紙の本
混乱とはかなさ。
2002/04/01 17:52
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投稿者:ユカリ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ともに群像新人賞・野間文芸新人賞をとった作品で、しかしそんなことに関係なく、どちらも物凄くいい作品です! 海を感じる時では、高校生だった。好きな男子上級生の後を追いかけ、母との争いと交互に彼女の生活と心を支配していく話だ。
これは、詳しく言うとちょっと複雑な話なのだが、主人公はキスがしたいという欲求を示してきた男子上級生に、自分も欲求のみで応える。身体も許してしまう。その後、男子上級生は自分の行為、つまり愛もなく身体を求める自分に悩み彼女を避ける。彼女は最初からわかっていたのだが、そんな彼を見て彼が好きになりストーカーほどに追いかけてしまう。またそれと平行して、彼との肉体関係に触れた手紙を母が読んでしまい、彼女と絶え間ない口論を幾度となく繰り返していくのだ。
透明で淡い情景と崩れそうな繊細さを隅々に感じてしまう。筆者も当時18歳だった。いささか私小説臭さを感じないでもないが、それを超えて訴えるものがある。
水平線上にてでは、夜間大学生になっていた。設定は少々変わるのだが、続編といっていいと思う。高校時代、死ぬほど焦れて追いかけていた男の子が、急に振り向いてくれて、今まで冷たく突き放したことは水に流さんばかりに優しくしてくる。愛しているとすら言ってくる。主人公はそれが鼻につき始め、また昔冷たく扱われたことがトラウマとなって、彼と口論ばかりしてしまう。次第に、恋愛というフィルターを通さない彼が、いかにくだらないかを感じ、離れていきたく思う。これは、前編の逆転バージョンともいえる。あるいは、恋愛の心理をも表しているともいえる。逃げるものは追いたくなり、追われると逃げたくなる、という。
紙の本
海と愛を描く
2020/07/29 21:53
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
初恋の人に我が身を捧げ続ける、表題作のヒロイン・恵美子に魅せられます。少女が大人になる瞬間を、鮮やかに捉えていました。
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これは友人の勧めで読みました。続き、「水平線にて」も近々読みたいと思います。
作者18歳の時の作品ということで、私としては荒削りな面もある作品かなと思って読み始めたのですが、
その内容(年上の男子生徒とのセックスの体験を鋭利な感覚で捉えて…(紹介文より抜粋))のせいだけでなく
その全体としての雰囲気は重く、若い作家の作品としては異質な感じを受けました。表現は上手いです。
そしてだいぶ前の作品ですが、その古さを感じません。人間関係の重さというもの、「血」というものが持つ
後ろめたさというものはそう簡単に変化するものではないように感じました。
私的に印象深かったのは、主人公がキスをしてから高野にした告白。心の底から好きで口から出た言葉では
なく、“世間一般の常識からそうしたにすぎない”というものです。身体の関係に、恋愛感情という意味をつけると
道徳性が増すということが不思議に思えました。
(2003年12月6日)
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群像新人賞受賞「海を感じる時」と、大学生となった、その後の性意識と体験を描き深めた野間文芸新人賞「水平線上にて」。
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【感想】
「海を感じる時」
作者が18歳の時の作品とのことで、
主人公の繊細な感受性がリアルに伝わってくる。
心が空虚なとき、
それを埋めるかのように、
人の温もりが欲しくなる、という気持ちは分かる。
そして、自分や母の中に「女」というものを見出した時の、同族嫌悪的な話も分かる。
そのドロドロとした部分が「生理の血」で表現されているという、生臭さ。
なんだか、言葉に出来ない自然さと不自然さ。
自分に娘が出来た時、
娘のために
自分はそういった女性的な部分をどうコントロールしたらよいのか。
一度、しっかり考えなければと思った。
「水平線上にて」
自分も理屈っぽいので、
主人公の「性欲を純粋なもの」と捉え、
行為を共有したものに対し
その概念を共感して欲しい、
