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ルポって何だろう…と考えた。後書きで著者が「物語」という言葉を使っていたが、この本にはその言葉が適当かもしれない。著者の体を通り抜けたものが文章になっているのは間違いないのだが、その内容が受け止めきれないほど重たいということと、そして著者という外国人が関わることによって崩された各社会の「非日常性」が、このルポを読む視点歪ませている気がする。若さ故だろうが、著者の関わり方がいささか目に余るのだ。しかしその傲慢さによって明らかになるものに、私の好奇心も満たされていったのは間違いなくて、私も「裕福」な人間なのだと痛感した。
しかし何はともあれ、書かれているエピソードはどれもかけがえのないもので、涙なしには読めなかった。多少創作があろうが構わないだろう。そこには逞しさ、優しさ、浅ましさ、横暴さ、すべてがつまっていて、目を覆いたくなるような光景も吐き気をおぼえるような臭いも、人間にしか発することのできないものとして描かれていた。恐ろしかった。
自分の思考の枠を外し、それをまじまじと見つめることで、自分と世界との距離を測った。そして今、“私は何もすべきでない”と思う。
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衝撃。違う世界の出来事のように思う。客に殴られてもどうしようもない売春婦。子どもを笑われてもあきらめるしかない母親。子どもにの扱い方を教え、自分の娘を打ち殺さなければならなかった父。などイスラム社会の底辺に生きる人々を追ったルポ。
石井さんは、毎回、義憤に駆られて、怒り行動しようとするが、そのたびに現実の厳しさを思い知らされ、どうしようもなさに自己嫌悪に陥る。最初の売春宿のおかみが言っていたように、それぞれの立場でひとりで道を切り開き、生きていくしかない人を見守り、うまくいくように祈るしかない。哀れんだり同情したり、怒りを向けたりすべきではない。
自分には違う世界だから関わり合いになりたくないしどうしようもないと思う。何をどう考えていったらいいかは、まだ整理できない。
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イスラム世界での性について書かれた本。著者は東南アジアから中東まで旅して様々な人々に同行しながら、厳格な宗教の教えの下での人間の根源的な欲求についてアプローチを試みているが、底辺社会での悲惨な体験談が続く。価値観の違いにも驚かされるが、貧困と戦争により人間らしい暮らしとは程遠い状態に置かれている人々の話を読むと心が痛む。
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厳しい戒律の下、イスラームの男女はどのように性を捉え、裸体を絡ませ合うのかという命題を掲げ、著者がイスラーム圏を放浪して執筆した一冊。まず、この著者の行動力がとにかくすごく、こんな体験を日本で生まれ育った日本人がよくできたなとただただ驚きます。内容としては、娼婦が男娼が中心ですが、エピソードがいちいち胸に突き刺さり、路上で暮らし体を売ってなんとか一日一日を生き延びていく少年少女のエピソードなんかは読み進めるのも心苦しくなってきます。世界にはこんな国があるのか、こんな人がいるのか。日本で普通に暮らしていることが奇跡のように感じる、そんな本。著者の中途半端な正義感や責任感のなさに憤りを感じる人もいるかもしれませんが、著者自身もそのことを痛いほど自覚していることがよく伝わってきます。お薦めです。
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娼婦とか、オカマとか、男娼とか、同性愛者とか、日本人のイメージしづらいイスラム圏の人々のルポルタージュ。
扱ってるテーマ自体が興味深いし身近でない文化を知る意味でも面白い。
面白いけど、脚色が脚色とわかる程度に安っぽい部分が多くてそこばっかりが勿体無い。
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☆5つけたけど、一個へらした。著者の中途半端な正義感で却って人を傷付けてる部分は、確かにある。けど、腹が立つというより「でも正直っちゃ正直な反応」だと思うし、何より当人がわかっているでしょう。「実際に行って、人と関わることでしか知り得ない現実」を伝えてくれた事を素直に受け止めたい。
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いつも小さな子供が売春の餌食になるのには胸が痛くなります。かといって著者のように自分も無力で何もできないのだが。
