子ども時代を思い出してちょっと切なくなる本

他の家よりちょっと貧乏、兄弟のなかで自分だけ差別される。普通だと思って、気づかないふりをしていた子ども時代のあれこれ。そんな切ない思い出を綴ったコミックエッセイです。子どもゆえに逃れられなかった理不尽さや悲しみは消えることはないけれど、大人になって抱きしめてあげることはできる・・・そんな気持ちになるかもしれません。

家族を知らず誰よりも家族を欲していたはずなのに、少しずつ手に入れてはまた何かを失っていった父の半生を、著者が自らの子ども時代とともに振り返って描いたエッセイコミックです。子どもらしい子ども時代もなく育った父が抱えていた寂しさや、手探りで家族を愛そうとした姿が中年となった著者の目を通して浮かび上がります。

1990年代、著者が転校先の小学校で出会った「岡崎さん」と、長く育むことになる友情を当時のゲームや遊びを盛り込みながら描きます。無遠慮なほど当たり前に友人の家に上がり込んでゲーム三昧、自分が主役であることに何の疑問を抱かなかった子ども時代。やがて終わりを告げる日々に、懐かしさと切なさが込み上がってくるでしょう。

登場するのは、中高校生くらいの少年や少女。朝もやの通学路や、学校帰りのバス停、授業中の窓際や放課後の教室でいつかしたような夢想が、どこまでも広がっていくように描かれます。大人になった時、決して戻らない10代のあやうくはかない美しさに、思いを馳せながら読みたくなるコミックです。

保育園、幼稚園、小学校、ある年齢になると、当たり前のように子どもが放り込まれるしかるべき場所。しかし、著者にとって幼稚園は居心地のいいところではありませんでした。本書は自分の情動を説明できる言葉を持っていなかった幼年期の思いを、驚くほど鮮明に描き起こした私小説。幼稚園が好きではなかった人、必読です。