ブックキュレーター哲学読書室
資本主義史研究の新たなジンテーゼ?
J・コッカ『資本主義の歴史』を翻訳し終え、彼の議論の特質について考えています。もしかすると、資本主義史研究の新たなジンテーゼがここから生まれるかもしれない。すでに決着済みのように思われていたものも含め、考えないといけない問題がこんなにもあるのか、と驚いています。【選者:山井敏章(やまい・としあき:1954- :立命館大学教授)】
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資本主義の歴史 起源・拡大・現在
ユルゲン・コッカ(著) , 山井 敏章(訳)
コッカは、分散的決定・商品化・蓄積という「市場経済」に近い形で資本主義の概念規定を行う。ただし、工業化とともに「自由な賃労働」が全面的に展開することに、資本主義システムが本格的に確立する画期を見ている。古典的マルクス主義とも、世界システム論とも違う彼の歴史像の勘所がこのような概念構成にあると思う。
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資本主義の起源
エレン・メイクシンス・ウッド(著) , 平子 友長(訳) , 中村 好孝(訳)
資本主義の成立史をめぐる諸議論のマルクス主義の立場からする緻密な検討。搾取と強制を資本主義の本質とみるウッドからすれば、コッカの概念規定はまったく不十分だろう。コッカの議論が、市場の拡大が近代の産業資本主義を生み出したという、ウッドの批判する古い「商業モデル」の一変種にすぎないかどうかの検証が必要。
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大分岐 中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成
K・ポメランツ(著)
1800年頃までヨーロッパと東アジアの経済発展は同水準にあった、とするポメランツに対し、コッカは、当時、システム全体を規定する力を備えた資本主義はヨーロッパの現象だった、と言う。私自身は、結局のところ数量レベルの経済成長という一点に収斂する形でポメランツの議論が展開されていることに問題を感じている。
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長い20世紀 資本、権力、そして現代の系譜
ジョヴァンニ・アリギ(著) , 土佐 弘之(監訳) , 柄谷 利恵子(訳) , 境井 孝行(訳) , 永田 尚見(訳)
世界システム論的な資本主義史の代表的著作。市場経済とは別の、国家権力に依存する「反市場圏」として資本主義を捉えるブローデルの見解を、アリギは議論の基礎にしている。一方コッカは、ブローデルのこのような区別を誤りとする。世界システム論の描く資本主義史とコッカのそれとの違いの根源がここにあるように思う。
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北京のアダム・スミス 21世紀の諸系譜
ジョヴァンニ・アリギ(著) , 中山 智香子(監訳) , 上野 友也(ほか訳) , 山下 範久(解説)
アリギ同様コッカは、市場と国家の絡み合いが歴史的に通例だったことを確認する。ただしコッカと異なり、独裁制か民主主義かというような国家形態の問題は、アリギの議論には出てこない。アダム・スミスの解釈も、啓蒙主義者としての側面が抜け落ちている。近年の中国に対する驚くほど好意的な評価はここに由来すると思う。
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哲学読書室知の更新へと向かう終わりなき対話のための、人文書編集者と若手研究者の連携による開放アカウント。コーディネーターは小林浩(月曜社取締役)が務めます。アイコンはエティエンヌ・ルイ・ブレ(1728-1799)による有名な「ニュートン記念堂」より。
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