という考え方は理解できるように思う。
その感情が、恋愛とは異なるものである
ということもよく分かる。
ただ、全体的に纏まりと主張がない話だった。
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映画を観た後原作を読みたくなって、絶版なので電子書籍で。
そのせいかも知れないけど何とも読みにくい。というか展開自体が少ないから上滑りするようにふわふわとしか読めず。
水平線上にての方が読みやすい。
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機内はまた初物シリーズ、中沢けい。最近の人では無いが読んだこと無かった。最近映画化された「海を感じる時」と、「水平線上にて」の2作。どちらも自伝的小説に思えるぐらいテーマは酷似している。映画のキャッチは官能的だとか少女が女にだとかが目立ったが、文章からそう言うイメージは受けず、内面がこぼれるように著されていた。言葉の選び方が、暗いんだけど美しい。でも僕ももう、思春期の女の子の内面に共感を覚えられる歳では無いらしい。
それより、出てくる舞台が関東出身者としては琴線に触れる。70年代後半から80年代の南房総、金沢八景、伊豆下田。どこも子供の頃の想い出に出てくる場所。主人公が男と出かける初めての旅先が笠岡というのも何の偶然か。東京で出てくるのも明大前、笹塚、駿河台と、何となく関わりの有った場所。主人公が駿河台からお茶の水橋を渡り、後楽園、本郷のあたりを歩いて茗荷谷の下宿に帰るくだりは、風景が思い出されるようである。その時代にそこに住んでいたわけでもないのに。
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「肉体的交情を伴わない恋愛」を「プラトニックラブ」というらしいけれど、その解釈は間違っているんじゃないかと思う。
私の心は、私の体の中にあるのだから、
体を介さなければ、心までは辿り着けないだろう。
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疑問
①映画は恵美子と高野が同居する場面で終わるが、原作は同居することはない.なぜか
②気力がないのに女の子の体に興味があるの?
③女と男の身体の価値
④なぜ高野に執着するのか
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映画を観てから試しに読んでみたら、映画とは大きく違っていて原作がとても好き。
映画のエロさを期待したら原作は物足りないかもしれない。
映画は言葉は古いのに出で立ちは現代でちぐはぐだったしかもセックスのシーンばかり、主人公ふたりが暴力的な阿呆に見えたけれど原作だと優しさや苦悩や狂気がわかりやすくて面白かった。
ただ終わりかたが突然で全体的に短く、すこし物足りない。
しかしどうして原作の良さである繊細さを映画にしなかったんだろう〜なぜ官能的な映画にしたんだろうと悔やまれる。
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タイトルにひかれ、十代の時学校の図書室で読んだ。こんなに濃い内容と知らずに。今思えばこういうのが学校にあったんだ。著者が18歳で書かれたという描写に驚いた。恋愛が満たすものはなにか。後に映画となり、池松壮亮さんがあまりにもはまり役だとおもった。
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『海を感じる時』 一回目(2021/12/09)
くだらないことをしたことがないからわからない
という母の言葉は先に死んでしまった父への憎しみや愛が行く先がないがゆえに、証明ができないがゆえにどす黒いものになってしまった、そこから生まれた言葉に思えた。自分の言葉で自分を正し、証明し、守ろうとしているように捉えた。
自分の純潔さは娘にも求めるものとなる。なんたってあの人と自分の子供であり、何より娘の不出来は自分にも影響があるから。
父が死んでから起こった親族とのいざこざで父に対する生前の愛は濁ったのだと思う。恨んでも何処にも吐口がないならそれはその血を持つ娘に行くのだろう。
もう死んでしまった人に対し愛情があったかも分からない。先に死にやがってって気持ちだって湧いてくる。自分で自分を守ることが正当にできない女ゆえの抵抗に苦しさを覚えた。強く、世間的に正しいとされるルートを辿るには難しいことが多い。
固執し続けるのはとても気持ちが悪いが分からなくもないから痛々しく思う。