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紙の本
夫との間にあるズレを妻の視点で官能的に大幅増幅
2015/03/19 23:24
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投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る
価値観と共感によって結ばれ、素敵な関係を築いていく夫婦というのは同時に双方が多少なりとも妥協することがあって成り立つ面もあり、それはほんの些細なこともあれば決定的な亀裂を生んでしまうきっかけにもなり得る。その妥協の元は双方が思い描く事柄のそれぞれに潜む「ズレ」であり、そんな男女の感覚的なズレを妻の視点で描いた、その生音を官能というイコライザーで大幅に淫猥増幅させ、さらに寝取らせというエフェクターで猥雑に歪ませた結果、凄味さえ感じさせると表現された妖艶さを纏った「オンナ」の音色が響いた、そんな作品と言える。
これまで読んできた女流作家の官能小説で立ち位置が最も女の側に寄っている作品だったように感じたのは、男性作家ではまず描けそうにない心情と官能の描写に溢れていたからであろう。男としては時折「?」と感じるところも部分的にはあるのだがちょっとクセになりそうな魅力があり、そのためにはじっくり読むことをおすすめする。自分も最初はストーリーの表層を軽く流すように読んでしまい、その深さに気づけなかったのを再読して知るところとなり反省した次第である。
思いがけない迫りと押しに屈して夫以外の男に体を許してしまう前半と、夫が秘密にしていた寝取らせ癖が発露したハプニングパーティ的なプレイが繰り広げられる後半とに大別される構成において、夫婦ともに再婚でまだ間がないことから新婚さながらに昼夜を問わず励んでいたり、就職したばかりの義息(夫と前妻との子供で妻は義母でもある)からは意味深な行動を取られたりで実は冒頭から淫靡な雰囲気を湛えた官能場面がしっかりある。迫られる形を基本としながら台詞を極力控えた妻目線の受身的な状況描写は何ともいやらしく、そのシチュエーションも興奮度を高める。この抑えた官能描写が逆に読み手の想像力を全編に渡って掻き立てるのだが、この冒頭がオンナとして開発されていく前提となって話が流れていく。
姉妹の長女(対照的に奔放な妹も出てくる)ということもあって生真面目で貞淑だった妻が夫に開発され、他の男とも快楽を得るようになり、嫌悪しながら複数人プレイまでも受け入れていく。どんどん享楽的な体になってしまうことへの葛藤というか疑問のような心情が夫への愛情の揺らぎとともに綴られていく中で最後は秘めていた想いをぶつけてきた義息と夫との修羅場的な奪い合いとなる結末には、その行く末を曖昧にしておきながらちゃっかり逆ハーレムの構図で終わるところにも女流作家らしさを感じたところである。
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