紙の本
図書館の存在価値と意義を考える本
2012/03/16 19:20
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投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
刑務所図書館の人びと アヴィ・スタインバーグ 柏書房
洋画「ショーシャンクの空に」では、無実なのに殺人の罪をきせられた銀行員アンディがショーシャンク刑務所に収監されたあと、所内に図書室をつくります。映画の中だけの世界かと思っていたらこの本にめぐり会いました。アメリカ合衆国ボストンの刑務所図書室で働いた著者の随筆となっています。彼はあくまで司書であって、刑務官ではないし、受刑者でもありません。
映画では新入りが鍵をかけられた独房で泣くところから始まります。この本では後半に同じ記述があります。ふつう人間は鍵をかけられた個室に閉じ込められた体験をもっていません。
守秘義務違反に抵触するのではないかと思うぐらい詳細が記述されていますが、外国のことであり宗教環境も異なるので理解できない部分が多々あります。
刑務所の設計様式が登場します。日本の城です。収監された受刑者たちは外に出ることはできず、中で詩人になったり画家になったりして詩を書いたり絵を描いたりします。そもそも刑務所の図書室は刑務所職員にとって忌み嫌われる場所です。受刑者たちのたまり場であり、図書その他の備品は武器に代わるものです。
受刑者に読み書きを教えるところから始めなければなりません。図書館内にちらかるごみ、本にはさみこまれる受刑者同士の「手紙」、多くの受刑者たちが子どもの情緒年齢にとどまっている。
著者は図書室で文学教室を始めます。受刑者たちに本を書かせるのです。なかには才能ある受刑者もいます。しかし行動と言動は普通ではありません。受刑者1000人のうち1人は図書室が必要な人間がいるとあります。
紙の本
何かを求めてやってきて、何かをみつけて出ていく。
2011/12/16 14:24
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投稿者:アヴォカド - この投稿者のレビュー一覧を見る
図書館。
といっても、町中の普通の図書館ではない。刑務所の中の図書館。
いろんなことが町中の図書館とは違っている。
いろいろな事情や性格の受刑者たちがいる。時には駆け引きや緊張もある。本には手紙がはさまれることもあるし、自分の回想録をまとめようとしている受刑者もいる。
しかし、利用者が何かを求めて図書館にやってくるのは、同じだ。(求めているものが違ったとしても)
テレビの料理番組に出ることを夢みてプランを立てる男。
地図に見入り、逃亡を企てているのかとおもいきや、自分の回想録をまとめようと取り組んでいる男。
刑務所の中で、自分がかつて”捨てた”息子を見つけた女。
それこそ人の数だけあるエピソードを、うまく構成している。
また時には規則からはみ出しても関わらずにおれなかったことや、その自分の気持ちも、整理して語られている。
ユーモアもあって、文章も軽快。
利用者が何かを求めてやってきて、何かをみつけて出ていく。
司書である著者にとっても、この図書館はそういう場所だったようである。
紙の本
ノンフィクションの迫力
2015/11/30 09:31
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投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フィクションとちがって、完全につながっていく筋や脈絡の通ったストーリーというのはない。かなり分厚い一冊の中、刑務所の中の、それも図書館という特殊な場所から垣間見える受刑者の、たまに刑務官の姿や生活が断片的に描かれる。その断片的な描かれ方こそがいいのだと思う。
リアリティという言葉で表してしまうと軽いかもしれないけれど、現実はひとりの人間についてべったり描かれるものではない。たくさんいる受刑者の中には、もちろん刑期を終えて出て行く人もいれば死刑になっただろうと思わせる人もいる。けれど、著者の見る彼らはあくまで図書館に来ているほんのわずかな時間においてで、でもだからこそ個性雰囲気が強烈に伝わってくる。司書の彼は、刑務官とはちがい何となく馬鹿にされている感じを受ける。でもそのいっぽうで親しみを持たれているところもある。
特に、彼自身が最初積極的に関わっていった風俗関係の男との話。刑務所を出たら本を出すという男の手助けをするが、途中でその危険性に気づき、関わりを避けようとする。だが、結局最後は謝罪してその本の「まえがき」を書くのだ。この行為がいいとか、偽善的であるとか、そういう判断をしたいのではなくて、その「まえがき」をよんで男がとても喜び、母親に見せたいと言ったところが心に残る。
ジェシカという、息子が同じ刑務所に入ってきた受刑者も印象的。息子のために渡す似顔絵のために精一杯のおしゃれをし、けれどその似顔絵は渡さない。著者は、なぜ、といぶかしむが彼女にとってはそうすること自体が自分と向き合う勇気のいる行動だったのだと気づく。
この本の紹介文には受刑者の間でやりとりされる手紙がメインテーマのように書かれていたけれど、それはほんの一部にすぎないように思う。もちろん著者は手紙に興味を持ってそれを保管しようとするけれど、でもこの本のテーマはより深い、根源的なところにある。刺激的で興味深い本だった。
紙の本
実直な手記
2012/09/05 18:28
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投稿者:いたちたち - この投稿者のレビュー一覧を見る
ストレスによる背中の痛みに耐えながら2年間を勤めた刑務所図書館の若い司書による率直で実直な手記。
全然タフではない。タフではないから、伝わってくるように思う。
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いまひとつでした
2016/11/24 19:50
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
邦題にあるように日記に近かった。本の話は出てこない。超高学歴ワーキング・プアの筆者が、内心ずーっと、「俺はこんな仕事には相応しくないのに」と思いつつ刑務所の図書館の係員を務め囚人と触れ合う。文章は自意識過剰で、作中に出てくるC・Cの書いたストリート小説じゃないのかと思ってしまう。
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分厚い本ですが、大変読み易く一気に読みました。
面白かった!
