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日本海軍400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦 みんなのレビュー
- NHKスペシャル取材班 (著)
- 税込価格:880円(8pt)
- 出版社:新潮社
- 発売日:2014/07/29
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文庫
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紙の本
危険すぎる大博打(戦争)に賭けた海軍組織の驚嘆すべき実体とは
2021/01/21 00:36
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
録音テープに残された元海軍将校たちの声ははっきりし、高齢での肉体の衰えはともかく頭脳の方は明晰で、エリートを謳われた片鱗を感じさせた…そう、記憶している。
私は、戦争が原因で命を落とした人々は軍民の別なく、戦争犠牲者だと思う。戦禍を生き残った戦争経験者は、自ら体験を語れぬ犠牲者の代弁者たれと願う。
戦争の悲惨さ、惨たらしさ、理不尽さを知り、実体験から学んだ「教訓」を後世に引き継ぐ存在だ。映画やドラマに描かれる美しく荘厳な戦死や戦病死などどこにも無いのだと、次代に警鐘を鳴らす役目だ。
戦場では兵士が傷つき疲れ、飢え衰えて、血飛沫をあげて倒れ泥水に息絶える。野晒しの死体にはやがて蛆が湧き、悪臭を放つ。市街地は爆撃を浴び焼夷弾で焼き尽くされ、逃げ回る民衆は折り重なる死骸となり地や川に横たわるのだと。
御国のためだ我々も後に続くぞと年若い兵士たちを激励し、特攻兵器に載せた指揮官のうち、幾人が「有言」実行したか。子息の安全を買い不都合な事実を隠蔽して保身に汲々とする不埒な輩はおらぬか。
海軍の過ちを自主検証する「反省会」が十年以上に亘って毎月開催された事実に、元軍人たちの良心の呵責と証人たる使命感が窺えて、安堵する。同時に、かつての上官(司令官、指揮官)世代が鬼籍に入るまで、戦後三十五年の歳月を経ても非公開を約束せねばその検証が実現しなかった現実が、歯痒い。
敢えて言えば、歴史の検証には、時代の変遷、人心の移り変わりという「時間」の篩(ふるい)が必要だったという外ない。長すぎたが、着手しなかったことに比べれば、雲梯の差がある。
仮に海軍OBの同窓会めいたものだったとしても、当事者たちの証言には、自己正当化、責任転嫁、運命論的な誇張、虚飾が剥ぎ取られれば、真相に迫る指摘、論拠、告白が存したに違いない。
江田島の海軍兵学校には、「至誠に悖る」を排し、「言行に恥ずる」なきを心掛ける「五省」が伝わると聞く。開戦、特攻、戦犯裁判についての証言者も、乗艦勤務の危険を覚悟した海軍士官ならば、至誠と清廉な言行で己を律していたと信じたい。
海軍反省会幹事を務めた元中佐と元少佐、戦後生まれの部外者ながら上司の元中佐の指示で反省会事務局に携わった歴史資料館元司書の三人が、貴重な証言テープを次世紀まで保管現存させた「奇跡」にまず感謝だ。
そして、NHK報道局ディレクターを核とする取材班が反省会録音テープの所在や裏付け資料を執拗に追い続け、単なる歴史スクープではなく、現代に繋がる問題解決への教訓、秘訣を探る番組構成とした点を称賛したい。
本書を読み、改めて「個人」(構成員)が持ち寄る個性、見識、良心の総量が「組織」を活かす動力源となる一方、「組織」次第では、時に健全な人間性を殺してしまうことが痛感された。
それにしても、何十万人もの死傷者を出した大陸侵攻を今さら中止撤退できぬとの陸軍大臣の主張から陸軍の内乱蜂起を危惧し、海軍も早い時期に対米開戦に踏み切る方が予算獲りに得策だと軍令部総長ら海軍首脳部が判断したとする元作戦課参謀の証言には、唖然とさせられた。
まるで、先々の展望も戦略も無しに組織存続を図るだけの目的で、ツキに見放されたバクチ好きの言い訳めいた戦線拡大(負けを盛り返す勝機到来)の目に元手全部を賭けたも同然ではないか。結果、戦争の国策化、泥沼化を容認したのだ。
危険すぎる戦争の大博打に手を出し、戦禍の代償を国民に強いた者の責任は、戦死者からの赦し(最後の審判)が訪れるまで、一層問われ続けなければならない。せめてもの慰めの供花となるまでは…。
紙の本
敗戦に対する検証として名著”失敗の本質”を凌駕する内容のノンフィクション
2019/05/15 15:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
太平洋戦争の作戦立案を担当した大本営の海軍部門ともいえる軍令部。そこに在籍した高級士官らによる400時間以上におよぶ「反省会」とも呼べる研究会の録音テープを取材のきっかけとして、「なぜ開戦に踏み切ったのか」、「航空機による特攻攻撃はなぜ実行されたか」、「回転(人間魚雷)による海上特攻はなぜ実行されたか」、「戦後の戦犯裁判における戦争責任回避の工作」という4つのテーマについて切り込んで行きます。
国の存亡よりも陸軍に対する海軍のメンツを優先した結果として開戦へ流される意思決定、上官(軍令部=海軍としての組織)からの命令という形をとらないように計画・実行された特攻、軍令部に在籍した士官への戦犯責任が軽微となるように予め口裏合わせを敷いていた事実、などが明らかにされています。
敗戦が決定的となった時、軍幹部は戦後の戦犯裁判に備えて証拠隠滅を図り大量の資料、公文書の焼却処分を指示し、そのために開戦や特攻の経緯については正確な検証が行われないままとなってきていました。それらについて当事者であった軍幹部幹部の証言をもとに明らかにすることで歴史的事実を追求するだけでなく、「責任の所在が不明瞭な組織」、「空気に流される意思決定」、「良くないとわかっていながら声を上げない”やましき沈黙”」といった現代の企業も陥りがちな誤りへの教訓を導き出そうとしています。
国同士の対立が目立ってきた昨今だからこそ、戦争に向かって走り出してしまった当時の意思決定についてもう一度目を向けるのは非常に重要なことだと思いますし、そのような時に非常に参考になる資料となりうる1冊です。
10年以上前に放送された同タイトルのNHKスペシャルの取材班によるノンフィクションです。番組の再放送があれば良いのにと思います。
紙の本
日本を誤った方向に導いた「やましい沈黙」
2019/01/24 22:18
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:もこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
先の大戦を主導した参謀達の「反省会」の録音を元に制作されたNHKスペシャルの番組。その制作に至るまでの調査で明らかになった事実の数々が、参謀達本人またはその遺族によって語られる。
なぜ勝つとは思えない戦争に突っ走ってしまったのか。走らせたのは誰か。
なぜ特別攻撃隊は編成されたのか。誰に責任があるのか。
また、最後には加害者としての日本の責任について鋭く問う。それは、今までに問題にされた従軍慰安婦や強制労働ではない、全く聞いたことのない事実。
太平洋戦争に関する本を読むなら、ぜひこの本も読んでおきたい。