性を愛し、とくにテレーゼとの幸福な恋愛は彼の楽曲創造に大きく影響を与え、別かれた後も彼のより所となっていたようだ。彼はテレーゼを、「あなたは本当に美しくて偉大だったね。まるで天の使いたちのようだったね。」と表現している。
不埒な父親や、自分の愛を受け止めない甥など、必ずしも家族愛に満ちていたとはいえないが、恋人、そして友人シントラーなどの彼の理解者は常に存在し愛にも満たされていたと思われる。
この『ベートーヴェンの生涯』の著者、ロマン・ロランは『ジャン・クリストフ』というベートーヴェンをモデルにした大河小説によってノーベル文学賞を受賞しているが、この『ベートーヴェンの生涯』は、それが発表される以前にかかれたものである。
従って、ロランは小説の格好のモデルとしてベートーヴェンという人物に興味を持ったのではなく、ベートーヴェンという人間に惹かれ、そしてその音楽を愛していたからこそ『ジャン・クリストフ』という大著が完成できたのであろうと察せられる。
この『ベートーヴェンの生涯』は、ロランのベートーヴェンに対する愛にあふれる視点から、感情の起伏とその時折に創造した楽曲を含め彼の人生が描かれている。したがって、この著作を読みながら楽曲を聴いて、ベートーヴェンという天才の生涯に思いを馳せてみるというのも非常に楽しいベートーヴェンの楽しみ方ではないかと思う。
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完全にファン向け。ベートーヴェンについて、俺のような一般的な知識しか無い物にとっては、良く分からない。と言って、何か得る物や頷ける物があるかと言ったら、そうでもない。つまりファン以外は読む必要も無い。以上
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この本を読んでいる間のほとんど、私は何の音楽もかけてはいなかった。
だが、もしベートーヴェンに親しんでいる人が彼の音楽を聴きながら本書を読むとしたら、しばしば読むのを中断しなければならないほどの感動に襲われるかも知れない。
ロマン・ロランの文章は、神を賛美するような情熱と愛情に溢れていた。
それは予想を上回る情熱だったが、読み終えた今、もしそう書かれていなかったなら、胸を締め付けられるような感動を得ることは恐らくなかっただろう。
ベートーヴェンの生涯は想像しがたいほどの苦悩に満ちていた。
しかし、彼の魂は、その苦悩を生ける神としての芸術を創造するという歓喜へと至らせた。
そして、その芸術が彼のためではなく、人類への献身的なものだということが、ベートーヴェンを、昨日の、今日の、明日の悩める人類の友とならしめているのだ。
苦しみにおしつぶされそうになったら、ベートーヴェンの魂に触れて慰められよう。
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ロランのベートーヴェン観は、「苦労している人々にベートーヴェンの音楽はこの上のない励ましを与える」ということになると思う。いってみれば、クラシックの頑張れソングな訳だが、現代のロッカーと違うのは、ベートーヴェンが本当に辛酸を嘗めながらも、膨大な曲々を(人々に?神に?)捧げ続けたことなのだと思う。
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「人生というのは、苦悩の中においてこそ最も偉大で実り多くかつまた最も幸福である。」
このフレーズがどうしても頭を離れない。
言葉の定義は人それぞれで、幸福の定義も三者三様。
ただ、上記の定義が限りなく真実に近いのであれば、
自分自身が感じている幸福というのは何なのだろう?とも思う。
ベートーヴェンの音楽を聴きながら読むと、
彼の熱い思いが、心に強く訴えかけてくると思います。
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(1966.10.22読了)(1966.10.12購入)
内容紹介
少年時代からベートーヴェンの音楽を生活の友とし、その生き方を自らの生の戦いの中で支えとしてきたロマン・ロラン(1866―1944)によるベートーヴェン賛歌。20世紀の初頭にあって、来るべき大戦の予感の中で、自らの理想精神が抑圧されているのを感じていた世代にとってもまた、彼の音楽は解放のことばであった。
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ベートーヴェンの音楽には、彼自身の人生の足音を聞くような感覚があります。ベートーヴェンを好む人はみんなそうなのかもしれないと、この本を読んで感じました。
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これじゃなく角川文庫の同名本を読んだんですが…、途中ギブアップ!
翻訳者が違うせいもあるのかよくわかりませんが、少なくとも読んだ本は一片の面白さも感じ取れなかった。
恵まれない子供時代、恋愛の破綻、孤独、不良の甥、病気、貧困などなどベートーヴェンの不幸ばかりがクローズアップされて気が滅入った。
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学生時代に読んだものを再読。無性にドイツに行きたくなります。
『ジャン・クリストフ』のロマン・ロランによるベートーヴェン賛歌。
この本を読みこなすには私のベートーヴェンの音楽に対する知識が足りなかった。
不遇な人生を高貴な魂をもって乗り越えようとしたベートーヴェン。
その孤独な姿はあたかも「リア王」、髪の毛は「メデューサの頭の蛇たち」と例えられたとか。
以下引用
人類の最良な人々は不幸な人々と共にいるのだから。その人々の勇気によってわれわれ自身を養おうではないか
人生というものは、苦悩の中においてこそ最も偉大で実り多くかつまた最も幸福である
彼は近代芸術のなかで最も雄々しい力である。彼は、悩み戦っている人の最大最善の友である。世の悲惨によって我々の心が悲しめられているときに、ベートーヴェンはわれわれの傍へ来る。
不幸な貧しい病身な孤独な一人の人間、まるで悩みそのもののような人間、世の中から歓喜を拒まれたその人間がみずから歓喜を造り出す
「悩みをつき抜けて歓喜に到れ!」“Durch Leiden Freude.”