ブックキュレーター東京書籍 編集制作部 藤田六郎
他人事とは思えない5冊
本を読むということは、著者の頭の中を覗いているようなものだろう。という意味では、どんな大作家でも哲学者でも科学者でも、彼らが描く作品・世界・想像は、言語という構造や脳という物体に拘束されるため、同じ人類である読者にとって、原理的に、常に他人事ではないはずだ。よって構図としてはなんの不思議もないのだが、時に、その逆の現象つまり読者である自分のほうが著者に頭を覗かれている・・・という感覚を持ってしまう本がある。今回は、そんな感覚を起こさせる本を5冊選んでみた。
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今話題の『週刊SPA!』に広告が出ており即買いした。帯の表1には、「雑談の輪に入れない」「メモが取れない」「遅刻や忘れ物が多い」「片付けができない」、「私たちは発達障害なのか?」とある。とくに共感したのが、「耳からの情報に弱い」という事例。私は、文字情報のような視覚情報はくっきりと脳裏に刻まれるのだが、耳から入ってきた音声情報は同じ情報でも刻まれ方が全く違って、記憶できなくもないが実感が伴わないのである。本書には、カウンセリング、ヒアリングの事例が多数挙げられており、対処法も紹介されている。これも他人事と思えない一冊。
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ファーンズワース邸/ミース・ファン・デル・ローエ
後藤 武(著/シリーズ編) , 五十嵐 太郎(シリーズ編)
建築界三大巨匠のひとりであるミースの代表作であると同時に、モダニズムの感性を具現した「世界で最も美しい住宅」である。著者は本書で、長い間、ためにする理解を前提に批判されてきた「ユニバーサル」という概念をミース建築と近代建築思想の分析から再定義し、ポリフォニックに遍在するものと捉える。この感性は、私が常日頃、優れた芸術作品、例えばセザンヌの絵画などと接する際に感じていたものと完全に重なる。実際、本書を経た後に、シカゴ郊外にあるこの住宅を訪れたのだが、物体・視覚・技術・周囲・歴史・経験などがひとつに折り重なった大いなる芸術であった。
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北欧神話物語 新版
K・クロスリイ‐ホランド(著) , 山室 静(訳) , 米原 まり子(訳)
古来よりスカンジナビアに伝わる、世界の創世と終末、神々と巨人の戦い、人間との交流などを説く北欧神話を読みやすく紹介した書籍。世界の終り「ラグナレク」や神々の中の王「オーディン」、またマイティ・ソーでも知られる雷鳴神「トール」などの名前は、聞いたことがある人も多いだろう。登場人物のなかでも、異彩を放つのは、神にして巨人という両義的存在であるトリックスター「ロキ」である。日頃からいたずらによって、神々にとんでもない損害を及ぼすこの神は、ついに世界の終りにまで発展していく事件を起こす・・・。何事もやりすぎには注意したい。
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表題となっている2篇を含む7篇からなるチェーホフの小説集。美術批評家・藤枝晃雄による最後の著書、『モダニズム以後の芸術――藤枝晃雄批評選集』(2017年)の冒頭には、本書(「中二階のある家」)からの引用「芸術家は現在の体制を支持しながら、残忍で不潔な動物を楽しませるために仕事をしているんですからね。だからぼくは仕事をしたくないし、今後もしないでしょう・・・何をする必要もありはしない。こんな地球なんぞ地獄へ落ちりゃいいんだ」という一節が掲げられている。共感しかない。そんな怜悧な人間観察、エスプリと皮肉と反抗心あふれる珠玉の一冊。
ブックキュレーター
東京書籍 編集制作部 藤田六郎GDP世界3位の日本の首都・東京と、北関東(*1)の王者(*2)・埼玉県との狭間に位置する「個性豊かな文化都市」(*3)東京都北区の王子でまもなく創業110年の出版社・東京書籍で働いております。東京書籍は教科書会社として全国の皆様に親しんでいただいている一方で、実用書、文芸書、手帳、写真集、児童書、図鑑、事典、学術書、翻訳書他、一般書籍の出版にも精力的に取り組んでいます。http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/ *1 衆議院選挙比例ブロックの分類による。 *2 県内総生産全国5位、かつ年間快晴日数全国1位。 *3 「北区文化芸術振興ビジョン」による。
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