巻末に載ってた他の本も読んでみたい。
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本書の著者は、ユダヤ教徒の家庭に生まれ、ハーバード大学を卒業、卒業後は図書館の司書として就職。このような経歴を聞くと、聖人君子のようなスーパーエリートを想像するかもしれない。しかし彼が勤めているのは、ただの図書館ではなく、ボストン刑務所の中の図書館である。刑務所と図書館、なんというコントラストだろうか。本書は、そんな刑務所図書館のリアルでユーモラスな日常を綴った一冊。
◆本書の目次
第一部 届かなかったもの
第一章 マジな話
第二章 本は郵便箱ではない
第二部 届いたもの
第三章 タンポポのポレンタ
第四章 届いたもの
刑務所の図書館は、その存在からして矛盾をはらむものである。事実、著者の勤務する図書館には以下のような貼り紙がしてあったそうだ。「刑務所の図書館を利用しよう。あなたの子どもが利用しなくてすむために」。
そんな刑務所図書館でのエピソードの数々に、冒頭から魅せられる。一般的に、図書館で働く図書係の中には、受刑者たちも含まれる。そこで各自が果たす役割には、犯した罪と通じるところがあったそうだ。経営者や犯罪組織のボスはカウンター業務を取り仕切り、詐欺師は小さな法律事務所を切りまわし、社交的なドラッグ常用者は定位置を持たずにあちこち走り回ってなんでもこなすといった様子である。
刑務所図書館の役割には、二つの側面があるという。表向きは、知のアーカイヴというGoogleのような役割である。しかし実態としての裏の顔つきは、まるでFacebookのようだ。美術書や百科事典の中には、「凧(カイト)」と呼ばれるメモや手紙が挟まっている。その内容は、法律関係の書類、「娯楽売ります」というチラシ、祈りの言葉、ラブレターから痴話喧嘩など、囚人同士のさまざまなやり取りである。どのような状況においても、人はコミュニケーションを求めるものなのである。
著者はそこでの業務に慣れるにつれ、次第に自分自身の置かれた状況に苛まれるようになっていく。看守でもなく、受刑者でもない立場、それでもパブリックな存在としての役割を果たしていかなければならない。その微妙な立ち位置が、著者を苦しめるのである。
やがて著者は、「凧(カイト)」をはじめする文章や、受刑者の思い出の品などをコレクションするための保管庫を作ることに活路を見出そうとする。忘却の彼方に消えてしまうかもしれない非公式なものにも、居場所を与えたいという気持からである。その行為の行く末は定かではないが、本書をもって幾ばくかその役割を果たすことが出来たのではないだろうか。
本書の見どころの一つに、図書館の模様をレポートする観察者のような立場から、何かを実行する主体へと成長していく、著者自身の大きな変貌というものが挙げられる。特に後半は、読者のためというより、自分自身のために書かれた側面もあるような気がする。それゆえ、若干冗長に流れるところもあるのだが、その部分も、いつの日か、どこかの場所で、誰かにとっては、運命を変えるような役割を果たす可能性がある。それが、アーカイヴの持つ存在意義でもあるだろう。
いずれにしても、自分自身が利用者として接することのない世界であることを、切に願いたい。
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表題通り、ハーバード大を出て刑務所内の図書館の司書になった著者と受刑者たちの日々を綴った実録。
受刑者は皆とっても個性的で、エピソードには事欠かない。
おかしかったり、せつなかったり。
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最初馴染みのない宗教の言葉とか、スラングとかにいちいちカッコで説明がついてて、それ読むのがめんどくさかったのと、昼休みに職場でちょびちょび読んでたもので、わけわからんかったのですよ。
で、ぜんぜん進まないので、正月休みに後半がーと読んだらけっこう面白かったです。
全く違うけど、自分の仕事での患者さんと接するときの
「どーやって距離をとったり、つめたりしたらいいんだろー」
って悩むかんじ、少し似てる気がしました。
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内容:
厳格なユダヤ教徒の家庭に育ち、ハーヴァード大を卒業した著者。大学を出てふと立ち止まった。あれ? 自分って何がやりたいんだっけ? そんなときに舞い込んできた一枚の求人票。「ボストン、刑務所図書室司書、フルタイム」。ひとたび、塀の中へ足を踏み入れてみると、そこは人生の交差点だった……。刑務所の図書室に集う人々との出会いを通して、彼自身も変わっていく。アメリカの今を描く、注目のノンフィクション。
何か?を求めて刑務所図書館に就職したハーバード大卒の青年のお話。内容は刑務所図書館という稀有な環境での数々のエピソード、印象的な人々との出会い。
