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山風あれば憂いなし
2004/12/05 23:22
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投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
忍法というのは、基本的には相手を倒すためのものだ。しかし徳川の世が定まってくると、そうそう争いは起こらない。そこで忍者が命じられるのは、大奥に忍び込んで中臈を妊娠させる任務だったり、(「忍法肉太鼓」)女性恐怖症に陥った藩主に、何とか世嗣ぎを生ませる事(「忍法花盗人」)だったり。まるでセックス・カウンセラーか医者である。だから、長崎で蘭学を修めただけの、忍法のにの字も知らない山鳥竹斎でも、隠密として目をつけられる。
しかし彼は冒頭で、いきなり「私はインテリ忍者である」と言い、「いわゆる忍法なるものを、むしろ嫌悪している」「私は臆病である。」と続ける。およそ忍者に生まれて、臆病であり忍法を嫌悪して、それで生きていけるものだろうか?と疑問に思うが、竹斎はそんな読者の思いを意に介さず、延々と自らのある部分の身体的特徴について話すのだ。これが一体何の関係がある?とますます疑問はふくらむ。更に読み進むと、「医者で、臆病で、女が好きで女がこわい、おまけに包茎という文化人の要素をすべてそなえた(ホントか?)忍者」の事を語っていたのは作者だという。本人が語れぬ如何なる理由があるのか?と興味を繋いでおもむろに本篇に入る。彼が命じられたのは、藩主の病を探る事であり、原因は例によってセックス絡み。原因は早々と判明し、これで一件落着かと思われたが、事態はそれで終わらない。およそ優秀な忍者とも思えない竹斎の身の上がバレ、冒頭のような仕儀になる。
「鉄の掟」を持ち出されれば、他人の性生活のためにすら、命を賭けなければならない運命を、馬鹿馬鹿しいと斬って棄てるは簡単だ。では本来の忍者の任務は、そうではないのか。どんなに死力を尽くして戦ったとて、その結果がまるで価値のないもののように捨てられた話は幾多もある。やっている事は違っても、忍者の任務はどれも、本人達はどんなに真面目でも、他から見れば滑稽に過ぎない。山風の忍法帖シリーズを読むと、「とても悲惨な状況なのに、笑いを抑える事ができない」という、いたたまれない思いに、いつも陥ってしまう。しかし、そういう笑っている我々の営みだって、どこかで誰かに滑稽がられているかもしれない。
江戸川乱歩『芋虫』の忍者版ともいうべき「忍法鞘飛脚」他、山風版『そして誰もいなくなった』?「忍法しだれ桜」、戦国の悪戯者・果心居士登場の「忍法おだまき」「忍法破倭兵状」長篇『忍法相伝73』のパイロット版「忍法相伝64」など8篇収録。
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