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せっかくの取材も、陳腐な表現や叙情的に過ぎるくどい言い回しのために価値が薄れて感じられた。
取材をする能力と、文章を書く能力は全くの別物なのだと改めて実感した本。
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個別の出来事をひとからげに語ることはできなくて、イスラムはこうだとか、ステレオタイプに言い切ることの浅はかさを思う。幸せな日本人の興味本位な詮索、という雰囲気が始終鼻について居心地が悪かった(自分も間違い無くそんな日本人だから)し、題名からしてどうかと思うが、現実に生きている人々の話は実に重く、相対的に今の自分の生活を教えてくれる気がする。
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世界は広く、自分の常識や尺度を捨て去って物事を見ないと何も見えなくなってしまうという事がよくわかる。
ふだんキリスト教圏の文化に慣れ親しんでいるのでイスラム世界の文化的な側面はほぼ知らない。行ったこともないし、もちろん夜の世界も民衆の暮らしも知らない。そんな知らないイスラム世界の一端を垣間見えるおもしろい本。
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どんなに封建的な世界に生きようとも、人間の根源的な欲望は変わらないということ。イスラム教国のある部分においては、宗教の違い、貧富の差、社会的地位の差、容姿の差など、様々な要因が複雑に絡み合い、これでもかとばかりに人生に襲いかかっているということ。それでも、ひとの心の中に、誇りや優しさという要素がきちんと残っていて、かすかなかすかな希望になっているということ。改めて、日本は恵まれた国であるということ。自分にできることはとても少ないということ。
こんなことをギリギリと考えさせられるノンフィクションでした。
確かに著者が中途半端な正義感とセンチメンタリズムで当事者に近づいたあと、何もできなくて逃げてしまう様子はちょっといらだちを覚えるけれど、あそこで何かできるひとの方が少ないのではないかと思うので、その正直さは偉いと思ってます。
ちょっとだけ気になったのは、おそらく片言の英語か通訳を介しての会話だったであろうものが、へんに芝居がかった日本語のセリフになってしまっている部分ですかね。そこに、妙な脚色感を覚えてしまうといいますか。
おおむね良作かと。
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現地へ潜り込んで書いたルポ(物語のようでもある)。著者の等身大が詰まってる、若くてなつかしい感じの文章。
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取材姿勢はすごいなとは思うものの、期待していた内容では無かった。もっと一般的な人々の感覚を知りたかったが、よく考えたら若い男性である著者がイスラムの国で一般的な女性を取材出来る訳ないよね。そして表現は稚拙に感じる。
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『イスラーム飲酒紀行』に続き、イスラーム世界の裏を知る。
中東や南アジアの売春にかかわる人々を描くルポ。紛争地域や男娼までカバーしてるんだから並大抵の行動力と実現力ではない。
その点にはもう完全に脱帽なのだけれど、読み物としてはちょっと評価が落ちると思う。
描写や言い回しがわりと陳腐というか、場末のファミレスがすごいネタをさばききれてない感。
好奇心とジャーナリスト気分で行くから、実際そこにある矛盾や悲惨な現実に対して何もできず、そんな自分を憐れんでいることにも気づかず、知らずにインフォーマントを傷つけている。
しょうがないといえばしょうがない。知らせてくれただけで本当にありがたい。でもなんかイライラさせられた、というのが正直なところ。
そもそもこれが「イスラームの国々」という縛りでやった価値が表現されきってないような気がしました。
でも、心にぐっとくる話ばかりです(ワンパターンだけど)。自分しか売れない女を痛めつけるのも、救うのも男。性欲という最も危険で根源的な欲望が生む悲劇と、その中の小さな救いや人の強さが垣間見られました。男娼の兄弟の話には号泣した。
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ミャンマーの老人の独白という形式をとる第三章「問わず語り」は、宮本常一の土佐源氏を思い出した。そう思って読んでみると、民俗学っぽいと思った。