出所後に夢を叶えようとした受刑者
メサイア(救世主)と呼ばれた受刑者
皇帝ペンギンを見る受刑者
図書館の窓から中庭の息子を眺める受刑者
意地悪な刑務官
沢山の出会い、別れ、エピソードが何かを考えさせる。本当にやりたいこととはなんだろう。青年の成長物語としての側面もあり、お勧めです。
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図書館。
といっても町中の普通の図書館ではない。刑務所の中の図書館。
いろんなことが町中の図書館とは違っている。
いろいろな事情や性格の受刑者たちがいる。時には駆け引きや緊張感もある。本には手紙がはさまれることもあるし、自分の回想録をまとめようとしている受刑者もいる。
しかし、利用者が何かを求めて図書館にやってくるのは、同じだ。(求めているものが違ったとしても)
テレビの料理番組に出ることを夢みてプランを立てる男。
刑務所の中で、自分がかつて”捨てた”息子を見つけた女。
それこそ人の数だけあるエピソードを、うまく構成している。
また時には規則からはみ出しても関わらずにおれなかったことや、その自分の気持ちも、整理して語られている。
ユーモアもあって、文章も軽快。
利用者が何かを求めてやってきて、何かをみつけて出ていく。
司書である著者にとっても、この図書館はそういう場所だったようである。
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著者の生い立ちと、刑務所の受刑者の人生が織り交じった、訳者もあとがきで述べてるように、フィクションのような、ノンフィクションのような一冊。
「人生は小説より奇なり」とはよくいったものです・・・。
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2年間、ボストンの刑務所図書室の司書を勤めた男性による、ルポルタージュとエッセイと日記の間をたゆたう手記……とでも言うべきか。
著者は正式な図書館司書教育を受けた司書ではなく、ハーバードを出た後にささやかな売文をして細々と生活する青年。
だから、彼の視点は図書館学的なものではないし、逆に犯罪心理や社会問題に寄った視点でもない。むしろ徹頭徹尾、彼の個人的内省的な視点から、全ては描かれる。
図書室を出入りする元(あるいは現)犯罪者たちの個性のどぎつさに目を奪われがちだけれど、そういった暴露・ゴシップ的な要素は本当に添え物にすぎない。また逆に、犯罪者たちの更生や人間的な部分を描くことで、人間性の美しさを讃えるものでもない。何しろ大半の犯罪者たちは、別に更生もせず、出所してもまた犯罪を繰り返しているのだ。
しかし彼はこの、決して楽しくも幸せでもない社会の一断片を緻密に描写しながら、それらが自分の内面に与える意味を、軽妙ながらもコツコツ地道に積み上げていく。
だからここに描かれているのは、実は、刑務所の世界ではなく……正統ユダヤ教徒として育ち、熱心に神学にのめりこみ、大学を出た後に道を見失って、遠距離恋愛の恋人とも会えずにとぼとぼと人生を歩んでいる、気弱で夢見がちでおっちょこちょいで善良な青年である、筆者の物語である。
そしてそこから、筆者に関わった全ての人、すなわち、家族や恋人や友人や恩師、刑務所内の囚人たちの物語が、逆さ映しのように描かれていく。
この作品がルポやドキュメンタリーとして描かれなかったことは、非常によいことだったのだろう。
筆者は結論を出そうとはしないし、何かを訴えようともしない。観察するというよりは、むしろ自分の内部をいつも見ているような印象を与える。しかし彼は、自分を取り巻く世界を驚くべき精密さで感受し、それを描写している。
この本を読み終わった時にやってくる感覚は、要約が不可能な種類のものだ。気持ちの整理がつかずに、しばらく考えてこんでしまう。しかし重苦しくも辛くもない、むしろ不思議な静謐さと優しさがある。
この読後感を味わうために、この本を読むのもいいと思う。
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親孝行の一種には、自分が親になるということがあるんだなあと、
改めて思う。
これは、自らの子に対して親になるだけでなく、
自らの親に対して、親になり返す、ということでもある。
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刑務所図書館という一風変わった世界の、
面白可笑しいエピソードを、
気楽に読み飛ばしてゆくタイプの本ではない。
正統派ユダヤ教徒からドロップアウトし、
ハーバード卒業後に生き方を模索していた著者が、
個性的な面々との出会いを通して、
内観、苦悩し少し成長する過程を読ませてくれる。
垣間見られるユダヤ教徒の生き方は興味深いし、
受刑者とのドラマは切ない。